仮想空間の歌う少年
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番外編ー世界5分前仮説。
前書き
ちょっと哲学的な話かもしれませんね。番外編です。
世界5分前仮説がテーマです。
…それでもあなたはとびこむの?
とある日の夜。
いつも通り僕はほぼ同棲中の詩乃と夕食を作り食べた後だった。
「ねえ。『世界5分前仮説』って知ってる?」
のんびり甘い紅茶を詩乃と一緒に飲んでいると不意に詩乃がそんな事を聞いてきた。今日は朝から晩までシトシトとした雨が降り続いて寒い1日だった。
世界5分前仮説?確か…。
僕は持ち前のあまりいらない雑学という知識をフル動員して答える。
「えっと…『世界は実は5分前に始まったのかもしれない』というバートランド・ラッセルの仮説だよね。」
「正解。」
そう言って詩乃は紅茶を一口すすって、ほっと一息はいた。僕は不思議に思って問いかける。
「なんで?いきなりそんな事を聞くの?」
そうすると詩乃は少し悲しそうな顔で笑ってこう話しかけてきた。
「この理論自体はネットで知ったんだけど…。
もしもその理論が正しいのなら…。私達は何なんだろうね。
…あの日の事とか。キリトが道を示してくれた事とか。…私と佳の関係とか…。それが嘘偽りになるんでしょ?」
「…。」
僕も紅茶を飲んで少し考える。
あの日。郵便局でのあの事件…強盗が入り詩乃は詩乃の母さんを守るため強盗の落とした銃で強盗を撃ち。僕は殺されそうな詩乃を守るためハサミで強盗を刺し殺したあの事件。
僕達はキリトは言った「救った人達を考える権利がある。」という言葉を言ってくれるまで。僕達は苦しんでいた。
…心がそれこそズタズタになるまで。
すると詩乃は悲しそうな笑顔のまま僕の方を見て。
「神様は以外と残酷なのかもしれないね。
…こんな運命に持っていくなんて…。」
そう言って詩乃は俯く。そうして俯いたまま僕に問いかける。
「ねえ?佳はどう思うの?…もし世界5分前仮説が本当だったら。」
「…。」
沈黙が部屋を支配する。
そうすると、その空気を察したのか詩乃が少しバツが悪そうに。
「ごめんなさい。こんな事を聞いて…。仮説だもんね…」
「僕は。」
詩乃が慌てるの後目に見て、僕は僕なりの答えを解答する。
「僕は…関係ないと思う。」
「え?」
詩乃が不思議そうに僕を見てきた。
はっとなって手をブンブン振る。
「いや、そんな偉そうに言える事じゃないよ!ただ僕は。」
そこで言葉をいったん止め。テーブルの向かい側に座っている詩乃の手を取り、握る。
「佳…?」
「今、温かいでしょ?」
僕はそのまま握った詩乃の手をゆっくりと絡ませていく。
「今、この握ってる事は本当の事だよ。
…嘘偽りが無い。これが『今』という事。」
「でも…『今』佳が好きという事も5分前に出来た偽りの感情だったら…。」
そう言って詩乃は手を離そうとするが僕はそのまま繋いたまま離そうとしなかった。
僕はため息をつき。
「はあ…。偽り偽りって言うけど。
詩乃は『今』僕の事好き?」
「好きよ。」
「ならそれが答えだよ。」
詩乃が即答してくれたので僕は笑って詩乃を見る。
「過去は関係ない。『今』が答えなんだよ。
正直な話、過去なんていくらでも書き直せる。それこそ悪い政治家とかが良くやる手だよ。
だけど『今』だけは書き直せない。何故ならまだ書いてないから。だからこの『今』やる事は偽りじゃないんだ。」
「佳…。」
「だから『今』詩乃が僕を好きでいてくれていること、『今』僕が詩乃を好きでいることは嘘じゃないんだ。たとえ、5分前に出来た世界だとしても。」
僕はそのまま静かに立つと、詩乃の後ろに座って目を閉じ後ろから抱き締める。そして詩乃の耳元で囁く。
「ね?嘘偽りじゃないでしょ?」
「…バカ。」
そう言って詩乃はそのまま後ろの僕に寄りかかってきた。
詩乃は目を閉じていた。そして口を静かに開く。
「ならこのままでいよう…。5分前の嘘になる前に。」
「そうだね。『今』という本当を僕達が確認するために。」
僕達はそう言って寄り添い合う。
ーーー例え5分前に出来た嘘偽りの世界だったとしても
僕は私は
『今』の君を好きでい続ける。ーーー
後書き
なんかとある人の影響と、この前読んだ”僕は明日、昨日の君とデートする”の影響で書いてしまいました。
それでは次回もまたお会いしましょう!
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