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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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妖精亭-フェアリーズハウス- part1/王女への謁見

数日前、レコンキスタによるタルブ侵攻の直後のことだ。路地裏にてある事件が起こっていた。
「ち、こんな汚らしいところにまで追い込ませるとは…けがらわしい平民のくせに手間取らせおって…」
一人の脂肪で膨れ上がった腹をゆすりながら、一人のいかにも横柄な貴族の中年男が、自分の目の前に怖気ついて腰を抜かしている男を、ごみを見るような目で見降ろしていた。
「き、貴族様!私はあくまでまっとうな仕事をしていた身です!なぜこのような扱いを受けなくてはならないのですか!」
「何を言う?貴様ら平民は我ら貴族に生かしてもらっている、犬や猫と同じよ。にも拘らず私に生意気な口をきくなど万死に値するわ!」
おそらく、この横柄貴族に真正面から正論を言ったにも拘らず、この貴族は言うことを聞かず権力を盾に我儘を通し、逆恨みを晴らすために生意気な平民をこうして追ってきたのだろう。証拠にその貴族の背後に、彼の配下と思われる兵がずらりと並んでいる。が、何人かは弱い者いじめをやっているようで気が進まない様子だった。
すると、その平民の男を身を案じ、一人の年若い少女がその貴族の前に立った。
「貴族様!とんだご無礼をしてしまい申し訳ございません!ですからお願いです!私のお父さんをどうかお許しください!」
「何をしに来たんだ!下がりなさい!」
追われていた平民の男性の、娘のようだ。平民の男性は娘がこうして自分をかばいに来たことで、次に何をされるか容易に想像した。
「ほう…」
横柄貴族は少女の顎をつかみ、なめまわすような下卑た目で少女の容姿と肢体を見つめる。
「父思いで容姿も美しい…なかなか良い娘を持っているじゃないか。ようし、娘、お前が私に仕えるなら父を許してやろうではないか」
「あ、ありがとうございます…!」
自分はきっとこの男に言いようにされてしまうのだろう。でも、これも父親の命を助けるため。覚悟を決めた娘は立ち上がって貴族の後ろに回った。
「お、お待ちください!娘を…娘を返してください!」
しかし、それを父親が許せるはずもない。何をされるかさっきの貴族の行動でわかりきっている以上、誰が娘をあのような豚のような男に平気な顔で渡せるというのか。すがるように貴族の足にしがみつくと、横柄貴族は触られただけで顔を醜悪に歪ませ、平民の男を蹴り飛ばした。
「お父さん!!」
「貴様…平民の分際でこの私に汚い手で触りおって…新入り!この者に私に逆らうことの愚かしさを思い知らせてやれ!」
横柄貴族が命じると、兵たちの間から、一人の礼服を着込んだ人間が姿を現し、追われていた平民の前に立った。それは少年だった。なぜ少年?
が、次の瞬間その少年の月の光を逆行にしたシルエットが、人間のそれとは大きく異なる者に変貌した。少年の背中から、まるで何かの尾のようなものが伸びた。その尾のようなものの先には、先のとがった牙のようなものが生えていた。娘は貴族に向かって叫び。
「貴族様、話が違います!お父さんを許してくれるって言ったじゃないですか!」
「確かに言った。だが、それはあくまで私への暴言をお前の娘を渡したことで許したまでの間。その後に私の服を汚したことは別件よ。一体貴様らの全財産の何倍の金をつぎ込んで買ったと思っている。下賤な輩の分際でよくもこの私に汚れを…やれ!!」
貴族は少年に命じると、少年の影から生えた尾のようなものが、平民の男に向かって振り下ろされた。
「う、うわあああああああ!!!」
次の瞬間、路地裏の路面上に血が飛び散った。
「お父さん!!いやあああああ!!!」
目の前で父親の惨状を見せつけられた娘は父のもとに駆け寄ろうとしたが、兵たちに無理やり押さえられ、そのままその貴族の屋敷へと連れ込まれてしまった。
その事件の翌日、奇跡的にも父親は生還したが、未確認の猛毒に侵され余命わずかという残酷な宣告を下されることになった。



復活したノスフェルとフログロスは見事二人のウルトラマンに倒され、トリスタニアの街に再び平和が戻った。だが、これまでの危機の連続から、誰もがこう考えたに違いない。

『この平和はあくまで一時限りのもので長くは続かない』と。

ノスフェルとフログロスが撃破されたのを、見届けていた者がいた。ロンディニウムにて白髪の大男と共にいた、黒いマントの女だ。ただ、背が多少高くみられることからサイトたちの前でファウストに変身した女とは違う人物だ。
