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バカとテストと白銀(ぎん)の姫君

作者:相模
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第十八話 ~彼女の選択 Ⅱ ~

 
前書き
世界史の講義は彼女の選択Ⅰにはさみます 

 
「第三試合、タッグ戦第一試合を行います。双方の代表者は前へ進み出なさい。」
高橋先生の号令が再びかかり、新という先生が一歩前に出る。
「召喚フィールドを展開します。双方悔い無きように。」
新という先生はこういう格式張ったときなどに、懐古調でしゃべるのが好きな人間であるらしい。
授業の初回に配られたプリントや、試召戦争でしばしばそれは見受けられていたのだが、年がまだ若い方であるためか今一つ重さに欠けるように感じるのだけれども。
「「召喚(サモン)!」」
「「召喚(サモン)!!」」
Aクラスからは久保、そして優子さん。
Fクラスからは姫路さん、そして島田さんという二人だった。
『数学 Aクラス 久保利光&木下優子  405点  386点』
『数学 Fクラス 姫路瑞希&島田美波  453点  301点』
両クラス代表者の得点が表示され、再び会場は大きく盛り上がる。
Fクラスの島田さんが、観客全員の思っていたような点数を何倍も超える良い点数を見せつけてきたことが一つ。
そして主席候補二人の点数が50点も開きがあることに驚きを隠せないでいた。
「島田さんは私が片づけておくから、久保は姫路さんを!」
「分かってる!」
デスサイズがうなりをあげる。
「美波ちゃん、耐えてください!!」
「了解よ、これぐらいアキのちまちました召喚獣を追いかけるより遙かにましよ!」
突進してきた優子さんの召喚獣をいなしきった島田さんは、次の攻撃に身構える。
それを背景に久保君と姫路さんという学年席次TOP候補の二人が熾烈な戦いを繰り広げていた。
「やはりよく知る言葉で書かれてあるテストのほうが得点はいいですね。」
「どういうこと、千早さん?」
姫路さんの方よりも島田さん側に注視している彼女は、そんなことを呟き、勝負の流れをじっと見守っている。
「島田さんが帰国子女だというのは、友香さんはご存知ですか?」
「…あぁ、そういえば去年それでひと悶着あったわね。」
(わたくし)たちが英語で書かれた数学のテストを見て戸惑うように、彼女もまた日本語で書かれた数学のテストを見て苦労していたのでしょうね。」
「ってまさか、ドイツ語で数学のテストを受験したの?よく先生が認めてくれたね。」
それって、絶対にこの学園の方針と相いれないことだと思う。
「センターのドイツ語入試の勉強と託けて、私が訳を作り、それを西村先生にチェックして頂いた迄ですよ。」
相変わらず無駄に知能指数が高い西村先生の話が飛び出してきて、思わず頭が痛くなる。
あの人に限界というものはないのだろうか。

開始直後からデスサイズをその剛腕にまかせて振り回す久保君の攻撃を受け止め、そして攻勢をかけようと体勢を整えていると再び刈られそうになり、なかなか攻撃チャンスを得られていない姫路さん。
それでも50点という得点差があるため、姫路さんの回避のしかたも少しずつだけれども良くなってくる。
「やっぱり、経験の差かな。霧島さんのためにも骨を折ろうじゃないか、『鎌鼬』!」
腕輪の効果であろう特殊攻撃を繰り出した久保君に、観客たちが沸き上がる。
成績最優秀者の証でもある召喚獣の特殊攻撃をみる機会は殆どない。
ムッツリーニ君も使っていたようだけれども、久保君の技はそれよりも遙かにエフェクトが派手だった。
白い刀の刃先の様な固まりが無数に久保君の背に集まり、そして姫路さんを中心として輪を描きながら逃げられないように囲む。
そして、一気にそれらが中央の姫路さんに襲いかかる。

それこそAクラスの中でもTOPクラスの連中や、千早さん、姫路さんそしてさっきの試合の土屋君(ムッツリーニ)と言った、ほんの一握りしか使えない特殊攻撃は、自分の持ち点をいくらか犠牲にすることが代償として必要であるけれど、対戦相手の持ち点を確実に減らす有効な手段だ。
久保君が特殊攻撃を最初から使うというのは、最初からそれだけ不利であると判断したからに他ならないだろう。

