魔法少女リリカルなのは~結界使いの転生者~
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A's編
不穏な影
現場ではヴォルゲンリッターの参謀、シャマルの張った結界に閉じ込められたアースラと機動隊の戦闘員、そして彼らを指揮していたリンディ提督が応戦していた。
「皆さん!!応援が来るまで何とか持ちこたえてください!!」
「「「「了解!!」」」」
人数では上回っているものの、シャマルの結界と他の3人の連携に次第に追い詰められていく。
すでに半数のメンバーがやられ、魔力持ちは蒐集されてしまっている。
このままでは全滅も時間の問題であろう。
実は応援部隊自体はすでに駆けつけていたのだが、シャマルの結界に阻まれ入れずにいた。
「まだ入れないのか!!」
「やっているんだが!!この結界・・・堅い!!」
外ではアースラのメンバーが魔法で無理やり突破しようとするが上手くいかない。
「当然よ。私とクラールヴィントの結界だもの」
外の様子をモニターしていたシャマルは勝ち誇るような笑みを浮かべた。
「どけっ!!君たち!!」
「何だと!?」
零課局員がアースラクルーを押しのける。
「守宮さん、お願いします!!」
「分かったよ」
「な、何を・・・」
禊は促されるまま結界の前に出て行き、礼装封杖を結界に突き刺す。
「・・・・・・」
二言三言呪文を唱えると封杖が輝きを放った。
「っ!?そんな、馬鹿な!?」
シャマルは突然の事態に驚きを隠せなかった。
「シグナム、ヴィータちゃん、ザフィーラ!!」
『どうしたのだシャマル!?』
『何があったんだ!?』
『何だ!?』
「結界の主導権が乗っ取られた!!増援部隊が来るよ!!」
『『『!?』』』
シャマルの言葉に一同は動揺を隠せなかった。
これまでの戦いで最も信頼を置いて後方を任せてきた結界と補助、回復のエキスパートであるシャマルがこうもあっさりと結界の主導権を奪われたのだから当然である。
しかし、事態はより深刻である。
敵を逃がさないように張った結界に逆に自分たちが閉じ込められてしまったのだ。
『まずい!!来るぞ!!』
シグナムが叫んですぐ、あたり一面が巨大な炎で包まれた。
「憤怒の相を示される不動明王に礼し奉る。残害を破障し給え。障難を灰燼に滅尽し給え。」
土御門が呪文を唱えるごとに彼の周囲の炎は勢いを増していき、一面を焼き払う。
彼が使用している魔法は陰陽術では至極一般的な火気の呪言、火界呪であるが、その威力も範囲も桁違いである。
『こら~~!!』
「ちっ!!なんだよ・・」
念話で禊から土御門に怒鳴り声が鳴り響いた。
『何だよじゃない!!何で味方ごと焼き払うのさ!?』
「なんで僕たち土御門が異界の魔導師や機動隊の三下風情に譲歩しなければならない?それにどうせ君の姑息な結界で彼らを守っているんだろう?」
『姑息言うなーーーー!!』
気の抜けるやり取りであるが彼らが行っていたことは非常に高度なことである。
結界に突入したと同時に最大限に魔力を練り上げ、あたり一面を焼き払った土御門も相当なものだが、禊は血塊の主導権を乗っ取ると同時に中の人間の位置を把握し、味方全員のバリアジャケットのシステムに独自の術式を混入させて彼らのバリアジャケットの防御力を最大限まで高めて土御門の炎を防いだのだ。
実際炎が収まったところには無傷の味方が点在していた。
しかし・・・・。
「しまった。見失ったか・・・」
『何やってるんだよ!?』
炎が大きすぎたせいか今の爆炎でヴォルゲンリッターの姿も見失ってしまった。
「やれやれ、探査なんて三下の下術なんだがなあ・・・」
土御門の数々の上から目線の発言は別に彼だけの特別なことではなく、陰陽堂の魔導師全員に共通する認識である。
戦闘能力を何よりも重んじ、日本古来からの伝統的な陰陽術の大家である土御門家では、こと戦闘となるとあからさまに一族以外の魔導師、主に補助魔法を得意とする者や陰陽術以外の魔法を使う者を見下す傾向があるのだ。
守宮と仲が悪いのはここにも原因があり、保守的な体質であり、古き伝統の陰陽術を守り続けてきた土御門は、革新派で洋の東西を問わず、より効率のいい術式を取り組んできた守宮を『誇りを持たぬ一族』と蔑んでいるのである。
そして、呪符を取り出した土御門は彼女たちを探索を開始した。
巨大な炎を紙一重で避けたヴィータはビルの中に隠れていた。
「ぜはぁ・・ぜはぁ・・。マジかよ。アイツ味方ごとやりやがった」
炎に巻き込まれた他の敵側の人間までどうなったかは分からないが、間違いなく回避も防御も間に合わなかっただろうと言うことは分かった。
「とにかく、このままじゃ撤退出来ない。急いでシャマルに・・・」
そこから先は口に出来なかった。
なぜなら・・・・・。
ズバッ!!