「まだ未熟さが垣間見えるけど、将来性に富んでいるようね」
二体の巨人たちを見上げながら彼女は呟く。
「でも、我が計画の邪魔はさせない。たとえ、宇宙の秩序を守る者が敵でも、邪魔をするなら…」
と、彼女は言葉を切る。背後に別の人間の気配を感じたからだ。
「よう」
その男は、ロンディニウムの宮殿にて彼女と共にシェフィールドと会話していたあの大男だった。
「何か用かしら?」
「何、遊び仲間の様子を見に来たのさ」
「あなたにしては珍しいわね」
「人を『焼く』以外の楽しみを知ったおかげかもな。くく…」
人を焼く、冗談でいうにしても笑えないことを平然と、それも本気で楽しんでいるかのように言ってのけるその男に、女はフードの下で嫌悪感を感じ、眉を潜めた。
二人のウルトラマンが変身を解くためにちぢんでいくのを見届けると、黒いマントを翻しながら、女は街の中へ消えて行った。一方で、男は飛び去っていく巨人のうち、ネクサスの方を興味深そうに見ていた。
「銀色の巨人、か…」
楽しみの一つを見つけて満足したのか、彼はニヤッと笑ったのち、彼もまた街の中へと消えて行った。それも、歩きながら半透明になって…。



ルイズがゼロたちとビーストの戦いで負傷したということで、本来ならルイズが玉座の間へ来訪しなくて張らなかった事態が、逆にアンリエッタがルイズが運ばれた医務室へ来訪するという形となってしまった。
「ああ、ルイズ!よかった…無事だったのね!」
足に包帯を巻かれたルイズを見て、アンリエッタは彼女の無事と、数日ぶりの再開に涙ぐんでいた。逆に、自分がけがをした姿をできることなら見られなくなかったルイズは、そんな姿を中世の対象に見せてしまったことを反省した。
「姫様…このようなみっともない姿をお見せすることになって申し訳ありません」
「何を言うのルイズ。寧ろ悪いのは私の方だわ!私が学業にいそしんでいるあなたを無理に呼び出してしまわなければ…」
「何をおっしゃいますか!姫様はなにも悪くありませんわ!」
気に病むアンリエッタの顔を見て、ルイズはあわてた様子で気にしないように言う。
「いえ、懺悔の言葉を述べさせて!あなたをアルビオンという死地に追いやっただけでなく、今回だって私があなたを呼びつけたのが一因ですもの!」
「いえ、此度のことは私の不注意が招いたことです!」
ルイズとアンリエッタは自分が悪いのだと互いに言い続け、そのせいで本題にいまだ入らないままだった。
『…話進まねえな。このままじゃ二万年経っちまうぞ』
ゼロは懺悔大会を繰り返す二人に、痺れを切らしそうになる。無論サイトとハルナもまた同様だった。いつまで続くのだろうと、うんざりしきっていた。
「あのさ…」
「何よ!」
ルイズが睨んできたが、こちとら何よとはなんだと言い返したくなった。
「いや、だから話が進まないんだけど…」
「そ、そうでしたわ!申し訳ありません…」
サイトが恐る恐る言った言葉を聞いて我に返ったアンリエッタが、サイトとハルナに申し訳なさそうに言った。
「もう、あんたのせいで姫様が…いえ、陛下が落ち込んじゃったんじゃない!」
「俺のせいかよ!!」
アンリエッタが平民であるサイトに謝ったのが癪に障ったのか、ルイズはサイトを理不尽にしかりつけた。が、逆にアンリエッタはルイズから言われた『陛下』という呼び方が嫌なのかルイズに言う。
「陛下だなんてやめて頂戴ルイズ。そのような他人行儀は承知しませんよ。だってあなたは私の最愛のお友達ですもの」
「そんな…恐れ多い」
「お願い、今まで通りにして。それに私はまだ戴冠式を終えていないから、まだ女王とは言えないわ。それにしても、女王になるものじゃないわね。いずれ退屈さと窮屈さが以前の何倍にも…気苦労はさらに何十倍にもなるでしょう…」
はあ…とアンリエッタはため息を漏らした。ハルナはそれを見て、お姫様って楽なものじゃないのだなと思った。女の子というものは、一度はお姫様というものに憧れというものを持つだろう。幼い頃、アメリカのカートゥーンのような豪華な白い城のバルコニーから白いハトを飛ばしながら鼻歌を歌ってみたいとか素敵な王子様と出会って結ばれたいなんて考えたりしていたものだ。でも、なってしまうとそれはそれで苦労することになるのだろう。目の前の姫がそうであるように。
「ところでルイズ、サイトさんはともかくそちらの女性は?」
「す、すみません姫様!実はオールド・オスマンから…」
アンリエッタがハルナの存在に興味を示すと、ルイズはオスマンからハルナのことを姫に紹介した方がいいだろうというすすめを受けてこの場に連れてきたことを話した。
「驚きました。まさか、サイトさんの学友の方だったなんて…」
「あ、は…初めまして!私は、高凪春奈と申します!」