「一平面に密集させすぎですよ、久保君!」
召喚獣は垂直に勢いよく、鎧を着ているとは思えないほどの高さまで飛び上がり、その胸あたりに当たるはずだった多くの刃を交わす。
それでも攻撃の半分は当たってしまったらしく持ち点がガクンと削られた。
『数学 Aクラス 久保利光303点  Fクラス 姫路瑞希289点』
Fクラスの観客席がどよめく。
なんと言ってもFクラスがここまで勝ち抜いてこれたのは姫路さんというエースが道を切り開いてきたのだから。
「ここで、瑞希さんも応射するかどうかが見物なのですが……」
そしてあくまで冷静に戦況を分析している彼女が、トップエースの彼女をもっとも最適な場所に布陣させるという。
彼女たち、Fクラスの最強の矛と最高の知能のおかげで彼らFクラスはこの場を作ることが出来たんだ。
期待も半端ではないと言うことかな。
「島田さんの側は目立っていませんが、押していますね。」
そう言われて同時進行で起こっている優子さんと島田さんの戦いの方に目を向ける。
確かに最初の点数こそ絶望的ではあったものの、島田さんの執念で彼女自身とあまり変わらない点数にまで削っていた。
サーベルと矛という西洋VS東洋な勝負を繰り広げている二人。
『数学 Aクラス 木下優子 309点  Fクラス 島田美波 285点』
そして頂上決戦のようを見せている姫路さんと久保君。
「はあぁあぁ!!」
気合い一閃、デスサイズを力一杯に姫路さんに振りおろす久保君。
「まだやられるわけには行きません!」
手に持っていた大剣を地面に置き、身軽になった彼女は、デスサイズの刃の先端にすこし手をぶつけながらも、久保が振りおろしている最中、全くノーガードな真横のスペースに転がり込む。
そして、先ほど地面に置いていた大剣を再び掴み、起きあがりながら力任せに振りあげる。
「しまっ……」
更新された数字をみて、観客たちのざわざわと話し合っていたり、彼らに応援したりする騒音がよりいっそう騒がしくなる。
『数学 Aクラス 久保利光  32点  姫路瑞希  185点』
「勝負は、決まりましたね。」
にこりと私に微笑みかけてくれる彼女に、私は少しだけ違和感(ズレ)を覚えるけれどもそんなの、私の目が狂っているからに違いない。
その後の試合はFクラス優勢が揺らぐことなく、いや一度だけ優子さんが島田さんに痛撃を食らわせて94点VS49点というデッドヒートをかましていたけれども、久保君との戦いに勝利した姫路さん(141点)の参戦によって優子さんがとどめを刺された。
こうして第三試合はFクラス勝利で幕を閉じたのだった。

「第四試合の代表生徒は準備をしなさい。」
(わたくし)も、次の試合に出なければなりませんので、これで失礼いたしますね。」
「千早さん!」
その後ろ姿に、無性に不安になって
何でしょうかと言葉には出さず、目で問いかえしてくれる。
「えっと…ね、頑張って。応援してるから。」
驚いたような表情になる彼女は、しかし直ぐにさっきまでの違和感ある笑いじゃなくて、ごく自然な微笑みを私に返してくれた。
ただ単に感じ方の問題なのかもしれないけれども、私は思わずどきりとしてしまう。
「えぇ、勝って参ります。必ず。」
そして、彼女は代表者の準備ラインへと堂々とした足取りで進み出たのだった。
ただひたすらに優雅で、彼女がこの空間のムードを支配しきっている。
「吉井を代表に出してくるなんて、舐めているのかあいつらは!!」
そう切れ気味だったAクラスのある男子生徒も彼女がフィールド内に現れると途端に気まずげにして何も言わなくなった。

