美しき異形達
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第二十八話 横須賀の思い出その十
「帰らないわ」
「やっぱりそうか」
「ええ、もうずっとここにいるから」
この神戸にというのだ。
「大阪や京都もいいけれど」
「裕香ちゃんって実家のある場所嫌いなんだな」
「嫌いっていうかあんまりにも辺鄙で何もないから」
そうしたことが理由だった。
「一旦出たら帰りたくないわ」
「親御さんとも会ってないんだな」
「入学式の時は一緒だったけれど」
「それからはか」
「そう、ずっと寮にいるのよ」
「お盆も正月もか」
「帰ってないわよ」
そうした世間では故郷に帰る様な時もというのだ。
「寮にいるわ」
「それはまた徹底してるな」
「寮が今の私のお家よ」
裕香は親しみを感じている笑顔で薊に話した、そこには一点の迷いも何もない純粋な親しみを感じさせる笑顔だった。
「卒業までのね」
「何か奈良県の南って凄いんだな」
薊は自分が知らないその場所のことをしみじみとした口調で述べた。
「田舎とかいうレベルじゃなくて」
「冗談抜きで平家の隠れ里だから」
「そうした場所が実際にあるんだな」
「源義経さんも隠れたりしてたし」
吉野にだ、後醍醐帝も南朝を置かれている。
「そうした場所よ」
「あたしの理解出来ない場所みたいだな」
「そこを見ないとどうした場所買ってわからないわよね」
「まあどんな場所でもそうだな」
「一回行ってみるとね」
そうすれば、というのだ。薊も。
「わかるけれど」
「それでもなんだな」
「私は勧めないから」
あまりもの辺鄙さ故にだ。
「そうだから」
「そうなんだな」
「ええ、まあとにかくね」
二人でこうした話をしているうちにだった、学校に着いた。寮から学校はすぐ近くなので本当にすぐに着いた。
「学校に来たし」
「朝練に出てな」
それぞれの部活のだ。
「また授業受けるか」
「そうしましょう、それで薊ちゃん今日はどっちの部活に行くの?」
「モトクロス部の方に出るよ」
そちらだというのだ。
「そっちに出るよ」
「モトクロス部なのね」
「あれもいいぜ、バイクも最高だよ」
薊はにかっと笑って裕香に話した。
「特にモトクロスの障害だらけの道を進むのはな」
「いいのね」
「これがまた楽しいんだよ」
「怪我が怖そうだけれど」
「だから怪我には気をつけてな」
そうして、というのだ。
「楽しむものなんだよ」
「一瞬の油断もせずに」
「若し油断したらな」
その時は、とも言う薊だった。
「下手しなくても命取りになるよ」
「モトクロスはそうしたスポーツなのね」
「だからこそ楽しいってこともあるけれどな」
それでもというのだ。
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