安楽椅子少女
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「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰」
鏡は答えました。
「世界で一番美しいもの、それは―――」
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「薺さん、いい加減起きてください!」
まだ太陽も出ておらず辺りは薄暗い
僕、鳴島 柚木の一日はここから始まる。
「ん‥なんだ…まだ朝じゃないか…」
そう言うと彼女は再び眠りに落ちる。
そこに無防備に寝ている彼女は”美咬 薺”、僕の雇主で安楽椅子探偵なんて呼ばれている。
すらっと肩まで伸びたなめらかな黒い髪、そして琥珀色の瞳、雪のように白い肌は今にも溶け出してしまいそうなほどだ。
すれ違う人は皆振り返り彼女の美貌に嫉妬するだろう、それだけのものが彼女にはある。
それなのに彼女は、自覚がないのか四畳半のアパートに男と二人だというのに
今尚、無防備に体をさらけ出し遂には寝言まで
「熟睡してる…」
彼女にはもう少し危機感を持ってほしい。
それとも何か、僕を男だと認識していないのだろうか。
僕が沈んでいると――不意にからくり時計の鳩がカッコーカッコーと鳴き、朝を告げる。
ふと時計の針に目を向けると短針が8を指していた。
僕が通う高校はここ、鏡坂市から1時間程度電車を乗り継いだ先の四葉市にある。
今から駅まで走って5分、そこから電車に乗っていても確実に間に合わない。
「まずい、また遅刻だ…」
朝、薺さんの家に通うようになってからしょっちゅうこれで単位も危うい。
うちの"安楽椅子探偵"さんは「卒業できなかったらうちで働けばいいさ」なんて笑いながら言うが…
「薺さん!僕はもう行きますから、ご飯はテーブルの上に置いているので温めて食べてください!
それと食べたらちゃんと歯を磨いてくださいね!行ってきます!」
それに薺さんは寝返りで返事をする。
それを確認して、僕はしっかり施錠をしてポストに鍵をいれ、この四畳半のアパートから走り出した。
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