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素直は恥ずかしい

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第四章


第四章

「あれっ、今日は」
 次の日は部活が終わったところだった。若菜がまた剣道部にやって来たのだ。健次郎が彼女を迎えたのであった。
「気になることがまたあったのよ」
「気になることって」
「剣道部の竹刀よ」
 彼女は言った。
「昨日チラリと見たけれどボロボロになってる竹刀が多くないかしら」
 そう健次郎に言ってきた。
「竹刀がですか」
「そうよ。欠片とかが目に入ったら危ないわよね」
「そこは結構気を使ってますけれど」
 健次郎は何か変な理由で来たなと思いつつそう説明をはじめた。
「そうなの?」
「ええ、時間見て削ったり竹や弦を変えたりしています」
 竹刀はそうして定期的に点検して手入れをしないと危ないのである。これもまた剣道のうちである。
「それにカーボンの竹刀もありますし。そんなに痛んでるとは」
「そうかしらね」
 だが若菜はそれに納得はしなかった。
「それで怪我したらやっぱりまずいわよね」
「はあ」
「だから一応見せてくれるかしら」
「と言われても」
 何か他の部員は次々に帰っていく。気がつけば今ここにいる部員は健次郎だけになっていた。
「おい佐々木」
 体育館の出口から部長の片桐が彼に声をかけてきた。
「後は御前だけだからな。戸締り頼むぞ」
「わかりました」
 こうして本当に健次郎だけになってしまった。若菜はそれを確認して内心ほくそ笑んでいたがそれは隠していた。
「じゃあ見せてくれるかしら」
「あの、戸締りが」
「少しでいいから。そんなに時間かからないでしょ?」
「まあそうですけれど」
 少し困った顔になっていたが返事をした。
「それじゃあお願いね」
「竹刀ですよね」
「そう、今残ってるのね」
「わかりました。それじゃあ」
 健次郎は今ある竹刀を全部持ってきた。そしてそれを若菜の前で見せた。
「これだけですけれど」
「ふん」
 若菜は前に広げて置かれた竹刀を見て声をあげた。
「意外と奇麗なのが多いわね」
「ですから手入れしてますんで」
「けれど何本かもう駄目なのもあるわね」
「うっ」
 これに関しては若菜の方が鋭かった。健次郎も口篭もってしまう。
「ほら、これなんか」
 そう言って中の一本を指差す。もう竹も柄も弦もボロボロになっていた。
「幾ら何でも駄目でしょ」
「ええ、確かに」
 言われてやっと気付いた。これは迂闊であった。
「これは幾ら何でも」
「じゃあこれはどけてと。そして」
 若菜はその鋭い観察眼で次々と分けていく。そして何本かがどけられた。
「これはもうどうしようもないわね」
「そうですね」
 剣道をやっている自分より素人の筈の若菜の方が鋭いのが少し癪だったが頷くしかなかった。かえすがえすと一年生と三年生、生徒会長兼風紀委員長と平の差は大きかった。大き過ぎた。
「じゃあこっちにあるのは捨てておきますね」
「だから捨てたら駄目なのよ」
 若菜はくすりと笑って言った。
「それじゃあ」
「勿体ないでしょ。だから」
 言いたいことはわかった。またあそこへ行くというのである。
「わかりました。それじゃあ」
 まだ使える竹刀をなおしながら応える。
「リサイクル室ですね」
「そうよ」
(これで二度目ね)
「えっ、何か」
 健次郎はふと若菜が呟いたのが耳に入り彼女に顔を向けた。

 
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