ロックマンX~5つの希望~
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第四十話 目覚める記憶
前書き
アクセルの記憶を解放します。
太平洋の真ん中に浮かぶ孤島。
今から約100年後にギガンティスと呼ばれることとなる場所に存在する研究施設は一体のレプリロイドによって、大混乱に陥っていた。
研究施設では銃声が鳴り響く。
警備兵が断末魔の叫びを上げながら崩れ落ちる。
『はっ、間抜けだね。すぐ近くにいるのにも気づかないなんてさ』
原因は白と紫を基調とした紅い瞳のレプリロイド。
頭部と胸部に蒼いコアを宿していた。
『さて…あんた達のDNAデータを貰うよ』
レプリロイドはDNAデータを回収すると警備兵の姿へと変わる。
『よし…』
直ぐさまその場を後にしたレプリロイド。
『くそっ!!失敗作の分際で…生意気な真似を!!』
歯軋りする男の胸には“W”のマークがあった。
かつて世界を震撼させた悪の天才科学者、アルバート・W・ワイリーの意志を継ぐ者である。
ワイリーの消息が途絶え、“作品”の製造は大幅に遅れたが、何とかプロトタイプの製造に成功した。
研究所職員は、己に絶対の自信を持っていた。
ワイリーから授かった技術を更に昇華させ、自分こそが最強のレプリロイドを開発出来ると信じていた。
“あの英雄ロックマンを超えるロボットを造る”という名のある科学者が挑み、挫折した境地である。
『局長…』
『黙れ!!早く奴を捕らえろ!!警備兵で駄目ならハンター共に…』
『しかし、イレギュラーハンターに通報するわけには…』
部下の職員が答えたように、彼等の研究は表に出来ない物であった。
他者の能力をコピーする能力は、クローン技術が問題視されるのと同じように議論の最中であり、また彼等は限りなく成功作に近い“失敗作”の製造に到るまでに試作品に対して非人道的な実験を課しすぎていた。
イレギュラーハンターに通報などしたら逆に捕われるだろう。
『くそ…だったらバウンティハンターにでも頼め!!あんな連中、金でいくらでも靡くだろう!!己……』
レプリロイドは、研究所の門を目指していた。
彼の目には境界となる門が、遥か彼方に映っている。
自由を求めて、少年は突き進む。
『あんなモルモットみたいな扱いで死んでたまるか…!!』
プロトタイプの扱いは過酷なもので、実験の内容は“どこまでやれば限界を迎えるか”が殆どであった。
レプリロイドの“限界”とはすなわち“死”を意味する。
研究員が設定する課題はあまりにも生命を軽んじた物ばかり。
実験動物以下の扱いから逃げるために少年は凄まじい機動で駆け抜ける。
『もうすぐだ…もうすぐ…』
門まで後少しというところで、少年の背中に鎌鼬が見舞われた。
『っ!!?』
胴を刻んだ風が背中を抜け、刺すような冷たさを齎す。
少年は身体から鮮血を噴き出しながら、地面に倒れた。
斬撃は動力炉から逸れていたが、相当の深手で思わず手からバレットが落ちた。
『あぁ…』
開いた目は前方の扉に注がれた。
越えれば自由だと思っていた門は無惨な瓦礫と化しており、代わりに1体のレプリロイドが立っている。
レプリロイドが大鎌を振るい、門を破壊したのだ。
長身で精悍な顔付きをした男で、双眸は鋭く、携えた大鎌と同質なものに感じられた。
そして戦場ではきっと映えるであろう、鮮やかな紅いボディ。
レッドアラートのリーダー、レッドである。
『手間取らせおって…』
背後からやってきた研究員が呟く。
忌ま忌ましげな顔は、イレギュラーに勝るとも劣らぬ容貌であった。
『残念だったな。お前の脱走劇もここまでだ』
『ぐっ…』
立ち上がろうにも力は尽きていた。
今は傷の痛みに耐えるので精一杯である。
『あの方がいればこんな失敗作など出来なかったというのに…』
研究員は髪を引っ張って起き上がらせる。
身体の痛みとその痛みが少年を苛む。
レッド『おい、相手は怪我人だぞ』
『はっ…貴様の知ったことではないわ。こいつは失敗作だ。私がどうしようと勝手だろう!!』
『や…めろ…』
『貴様…まだ偉そうな口を開くか!!お前は出来損ないの失敗作なんだよ。まだ完成していない出来損ないだ。そんなことも分からないのか、ええ!!?』
『ふざけるな!!僕をモルモットみたいに扱って!!勝手に生み出して勝手に殺して…何様のつもりなんだ!!』
頭突きが研究員の顔面に直撃した。
予期せぬ反撃を受けた研究員は無様にひっくり返った。
『はっ…ざまあないね…』
嘲笑うと、激痛に苛まれる身体を引きずりながら必死に出口に向かう。
『僕は自由になるんだ…こんな所で死んでたまるか…』
肉体を凌駕する精神力を前に、レッドは呆然となる。
彼は満身創痍の少年を前に微動だに出来なかった。
少年が脇を通り抜けようとした時、ようやく我に返った。
レッド『待て!!』
振り返った少年の顔は憎悪に満ちていた。
少年にはレッドが、自由を奪う元凶のように思われたからだ。
その身を翻すと一気にレッドに肉薄した。
肉弾戦は重量によるところが大きく、少年とレッドでは体格が違い過ぎる。
少年の力ではレッドを動かすことすら出来ないと思われたが、少年は小柄な身体からは信じられない程の力で、レッドを突き飛ばすと馬乗りになり、全身全霊の力でレッドの近くに落ちていた金属の破片を振り下ろした。
破片はレッドの右目を貫いた。
レッド『ぐあああああああ!!!!』
右目を貫かれ、激痛がレッドを襲い、咆哮が響き渡った。
子供の姿からは想像出来ない程の恐ろしい力だった。
レッドは死の危険すら感じた。
目を貫いた破片が、このままでは電子頭脳に達する。
レッドは咄嗟に、転がっていた破片で少年の顔面を斬りつけた。
『うわ…っ!!』
コアを破り、額から頬に達する深い傷。
怯んだ隙にもう一撃、逆方向に斬る。
そして少年は激痛に耐え切れず、意識を失った。
少しの間を置いて立ち上がったレッド。
次の瞬間、少年の身体が光り輝き、純白のボディが漆黒へと変わっていた。
レッド『何だ…?』
『チッ…失敗作が…不具合が生じたか。早くそれを渡せ』
研究員が近付いた時、レッドは大鎌を研究員に突き付けていた。
レッド『人をモルモット扱いたぁ…同じレプリロイドとして黙ってられねえな』
『な…?』
研究員は目を見開いた。
『わ、私は依頼主だぞ。こんな勝手がまかり通ると思うのか!!』
レッド『俺達、レプリロイドにも誇りってもんがある…。仮にも依頼主だからな。命だけは勘弁してやる』
少年を担ぐと、レッドは研究所を後にしようとする。
『イレギュラーが…』
研究員の呪詛にも似たような呟きにレッドは振り返る。
しかしその顔は哀れむように研究員を見ていた。
レッド『イレギュラー…か。俺からすればお前らの方がイレギュラーに見えるぜ?』
その後、レッドは少年をレッドアラートの基地をへ連れていき、手当てをするが、怪我の影響で記憶を失ってしまい、少年の本当の名前、“Accelertor”を捩った…アクセル…“突き進め”という意味を持つ名前を与えられた。
これがアクセルの封印されていた記憶である。
後書き
アクセルの記憶解放。
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