ヴィータのいたビルが突然輪切りにされたのである。
「な、何が・・・?」
崩れるビルから脱出するヴィータには何が何やら分からなかった。
辛うじて分かったのは、ビルが鋭利な刃物様なもので切り裂かれたことだけである。
あの見えざる刃の軌道上にいたら間違いなく真っ二つになっていただろう。
「ちっ・・・外したか・・・」
「!?」
ヴィータは慌てて声のした方に視線を向ける。
そこにいたのは、やや細見の青年であった。
まさか、あんな細い体でビルを真っ二つにしたとでも言うのだろうか?
(いや、違う!!)
ヴィータは長年の勘からあの青年は見た目道理ではないことを悟った。
(・・?何だあれ?)
よく見ると青年の周りには何か光るものが散りばめられていた。
(待てよ・・・確か同じものを見たことあるような・・・)
ヴィータが何かを思い出そうとしていると、青年の腕が動き。
彼女は何の反応もできないまま、更に彼女の周囲が突然切り裂かれた。
「な!?」
「やはり・・糸一本一本の制御がまだ甘いな」
青年のセリフを聞き、ヴィータは確信する。
(道理で見たことあるはずだ!!あれはシャマルのと同じ術だ!!)
「特別機動隊黒狼連隊所属、近松銀治だ。お相手仕ろうぞ。・・・ガキ。・・・・小便は済ませたか?神さにお祈りは?部屋の隅でガタガタ震えて命乞いをする心の準備はOK?」
銀治が両手と口で魔力で出来た糸を伸ばす。
近松銀治はその名が示す通り、初代近松門左衛門を祖とする人形師である。
まあ、人形師としては門左衛門が初代で正しいのだが、魔導師としての歴史の始まりは更に三代後からである。
彼の一族は、傀儡の制作や魔力糸による使役を得意とし、特に銀治は糸による斬術を得意とする。
シャマルのそれが拘束を目的とするのに対し、銀治は切断を目的とするため、極限まで細く、視認するのは非常に難しい。
「っふ!!」
「グラーフアイゼン!!」
銀治が腕を振るうのに対し、糸をほとんど視認できないヴィータは鉄球をあたり一面に放って軌道を確認し、ひたすら躱し続けた。
ザフィーラは『盾の守護獣』の異名の通り、己の防御力には自信を持っていたが・・・。
「・・・・・・・・・」
「くっ!!」
目の前の男、黒田吉彦の法衣の下から次から次に出てくる武器にその防御も悲鳴を上げていた。
最初は刀剣類だけだったのだが次第に武器がどんどん増えていき、今や軍用アサルトライフルから対戦車スナイパーライフルまで出てくる始末である。
黒田吉彦は正確には人間ではなく、妖怪と呼ばれる化物の類である。
化物とは、夜の一族の様な『化物じみた人間』とは根本的に異なり、言ってしまえば『概念やエネルギーが生物の姿を模ったもの』であり、物理的な肉体の制約に縛られないため、物理法則を無視したような動きや能力を持っている。
黒田の本性は『破戒僧黒田坊』。
飢饉や野盗に苦しむ子供たちがその苦しみから逃れるために思い描いた、自分たちを助けてくれる正義の味方。
黒田は野盗から子供たちを救うための『あらゆる武力』の概念が具現化した存在であるため、武器と名のつくものは全て扱うことができるし、法衣の下から大量に召喚することも可能なのである。
「でああああああああああああああああああああ!!」
その攻撃を掻い潜り、黒田に殴り掛かるザフィーラ。
「・・・・ふっ!!」
しかし、法衣の下から取り出した槍に防がれた。
「・・・・・・解せぬな・・・」
「何?」
「貴様の眼には邪気がない。ならば、何故このようなことを?」
「知れたこと・・・我が主と仲間たちのためだ」
「・・・そうか・・・・・」
