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リリカルなのは~優しき狂王~

作者:レスト
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2ndA‘s編
  第十三話~孵化~

 
前書き
お久しぶりです。やっとアップできました。

一応進展する感じの話です。
ではどうぞ 

 


海鳴市


 ビルとビルの隙間に存在する細い道。そこでライはビルの壁に背を預け、立っていた。
 これまでの逃走で全体的に小さな傷が目立って来ている風体であるライ。彼は目を閉じ俯いた状態で、肺の中身を入れ替えるように二度、三度と深呼吸を繰り返す。冬の空気は迅速に身体の熱を覚ましていき、それに伴い思考も鋭く澄んだものに切り替わる。
 ゆっくりと目を開け、右手に唯一の対抗手段である蒼月の待機状態を握り込んだ。

(チャンスは一度)

 ビルとビルの隙間に街灯の淡い光が少しだけ差し込んでくる。それは舞台を照らすスポットライトであると同時に、死を誘う誘蛾灯のようにライは感じた。
 膝を軽く曲げ、走り出すのに最適な姿勢をとる。

(……随分と遠くに来た)

 元の世界から去り、たった数ヶ月で自分の取り巻く世界が大きく変化し過ぎている事に苦笑しそうになる。緩みかけた口元を引き結び、ライは顔を上げる。

「これ以上失わせない」

 一言呟くと同時にビルの隙間から飛び出した。

『セットアップ』

 頭に響いたのか、それとも実際に耳に届いたのかは分からない言葉を認識すると同時に、バリアジャケットが展開される。しかし、その事を気にかける間もなく、ライは飛び出した先である大通りを駆ける。
 彼の視線の先にあるのは、2メートル程の大きさに膨れ上がった蛇の塊であった。

(目算で約100メートル)

 ライがバリアジャケットを展開した為か、それとも索敵範囲に飛び込んだのかは分からなかったが、その塊の中に埋もれるように存在していた蛇の頭がライの方に確かに向けられた。
 蛇に埋もれた夜天の書の下部空間に三角形の魔法陣が展開されると同時に、前方に濃密な魔力が集まっていく。魔導師として未熟なライでもハッキリと知覚できるそれに、背筋が冷える。
 だが、<死の恐怖/その程度のもの>で止まるのであれば、ライはゼロレクイエムという名の嘘を貫き通してなどいない。

「っ!!」

 息を飲み込み、それと同時に足場となる魔力の足場を展開し、空宙を駆け始めた。
 視線を目標である蛇に固定したまま、更に新たな動作に入る。バリアジャケットのみ展開させていた蒼月をヴァリス形態で起動させると、それを右手に持ちその銃身を身体の側面に向けた。

「当たる」

 願望とも確信とも取れる一言を呟くと、引き金を引く。魔力弾が排出されるのを確認すると同時に銃口の角度を微調整、再び引き金を引く。
 その動作を三度ほど繰り返し、合計四発の魔力弾がライの側面のビルに打ち込まれる。より正確にはビルの窓を突き破り、その内部に打ち込まれた。
 それとほぼ同時に夜天の書も魔法陣を展開し終え、ライの向かう先から紫色の光が辺り一帯を染め上げる。
 単身で津波の中に突っ込むような光景。この光景を傍から見た人が居れば、その人は確実にライの撃墜、又は消滅を幻視するのは確実であった。
 そんな絶望的な中でも、ライは宙を駆け続ける。その瞳は微細な動揺すらも浮かべることなく、魔力の輝きの向こうにある蛇の塊の更に向こう―――夜天の書へと向けていた。

『振動検知、来ます』

 簡潔な報告に戦場では不謹慎なことではあると理解しているが、ライは不敵な笑みを漏らした。
 ライが笑みをこぼしてから即座に変化はやってきた。
 視界を横から埋めるように“大きなモノ”が遮ってくる。それは先ほどライが魔力弾を打ち込んだビルであった。
 ライが仕掛ける数分前に彼はある仕込みを行っていた。それは、今倒壊してきているビルにある物を設置することである。そのある物とは、蒼月の格納領域にしまってあった予備のカートリッジである。
 今現在、格納領域の肥やしであったそれをライはビルの要所に設置することで、デモリッションを行う上での爆薬として利用した。そしてその起爆のためにライは魔力弾を打ち込んだのである。
 自分の考え通りに倒れるように調整するのに本来であれば、かなり綿密かつ微細な調整が必要になるのだが、蒼月のセンサー類から得たデータと持ち前の知識で何とかそれをカバーする事にライは成功した。

