クルスニク・オーケストラ
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楽譜 Forth×Force
1譜 「4人」が出来上がるまで
ルールを作りましょう。わたしたちがずっと仲良しでいられるように。
その1。仲間同士で助け合う。
その2。仲間に嘘をつかない。
その3。仲間を殺さない。直接的にも間接的にも。
その4。絶対に死なない。第一に自分を生かす。
… … …
「確かに俺は診察で『飲みに行け』とアドバイスしたぜ? 百歩譲ってそこは認める。でもな――誰が『俺たちを呼んで』酒盛りしろっつった?」
場所はジゼルのアパート。広いカーペットの上にはスナック菓子やら酒のつまみの定番が所狭しと並べられてる。グラスは上品なものでもなんでもなく、ただのガラスコップ。酒は何種類か揃っているが、それもこれも手近なスーパーや酒屋で買えるものばかり。
トップエージェントだってプライベートの飲み会はこんなもんだ。
「そこはほら、縁は異なものと申しますし。主治医のリドウせんぱいがいらっしゃれば、お酒で昏倒しても大丈夫だと思いまして」
「いいけどさ。――ところでさ、そっちの新人っぽい子、何よ」
ベージュグレイのチュニックに身を包んだ女子。ちょいと指摘しただけなのに、ジゼルの背に隠れた。猫か。いや、リスか。
「正真正銘の新人さんですよ。秘書室のヴェル・ルゥ・レイシィさん。今度ビズリー社長の秘書に異動が決まった、秘書室のホープでしてよ」
「や、やめてっ、ください、ジゼルっ」
「あと極度の上がり症男性限定」
「そんなんで秘書やってけるの?」
「うぅ…」
そこでタイミングよくインターホンが鳴った。ジゼルが立って来客用の受話器を取る。
盾を無くしたヴェルは所在無げだ。
「おいおい。この程度で涙目とか。俺相手でその体たらくじゃマジで秘書なんてやってけないぜ。しかもあの社長の下でなんて。着任直後にひっくり返るんじゃない?」
「は、はい……」
「あまりイジメないでさしあげてくださいまし?」
チッ、バレたか。
ジゼルは笑顔を残して玄関を開けに行った。
「すまん、遅れた」
キター。キタ来た来ましたよ、俺がこの世で2番目にキライな男。我らがMr.クラウン。ユリウス・ウィ・バクー、もとい、ユリウス・ウィル・クルスニク。
「いらっしゃいませ。ユリウスせんぱい」
「これ、遅刻の詫び」
「まあっ。お気遣いありがとうございます」
ジゼルがスキップでもするように元いた位置に座り直した。
ユリウスは俺とヴェルとの間。ジゼルの隣に座りたいんならもっと早く来るべきだったなァ。室長殿?
「これってカシュールですよね。ディールで有名な」
ユリウスに聞かれて、ジゼルは俺の時の台詞を使い回してヴェルを紹介してる。その間、ヴェルはまた慌ててジゼルの背中に隠れた。だーかーらー。そんなんじゃマジで秘書業、無理があるぞ。
「あの社長の秘書か――新しい秘書長は酒に詳しいんだな」
「ど、どんな銘柄で酔うか把握しておかないと……大変なことになるかもしれませんから」
「どうなりますの?」
「ま、前にも言ったじゃないですかっ。私、泣き上戸なんですってば。何回目ですか先輩」
前にも言ったからって今覚えてるか限らないのがジゼルだぞ。まだ《呪い》については詳しく話してないわけか。
「今日はせんぱい方にお願いがあってお呼びしましたの」
「何となく察しはつくけど、何だよ」
後から来たユリウスは「?」を浮かべてる。はっ、脳天気で羨ましいこって。
「このヴェルの、男性恐怖症克服をお手伝いしてほしいんです」
ジゼルはヴェルの両肩を後ろから掴んだ。ヴェルはまだまだ萎縮気味。
「社の看板のお二方とお話できるようになれば、どんな殿方とだって話せます。――大丈夫。ヴェルが有能なのは、わたくしがよーく存じていますから」
――それから、3人だった家飲み会に、ヴェルが加わって4人飲み会になった。
「……3、2、1、ゼロ! すごいわ、ヴェル。新記録。リドウせんぱいのお顔から目を逸らさず5分ピッタリ」
「はー。し、心臓が止まるかと思いました」
「じゃあ次は、ユリウスせんぱい、お願いします!」
「任せとけ」
「ふえぇ!? まだやるんですか!?」
「ノリノリだな、お前ら……」
といっても、大半がヴェルの男性恐怖症克服に費やされたわけだが。……ま、これはこれでってことで。
「ちょ、ちょっと待ってください。心の準備しますから」
ヴェルもだいぶ俺たちに対してハッキリ物を言うようになった。初対面当時はつっかえつっかえでしか話せなかったことを思い出せば大進歩と言えなくもない。
このままいけばいずれヴェルにも、クルスニクのアレやコレを打ち明ける日も遠くないだろう。まだ3人だった頃、ユリウスが弟のことを明かした日と同じように。
「ユリウスさんはカボチャ、リドウさんはカボチャ……」
ぐっさ→
ぐっ……なんか久々に精神的ダメージがヒドイのを食らった気がするぜ。
俺らくらいになると、派閥が出来る程度にはファンが付く。その辺の自負とか自信を、今のヴェルの「心の準備」は見事に叩き折ってくれやがった。
ユリウスまで凹んでやがる。お前、一応トップエージェントのプライドあったんだな。
後書き
異色の4人組が出来上がったばかりの頃のお話。
やはり発端はオリ主なのでした。
チャットによるとヴェルは男性と二人きりになると緊張して固まるそうで。その辺を拡大解釈したらこんな結果になりました。
ついでに「仕事相手は全員カボチャ」暗示効果もここで始まったことにしちゃいましたwww
3人での飲み会が始まったきっかけは本編のほうで書きたいと思います。
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