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ブルーホリデー

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第二章


第二章

 彼氏の名前は前川清司という。背が高くきりっとした顔をしており久代に合っているといえた。久代もそう思っているのだが今回はそうしたことは考えられなかったのだ。理由は言うまでもなく彼女の悩みからだ。清司の方もそれに気付いたのか彼女に声をかけてきた。
「あのさ」
「何?」
 夜道を歩きながら声をかけてきた彼氏に顔を向けて応えた。
「今日どうしたの?暗いけれど」
「そうかしら」
「そうだよ」
 その彼女にまた言うのだった。
「何かあったの?よかったら話して?」
「何でもないわ」
 けれど今は言えないのであった。今は。
「何でもないんだ」
「ええ。それよりもね」
 そうして淳美との話通りに言うのであった。
「今度の土曜だけれど」
「ああ、二人共オフだったよね」
 実はあえて同じ日に休めるようにスケジュールを調整しているのである。それだけ関係が深くなっているということだが今はその結果のせいかも知れないことで悩んでいるのであるから久代の心は複雑であった。
「だったら。何処か行く?」
「映画とかどうかしら」
 久代はここでこう提案してきた。
「駄目かしら。それは」
「映画ね」
 清司はそれを聞いて歩きながら考える顔になっていた。
「いいね、それ」
「そう。その映画はね」
「ああ、この前観たいって言ってた映画があるじゃない」
 今度は清司が言ってきた。
「久代ちゃんが観たいって言っていた映画。それを観に行こうよ」
「それでいいの?」
「うん、僕はそれでいいよ」
 清司はにこりと笑って言ってきた。端整な顔なのでそうした笑みも似合う。実は彼女は彼のそうしたところも気に入っているのである。
「じゃあそういうことでね。土曜ね」
「ええ。映画の後は」
「食事だね」
 これが二人のデートの定番であった。最後は二人で何かを食べて終わる。いつもこうしてデートを楽しんでいるのだ。だから清司も特におかしいとは思わなかったのだ。
「それでいいかな」
「私は。それでね」
 久代はさりげなくを装って清司に応えた。
「いいわ」
「それじゃあ決まりだね」
 彼もそれを受けて頷いた。
「じゃあ次の土曜ね」
「ええ」
(その日に)
 応えながら心の中で決意を固めるのであった。
(言わないと。絶対に)
「じゃあ。今日はどうしようか」
「今日はもうこれでいいじゃない」
 住んでいる部屋は違う。それでこう言うのだった。今は一人になりたいのだ。
「家までで。別れましょう」
「そうだね。ところでさ」
 ここで清司は話を変えてきた。
「どうかしたの?」
「いや、この前買ったゲームだけれど」
 実は彼はテレビゲームが好きなのだ。最近でもやり込んでいるソフトがあるのだ。
「随分難しいんだよね、どうにも」
「そうなの」
「ラスボスが強いんだよ」
 こう言ってぼやいてきた。
「あんまりにも。あの会社のゲームはいつもそうだけれど」
「そんなに?」
「うん。今回は特に」
 今度は彼の方が困った顔になっていた。もっともそれも久代から見れば全く取るに足らない悩みであったが。それでも悩んでいるのは事実であった。
「滅茶苦茶な強さで。どうしたものかな」
「ネットで攻略法とか調べてみたの?」
「調べてみたけれどね」
 それでも上手くいかないらしい。浮かない顔からそれがわかる。
「それでも。難しいね」
「そうなの」
「それでもだよ」
 彼は言う。
「今日こそは倒してエンディング見るから」
「そう、頑張ってね」
「うん、そうするよ」
 そんな話を夜道でする二人であった。久代はその中でも決意を固め続けていた。そうして曽於土曜はすぐにやって来た。久代はとってきおきの服を着てデートの待ち合わせ場所に向かった。駅前の噴水のところである。そこに行くともう清司が待っていた。彼はシックな黒っぽい服に身を包んで赤いマフラーをしていた。久代のプレゼントである。
「待った?」
「ううん」
 清司は久代に顔を向けてにこりと笑って応えてきた。
「今来たところだよ」
「そう、よかった」
 にこりと笑ってきたその清司の言葉を聞いてまずは微笑むのであった。しかしそれでも心の中はやはり悩みが支配していたのであった。
 
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