(逃走目的の知識が役に立つなんて)

 元の世界でバベルタワーの倒壊等、ルルーシュが建築物を爆破する事をよく手段としていたのを理由に、ライも彼からいくらかそれについての知識を教わっていたのだ。
 元来なら、逃走やかく乱の為の手段をしかし、ライは活路を切り開くための布石に使う。

「アクセル」

 倒壊と同時に自壊し始め、土埃と瓦礫が降り注ぐ。それはライの事前の仕込みの結果である。
 夜天の書と自身に向かってくる瓦礫の群れ。その一つを足場にするためにライは相対速度を合わせるように加速魔法を発動させた。
 靴底を擦り付け、スキール音と摩擦熱を残しながら彼は瓦礫の一つに着地する。

(ビルとビルの隙間に飛び込むだけで追撃を中止したのなら、僕を隠すようにすれば)

 先程までライの方に向いていた攻撃魔法の壁は、今現在夜天の書に降り注ぐ瓦礫の迎撃に向けられていた。
 これがライにとっての唯一の活路であった。
 夜天の書から逃走する際、ライはあっさりと姿を隠すだけで逃げ出すことができた事に疑問を抱いた。結局原因は推論の域を出なかったが、夜天の書の行動原理として『視認可能な範囲内に居る脅威対象を攻撃する』というものである。
 そもそも広域殲滅魔法をしようできるのであれば、敵性個体が存在する時点で街ごと吹き飛ばせば書の安全は確保できるのだ。
 ある意味で極論であるが、それをしなかったということは夜天の書が自らに何らかの交戦規定を設けていることは明白であった。
 ライの視界にも瓦礫と埃で蛇に埋もれた夜天の書の姿は見えなかったが、けた違いの魔力と魔力光からその位置を正確に把握するのは簡単なことであった。

「アクセルドライブ」

 元来であればカートリッジを使用する事が前提の加速魔法の始動キーを口にする。
 カートリッジを未使用の為にいつもよりも多く魔力が持っていかれる感覚にダルさを覚えるが、そんな物を気にする程ライはヤワではない。
 加速を使用し瓦礫を起点にした鋭角的な機動を行っていく。それは遠巻きから見れば雷の軌跡に似ていた。
 夜天の書に接近するため次の瓦礫に移る。足場が砕けた。

(どうせ、残骸だ)

 次の瓦礫に移る。小さいが鋭角な瓦礫がライの頬を深めに抉る。

(視界は塞いでいない、特に問題はない)

 次の瓦礫に移る。自身の中の魔力が残り僅かである事を感覚的に理解する。

(他に策もない。後のことなど考えるな)

 次の瓦礫に移る。駆け抜けるための魔力を確保するためにバリアジャケットを解いた。

(前を見ろ。ただ目的を達成するためだけの思考を持て)

 次の瓦礫に移る。移る。移る。移る。
 そして、とうとう目標である夜天の書に肉薄できる位置にある瓦礫に飛び移る。
 肉体が悲鳴を上げる。魔力の急激な消費に体全体が虚脱感を覚えるが舌を噛むことで意識をはっきりさせる。
 極限に集中しているせいか、やけに周りの光景がゆっくり見える。こんな時にそんなどうでもいいことを客観的に考えている自分の頭に呆れながらも、ライは夜天の書に手を伸ばし最後の跳躍を行う。

『マスター!!右舷上方!!!』

 自分の足が瓦礫からもう離れたのか、それともまだ離れていないのか。それを確認することもできずに脳裏に響いた警告通りに眼球運動のみで右側に視線を向ける。
 その視界に広がるのは、自分が足場にしている瓦礫と同じ色をした“壁”。
 足場と自分を簡単に隠すことができるほどの大きな壁がこちらにまっすぐ向かってきていた。

(あ、避けられない)

 一瞬逸れた思考は致命的であった。否、例え思考が逸れていなくてもその瓦礫からの接触を回避することは今のライにはできなかった。
 夜天の書を相手にコンディションが万全でない状態でここまで肉薄できたこと自体、幸運に幸運を重ねた奇跡に近い。だが、最後の最後で彼は運に見放された。

(ここまで?)

