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バカとテストと白銀(ぎん)の姫君

作者:相模
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第二章 彼と彼女の事情
  第十八話 ~彼の選択~

 
前書き
第十八話が何回か繰り返される気がします。

ルートは… 小山さんでしばらく進むしかないですかね

後書きはもう少ししてから更新させます 

 
「明日のAクラス戦の代表メンバーを発表する。」
代表がそう宣言すると一気にざわめきが教室中に広がる。
前回の対BC連合戦の作戦ブリーフィングと同じように、僕は代表殿の隣に控えていた。
「まず、一騎打ちの三試合から発表する。物理には福原、保健体育にはムッツリーニ、最後の日本史は俺が入る。」
福原がこのクラスの中で、僕や代表、姫路さんをのぞいたとき一番物理の成績がよかったために今回の一騎打ちの代表メンバーに選んだ。
代表に目で続きを促され、僕が口を開く。
「次にタッグ戦についてです。まず、第一試合の数学には瑞希さんと美波さん両名に出ていただきます。融通を利かせていただきドイツ語での受験も可能というようにさせていただきました。」
「嘘、ドイツ語で受けて良いの!!」
「よかったですね、美波ちゃん、頑張りましょう!」
「瑞希の足を引っ張らないように頑張るから!」
女子二人組が喜んでいるのを、クラス全体が和やかに鑑賞している。
島田さんのテストの点数が悪いのは、基本的に日本語、特に漢字や古文を読むことが出来ないという大きなハンデを背負っているからで、能力だけだったら、Aクラス級といっても過言ではない。
しかし、この入試を視野に置いている文月学園でのテストで、まさかドイツ語で問われることもなく、そのためこのクラスに甘んじていた。
有る意味、今回の一騎打ちの特例といっても過言ではない。

咳払いをした代表に再び目線が集まる。
「タッグの第二試合の世界史には妃宮と吉井に入って貰うことになっている。ここまで、一騎打ちの参加者について何か質問はあるか。」
最後の坂本の言葉にしんと静まり返ってしまった教室。
教室中にいる彼らの言いたいことは、わざわざ言って貰わなくとも分かる、そしてその理由は余裕そうに楽に身構えている彼本人の口から言わせるべきだろう。
「吉井君、以前私の採点しました試験の解答用紙を見せて差し上げては如何でしょうか?」
「ふふん、みんな見て驚くな!どうだ、これが僕の答案だ!」
そう言って彼が取り出して見せた答案用紙には96/100点と書かれている。
「「カンニングしたんだろうがこの野郎!」」
「「吉井、素直に言って見ろ!」」
「妃宮さん、本当のとこはどうなんだよ!!」
荒みきったFクラスの皆さんに、とどめを刺させていただく。
「みなさんの期待にそぐえ無くて悪いのですが、彼が実力でお取りになられたのは紛れもない事実です。」
僕が答案を採点したときでさえも、思わずカンニングしたのかと疑ってしまった。
普段から勉強を見ている僕でさえも疑ってしまうような点数を叩き出してきた吉井を、だれが認めるだろうか。このクラスを見ている限り、姫路さんでさえ口を手でふさいでいる
唯一代表殿がこの結果を聞いたときに、悠然とこいつならこんな奇想天外なこともやらかしてくれるだろう、と反応をしていたのが、今から思えば極端すぎたのだろう。
「うそだろ……」
「あの馬鹿の代名詞が……」
そんな感じで教室中の空気が固まってしまった。
ここは一つ場を和ませるようなフォローでも入れるべきだろうか?
「明久、問題だ。鎌倉幕府は最後に新田に滅ぼされるまで将軍を置いていたって言うのは知っているか。」
「……ボクマダベンキョウシテナイカラワカンナイ」
「「………」」
クラス中が笑いこらえるせいで、くくくという喉が鳴らされたような音が教室に響く。
「お前等、こいつを今回の対Aクラス戦様式にずいぶん前から妃宮に調整されていてな。今のこいつはこんな感じで世界史以外の知識はすっからかんでな。同じ歴史系統でも時代が全く違うとこんな風になってしまうらしい。」
「調教とかじゃなくて調整って……」
「妃宮さんってそんなことするのか?」
僕が吉井を壊してしまったような言い方に思わずむっとする。
「代表、その言い様は甚だ見当はずれですよ。ただ近代史の知識が彼の脳内に溢れかえっているだけですから。」
そう僕がフォローを入れるけれども、言葉のチョイスを間違えてしまったらしい。特にこの教室にいらっしゃるお二方のお嬢様方には特にだ。
「妃宮さん、既成事実をでっち上げようとしているんですか?」
「千早、そんなの反則よ!」
今、そのような反応をされると彼の命が…
「被告、吉井明久。貴様に問いただす。妃宮司令様とお前の関係は何だ!」
今回は三角木馬の上に足を固定されてしまった吉井、毎回ながら拷問器具がこれほどFFF団が所持しているとは驚きだ。
「えっ?えぇ!!何で異端審問会がまた始まるの!?妃宮さんから頭がオーバーヒートさせられるぐらいに、世界中の歴史をその国の文化とか一色単に詰め込まれただけで、全くそんな関係なんてあったらいいけどないって!!」
その声に女子二人から僕に向けられていた敵意が消えたのは良いけれど。
「「会長、被告には100回で宜しいと小生は思います。」」
「うむ、判決を下す。三角木馬構内巡業及び振動100回の刑に処す。」
「ちょっと待って!それじゃ僕が殊勝な趣味を持っているみたいに思われるじゃないかあぁあぁ!」
そのまま屈強な男子生徒諸君の手によって御輿のごとく担がれていってしまった吉井。
「って、ちょっと待ってください。吉井君には聞かなきゃいけないことが山ほど有ります!」
「妃宮がアキの点数にどう関わったって言うのよ!なんならウチも理系科目教えてあげるんだからね!」
「美波ちゃん抜け駆けですか!」
そういって女子二人組も御輿を追って教室から出ていってしまう。
「はぁ、あいつ等は……」
「まあまあ、このようなことFクラスらしいことじゃろうて。」
教室に残っているのは代表と秀吉君、そして僕の三人だけで、作戦会議もなにもあったものじゃない。
吉井のこと以外は議題に上がらなかったのは、余りにも吉井の点数がショックだったことも有るだろうけれども、それ以前に突っ込む気もなかったのだろうけれども。
「さて、私たちはどういたしましょうか?」
教室に残った二人に僕が問いかけると、秀吉君は苦笑を浮かべながらこっちにきた。
「そうじゃの、明久の処刑の見物でもいくかの?」
「それも良いですね……代表殿は如何なさいますか?」
「そうだな、どうせやることもないんだし俺も……いや、すまない。翔子との対戦までに少しでも知識の確認をしておく。おまえ等は自由にしてくれ。」
そう言って小学生向けの日本史の解説書をぺらぺらとめくり始めた代表殿を邪魔をするわけにもいかず、僕と秀吉君は二人連れだって三角木馬巡業のチェックポイントの一つであるという新校舎二階のAクラス前に向かったのだった。