相手がお姫様ということもあり、緊張しきった様子でハルナは自己紹介した。
「タカナギハルナさんですか…初めまして。私はこの国の姫、アンリエッタ・ド・ドリステインと申します。そうかしこまることはないですよ。楽にして」
「ハルナ、深呼吸」
「う、うん…すーはー…は、はい!」
カチカチになるハルナを見て、アンリエッタは笑い、サイトは呼吸を整えるようにフォローを入れる。
「でも、サイトさんはルイズの召喚魔法を受けてこの世界に来たそうですが、彼女は?」
「えっと、私の場合は…」
ハルナは、自分は召喚魔法を受けたのではなく、正体不明の謎の黒い雲に襲われ、気がついたらこの世界に送られ、サイトと再会を果たしたと説明した。
「なるほど、ハルナさんは使い魔としては召喚されておらず、その理由は黒い雲にあるようですが、それについて詳しくはわかっていないということですね」
「え、ええ…」
「オスマン学院長が彼女と私に引き合わせたのは、サイトさん同様異世界人である彼女にこのトリステインでの生活の保障をしてほしいと願ってのことですね。いいでしょう。困ってる者を助けるのも王族としての務めです。
ハルナさん。いきなり異世界での生活は大変かもしれませんが、頑張ってください。そして、これからもルイズとも是非、仲よくしてあげてください」
「…はい…ありがとうございます」
この姫、意外にも笑顔でこちらにとって酷なことを言ってくる。ルイズとハルナはサイトをめぐる、まさに恋敵関係にあるのだ。だが、退屈だったり、時には気苦労ばかりを要する政務に付き合わされる姫にとって、修羅場も刺激のある舞台上の演劇として楽しむところがあるだろう。
「では、ルイズ。あなたを呼び出した理由をここで話しましょう。レコンキスタの、タルブ襲撃の勝利についてです」
ルイズは、やはりと思った。あの時、自分が発動させた白い光のことだ。しかし、話すべきかどうか迷っていると、アンリエッタはルイズの手を握って笑みを見せた。
「私に隠し事をしなくてもいいわ。あれだけ派手な戦果を挙げたのよ。ありがとう、あなたたちは救国の英雄ですわ。できればルイズに爵位、サイトさんにも貴族としての位を差し上げたいのですけど…」
「そんな!こんな犬を貴族になんて…」
「犬?」
なんのことだとアンリエッタが首をかしげると、ルイズは「な、なんでもありませんわ…」と頬を赤く染めながら誤魔化した。サイトが犬呼ばわりされたのが気に入らないのかハルナからの視線が、少し痛い。
「私としては差し上げずにはいられないのですよ。それに、アニエスをごらんなさい。彼女も元は平民ですが、メイジを相手に剣のみで勝利してきた凄腕の剣士です。現在はシュヴァリエの称号を与え銃士隊の隊長を任せているわ」
アンリエッタから言われたとおり、ルイズはアニエスを見る。思えば、彼女は確かに剣を携えている。貴族なのに剣を携えている人間はいない。大概のメイジは魔法を武器とし、剣や槍を使う平民など格下に見る傾向が強いから剣を持たないのだ。でもアニエスはそれを持っているということは、彼女は元は平民の出である証だった。
「姫様、失礼を承知で言いたいのですが…」
「わかっているわルイズ。あなたのことだから、『平民を貴族に取り立てるなどゲルマニアの真似事じゃないか』って言いたいのでしょう?」
ルイズは無言だったが頷く。ルイズにとって貴族の称号は始祖から与えられた神聖な称号。それを金で買って貴族を名乗るゲルマニア人と、優れた実績があるからって平民を貴族に取り立てるやり方の差に違いがほとんど見えなかった。
「重臣たちからも反対意見が飛び交っていたわ。下賤な平民などに貴族を名乗らせるなどもってのほかだ、と。でも、私は古いしきたりにいつまでもこだわり、変えていくべき現実を変えないまま国力を低下させていくこの国を見てきました。このままではいけない、だから思い切ってゲルマニアと同じように、優れた平民を見つけたら是非部下として取り入れようと考えています」
国力低下は、国を守る力を失うこと。まして自分たちの行いでそうなってしまっているのなら変えなくてはならない。今、かつてない脅威がこの世界を包み込もうとしている以上なおさらだ。ルイズも理解できないわけじゃないが、一つ心配になった。果たして他の貴族がそれで納得してくれるのか、アンリエッタの立場にどう影響するのかが心配になる。
「いや…どちらにせよ俺には必要ないですよ。こうしてルイズやお姫様、みんなが無事だったんだ。それで充分ですよ」
「サイト…」
ルイズが無事ならそれでいい、という言葉がうれしかったのか、ちょっと顔がゆるんでいたルイズ。とはいえ、サイトとしては地球に帰るとなると、異世界でもらった爵位なんて就職活動の足しにもならないのだから実際いらなかった。それ以前にトリステインでは平民は貴族になれないのではなかったはずである。
