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提督の娘

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第九章


第九章

「本当にな。中将の娘さんか」
「これから何かあるっていうのかい?」
「用心しておいた方がいいね」
 剣呑な目になってダスティに述べた。
「充分にね」
「そうか。用心か」
「何しろあの人は中将のたった一人の娘さんだ」
 一人娘だったというのである。
「そして物凄く大切にしておられるからね」
「そんな人に僕がかい」
「わかるよな。中将閣下の御令嬢となりたての少尉」
 階級において圧倒的な差があった。軍というものは階級社会でありこの差は埋められないものである。それもどうしようもないまでにである。
「これだけ違うんだからな」
「そうだよな。何か話をしているうちに」
「わかったな。とにかく注意しろよ」
「ああ」
 暗い顔で頷くダスティだった。そうしてそれからだった。ダスティはサエコと会うのを避けるようになった。何かあっても仕事を持ち出してそのうえで避けていた。しかしだった。
 ある日のこと。艦内にわざわざ司令部から司令、つまりマックソード中将のスタッフの将校がやって来た。彼の階級は中佐であった。
 その中佐が来てであった。こう問うたのだ。
「ダスティ=ブレイク少尉はいるかな」
「ブレイク少尉か」
「そうだ、少尉だ」
 出迎えた艦の副長に告げた。二人は士官学校の同期でその付き合いはかなり深いものだったのだ。だから今も同期として話をしていた。
「少尉はいるか」
「うむ、今艦橋にいる」
 場所も話すのだった。
「この艦の航海士でな。よくやってくれている」
「そうか。そんなにか」
「真面目で優秀な人物だ」
 副長は微笑んで述べたのだった。
「実にな」
「そうか。そんなにか」
「その彼がどうかしたのかい?」
「司令が御呼びなのだよ」
 このことを話すのだった。
「司令がな」
「そうか。司令がか」
「何の目的かはわからないけれどな」
 それは前置きするのだった。
「呼んで欲しいとのことだ」
「おい、何故だ?」
 副長はそれを聞いて思わず同期に問い返したのだった。
「司令がわざわざ一介の少尉を直々にか」
「そうだよ。直々にだよ」
「何があったのだ?不祥事でも起こしたのか?航海士は間違ってもそんなことは」
「私にもそれはわからない」
 中佐もそれは答えなかった。答えられなかったと言うべきか。
「しかしだ。実際に御呼びなのだ」
「とにかくか」
「何故なのかはわからないがな。とにかく呼んで欲しいとのことだ」
「わかった」
 副長は同期の言葉に頷いた。なおこの副長の階級も中佐である。
「それではな。伝えておこう」
「頼んだぞ」
 こうしてだった。ダスティはその中佐と艦橋で会うことになった。会った途端にその顔を一気に強張らせそのうえで応えるのだった。
「司令がですか」
「そうだ。君を御呼びだ」
「そうですか」
 ダスティのその顔を強張らせていた。そのうえで応える。
「私をですね」
「その顔を見ると自分で事情はわかっているようだな」
 中佐は彼の表情からすぐに察したのだった。
 
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