ザフィーラが二の拳、三の拳を振りかぶり、黒田がそれを槍で捌いていく。
シグナムの前に現れた剛は瞬動でシグナムの背後を取り延髄に攻撃を加えようとしたが、シグナムが反射と同時に背後にレヴァンティンを振り抜き、剛はそれを外気功で防ぎながら後退する。
(何と言う男だ・・・接近戦では恐らく紙一重で私を上回っているだろう。彼に魔力がないのが不幸中の幸いだろう)
二、三度互いに剣と拳を交え合い、剛の近接戦闘をそう評価するシグナム。
それもそうであろう。
剛はかつて黒狼連隊に所属していたが、そもそも黒狼連隊は『警察に必要ない人材だが一般人として市井に放置しておくには危険な力を持つ者』の吹き溜まりであり、裏を返せば、大して力のない存在は警察をグビになるだけで黒狼連隊には入れられることはないのである。
そして、黒狼連隊に入れられるような人材は剛の様な戦士タイプよりも土御門の様な術師タイプの方が圧倒的に多い(術師タイプの方が火力が圧倒的に高いためである)。
そこに『体術だけ』で所属していた剛は当代随一とまではいかなくても、日本ではトップクラスの体術の使い手であり、実際、接近戦に持ち込まれれば剛は黒狼連隊最強の実力を持っているのである。
「・・・・・惜しいな」
「何がだい?」
「もしも、貴方に人並みの魔力があれば、誰からも尊敬される立派な騎士になれたものを・・・」
「ふむ。・・・・悪いが興味ないな」
「なに?」
「私はあくまで警察官であって騎士ではない。戦うことはあくまで治安を維持するための手段であって、それを目的とする騎士とは根本的に求めるものが違うのだよ。むしろ、治安の維持に武力を選択する時点で警察としては落第としか言いようがない。君の言葉は私にとってはむしろ褒め言葉にはならんな」
「・・・面白いことを考える男だな」
今まで出会ったことのない独自の価値観を持つ青年に興味を持つシグナム。
「名は何という?」
「零課所属の刑事、守宮剛」
「ヴォルゲンリッター、烈火の将シグナム。推して参る」
レヴァンティンを鞘にしまい、カートリッジがロードされる。
『シュランゲンフォルム』
「飛龍一閃!!」
剣を抜き放つと、蛇腹剣となったレヴァンティンが剛に襲い掛かる。
「っふ!!」
それを、懐から取り出した鬼切の居合で迎撃する。
更に、剛は天眼を発動しようとしたが・・・・。
「・・・・がああっ!?・・・・・・・」
頭に走る酷い頭痛に蹲りそうになるのを堪えた。
ここで、剛自身も知らないことであったが、彼のレアスキルである天眼とは『認識する能力』であり『読み取る能力』ではない。
言葉にしただけでは違いが分かりづらいかもしれないが、要するに、某死の手帳の死神の眼のように相手の魔法を見るとその能力の詳細が視界内に表示されるのではなく、直接頭の中に叩き込まれると言った感じである。
この方法だと読み上げるよりもずっと早く情報を会得できるというメリットがあるが、ヴォルゲンリッター相手にはそれがマイナス方面に働いたのだ。
守護騎士プログラムは存在そのものが一種の魔法であり、構成する肉体はもちろん、その人格や記憶、心などと言ったものを構成するために非常に複雑な術式を大量に含んでいる。
そんな情報量を一気に頭の中に叩き込むと言うことは、家庭用のパソコンに大学の研究用のスーパーコンピューターの情報を叩きこむことと同義である。
彼を襲っている頭痛もあまりに多くの情報を叩き込まれたために脳が悲鳴を上げているのだ。
咄嗟に天眼を解除したから大丈夫であったが、あと少し天眼を発動していたら最悪廃人になっていてもおかしくはなかっただろう。
(くそ!!・・・・まずい!!)