「なら、せめて感謝の言葉を述べさせて。本当にありがとう、サイトさん」
「でも、俺たちは何もしてませんよ。あの戦いは結局レコンキスタが使っていた怪獣のせいで途中からうやむやになって…最後はウルトラマンが怪獣をやっつけて終わったんですし」
「でもサイトさん。あの白い光はルイズが…そしてあの飛行兵器、竜の羽衣を動かしたのはあなたなのでしょう?あなたたちの活躍で民が救われた。十分すぎる成果なのですよ。
特に白い光、あれが発生したとき、三人のウルトラマンたちも私たち王軍と同様に驚愕してその場に茫然と立っていたと報告にあります。ルイズ、あなたの発した白き光は、彼らを助けた。私たちに代わって彼らに少しでも恩を返すことができたのよ」
サイトとゼロは、ルイズを見やる。あの時、ルイズの声が確かに聞こえたのだが、やはり彼女の魔法だったのか。しかし、何という魔法だったのだろうとゼロは驚いていた。ゼロ自身もルイズの力を侮っていたが、これほどの力を隠していたとは思いもしなかった。
「そんなことは…」
ルイズはそんなことはないと言いたかった。あの時は無我夢中だったのだ。自分の意思でやったかどうかもおぼろげな行為を素直に受け止めることは難しかった。
本当なら、ずっと『魔法成功率ゼロ』と蔑まれてきた自分だ。よりによって伝説と謳われた、かの始祖ブリミルが行使した系統『虚無』に目覚めた。みんなに見せつけ、自慢してやりたいほど有頂天になる…と思っていた。虚無に目覚めたことでルイズを襲ったのは、予想もしきれないほどの重圧と不安だった。ウルトラマンさえも驚愕させ、ファウストの闇を打ち砕き、闇の空間もろとも怪獣にも深手を負わせ、中には彼女の魔法で倒された個体さえもいた。それだけすごい魔法を自分は発動したのだ。それも、あの白紙の手帳を読んだ時だ。
突如強大な力を手にしたことで、彼女は強すぎる不安を覚えたのだ。
「…いいのか?」
サイトが袖を引っ張ると、ルイズは気づいていたの!?と言葉には出さなかったが、丸くなった彼女の目がそれを語っていた。それをめずらしく察したのか、コクッと頷いたサイト。これ以上アンリエッタに隠し通しても無理だろうし、おそらくこの話をすると予想していたので、あの本と水のルビーも念のため持参している。何より、このことについては誰にも相談できずにいたので、サイトが気づいていたという事実が、彼女の心に後ろ盾となって安心感を与えた。
あの白き光を放った時のことをルイズは語った。アンリエッタからもらった白紙の本と水のルビーをはめたとき、水のルビーと白紙のページが共鳴するように青く光り、文字が浮き上がったこと。浮き上がった分には、始祖ブリミルの物と思われる者の文章が記され、それを読み上げると、自然と呪文を口ずさみ、あの白い光を放ったと、全てを説明した。
その際、彼女はアンリエッタに古書と指輪を手渡した。
「始祖の祈祷書…」
古書を見て、アンリエッタがそう呟く。
「え?」
「実は、この白紙の本の名は『始祖の祈祷書』。我がトリステイン王家に伝わる秘宝の一つとされています。本来はゲルマニア皇帝との婚姻が成立した場合、あなたに巫女として詔を述べてもらうために用意したものだったのよ」
「わ、私を巫女にですか!?」
ルイズは仰天する。サイトとハルナは逆によくわからないと言いたげに首をかしげていた。
「この古書は本物の祈祷書のまがい物…つまり偽物だと思ってました。何せ私が見たときも白紙でしたから」
300ページほどの古書をペラペラめくりながら、アンリエッタは言った。いくらめくっても真っ白な古書。彼女が始祖の祈祷書という大層な名前を付けられたその古書は『伝説』を騙る昔の詐欺師が適当に作った偽物の一つではないかと思われ、本人もてっきりそう思っていたのだという。たちの悪いことに、各国の寺院の司祭や貴族、王室などが自国にある『始祖の祈祷書』と名付けたものを本物と主張している。いつしか図書館さえもできるほどのレプリカが刊行されハルケギニア中に広がってしまったのだ。
とはいえ、その際どうでもよかった。アンリエッタとゲルマニア皇帝との間に行われるはずだった結婚式の詔を読むためなら、結果として偽物だろうとなんだろうと構わなかったのだ。どうせ本物を探したところで、『本物』と呼ばれている偽物が山のように発見されるだけだからだ。
「詔ってなんだ?」
サイトがふと疑問を口にすると、デルフがさやから顔を出して説明してくれた。
「結婚式の際に詩を詠むのさ。もちろん、めでたい二人を祝うためのな」
「ルイズが詩を…ねぇ…」
