東方紅魔語り
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紅霧異変
Part11 パチュリー・ノーレッジ
前書き
二話連続投稿。
実は『Part10』は結構前に書き終わってたんですよね。
この話が終わるまで溜めていたというか・・・。
では今回も、ゆっくりしていってね!
弾幕と龍と光が飛び交う。
すれ違い、混ざり合い、爆発を引き起こしていく。
図書館たる本棚は焼き払われ、吹き飛び、文字通り原型も無く破壊されていく。
「おらっ!!」
高速で飛び回る魔理沙は、本や龍を避けるように動き、床に立つ女性に向かって弾幕を放った。
何十もの星が標的を目掛けて飛んでいく。だが、パジャマの女性は微動だにしない。
女性は指を軽く動かした。
直後、魔理沙の魔法はなんらかの攻撃によって相殺された。
爆音が再度鳴り響く。
大勢を整え直し、魔理沙は額に汗を流しながらカードを一枚手に持つ。
「おいおい、そりゃないぜ。全く効かないんだもんなぁ」
「防げる攻撃を防がない馬鹿はいないわ。このパチュリー・ノーレッジをどうにかしたいのなら、あと数百年は勉強するのね」
そう言うと、女性、パチュリーは爪先で軽く床を叩いた。
「『水』は束縛と万物の象徴。全てのものに等しく足枷を」
そう言葉を発した瞬間、パチュリーの足元を中心に氷が貼られた。
一瞬で氷の侵食は進み、部屋の全てが氷漬けになる。
「はっ、何が等しくだ!空を飛ぶ私には関係ないぜ!」
笑い、足が氷に包まれて動けなくなったパチュリーへ星の弾幕を浴びせる。
だがパチュリーが指を動かすと、また相殺された。
流石に顔を歪める魔理沙。いくら攻撃をしても無力化されるのなら魔力の無駄遣いだと思ったのか、魔理沙は攻撃を中断し空へ逃げた。
それこそが、パチュリーの罠だとも知らずに。
「あっ!?」
直後、魔理沙の動きが遅くなった。
魔理沙は肩越しに背後を見てみる。すると、その目には『氷漬けにされた箒』が見えた。
「上に昇ると天井が近付くわよね」
声が聞こえる。
「天井が近付くって事は、上との距離が縮まり、回避するために上空へ逃げる。という手段が使えなくなるのよね」
真下からは炎の龍が牙を剥く。
上は逃げ場が無い。左右に動くにしても、箒が凍らされて機動力が無い。下からは敵の攻撃。
当然、そんな状態で大規模な龍をかわせる筈は無い。
炎の龍が、その魔法使いをいとも簡単に飲み込んだ。
渦を巻く龍は魔理沙を飲み込んだ所で停滞し、飲み込んだ人間をその身で焼き尽くそうとしている。
「じゃあね、平凡な魔法使い。楽しめなかった」
平坦な声でパチュリーは呟く。
だが、その言葉は途中で途切れた。
星の光が瞬いている。
炎の龍から逃れるような形で、流れ星のような軌跡が空間に描かれている。
「いやぁ、勉強になるぜ。その魔法」
背後から聞こえる声にパチュリーは振り返った。
だが、そこに声の主はいない。代わりに光の軌跡が残っている。
「さて、いいものを見せてもらった所で、ここからは私のターンだぜ」
「!!」
次の瞬間、防衛の為の魔道書が爆発した。
連鎖的に爆発していき、全ての本が一気に破壊されていく。
「私の持ち味は『スピード』、動き回りながら相手に弾幕を張るのが得意なんだぜ」
そして、と魔理沙は付け足す。
「『速度』は『パワー』に直結する」
そこでパチュリーは捉えた。
炎の龍に向かって光速移動する、体の一部が閃光と化した魔法使いを。
瞬間、炎の龍の中心部が弾け飛んだ。いや、消し飛んだ。の方があっているかもしれない。
拡散する火の粉の中心に、箒に乗った魔法使いが君臨している。
オレンジ色に歪む空間を背に、魔理沙は薄い笑みを浮かばせながら佇んでいた。
「さて、こっからが本番の弾幕ごっこだな」
無言でパチュリーは懐からカードを取り出す。それに合わせ、魔理沙もカードを持つ。
本物の弾幕勝負。
パチュリーの周囲に紫色の弾幕が形成された。
それと同時、魔理沙も動く。
相手の後ろに回り込むべく、魔理沙は光速移動をしようとする。が、そこへ弾幕が張られた。
『当てるように』、というよりは『動きを制限する』ように弾幕は魔理沙の周囲を飛んでいく。
「いくら速かろうと、動き始める『初速』では対した速度は出ないでしょ。なら簡単。動きを制限して、尚且つ最も速度の上がる『直線移動』をさせないようにすればいい」
あまりの弾幕の濃さに、魔理沙は先程までの速度を出せず飛び回る。
だが、その魔理沙の口には僅かな笑みが浮かんでいた。余裕というより、純粋に楽しんでいるような表情だ。
「これだよこれ!さっきまでのは弾幕ごっことは言えなかったし、楽しくなってきたぜ!」
パチュリーの弾幕に対抗するように、魔理沙の周囲に星型の弾幕が形成される。
「弾幕は〜〜・・・パワーだZE!!!」
魔理沙の弾幕が放たれた。
パチュリーのような、考えた末に放たれているであろう計算された攻撃ではなく、ただ『速度』を高める為だけに直線で放たれていく。
直線で移動するだけの魔理沙の弾幕は単純なもので、その気になれば簡単に全弾回避できるだろう。
だが、パチュリーは人差し指を軽く動かし、又も相殺する。
軽くかわせた筈の弾幕を、だ。
(なんだ・・・?なんでアイツは動こうとしないんだ?)
