本気になっていく恋

第七章

　彼等はここでだ。何か動きを変えてきた。ファーストとサードが不意に身構えたのだ。外野陣も前に出てバックホーム態勢に入っていた。
　それを観てだ。そのうえで麻美に話すのだった。
「動こうとしてるよ」
「そうね、本当にね」
「何時何があってもいいようにしてるね」
「ええ。そうね、相手が何をしてもいいようにね」
「ええと、今は」
　匠馬はここでスコアボードを見た。七回裏で攻撃側が一点負けている。一死二、三塁だ。そしてバッターボックスにいるのは八番だ。
　それを観てだ。匠馬は言った。
「スクイズかな」
「そうみたいね。長距離バッターじゃないみたいだし」
「それか犠牲フライを狙うか」
「どっちかよね」
「どっちかな」
　匠馬は真剣な顔で言う。
「一体」
「ええ、何が来るかしら」
　麻美も固唾を飲んで見守る。その中でだ。
　ピッチャーが投げた。するとだ。　
　そのバッターがバットを寝かせた。それは。
「やっぱりか！」
「スクイズね！」
　二人は同時に叫んだ。それだったのだ。
「スクイズか」
「観て！」　
　麻美がここで匠馬に対して言った。
「ほら、ファーストとサードが」
「突っ込んだ！」
　三塁ランナーも走っている。誰がどう観てもスクイズだ。そしてだ。
　投げられたボールはウエストだった。しかし何とかバットには当たった。
　だがそれはさっとその前に出ていたファーストに処理されだ。彼によって三塁ランナーがタッチアウトされ終わった。双方共見事な頭脳戦だった。
　その後結局一点が九番バッターのタイムリーで入った。それで同点となり後は引き分けになった。双方共見事な頭脳戦を繰り広げた。
　それを帰りに話す。麻美は明るい顔で匠馬に話す。
「凄かったわよね」
「うん、とてもね」
「やっぱり野球はああでないと」
　麻美はにこにことしていた。
「やっぱりね。そうじゃないとね」
　その顔を見てだ。匠馬は気付いたのだった。
　その笑顔がこれまで見たことがないまでに魅力的なことにだ。そのことにだ。
　暫く見惚れていた。しかしそれは突然強制的に終了させられた。
　麻美がだ。こう言ってきたのだ。
「どうしたの？」
「えっ！？」
「何かあったの？」　
　こう言ってきたのだ。
「何かおかしいけれど」
「おかしいって」
「急に話すの止めてぼーーーってして」
　それでどうかしたのかというのだ。
「どうしたの、本当に」
「あっ、何でもないよ」
　ここは誤魔化した彼だった。
「別にね。何もね」
「そう、何もないの」
「うん、それよりもさ」
「それよりも？」
「これから何処に行く？」
　こう尋ねたのである。