ルイズが詩を考えている時の様子を想像し、サイトは怪訝な顔をした。あのルイズが座学トップなのは知っているが、それが詩の才能と繋がっているとは到底思い難い。無理に難しい言葉を考えたり、詩とは全く関係のない文を考えたり、何も考えられずベッドの上でウーウー唸りながらダラダラするだけだろう。
「サイト…あんた今何を考えていたのかしらね?」
サイトの考えを察知したのか、ルイズがギロッと彼を睨みつけると、サイトはナ、何デモアリマセンヨと片言で返した。
「ルイズ、知ってるかしら?始祖ブリミルはかつて、世界を破滅に導く悪鬼と戦い、荒廃したハルケギニアを蘇らせるために三人の子供と一人の弟子に王家を作らせ、それぞれに指輪と秘宝と遺したそうよ。この水のルビーと、正真正銘本物のこの始祖の祈祷書がそうよ」
「え、ええ…」
世界を破滅に導く悪鬼?それを聞いたとき、サイトとハルナの脳裏に、数年前の記憶がよみがえる。それは、ウルトラマンメビウスが地球防衛の任に就いていた頃最後に戦った最強の宇宙人『暗黒大皇帝エンペラ星人』の姿を思い出す。思い出すだけで恐怖で鳥肌を立たされた。地球の空に暗黒の雲を漂わせ、太陽を全面黒点の身に塗り替えて地球から光を奪い、圧倒的な力で当初はメビウス、ヒカリ・『宇宙剣豪ザムシャー』たちをあっさりとねじ伏せるほどの力を見せつけた。あの時は本当に地球が滅亡するかと、サイトもハルナも絶望しかかった。もし、メビウスが最後にヒカリと一つになった最強形態の力を見せなかったら、今自分はこうして立つこともなかったに違いない。
もしかしたら、あの時のようなことが遥か昔のハルケギニアでも起こったのではないだろうか。
「王家の間では、始祖の力を受け継ぐ者は王家に連なる者に現れると」
「ですが姫様、私は王族の者では…」
「何を言うの。あなたの実家、ラ・ヴァリエール公爵家の祖先は王の庶子。あなたもまた王家の血をひく者、資格は十分にあるのよ」
ルイズはそれを聞いてハッとなる。確かに、自分の祖先はトリステインの祖王の子だったと学んでいた。すると、アンリエッタはサイトの左手を取り、刻まれたルーンを見る。
「これが、伝説の使い魔ガンダールヴの印…やはりルイズは、虚無の担い手なのね。
でも、これであなたたちに勲章と恩賞を授けることができなくなった。わかるかしら?」
「ああ…そういうこと、ですね」
自分にはルイズのルーンによって宿ったガンダールヴの力以外に、ウルトラマンの力という強大な力を持つサイトはその意味を理解した。ウルトラマンさえも驚かせた伝説の魔法の力をルイズが持っていると聞けば、ルイズの危険な力を排除しようとする輩、またはルイズの力を利用しようとする軍の愚か者が現れることだって否定できないのだ。ウルトラマンも、自分たちの力が地球人にとって良くない影響を与えることを考えて、かつての自分たちの祖でもある人間の姿を借りたり、地球人と同化して情事を過ごしてきたのだ。正体を明らかとなってなお地球防衛の任に就き続け、兵器として利用されることなくGUYSと固い絆を結んだメビウスは非常に珍しいケースなのである。
「ええ、サイトさんの察する通りです。敵は空の上とは限りません。城の中にも…ワルドと同様にあなたを狙う裏切り者がいないとも限りません。だからルイズ、あなたのその力のことは他言無用よ」
ルイズはしばらく考え込んで黙った。いきなり与えられた強大な力。不安は強く感じる。けど、自分がこの力を授かったことには、何か意味があるはずだ。サイトが自分の手でこの世界に呼ばれた際、自分のなすべきことを見定めたように、自分もまたそうしなければならない。強く決意したルイズはアンリエッタに言った。
「この力…僭越ながら姫様とこの国のために使わせてください!」
「だめよルイズ、その力のことは一刻も早く忘れなさい」
これ以上ルイズを危険にさらすわけにはいかない。アンリエッタは虚無のことを忘れるようにルイズに言うが、ルイズは首を横に振る。
「今、この国もアルビオンも…いや、もしかしたら他国さえも怪獣たちの脅威にさらされているはず。神は彼らと戦って平和を取り戻すために私にこの力を与えたに違いありません。私は魔法学院において魔法の才がなく『ゼロ』と蔑まれ続けてきました。そんな私でも、姫様の役に立って見せたいと強く願っておりました。それでもダメというのなら…私は貴族の名も杖も姫様に返上し、一生『ゼロ』のまま生きることになるでしょう」
「…」
アンリエッタは考え込んだ。ルイズは一度決めたらそれを曲げることを決してしない。自分の知るかぎり彼女はそういう頑固者だった。
だが、実際ルイズの手に入れた虚無の力は、この国を怪獣の脅威から守るためにも必要なものでもあった。友人を利用しようとしている醜い貴族…それがまさに自分ではないか?たとえルイズが自分に力を貸してくれることを望んでいたとしても、自分が女王として民たちの未来を担っている身だ。ならば…。