パチュリーの弾幕を紙一重で避けながら考える。
なんで動かない?
考えを張り巡らせる。
「水符『プリンセスウンディネ』」
そこへパチュリーがスペル宣言をした。
淡い水色の弾幕が放物線を描くように放たれた。下から、上から、左右から、次々と魔理沙を襲っていく。
前へ移動することでなんとか逃れる魔理沙だが、それを狙い撃つように、蒼海のように青いレーザーが魔理沙の前方から襲いかかる。
それを避けようと右へ移動するが、そこで右からの弾幕の脅威に晒される。
「全方向から襲いかかるスペル。貴方は持つかしら?」
ありとあらゆる方向から来る弾幕を全て紙一重でかわしていき、魔理沙は星の弾幕を張って行く。
だが、パチュリーの弾幕に邪魔されて辿り着かなかったり、辿り着いたとしてもパチュリーの謎の力に相殺されていく。
(やっぱあれが厄介だな。どういう仕組みだ?)
何もかもを問答無用で相殺できるような便利な物なら、魔理沙が光速移動をした時だってどうにか出来た筈。
どうにか出来なかった。という事は、相殺する力ではない。
恐らく、何か他の力を魔理沙に視認されないようにぶつけているだけ。
(能力って可能性もあるな。ならその解析からしないといけないか)
その瞬間、魔理沙はいきなり動きを変えた。
その場で上下左右に動きながら弾幕を撃っていた魔理沙は、一気に地面目掛けて高速落下する。
予想外の行動にパチュリーは反応し切れず、弾幕が魔理沙に追い付く事も無かった。
地面へ突っ込んだ魔理沙は、地面スレスレの位置で急激に方向を転換し、地面と並行に移動する形で更に速度を上げた。
目標はパチュリー・ノーレッジ。
障害物は何も無い。
つまり、
速度が最も上がる直線移動。
魔理沙が最も得意とする状況を許してしまったパチュリーは、魔理沙が最高速度になる前に、口を開いた。
「『金』は冷徹と堅固の象徴。強固たる鋼の肉体を」
光速と化した魔法使いがパチュリーに激突した。
二人を中心に衝撃と熱の嵐が巻き散らされる。
巨大な隕石が追突したかのようなクレーターが生まれ、本や瓦礫は熱で溶け、空気も一瞬にして掻き消えていく。
訪れた無音と、圧倒的な熱の光が支配した。
「・・・無茶するわね」
そんな中、魔法でコーティングされた魔法使い達が口を開く。
「どうやら魔法で衝撃と熱を出来るだけ抑えたようだけど、下手したらここら一帯が更地になってたわよ」
「そうかい。でも、おかげ様で分かったぜ。お前の能力」
魔理沙が得意気に言った瞬間、轟音が遅れてやってきた。
音の塊が二人の中心から一気に広がる。
ボロボロの図書館へ更なる追い討ちが襲いかかった。
支える鉄骨は消し飛び、屋根組みは吹き飛ばされ、図書館は文字通り跡形も無く蹂躙された。
音によって押し出された魔理沙は、パチュリーと数十mもの距離を取り、一つのカードを取り出す。
「お前の能力、恐らく『火・水・木・金・土・日・月』に関係のある力だな?」
今の音の破壊を食らっても、怯みすらしなかったパチュリーの眉がピクリと動く。
「火、水、木、この3属性だけなら分からなかったんだ。この3属性は色々な魔法に使われているからな。特定は出来なかった」
ニヤリと笑みを浮かべ、魔理沙は続ける。
「だが、『金』っていう属性の『冷徹と堅固』っていうのは日本独自の物。だから日本だけの、それらに使える物を探し当てたんだ」
結果、と魔理沙は付けたし、
「陰陽道か、よく使われる曜日くらいしかなかった。だが、陰陽道は主に式神や符、人型などを使用する。だが、お前にはそれがなかった」
フワフワと空中に浮かびながら、魔理沙は結論を言う。
「残されたのは『曜日』のみ。と言っても、これは単なる憶測だから間違ってるかもしれないけど、どうなんだ?」
暫しの間、静寂が訪れた。