____________
一年のAクラスの教室には一年の姿が見えなかった。
確かこの時間は化学の実験であったはずじゃから、今の人はいなかった。
妃宮と二人で動くことになると聞いてここの場所に行こうと申したのはそれなりに意図したのじゃが。
「妃宮よ、実はお主には聞きたいことがのじゃ。」
「何でしょうか?」
そう言って、優雅に微笑みを浮かべる目の前の完璧人間に、ワシは前振りも入れずに一番大きな疑念をぶつけた。
「お主は何故そのように素のお主を出すことを拒むのじゃ?」
「……言っている意味が分かりかねますね。どういうことでしょうか。」
自然体に返してくる妃宮、この反応まではワシの想像通りじゃ。
じゃが、これにはどう返してくるのじゃろうか。
「お主、最近やたらと周りを警戒しておるじゃろ、それこそ初めてFクラスに足を踏み入れたとき程にの。お主、バレておらぬつもりじゃったろう。たしかに姫路も雄二も気づいておらんじゃろうがな。」
「秀吉君。」
そのとき、いつものソプラノの声がアルトにまで急激にトーンが落ちた。
そして妃宮自身が纏う空気も底冷えした感じの、抜き身の刃のごとくといったこれ以上素手で拒絶感が露わにされた。
ワシに自分の心の内に勝手に土足で踏み込んでくるなと、そう言外に告げてくる。
その表情には、明らかに作り物めいた微笑みが浮かび上がっているのがさらに恐ろしい。
いったい何がすべてに優れておるこやつをこの様にしてしまったのじゃろうか。
ワシは自分が開けてはならぬパンドラの箱を開けてしまった気がしてならぬ。
「…済まぬ」
ワシが喉から絞り出すことができた言葉はたった三語でしかなかった。
妃宮に言ってやろうと思っていたことの殆どが抜け去り、ワシはただ彼女からの審判が下るのを待つ他なかった。
いやな沈黙がワシらの間を流れる、姉上に半殺しにされるのよりも、ワシは今恐ろしく感じているやもしれぬ。
顔を長い白銀の髪で隠して、こちらに見せない妃宮が、何を考えているのかさえ読みとることが出来ぬ。
傍目から見れば、ただ顔に髪がかかっているだけで、普段と変わらぬ姿で立っているだけに見えることじゃろう。
「……仮面を被り続けることはいけないことですか?」
不意に、ソプラノの声で弱々しくそんな言葉がワシに投げかけられた。
「自分も、他人も誰も彼もが傷つかないように、自分の醜く人に知られたくないような正体を隠すことが出来て、それでなおかつそれを続けることが出来るのであれば、私は構わないことだと思います。」
その言葉は果たしてワシの問いかけに対するものであったのだろうか。

「秀吉君、ほら御輿がきましたよ?」
あっと言う間に体勢を立て直す彼女を前に、ワシは敗北を悟るのじゃった。
「「ワッショイ、ワッショイ」」
「二人とも見ないでえぇ!!」
向こうから掛け声が飛び交うなか、御輿に乗せられた明久がこっちに向かってくる。
「何じゃ、その無理矢理犯されたようなことを(のたま)いよって……」
「何といいますか、吉井君って良い性格をなさっていらっしゃいますよね。」
二人揃って場違いな言葉が零れ出たのを、顔を見合わせながら苦笑いしていると、御輿の警備隊まで含めて全員がワシらの前に勢ぞろいしていた。
「司令と木下に敬礼!」
おそらく処刑部隊の隊長を務めている覆面が前に進み出て、号令をかける。
奴の宣言の下、一斉にワシ等に敬礼が向けられる。

平然とそれに答礼する妃宮のその素顔が如何なるものなのか。
(お主のことが分からぬ。ワシらとは違うのじゃろうか。)
勇んで踏み込んでもこうなるのであるなら、妃宮がワシらに自分から心を開くまでは何をしても無駄なのじゃろう。
そう、ワシは答礼をしながら思っていたのじゃった。
 
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