「…あなたは昔でもそうだったわね。夜のラグドリアンの湖畔で、ベッドを抜け出した私の身代わりにベッドに入って…」
「姫様…」
忠誠心と身分を超えた女同士の友情を確かめ合うように二人は抱き合った。
「わかりましたわ。ルイズ…民の命と未来のために、あなたの力を貸してください」
「仰せのままに。この力、姫様のために」
「ならば、この祈祷書と水のルビーをあなたに託しましょう。しかし、約束して頂戴。さっきも言ったけど、あなたが虚無の担い手であることは決して口外しないで。そして、みだりに使ってはなりません。サイトさんとハルナさんが異世界人であることも公のものとしてはいけません。よからぬ陰謀を抱く者に利用されるかもしれませんから」
「はい」
「サイトさんとハルナさんも、今私が言ったことを守ってくださいね」
「は、はい!」「はい」
以前アンリエッタに自分が地球人であることを明かしたのを思い出し、ちょっと軽率だったかなとサイトは反省した。シュウにも言っておこう。いくら森の中に隠れ住んでいるからって、自分たちの正体について厄介なことになったらことだ。
アンリエッタは羽ペンを取り、せっせと用紙に書き記し始める。最後に花押を押し、その書を丸めてひもで止め、ルイズに手渡した。
「この許可証を受け取ってください。これであなたは私直属の女官ということにいたします。王宮を含む国内外へのあらゆる場所への通行と公的機関の使用を、私の名のもとに許可いたします」
「ありがとうございます。姫様。全力を尽くします」
恭しくルイズから礼を言われたアンリエッタは、続いてサイトの方へと向く。
「サイトさん。あなたは長年怪獣の脅威にさらされ続けた異世界…『地球』という世界から来た…そうでしたわね?」
「あ、はい」
改めて、以前サイトが自ら異世界の人間であることを明かした時のことが真実か、サイトに再び問うことで確かめたかったのだろうか。サイトはアンリエッタからの問いに頷く。アンリエッタは彼の手を取る。お姫様なだけあってしなやかな手つきと柔らかな感触が、サイトをかえって緊張させて頬を染めた。それに気づいたのか、ルイズとハルナの視線が鋭くなる。
「では、あの時現れた、新しい赤いウルトラマンは私たちの味方…なのですね?」
その視線に気づかないまま、アンリエッタはタルブの戦いで突如出現した新しく見たウルトラマン…レオのことを問う。敵にもファウストというウルトラマンがいた。サイトから味方かどうか聞いておきたかった。
「はい。それは保証します。ウルトラマンレオは数十年前にも地球で俺の故郷を守ってくれたことがあるんです。多くの世代から見ても、今も昔も憧れのヒーローの一人ですよ」
これについては大きな自信がある。仮にもしレオが町を破壊している姿が見かけられたら、それは間違いなく悪質な星人などが化けた偽物に違いない。
『サイト…』
師の存在を、宿主が大きく買ってくれたことに、ゼロも少し嬉しく感じ取った。
「よかった…」
サイトから味方だということを聞き、アンリエッタはほっとした。
「この先はサイトさん、今のように、あなたが異世界人であるが故の知識も必要となってくるでしょう。我が国は、怪獣についてあまりにも無知ですが、だからといってこのまま何も知らないままでいては何一つ守ることができません。ルイズのためにも、どうかあなたのお力を貸してください」
彼自身は姫の臣下というわけではないので責任を負う必要は、本来はない。だが、女性からの真摯な目で見つけられると、サイトは嫌にも受け取らぬわけにいかなくなってしまう。それに今の自分は怪獣の知識を持つ数少ない人間だ。この国、この世界が初めて怪獣たちの脅威に立ち向かうこととなるのなら、彼のような人間の手を借りざるを得ないのだ。
「その代わりと言ってはなんですが、サイトさんのほしいものを何でも言ってくださいませ」
「ほしいものを…なんでもですか?」
「はい、なんでも」
「な、なんでも……」
欲しいものを何でも聞いてくれる。この美少女な姫様がくれるもの…。サイトはつい、本来の年相応の少年らしい煩悩に支配された。熱っぽい目で自分を見て、そのシエスタ以上キュルケ未満な美巨乳を押しつけながら唇を…。
「でへへ…い!?」
すると、突如サイトの尻に鋭い痛みが走る。ルイズが右の、ハルナが左の尻を今にも引きちぎりそうな勢いで抓っている。
めちゃくちゃ痛い!やめて!!このままじゃ僕のお尻が陥没するううううううう!!
「あ、あの…お二人さん」
痛みをこらえながら、サイトは二人を見ると、二人は「なに?」と、とても穏やかではない声でサイトを睨む。それもぎゅっ!と、サイトの尻をつねる指の力を強めて。
「あ、あの…手を」
「「何?」」
ぎゅっ!!
「いっ!?だ…だから…」
「「な・に?」」
ぎゅぎゅ!!!
