ウルキオラの転生物語 inゼロの使い魔
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第2部
第3章 幼馴染みの依頼
ルイズの部屋に現れたアンリエッタ王女は、感極まった表情を浮かべて、膝をついたルイズを抱きしめた。
「ああ、ルイズ、ルイズ、懐かしいルイズ!」
「姫殿下、いけません。こんな下賎な場所へ、お越しになるなんて……」
ルイズはかしこまった声で言った。
「ああ、ルイズ!ルイズ・フランソワーズ!そんな堅苦しい行儀はやめて頂戴!あなたと私はお友達!お友達じゃないの!」
「勿体無いお言葉でございます。姫殿下」
ルイズは硬い緊張した声で言った。
ウルキオラは2人の美少女が抱き合う様を見ることなく本を読み続けている。
「やめて!ここには枢機卿も、母上も、あの友達面をしてよってくる欲の皮の突っ張った宮廷貴族達もいないのですよ!ああ、もう、私には心を許せるお友達はいないのかしら。昔幼馴染の懐かしいルイズ・フランソワーズ、あなたにまでそんなよそよそしい態度を取られたら、私死んでしまいますわ!」
「姫殿下……」
ルイズは顔を持ち上げた。
「幼い頃、いっしょになって宮廷の中庭で蝶を追いかけたじゃないの!泥だらけになって!」
はにかんだ顔で、ルイズが応えた。
「……ええ、お召し物を汚してしまって、侍従のラ・ポルト様に叱られました」
「そうよ!そうよルイズ!ふわふわのクリーム菓子を取り合って、つかみ合いになったこともあるわ!ああ、喧嘩になると、いつも私が負かされたわね。あなたに髪の毛を掴まれて、よく泣いたものよ」
「いえ、姫様が勝利をお収めになったことも、一度ならずございました」
ルイズが懐かしそうに言った。
「思い出したわ!私がほら、アミアンの包囲戦と呼んでいるあの一戦よ!」
「姫様の寝室で、ドレスを着て奪い合ったときですね」
「そうよ、『宮廷ごっこ』の最中、どっちがお姫様役をやるかで揉めて取っ組み合いになったわね!私の一発が上手い具合にルイズ・フランソワーズ、あなたのお腹に決まって」
「姫様の御前でわたし、気絶いたしました」
それから2人はあははは、と顔を見合わせて笑った。
ウルキオラは呆れて、本を閉じ口を開いた。
「そろそろ本題に入ったらどうだ?ルイズに用があって来たんだろう?」
ウルキオラの言葉に2人は驚く。
「あんた!姫様にその口の聞き方はなに!」
「俺がこの国の姫に敬意を表するとでも?」
ルイズはウルキオラを睨みながら唸っている。
すると、アンリエッタが仲裁に入った。
「い、いいのです。ルイズ・フランソワーズ」
「ひ、姫様…」
「ところで、この方は…」
「私の使い魔のウルキオラです」
アンリエッタはルイズの言葉に驚いた顔をした。
「使い魔?…人にしか見えませんが…」
「俺を人間と一緒にするな」
「人間ではないのですか?」
「ああ、俺は虚だ」
「虚?」
アンリエッタは聞きなれない言葉に首を傾げた。
ルイズが慌てて説明する。
「こ、こいつは亜人…そう、亜人です」
「亜人…ですか?」
「まあ、そんなところだ」
ウルキオラは亜人という言葉を不愉快に思ったが、説明するのが怠かったので肯定した。
それから、ルイズはアンリエッタに本題を聞いた。
「それで、姫様…どうなさったんですか?」
「いえ、なんでもないわ。ごめんなさいね……、嫌だわ、自分が恥ずかしいわ。あなたに話せるようなことじゃないのに……。私ってば……」
「おっしゃってください。あんなに明るかった姫様が、そんな風にため息をつくってことは、何かとんでもないお悩みがおありなんでしょう?」
「いえ、話せません。悩みがあると言ったことは忘れて頂戴」
そこまで言われたルイズは引き下がるそぶりを見せた。
しかし、ここでウルキオラが不意に口を開いた。
「……アルビオンか?」
アルビオンという言葉にアンリエッタは敏感に反応した
「なぜそれを?」
「様々な書物や今の国際状況から推測してみたのだが…あながち間違いではないらしいな」
ルイズは、ウルキオラがスパッとアンリエッタの悩みの種を言い当てたことに驚きを隠せない。
「王党派と貴族派が争っているが、近日中に王党派は落ちるだろうな」
ウルキオラの言葉にアンリエッタは俯いた。
「俺が王党派につけば勝てるだろうが…」
「そ、それは本当ですか?」
アンリエッタはばっと顔をあげ、ウルキオラを見た。
しかし、すぐに再び俯いた。
「いえ、すいません…いくらなんでもそれは…」