それらの光景が目の前を通り過ぎ、急にはたと我に返る。
このままじゃ、軍令部に何を言われるか分かったものじゃない。
彼女から自分に掛けられた力強い言葉に思わず惚けていた私は、慌てて三脚を組み立て、クラスから借りてきたビデオカメラを設置する。
レンズには妃宮さんとタッグを組むという吉井が映り込んでいた。
私的な感情から言わせてもらえばカットしたいし、恐らく軍令部から何ら文句は言われないだろう。
(むしろ褒められる気がするのは気のせいだと全力で信じたい)
それでも胸の奥のもやもやとした耐え難き想いを耐えてまでも撮影するのは、吉井のチョイスも千早さんの作戦の一環だろうと思うからだ。
旧帝国大学クラスの問題(一橋も勿論入るんじゃないかな)を、しかもひたすら記述問題で答えるという鬼畜なテストをAクラスにも迫ったという。
そのテストを交い潜ってきたAクラスの代表が見るのは、なんと学校でもっとも有名な吉井明久という人選。
私だったら妃宮さん一人で自分たちに勝てるのかと、憤慨することだろう。
「だから、なのかな。」
小さく呟きながら、ちょっとした予想にわずかな賭を自分に課しながら、私は勝負が始まるのを待っていた。

そして、何故か教室の電灯の放つ光がゆっくりと弱くなり、さっきまで開けられていたカーテンもゆっくりと閉じられる。
部屋の明かりがゆっくりと全体的にフェードアウトしてゆき、ついにAクラス全体が暗やみに包まれる。

何かの演出なのかと思っていると、突然千早さんにスポットライトが当てられる。

その演出に沸き上がるFクラス観客席
当てられた光に彼女の白銀の髪が煌めく
ある者は思わず息を飲み、またある者はため息を吐く

「綺麗…」
思わず呟いてしまって慌てて口を噤む。
カメラを既に起動させているのだから、絶対に今の声も録音されているだろう。

学年の区切り目から編入してきた北欧を彷彿とさせる整いすぎた容姿。
学年主席の霧島翔子を上回るかもしれない知能。
戦力差五倍のBC連合を破るための作戦を献策し、おまけにBの頭でっかちな代表の封じ込めに成功した策士。
そして、いつもその顔に浮かべている淑女な笑み。

圧倒的な存在感を前にAクラスからの代表二人は、妃宮さんを露骨に警戒する。
「これより第四試合を開始します、両者準備をしなさい。」
高橋先生の掛け声に、スカートの先を少し持ち上げ優雅に一礼する。
「「っく、召喚(サモン)!!」」
「参ります、召喚(サモン)
『世界史 Aクラス 時任 正浩&花岡 麗  251点  275点』
さすがAクラスの選抜メンバーと言ったところだろうと思う。
問題が資料代わりに私と浅井君はもらっているのだけれども、200点も取れたら万万歳なテストだと思う。
私も歴史は取れる方だから、何とか200点台に食いつく事は出来るだろうけれども後半代に入るのはきついだろう、それこそ時間をかければ別の話だけれども。
『世界 Fクラス 妃宮千早 403点』
その点数に会場がざわめき立つ。
彼女のことだから500点はあるだろうと見積もっていた人たちがあげる拍子抜けた声。
そしてタッグ戦なのにペアの姿が見えていないという事に不審がるものも何人かはいた。
けれども、フィールド上の代表二人には千早さんしか眼中にはないらしい。
「同時に切り込むよ!」
「勿論さ!」
長刀二人組が千早さんに突っ込む。
「『烈火』」
腕輪の効果が発動されたようだけれど、彼女の場合はあまりエフェクト面ではほとんど特徴がない。
強いて言えば、召喚獣の装備している機関銃がショットガンに変わる事ぐらいらしいのだけれども、私も千早さん本人から聞くまでそんなに細かいことだとは思わなかった。
けれども、戦果は一気に派手になる。
彼女の手にもつその銃がうなりをあげるとき、敵の召喚獣に向かって何十個もの銃弾が飛び出してゆくのだから。
それらの飛翔体群をしゃがみ込むことで何とか一発目を交わすAクラス代表たち。
そして続けざまに狙い撃ち打ちされたのを飛び上がって交わす。