「ぎゃああああああ!!!」
二人とも、いつの間に息がぴったりになってるんですか!!?と突っ込みたくなる余裕さえなかった。尻にめちゃくちゃな痛みが走り、サイトは悲鳴を上げてアンリエッタやアニエスたちを驚かせた。
「だ、大丈夫ですか?」
「姫様、こんな犬に気を遣わなくて結構です」
心配になってアンリエッタが、床の上でもだえるサイトを気遣うが、鼻の下を伸ばしていたサイトの煩悩に気付いていたルイズは冷たく言う。ハルナも生ごみを見るような目でサイトを見下ろしている。
『巨乳見てチ●コ立ち過ぎ』
『う、うるせえ!!人間の男はな、男としてのサガには逆らえないんだよ!!』
ぼそっとゼロがサイトに呆れた様子でいつぞや聞いたコメントを吐くと、サイトが開き直って逆切れ発言をかます。が、そのセリフを軽く流してゼロはサイトに言う。
『…あのな、せっかくお姫様が何でも欲しいものを聞いてくれるって言ってんだ。いい機会だ。シュウのことを、彼女にも伝えとけ。
ったく…お前のおかげで俺までケツを痛めたじゃねえか』
『わ、悪かったよ…』
同じ体を共有するだけあって、ゼロにもルイズとハルナの体罰は効いてしまったようだ。ウルトラマンが尻を痛めるなんて、光の国にいる父や師にどう言い訳すればいいか見当もつかないし、恥ずかしすぎて話す気にもなれない。
「ほ、ほしいものについてなんですけど…実は、一人紹介したい奴がいるんです」
尻の痛みをこらえながら、サイトは涙目で笑いながら立ち上がって言った。
「ご紹介したい方ですか?」
「実は、俺と同じ…地球人の」
それを聞いて、アンリエッタは目を丸くする。
「まあ!ハルナさんに続き、またもう一人いらっしゃったのですか!ということは…」
「ええ、あいつもきっと、怪獣などの脅威について力になってくれるはずです」
サイトの望みが、まさか自分たちの望みに繋がるなど、アンリエッタにとってこれ以上ないほどの幸せだ。
「では、その方は今どこに?」
それを聞かれ、あぁ…とサイトは少し申し訳な下げに言った。
「今日は本来、俺とルイズ、そしてハルナが呼び出されましたから入れることができなくて…今は城門前で待たせちゃってます。本当なら一緒にここに来るはずだったんですけど、城門に来たところでミシェルって人に止められちゃって…」
「当然だ。本来なら呼び出しを受けていないものを場内に入れるなど言語道断だ」
サイトの説明に、後ろで控えていたミシェルがきっぱり言う。すごい綺麗なのにきつそうだよなあ…アニエスって人も。とサイトは心の中で呟いた。
「早くお迎えしなくては!アニエス、すぐにその方をお呼びして!」
「よろしいのですか?」
用心深いアニエスにとって、すんなりと知らない人間をこの場に通していいのか疑問に思わざるを得なかったが、アンリエッタは構わないと言った。
「私はサイトさんの望みを何でも聞くと約束しました。それを破るわけにはいきません。それにサイトさんはこのようなことで嘘をつくような方ではありません。もし万が一の時が起きたとしても、アニエス。あなたが何とかしてくださるのでしょう?」
「…失礼いたしました。ご命令通り、お連れいたします」
臣下の礼をして、アニエスはアンリエッタの命令通りこの場を後にして、城門にて待機しているであろうシュウを迎えに行かせた。
「平賀君、一体誰なの?聞いたところ…その人も私たちと同じ…」
話を聞く限り、自分やサイトと同じ地球の人間がいる。それについてハルナは興味を強くひかれた。一体どんな人間なのか尋ねてみる。
「外面はいいとは言えないけど、悪い奴じゃないよ。きっと俺たちの力になってくれるはずだ」
「じゃあ、もしかしてあの時の?」
ルイズはふと、ラグドリアン湖での出来事を思い出す。あの時のことは、惚れ薬を飲んだせいでとても自分の態度とは思えないデレデレっぷりを露わにしてしまったので思い出したくもないが、それ以外に起こった衝撃的な経緯をはっきりと覚えている。突如現れた少女が変身した黒いウルトラマン…ファウストと、銀色のウルトラマンに変身したサイトと同じ黒髪の男。おそらく、あの男が来るのだと予想した。
「ああ」
サイトはルイズからの問いにも頷いた。
「お連れしました」
数分経ってから、戻ってきたアニエスが扉を開いて、連れてきた人物を中に入れた。思った通り、連れてこられた男はシュウだった。
「黒髪…」
ハルナは目を奪われた。サイトは特に何の変哲もない普通の男の顔だが、この男はキリッとしていて二枚目、そしてサイトとはどこか対照的な色合いの服を着込んでいる。と、思わず首を横に振る。これじゃあアンリエッタの美貌に気をひかれてしまったサイトと変わらないじゃないか。私のバカ!と自分を心の奥底で叱りつけた。が、他にも気を引かれるものがあった。彼の手首に巻いてある通信機械。GUYSの人だろうか?でも、自分の知る限りGUYSの通信機はあんな形状のものじゃなかったはずだ。じゃあ一体、この人は何者だろうか?