アンリエッタの言葉にルイズは異議を唱えた。
「姫様、お言葉ですが、ウルキオラの言葉に嘘はないかと…」
しかし、アンリエッタは表情を変えることはなかった。
ルイズはどうしたものかと考えた。
そして、あることを思い出した。
「そうだ!ウルキオラ!」
「なんだ?」
「あの、目を繰り出すやつやって!」
「共眼界のことか?」
「うん!」
ウルキオラは椅子に座ったまま、目を抉り出した。
その行動にアンリエッタは驚いた。
「ひっ…一体何を…」
「黙って見ていろ」
そして、ウルキオラは抉り出した目を砕いた。
「共眼界」
すると、映像が頭の中に流れ出す。
アンリエッタは頭の中に直接流れる映像に驚いた。
それは、黒崎一護とウルキオラが初めて剣を交わし、黒崎一護が初めてウルキオラの階級を知った時の映像だった。
その映像は、ルイズも見たことがない映像だった。
しかし、一番驚いたのはオレンジ色の髪の男が持っている剣が『破壊の剣』に酷似していたことだ。
しばらくして、ウルキオラの勝利で映像が終わる。
最初に口を開いたのは、アンリエッタだった。
「一瞬で移動したり、剣を素手で防いだり、ものすごい破壊力の魔法を放ったり、素手で人体を貫通させたり……確かに人間ではないようです」
「ウルキオラがいれば姫様のお悩みも解決するかと…」
ルイズはオレンジ色の髪の男が持っていた剣が気になったが、後で詳しくウルキオラに聞くことにした。
「俺がこの女…アンリエッタの依頼を受けるのはもう決まっているのか?」
ルイズはウルキオラを睨んだ。
話を合わせなさい!と言っているようであった。
「そうですね…わかりました。今から話すことは誰にも話してはいけません」
アンリエッタは言いにくそうに言った。
「私は、ゲルマニアの皇帝に嫁ぐことになったのですが…」
「ゲルマニアですって!」
ゲルマニアが嫌いなルイズは、驚いた声をあげた。
「あんな野蛮な成り上がりどもの国に!」
ルイズはそういうと、ウルキオラが口を開いた。
「そうはいっても、今のトリステインではゲルマニアどころか、アルビオンに攻め込まれても、1ヶ月ともたないぞ」
「ええ、その通りです。仕方がないのです。同盟を結ぶためですから」
「そうだったんですか…」
ルイズは沈んだ声で言った。
「いいのよ。ルイズ、好きな相手と結婚するなんて、物心ついた時から諦めていますわ」
「姫様…」
「礼儀知らずのアルビオンの貴族たちは、トリステインとゲルマニアの同盟を望んではいません。2本の矢も、束ねずに1本ずつなら楽に折れますからね」
アンリエッタは、呟いた。
「したがって、私の婚姻を妨げるための材料を、血眼になって探しています。もしそのようなものが見つかったら・・・」
「もしかして、姫様の婚姻を妨げるような材料が?」
ルイズが顔を蒼白にして尋ねると、アンリエッタは悲しそうに呟いた。
「おお、始祖ブリミルよ・・・、この不幸な姫を御救いください」
アンリエッタは、顔を両手で覆うと、床に崩れ落ちた。
その芝居がかった仕草に、ウルキオラは呆れた。
いちいち大げさなのだ。
「言って!姫さま!いったい、姫様のご結婚を妨げる材料ってなんなんですか?」
ルイズはつられたのか、興奮した様子でまくしたてる。
アンリエッタは苦しそうに呟いた。
「・・・私が以前したためた一通の手紙なのです」
「手紙?」
「そうです。それがアルビオンの貴族に渡ったら・・・、彼らはすぐにゲルマニアの皇室にそれを届けるでしょう」
「どんな内容の手紙なんですか?」
「・・・それは言えません。でも、それを読んだら、ゲルマニアの皇室は・・・、この私を許さないでしょう。ああ、婚姻はつぶれ、トリステインとの同盟は反故。となると、トリステインは一国にてあの強力なアルビオンに立ち向かわなくてはならないでしょう」
ルイズは息焦って、アンリエッタの手を握った。
「いったい、その手紙はどこにあるのですか?トリステインに危機をもたらす、その手紙とやらは!」
アンリエッタは、首を振った。
「それが、手元にはないのです。実は、アルビオンにあるのです」
「では、すでに敵の手中に?」
「いえ・・・、その手紙を持っているのは、アルビオンの反乱勢ではありません。反乱勢と骨肉の争いを繰り広げている、王家のウェールズ皇太子が・・・」
「プリンス・オブ・ウェールズ?あの、凛々しき王子様が?」
「はい・・・」
ルイズは息をのんだ。
「では、姫様、私に頼みたいこととは・・・」
