劇場版・少年少女の戦極時代
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天下分け目の戦国MOVIE大合戦
武神Wとの出会い
いつまで走っていたか分からなくなるくらい、走って、走って。
ついに月花は立ち止まり、膝に手を突いた。
『ゼェー…ハァー…』
マスクの中は汗だくで、四肢が蒸れて熱い。変身を解いて外界の風を浴びたい。
(もうおっかけてきて、ない? よね)
月花はドラゴンフルーツの錠前を閉じようと手をかけ――
真横に例のオレンジ色の裂け目が開いた。
オレンジ色の裂け目から飛び出してきたモノを、月花は反射だけで避けた。その上でようやく、襲って来たのが、ステージにも現れたウツボカズラ怪人だと分かった。
全力疾走の後で足腰はろくに動かない。DFボムを投げることさえ思いつかなかった。
尻餅を突き、後じさるも、ウツボカズラ怪人は月花に容赦なく迫ってくる。
『やだっ!』
月花はとっさに両腕を交差させて身を庇った。その時だった。
《 ルナ 》
腹に何か柔らかいものが回り、月花を後ろへと引っ張り上げた。その柔らかいものは、黄色いチューブのような形をしていた。
後ろに引っ張られた反動で月花は再び尻餅をつく。
『ひゃっ!?』
《 トリガー マキシマム・ドライブ 》
ウツボカズラ怪人に黄と青の光弾がいくつも着弾した。ウツボカツラ怪人はそれに恐れをなしてか、小物のように一目散に逃げて行った。
ふり返る。そこに立っていたのは、右半身が黄色、左半身が青の――
『アーマード、ライダー?』
ビートライダーズ、否、沢芽市では全く見ないタイプだ。月花は地面に座り込んだまま後ずさった。
二色のアーマードライダーは、大きめの銃をくるくる回してからホルスターに収め、月花に手を差し出した。
『大丈夫か……って聞くのも変な感じだな』
『そもそもボクらの仕える武将はヒデヨシだよ? 敵将の陣地から来た武神ライダーを助けるなんて、キミの行動は問題がありすぎる』
月花は目を白黒させた。目の前にいるのは一人だけなのに、二人分の声が聴こえる。
『――たすけて、くれたの?』
月花はようよう声を絞り出した。
『ああ。あんなバケモン初めてだからな。そんなモンに襲われてるとあっちゃ、例え敵だったとしてもほっとけねえよ』
ニカッと二色のアーマードライダーは笑った――気がした。仮面があるので定かではないが。
月花は二色のアーマードライダーの手を取って立ち上がった。
『うん。たすけてくれたんだったら、ありがと。正直……ちょっと、こわかったから』
月花は立ち上がって、変身前の癖で、バトルスーツから砂を叩いて落とした。
『あたし、室井咲。あなた、だあれ?』
『俺たちは』
『ボクたちは』
『『武神ライダーW。二人で一人の武神ライダーだ』』
… … …
『ふわ~……ホンモノのお城だぁ』
いつのまにか右が緑、左が紫になった武神Wは、月花に「行く宛てがないなら一緒に来ないか?」と言った。月花はそれに肯き、武神Wに付いて行き、この城に来たというわけだ。
(イキオイで付いて来ちゃったけど、あとでちゃんと舞さん迎えにかなきゃ)
それにしても、城に入ってから、城の中の人々の視線が痛い。武神Wにはそうでもないのに。
『着いたぜ。ここが俺たちの仕える武将、ヒデヨシのいるとこ』
木戸の前で武神Wは居住まいを正した。
『武神W。ただ今、帰参』
すると木戸が左右に開いた。中から開けられたのだ。
武神Wはさも当然のように入ったので、月花も内心びくつきながら部屋に上がった。
上座に男が一人座っている。袴と甲冑の上から赤いライダースジャケットを着て、重そうな剣を杖のように突いてむっつり顔。もう片方の手にある軍配に「俺に質問するな」と書いてあるのはシュールなギャグだと受け取っていいのだろうか。実に悩ましいセンスだ。
隣に控える女性は、彼の恋人か妻だろうか。
春色と呼ばれる色を全て詰め込んだ、丈の短い着物。アップにした髪はどちらかといえば現代寄りだ。
とどめに、左右にはずらりと、大河ドラマで見るような家臣団が控えている。
「よく帰った、武神Wよ。して、それがお前たちが拾ったというノブナガの武神ライダーか」
武神Wに向けて、ヒデヨシと呼ばれた男が問いかけた。
自分を「それ」呼ばわりされたとか、Wは一人なのに「お前たち」と呼びかけたとか、言いたいことはたくさんあるが。まずは一つ。
『あたし、ノブナガとかいう人知らないっ』
「貴様はノブナガの領地から入り込んだ武神だ。我らにとっての敵陣から来た武神を放っておくことはできん」
『そーれーがータンラクテキなんだって! たすけてくれてありがとうだけど、武神とかイミわかんない。あたしには室井咲ってゆー名前があるし、武神なんて知らない。――見ててっ』
月花は戦極ドライバーのロックシードを閉じ、変身を解いた。目線の高さ、背の高さが元に戻る。
「子供…だと…?」
「こないちっこい女の子が、武神ライダーやったっちゅうの!?」
子供。ちっこい。地雷ワードとまでは言わないが、できれば言われたくない単語の連発に、さすがの咲も部屋の隅で膝を抱えた。
「ああ、堪忍な! 悪気があって言うたわけちゃうんよ。よしよ~し」
女が来て咲の頭を撫でた。さらに子供扱いでよけいに胸に刺さった。
「チャチャ! 無闇に近寄るなっ。子供でも武神だぞ」
「そやったらあたしらを討つ機会はいくらでもあったはずや。せやのにそうせえへんかった。敵意がない証拠や。何より、ウチの武神が助けた子やさかいなぁ」
おいでおいでをされて、咲はチャチャと共に用意されたわら座布団に戻った。
こほん。ヒデヨシはわざとらしい咳払いを一つ。
「お前は本当にノブナガの武神ではないのか?」
「だから、そーだってゆってるじゃんっ」
ヒデヨシはチャチャをふり返る。チャチャはにっこり笑った。
「ではお前は一体何者だ?」
「ナニモノって……」
あの妙な裂け目を二度も越えた。そして、出たのはこの場所、この世界。
「……たぶん、このセカイじゃないセカイの、人間」
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