戦国異伝
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第百八十四話 木津川口の海戦その十三
「信玄公は謙信公とそのうえで」
「そして上杉もか」
「はい、信玄公もです」
「馬鹿な、それでは何にもならぬわ」
義昭は天海のその言葉に口を尖らせて言い返した。
「あ奴は討たねばならぬ」
「ではどうされますか」
「余は武門の棟梁じゃ」
ここでもこう言う義昭だった。
「それならばじゃ」
「お二人のお考えも」
「受け入れませぬか」
「無論じゃ。何故そう考えておるのじゃ」
信玄も謙信もだとだ、義昭は不快を露わにさせて口を尖らしそのうえで忌々しげな顔になって二人に言うのだった。
「織田信長を生かしてどうするのじゃ」
「天下の為に」
「そうするとのことですが」
「あ奴は天下を乱す男じゃ」
義昭にすればだ、このことも。
「それで何故じゃ」
「どうしてかわかりませぬな」
「お二人のお考えは」
「そうした考えは認めぬ」
断じて、というのだ。
「余は将軍じゃ、将軍の言うことは絶対の筈じゃ」
「天下を治めるが故に」
「そうだからこそですな」
「全く、何を勘違いしておるのじゃ」
信玄も謙信もというのだ。
「全く以て、それでなのじゃ」
「お二人のそのお考えはですな」
「認められませぬな」
「若し余の考えに二人が逆らうのならな」
「その時はですな」
「お二人も」
「織田信長共々じゃ」
三人共、というのだ。
「首を取る、いやせめてもの情けじゃ」
「織田信長も」
「公方様の情けとして」
「腹を切らせる」
切腹させるというのだ、切腹も介錯で首を切られる。しかし打ち首のそれとは全く違うのだ。介錯は腹を切った苦しみから逃れるものだからだ。
それでだ、義昭も情けと言ってそうさせるというのだ。
「余に逆らうのならな」
「それが宜しいですか」
「他の大名の方々にしても」
「戦国のせいで国は散々に乱れてじゃ」
そして、というのだ。
「幕府の力も落ちたがな」
「それを、ですな」
「今度こそは」
「盛り返す、天下は幕府が完全に治める」
そうした様にするというのだ。
「その為にあるのがな」
「今ですな」
「この度の挙兵ですな」
「ではこれより」
「幕府は」
「織田信長は敵じゃ」
幕府のだ、紛れもなくというのだ。
「そしてその敵をじゃ」
「今より」
「征伐しますな」
「その通りじゃ」
こう言ってだった、そうして。
義昭は挙兵した、すぐに何処からか兵が集まった、その兵達を見てだった。
義昭のところに僅かに残った幕臣達は目を顰めさせた、そうしてそのうえでそれぞれこう言うのだった。
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