「ええ、その手紙を回収してきてほしいのです」
ルイズは膝をついて恭しく頭を下げた。
「わかりました。この命に代えても!」
アンリエッタはルイズを見つめながら言った。
「この私の力になってくれるのですね!ルイズ・フランソワーズ!懐かしいお友達!」
「もちろんですわ!姫様!」
ルイズがアンリエッタの手を握って、熱した口調でそういうと言うと、アンリエッタはぼろぼろと泣き始めた。
「姫様!このルイズ、いつまでも姫様のお友達であり、まったき理解者でございます!永久に誓った忠誠を、忘れることなどありましゅうか!」
「ああ、忠誠。これが誠の友情と忠誠です。感激しました。わたくし、あなたの友情と忠誠を一生忘れません!ルイズ・フランソワーズ!」
ウルキオラは呆れた様子で2人を見ていた。
自分の言葉によっているような、2人のやりとりであった。
これが、貴族と王族というものか、と納得した。
「ルイズ…友情とやらを確認中みたいだが…」
「なによ」
ルイズはアンリエッタとの友情の確認を邪魔されたので不機嫌な顔をしていた。
ウルキオラは一瞬で扉の前に移動した。
共眼界で見たとはいえ、実際に見たアンリエッタは驚いた顔をしている。
ウルキオラが扉を勢いよく開ける。
「こいつはどうする?」
すると、見覚えのある人物が部屋に転がり込んできた。
ギーシュである。
「ギーシュ!あんた!立ち聞きしてたの?今の話を!」
ウルキオラはルイズに問いかけた。
「恐らく、サイレントの魔法を掛けていなかった所を考えると、聞いていただろうな。ここで、始末するか?」
「そうね……、今の話を聞かれてのは、まずいわね……」
ギーシュはウルキオラの横を通り過ぎ、アンリエッタの前に、膝をついた。
「姫殿下!その困難な任務、是非ともこのギーシュ・ド・グラモンに仰せつけますよう」
「え?あなたが?」
「まだお前の処遇が決まっていない、寝てろ」
ウルキオラはギーシュの背中を軽く蹴った。
派手にギーシュはぶっ倒れる。
「僕も仲間に入れてくれ!」
倒れたまま、ギーシュは喚いた。
「なぜ?」
「姫殿下のお役に立ちたいのです……」
アンリエッタはギーシュに向けて言葉を放った。
「あなたも、私の力になってくれるというの?」
「任務の一員にくわえてくださるなら、これはもう、望外の幸せにございます」
熱っぽいギーシュの口調に、アンリエッタは微笑んだ。
「ありがとう。では、お願いしますわ。この不幸な姫をおたすけください、ギーシュさん」
「はい!必ずやご期待に添えてみせます!」
ウルキオラはまたも呆れてしまった。
(やはり、この世界の人間は危機察知能力が欠如しているらしい…)
ルイズはウルキオラの気持ちなどつゆ知らず、真剣な声で言った。
「では、明日の朝、アルビオンに向かって出発するといたします」
「ウェールズ皇太子は、アルビオンのニューカッスル付近に陣を構えていると聞き及びます」
「了解しました。以前、姉たちとアンビオンを旅したことがございますゆえ、地理には明るいかと存じます」
「旅は危険に満ちています。アルビオンの貴族たちは、あなた方の目的を知ったら、ありとあらゆる手を使って妨害しようとするでしょう」
アンリエッタは机に座ると、ルイズの羽ペンと羊皮紙を使って、さらさらと手紙をしたためた。
アンリエッタは、じっと自分の書いた手紙を見ていたが、そのうちに悲しげに首を振った。
「姫様?とうかなさいました?」
怪訝に思ったルイズが声をかける。
「な、なんでもありません」
アンリエッタは顔を赤らめると、決心したかのように頷き、末尾に一行付け加えた。
その末尾の一行をウルキオラとルイズ、ギーシュが知ることはない。
アンリエッタは手紙に向けて杖を振る。
すると、どこからあらわれたものか、巻いた手紙に封蝋がなされ、花押が押された。
その手紙をルイズに手渡す。
「ウェールズ皇太子にお会いしたら、この手紙を渡してください。すぐに件の手紙を返してくれるでしょう」
それからアンリエッタは、右手の薬指から指輪を引き抜くと、ルイズに手渡した。
「母君から頂いた『水のルビー』です。せめてものお守りです。お金が必要なら、売り払って旅の資金にあててください」
ルイズは深々と頭を下げた。
「この任務にはトリステインの未来がかかっています。母君の指輪が、アルビオンに吹く猛き風から、あなた方を守りしますように」
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