ふぅ、と短く息を吐くと、パチュリーから山のように弾幕が放たれる。
「無言って事は肯定って受け取るぜ!」
パチュリーの弾幕をかわしながら、負けじと魔理沙も弾幕を張る。
魔理沙の弾幕は何発も撃墜されるが、2発だけがパチュリーの元へ辿り着いた。
だが、能力が知られようとパチュリーにはアレがある。正体不明の、相殺する何かが。
また人差し指を動かす。
だが、魔理沙の攻撃に異変が起こった。
急激に軌道が変わったのだ。
こくん、と。
何かを避けるように。
その魔力弾はそのままパチュリーの背後の地面へ衝突した。
パチュリーに傷は無い。そして、魔理沙の攻撃は無駄に終わった。
だと言うのに、優勢に立っている筈のパチュリーの表情は固く、劣勢に立っている筈の魔理沙の表情には笑みが浮かんでいた。
「やっぱな。そういうカラクリか」
息を吐き、魔理沙は語る。
「さっきの『曜日』に当てはめれば、解析は難しくなかったぜ。恐らく『火・水・木・金・土・日・月』のうち、『月』だな。それ」
空に浮かぶ赤い月を見ながら、
「月って明るいよな。地球からでも見えるし、皆からもそう思われている」
だが、と付けたし、
「誰も月の裏側を気にしない。いや、誰も見えない位置を気にしたりなんかしない。表はよく見える。だが、裏は見えない」
魔理沙は赤い月から、パチュリーの周囲へ目を向けた。
「お前の弾幕や図書館、この空間が月の『表』としよう。表は皆からよく見える。だが、『裏』は見えない。あるのに、まるで存在が頭から消えてしまったかのように見えない。いや、見ようとしない」
浮き彫りになってくる、パチュリーの能力。
「目に見えるものだけを見て動こうとしていたから、『裏』が見えなかったんだ」
ゆっくりと、魔理沙の目から見えるパチュリーの周囲の背景が変わっていく。
そこには黒い球体が浮かんでいた。
「だが、『裏』の存在に気付いてしまえば、その裏に存在する物を視認できる」
黒い球体を見て、魔理沙は一息ついた。
そして結論を出す。
「お前の『月』は表と裏。 表裏一体を象徴するもので、その両方へ干渉する力。それが見えない力の正体」
魔理沙の背後から、大量の弾幕が展開される。
「『裏』に配置した魔力弾を、『表』の私の攻撃にぶつけて相殺。見えない『裏』からの攻撃で、はたから見れば勝手に消えたように見える訳だ」
得意気に笑い、魔理沙は構える。
「だが、裏さえ見えれば、お前に攻撃をぶつけるなんて容易なん」
そこまで言った直後だった。
ゆっくりと、糸が切れたかのように、パチュリーの体が地面に沈んだ。
「なっ・・・!?」
驚き、魔理沙は急いで敵であるパチュリーの元へ接近した。攻撃を食らう可能性もあるのに、だ。
だがパチュリーは立ち上がらない。
すぐ近くにしゃがみ込み、魔理沙は耳を澄ます。
すると、聞こえてくるパチュリーの呼吸音が荒い事に気が付いた。『コヒュー、コヒュー』と、息が上手く出来ていない音を聞き、魔理沙は理解した。
『まさか・・・』と呟き、言った。
「お前・・・喘息を患っていたのか・・・!?」
サァー、と血の気が引いていく。
ヤバイ。魔理沙はこの場の環境を見ながらそう思った。
先程の激突のせいで、一時的にだが酸素は奪われ、埃が大量に舞ったのだ。喘息を持った者には、この環境は最悪すぎる。
急いで魔理沙は箒にパチュリーを乗せ、地面を蹴る。
向かう先は紅魔館の本館。
「ちっ、待ってろよ!」
敵を救うため、魔理沙は敵の根城へ再度飛び込んだ。
後書き
パチュリー・ノーレッジ撃破。
後は霊夢VSレミリア
フランドールVS罪袋ですね。
咲夜さんは・・・まだです。
では次回も、ゆっくりしていって下さいね!
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