突然の頭痛による脳へのダメージで一気に体の動きが鈍くなってしまったが、それでもシグナムの攻撃を何とかさばいていく剛。
「どうした!?急に動きが鈍くなったぞ!?」
その隙を逃さず果敢に攻めてくるシグナム。
剛の戦術を知ってか知らずか、シュランゲンフォルムは剛の苦手な形態であった。
剛が主に使う武装は短刀の形状である以上、攻撃範囲が狭い上に、剛はわざと隙を見せて相手に仕掛けさせ、相手の腕や武器を破壊するか関節技で動きを封じる戦術をもっとも得意としており、シグナムのシュランゲンに攻めあぐねていた。
右手の鬼切で攻撃を捌きながら左手で飛穿を放つも、頭痛の影響で狙いが定まらない。
ズシャッ!!
一瞬の隙をついて剛の頬をレヴァンティンの刃が切り裂く。
「・・・・・・・・」
剛はその頬に触れ、指にすくった血を舐めた。
「!!??」
その表情(某麻婆神父の愉悦の表情を3倍濃くした物)を見たシグナムは何故か背筋に悪寒が走り、本能的に『彼は危険だ』と感じたその時。
轟音とともに、桃色と金色の二つの光が結界を突き破って侵入してきた。
少し時間を遡り、なのはとフェイトとクロノは結界の前にまで辿り着いていた。
「レイジングハート・・・」
「バルディッシュ・・・」
『オールライト』
『ゲットセット』
なのはとフェイトがデバイスを構えるとレイジングハートとバルディッシュが反応し魔法陣が展開される。
「あれ?」
「いつもと違う?」
『二人とも落ち着いて。レイジングハートとバルディッシュには新しいシステムを積んでいるの』
「新しいシステム?」
『この子たちが望んだの。自分の意志で、自分の思いで・・・だから呼んであげて、その子たちの新しい名前を!!』
「レイジングハート・エクセリオン!!」
「バルディッシュ・アサルト!!」
「「セーーーットアーーーーップ!!」」
なのはとフェイトは新しく進化したデバイス、オートマチック型カートリッジシステムを積んだレイジングハートとリボルバー型カートリッジシステムを積んだバルディッシュを展開すると、結界に突入した。
「「「「!?」」」」
今までの増援と違い結界を無理やり突破してきたなのはとフェイトにヴォルゲンリッター一同は注意を向ける。
「あのデバイスは!?」
一番近くにいたヴィータがすぐに彼女たちのデバイスに気が付いた。
『システム、オールグリーン』
『カートリッジユニット、アクションノーマル』
デバイスがシステムと機構の動作確認を終了し、初起動に問題がないことを報告した。
「なのは、私はシグナムを・・」
「うん」
そして、彼女たちも戦場に飛び立った。
「はっ!!わざわざ餌の方から来てくれるとはな!!」
ヴィータは攻撃の対象を近松からなのはに切り替えた。
強くて蒐集が難しい割に魔力量はそう大したことはない近松より、弱いくせに魔力量は他者を圧倒するなのははヴィータにとっては格好の獲物であるため当然である。
「させん!!」
近松が糸をヴィータに絡めるが・・・。
「舐めるな!!」
しかし、ヴィータは傷を負いながらも、逆に糸を引き千切りながらなのはに向かっていく。
「でやああああああああああ!!」
そして、ヴィータのグラーフアイゼンがなのはのレイジングハートと交差した。
「ヴィータちゃんやめて!!私たちはあなたたちと戦いに来たんじゃないの!!話を聞きたいだけなの!!」
「うるせえ!!私たちには時間がないんだ!!それに、おあつらえ向きの新装備ぶら下げて言うことかよ!!」
