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浮気

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第五章


第五章

「これで」
「回りくどいな。何でこんなことをしたんだ?」
「あなたの別の姿をたまたま見てね」
 だからだというのであった。
「それでなのよ」
「それでか」
「今の姿をね」
 今飲んでいるその姿を、というのである。
「そうして飲んでる姿、いいわよ」
「そんなにいいのか」
「自分では気付かないのよ」
 声は微笑みになっていた。
「そういうことも今朝言ったわよね」
「そうだったな。確かな」
 彼もそれを聞いて述べた。
「そういえばな」
「こういうことだったのよ」
「それでどうするんだ?」
 あらためて妻に問う克己だった。
「これから」
「これからって。決まってるじゃない」
 いつもと違った妖艶な微笑みで返してみせる祐子だった。見れば彼女も普段の彼女と違っていた。それも全くと言っていい位変わっている。
「浮気するのよ」
「俺とか」
「そうよ、今のあなたとね」
 それをするというのである。
「わかったわね。それじゃあ」
「じゃあ何処に行くんだ?これから」
「飲みましょう」
 祐子はこう彼に言ってきた。
「まずはね。飲みましょう」
「ここでか」
「それからデートをして」
 そのことはもう頭の中に入れている彼女だった。
「後は。ホテルに行ってね」
「それで浮気をするのか」
「そうよ。行きましょう」
 微笑んで言葉を続けていく。
「浮気をね」
「じゃあ俺も浮気をするか」
 克己もぽつりとした感じで言った。
「今からな」
「するのね、私みたいに」
「俺も気付いた」
 ちらりと一瞥したうえで述べた。
「今の御前にな」
「そうなの」
「だから浮気をする」
「誰と?」
「御前が一番知っていて」
 祐子が返した言葉をそのまま返した言葉だった。
「一番知らない相手とな」
「それが私ってこと?」
「そうだ。今から浮気をする」
「わかったわ。じゃあ」
 夫のその言葉を受けてだった。また妖艶な笑みを浮かべて応えるのだった。
 そうして応えてから。彼に返した。
「二人で。浮気しましょう」
「お互いにな」
 こう言葉を交えさせる二人だった。夜の夫婦の顔はどちらも朝や昼のそれとは違っていた。お互いにそれに気付いた夜のことであった。


浮気   完


                  2009・11・23
 
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