その時、男子生徒の高らかな宣言が教室中に響く。
「妃宮さん、貰うよ!」
スポットライトを当てられて以来、ほとんどの観客たちの目線を釘付けにしていた彼女の陰に隠れるようにして機会を待ち受けていた吉井が、召喚獣を無理に急激に飛び上がらせたせいでバランスが崩れているところを強襲する。
少しだけ予想外、というか斜め上を突かれてしまった。
「い……いつからいたんだ!!」
「大丈夫よ、どうせ吉井の攻撃力なんて無いに等しいんだから!!」
大声を上げることで、恐怖に打ち勝とうとでもしているのだろうか。
「僕の点数は、その身で味わってから思い知るんだ!」
彼の木刀で勢いよく地面に叩きつけられる二匹の召喚獣、そして地面に落ちた瞬間に追い打ちを掛けるかの如く三射目を打ち込む千早さん。
『世界史 Aクラス 時任 正浩&花岡 麗  41点  68点』
『世界史 Fクラス 妃宮千早&吉井明久  298点 201点』
「「「な…吉井が200点台だって!!!」」」
ようやく表示された、心の本命の吉井の点数にAクラスが絶叫する。
「はあぁあぁ!!」
雄叫びを上げながら、吉井は時任に迫る。
「くっそ、このままやられてたまるか!」
木刀を長刀で受け止め、そのまま力を受け流そうと力を緩めたようだが、肝心の吉井は後ろに引いており、そのまま突きを彼に決める。

そして
『世界史 Aクラス 時任 正浩 DEAD』
召喚獣は消え、戦死判定がでてしまった。
残るは花岡さんと戦っている千早さんなんだけれども…
クリティカルヒットを受けてしまったらしく、銃が手元から無くなっていた。
武器を持っているけれども残りの持ち点がほとんどない花岡さん。
対して特殊攻撃を用いるために点数が削れただけなのに、手元に装備が無くて徒手空拳で挑みかかっている千早さん。
ある意味一進一退の攻防をしているように、見えるだけの気もしないでもない。
点数の高い召喚獣が、自分よりも遙かに低い召喚獣の攻撃を受けて自分の装備品が吹き飛ばされるなんて聞いたことがない。
長刀の刃先が千早さんの少し上を通り過ぎ、その力のまま石突きを突き当てようとする花岡さん。
その後ろから飛びかかる吉井の召喚獣。
千早さんが長刀の柄をしっかりと握り、花岡さんの召喚獣が動けないでいるところに吉井渾身の一撃が炸裂して……
『世界史 Aクラス 花岡 麗 DEAD』

その瞬間にFクラスはAクラスの設備を手に入れるためのチケットを手にしたのだった。
けれども、続く第五試合に負けて「代表の要求を聞く」を奪われたときにはそうとも限らないのだろうけれども、恐らく彼が出るんだろう。
私たちの攻撃を防ぎきった希代の神童君がFから出馬するんだろうから。
「次の坂本君が勝てばFクラスの完封になるのね……」
私たち、結局なにもしてないんじゃないだろうか、対Aクラス包囲だって…
「対A包囲網の皆さんのおかげでこの場を作ることができたのです。何の役にも立っていないなどと、ご自分を貶めないでくださいね。」
って…
「千早さん、もうこっちに戻ってきていいの?」
「えぇ、事後処理は今回すべて代表殿が自らの手で指揮を執っていらっしゃるので。」
そう言って淑女な微笑みを浮かべている彼女。
聞こうと思っていたことがあったけれども、それはまた別の機会にしよう。
そう心の中で私は誓う、別の機会欲しさにかまけている自分に関心はしないが、それでも彼女の近くに互いに気持ち良く過ごしているのに何でわざわざそのムードを破壊しかねないようなことを口に出さないといけないのか。
当然口に出さなくていいはず、私はそう思う。

「友香さん、応援感謝しますね。」
どこかで見たような柔らかな笑顔が私に向けられる。
その笑顔に思わずどきりとしてしまう。
「感謝されるようなことじゃないよ…」
この笑顔を私はいつ、どこで、見たのだろう。
わずかな既視感を感じたけれども、それをまぁいいかと無意識に投げ出す

ただ私は彼女を見つめていた。
 
 

 
後書き
問題

国語
「パラダイム」を用いた例文を答えなさい

妃宮千早の答え・その時代、時代によってパラダイムは変化する。

教師のコメント・正解ですね。パラダイムとはある一時代の人々の物の見方、考え方を根本的に規定している概念的枠組みのことを指します。


吉井明久の答え・ここはパラダイムだ!

教師のコメント・君の頭は年中パラダイスですね。 
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