 どこか他人事のようにそんな無責任なことを考える自分の思考に怒りを覚える暇もなく、問題の瓦礫はライに刻一刻と近付いてくる。
 目を瞑ることもせずにそれを凝視するしかできない自分に呆然とし始めた頃、ソレは瞬いた。
 瓦礫のほぼ直上からの収束砲。
 それがライに迫っていた瓦礫を蒸発させた。
 ピンポイントで放たれたその砲撃の色は見覚えのある桜色であった。
 視線が今の狙撃手を探しそうになるが、フリーズしかけていた思考がそれを咎める。知っているのに確かめる意味はないと。
 ライは再び身体に喝を入れると今度こそ跳躍する。未だに瓦礫に向けて魔法を放つ蛇で編まれた卵に自らの右手を突き入れようと、渾身の力を注ぐ。
 目と鼻の先に迫っていた蛇の卵に右手は簡単に突き刺さる。

「これで!」

 当初の考え通り、ライは夜天の書に対してクラッキングを開始しようとする。
 だが、それは――――

「……え?」

 蛇で編まれていた卵が解け、中からマネキンのような人の形をした何かが生まれたことで実行することができなかった。
 蛇が解けたことで自分との接触点がなくなり、ライは自由落下を始める。
 突然起こった予想外のできことにライの思考は一瞬フラットになる。しかし、それが戦場でどれほどの致命打になるのかをライは思い出すことができなかった。

「あ、アクセ―――」

 離脱の為に始動キーを口にしようとするが、それは強引に止められる。目の前にいたマネキンのような人型の手がライの口を塞ぐように掴んだのだから。
 万力のような力で頬を掴み、口を塞がれたライは痛みから来る悲鳴を上げることもできなかった。
 そして更にライはあることに気付く。その人型のもう一方の腕にあるものが装着されていることに。
 “ソレ”は一見すれば甲虫類が人の腕に引っ付いているように見える。だが、手首から肘にかけて覆う程の虫が人の腕に引っ付いていればそれは異様な光景だろう。そして“ソレ”は腕に装着されていることから武器であることを自己主張してくる。紺色の装甲に白のラインが入り、そして全体を貫くようにして一本の赤い槍のような棒が付いている。
 質量兵器を禁止していない地球でもある意味で珍しいその武器の総称は、パイルバンカーである。
 そしてその虫のような武器が夜天の書の防衛プログラムであり、幾つもの世界を滅ぼしてきた存在――――ナハトヴァールであることを今のライは知る由もなかった。

(まず――――)

 無防備な自分が片腕で掴まれている今の状態が不味いことは、誰が見ても明らかであった。
 人型の足元にベルカの魔法陣が展開される。生憎とライの視点からは丁度、人型の腕に遮られようになっていた為に見えなかったが。
 一瞬の浮遊感を覚えると視界が一変する。自分の口を抑える腕や目の前の人型の存在は変わらなかったが、確かにそこは海鳴市に隣接する海の上空であった。
 そして今なおバリアジャケットすら展開できないライを掴む理由があるとすればそれは――――

『対象ノ捕縛完了。排除開始』

 追撃である。
 ナハトヴァールが装着されている腕を腹部に当てられる。そして次の瞬間、赤い槍がライの腹部を貫いた。





 鮮血が舞う。





『プログラム構築終了――――――セイフティ設定完了――――――現界開始』

 脳裏に言葉が響くのと、堪えようのない痛みが全身を廻り始めたのはほぼ同時であった。








 
 

 
後書き
という感じでした。

疾走感の出る描写は難しいですね。自分の文章力ではこれが限界です(^_^;)

最近、色々とやりたいことややらなければいけないことが出てきて、更新が遅れがちですがこれからもよろしくお願いします。m(_ _)m

早くVivid書きたいです。

皆さんのご意見ご感想を心待ちにしております。 
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