戦国異伝
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第百八十四話 木津川口の海戦その四
その毛利水軍が織田の水軍に向かうのを見ていた、毛利水軍はというと。
毛利三兄弟は同じ船、毛利家の船の中で最も大きな船にいた。その船上から織田家の水軍を見ていた。
そうしてだ、まずは元春が言った。
「数は多いのう」
「確かに」
隆景が次兄のその言葉に答えた。
「数は多いですな」
「そうじゃな、しかしじゃ」
「数は確かに大きいですが」
それでもと言う隆景だった。
「それだけが戦ではありませぬ」
「そういうことじゃな」
「毛利の水軍はです」
即ち彼等は、というのだ。
「質では負けておりませぬ」
「その通りじゃ、見れば前におる連中は」
織田水軍の前衛はとだ、元春はその彼等を見て言った。
「数は多い、我等の倍はおる」
「しかし」
「動きが悪いわ」
彼等のその動きを見ての言葉だ。
「それではじゃ」
「勝てまする」
「その通りじゃ、では兄上」
元春はこれまで沈黙していた隆元に顔を向けて問うた。
「ここは」
「うむ、このままじゃ」
「戦ですな」
「あの者達を蹴散らしな」
そうして、というのだ。隆元もまた。
「そのまま石山に入りな」
「兵糧を運び込みますな」
「そうして本願寺の士気を上げてな」
「我等の力も見せて」
「家を残らせるぞ」
「畏まりました、それでは」
「法螺貝を鳴らすのじゃ」94
つまりだ、戦をするというのだ。
「よいな」
「はい、では」
「炮烙じゃ」
隆元はこうも言った。
「炮烙、そして斬り込みの用意じゃ」
「その戦で」
「織田家を蹴散らす」
その水軍を、というのだ。
「よいな」
「では」
こうしてだった法螺貝が高らかに吹かれて。
毛利の水軍は速度を速めた、その先頭の船には。
大柄で日に焼けた顔の髭に覆われた濃い男がいた、この男こそが村上武吉、毛利水軍を実質的に率いる男だ。
この彼がだ、もう周りに言った。
「よいな」
「はい、それでは」
「これより」
「炮烙じゃ」
それをするというのだ。
「そしてじゃ」
「さらに、ですな」
「そのうえで」
「斬り込むのじゃ」
それもするというのだ。
「ではよいな」
「徹底的にやりますか」
「ここは」
「我等はいつも徹底的にやるではないか」
村上は凄みのある笑みを浮かべてだ、そうして周りに言った。己が率いているその者達に。
「だから今もじゃ」
「燃やし斬り」
「そうして」
「舟は木じゃ」
村上はこのことも言った。
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