シュウはアンリエッタの前で跪くと、臣下の礼を取りながらアンリエッタにあいさつした。
「お初目にかかる。黒崎修平と申します」
「クロサキ…シュウヘイさん、ですね。では、ミスタ・クロサキと呼ばせてもらいます。サイトさんからあなたのことはお聞きしております。どうか面を上げて」
顔を上げるように言うと、シュウは言われた通り顔を上げてアンリエッタを見る。
「あなたもサイトさん同様、怪獣の脅威を知る世界から来たのですね」
「はい」
それからシュウは、自分もまたサイトと同様ある少女のサモンサーヴァントで召喚された身であること、自分がかつて怪獣と戦う組織にいたことを明かした。自分が主にどんな敵について詳しいか、そして対怪獣対策における特技などを説明した。ただ、テファの正体についてはやはり明かさない。召喚した人間がどのような人物か、それをアンリエッタから尋ねられたものの、いかに王女といえど明かすことはできないと断った。これについてルイズが目を細めたが、一度ウエストウッドにあらかじめ来訪したことがあり、その理由を知り今でも隠すことにしたので堪えた。だから彼の正体がネクサスであることも隠しておいてあげた。感謝しなさいよね!と心の中で付け加えながら。アンリエッタも、他人のプライベートに踏み込もうとしたと思い、謝罪を入れたがシュウは気にしなくていいと言った。
「では、あなたにならあのゴーレムに変形する飛行兵器を調べることが可能なのですね?」
「私と平賀才人専用の回線を繋ぐことができれば、すぐ互いに連絡を取り合うことができます。僭越ながら、あの飛行兵器を私に調べさせていただきたい」
タルブの戦いで回収した、あの飛行兵器ジャンバード。一向にどんなものなのかも判明していない今、それを知るすべを持つ人間の力は絶対に欲しいところだ。
「現在アカデミーがあれと怪獣の死骸の調査研究を行ってますが、本来神学の研究にいそしむ彼らにとって初の試みですから難航しております。でも、ルイズから強い信頼を勝ち取ったサイトさんが信頼を寄せるほどの方です。その方に、あのゴーレムを調べる理解力と分析力などがあるのなら、その手を借りて我々も知っておきたいのです」
そういって、アンリエッタさっきのルイズと同様に、用紙に書き記すと、それをシュウに手渡した。
「ミスタ・クロサキ。これをアカデミーの方にお見せしてください。私の権限であなたにレキシントン号とゴーレムの解析・分析を許可します。必要なものがあればなんなりと」
「ありがとうございます」
ふう…とサイトは息を吐いた。これで城でやることだけは済ませておいた。
「早速、一つぶしつけな頼みがありますが…お許し願えますか?」
「なんでしょうか?どうぞ」
「私は召喚した主の一家を養っています。しかし頭数が多くて、どこかの店に雇って働いた程度の給金ではとても足りません。差支えなければ、十分な給金をいただきたい」
「な!」
それを聞いてルイズがシュウに対して目つきを変える。アンリエッタも、平民が直接王族である自分に金をくれとせがむことが初のことなため、目を丸くしていた。アニエスとミシェルもシュウの無礼ととれる態度を目の当たりにして剣の柄に手をかける。
「あんたね!姫様があんたに栄誉ある仕事を与えてくださったのに、金をよこせだなんて無礼も甚だしいわ!」
さも当然のように言ってのけるルイズ。が、テファの使い魔としてやっているシュウとしては、その常識は邪魔だし理解もしたくなかった。
「じゃあ俺にただ働きしろと?冗談じゃない。お前もあの村の状況を見たはずだ。親に見捨てられたり、戦争で親を失った孤児を養うには金がどうしてもいる。だが平民が一生分働いた金は貴族の小遣いよりも遥かに低いのが大概だろう?だったらそれなりの額の金がなくては、あの子たちは将来働くことさえもできないまま路頭に迷うぞ」
「…」
アニエスはシュウの言い分を聞くと、剣の柄から手を放した。意外に見えたのか、隣に立つミシェルは隊長である彼女の行動に目を丸くし、自分も剣から手を放した。
「捨てられた平民の子らのために…ですか。それなら私も納得できますわ。わかりました。困っている民を救うのは王族の務め、それに私はあなたにお願いしている身です。相応の対価は必要です」
アンリエッタはシュウが金を要求してきた理由が自分のためでなく誰かのためであることを知ると、納得して給金の約束をしてくれた。不躾な願いでも、必要とあらば承諾してくれる。王女ながら懐の深い人物だ。
「姫様が仰るなら……あんた!」
忠誠の対象が納得してしまうとルイズは何も言えなくなるが、矛先をシュウに向けて怒鳴り出す。
「姫様があんたみたいな無礼な平民のお願いを聞いてくれたのよ!感謝することね」
「ああ、そうだな。姫、私の願いを聞き入れてくれて感謝します」
感謝はしている、と言葉で語っていたものの、淡々とした態度のシュウにルイズは不機嫌になる。こいつ、本当に感謝しているのか?と疑わされた。思えば、こいつはこれといって表情一つ変えてこない。
「なんか、すごい人だね…」
「あ、はは…」
相手が異世界とはいえ王女なのだ。ルイズはまだしもアンリエッタを相手に給金を求めてきたシュウを見て、ハルナは苦笑いを浮かべた。サイトもそれにつられて苦笑し始めた。

 
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