「いきなり襲い掛かってきた娘がそれを言う!?」
激しい口論を繰り広げながら、デバイスをぶつけ合う両者、そのたびにヴィータの返り血がなのはにかかる。
「本当にやめて!!怪我してるじゃない!!」
「うるせえよ!!こんくらい、怪我の内にも入らねえよ!!」
更にラケーテンでなのはに襲い掛かるがカートリッジで強化した障壁を貫くことは出来なかった。
「か、堅ぇぇ!!」
「お嬢ちゃん、どきな!!」
その声になのはが離れた途端、周囲に張り巡らされた糸が迫る。
「!?」
しかし、ヴィータはそれを間一髪で避けが、バリアジャケットのスカートの一部が切り裂かれた。
一方、シグナムの方にやってきたフェイトは剛に加勢しようとしていたが・・・・。
「大丈夫ですか・・・剛・・・・・さん?」
いつもの剛とはまるで違う雰囲気に飲み込まれ、声が出せなくなってしまう。
いつもの優しい剛ではなく、まるで危険な剃刀の様な鋭い気配を醸し出してた。
「あの時の黒衣の魔導師か。お前の武術にも興味があるが、悪いがこの立ち合いを邪魔するならば命の保証は出来ぬぞ?」
そうして、シグナムは再び剛と刃を交える。
シグナムの突きを顔面すれすれで躱し、浅く切り裂けながらシグナムに迫る剛は構えていた両手をレヴァンティンごと上に押し上げ、強力な肘打ちを放つ。
「ぐふっ!!」
そのまま、足を払われ地面に叩き付けられる。
剛の足がシグナムの腹部に踏む着けられようとする間際、シグナムは剛の軸足を放って回避する。
「・・・・・・」
目の前で繰り広げられる高度な近接戦闘にフェイトはどのように加勢していいのか分からずに困惑していた。
結界に突入したクロノは禊と共にヴォルゲンリッター最後の一人、シャマルを探していた。
「見つけた!!」
禊がシャマルを発見し、クロノと共に向かう。
「そこまでだ!!捜索指定ロストロギアの不正所持と使用の容疑であなたを逮捕します!!」
シャマルにデバイスを突きつけるクロノ。
「くっ!!」
「あきらめろ!!この結界を最初に張ったのは貴女だろう?結界の制御を完全に奪われると言うことは術者としての技量が負けていることを意味する。貴方の抵抗は無意味だ!!」
結界魔導師同士の対決は陣取り合戦の様なものである。
魔法理論の大前提として『同一空間においては複数の結界による空間に対する支配が出来ない』と言う大前提があるためである。
故に先に展開していた結界による支配が優先されのだが、それを覆して後から展開した結界に支配権を奪われる、もしくは結界の支配権を乗っ取られると言うことは結界魔導師としては完全な敗北に他ならないのだ。
「抵抗しなければ弁護の機会が貴女にはある。同意するならば武装の解除を・・・」
クロノの言葉は最後まで続かなかった。
なぜなら・・・。
「はあ!!」
「「「!?」」」
突如現れた青い髪に仮面をつけた青年がクロノを蹴り飛ばしたからである。
「あなたは・・・?」
「使え」
「え?」
「闇の書を使って結界を破壊しろ」
「そんな!!でもあれは・・」
「使用して減ったページはまた増やせばいい。幸いここには未蒐集の大魔力保持者が大勢いる。仲間がやられては遅かろう」
「!?」
その一言に決心がついた。
「みんな、今から結界破壊の砲撃を撃つから、結界が破壊されたら各自撤退を!!」
『『『おう!!』』』
そして、シャマルは闇の書を開く。
「闇の書よ。守護者シャマルが命じます。今こそ眼下の敵を撃ち砕く力を!!」
封杖の切先を空間固定の魔法で不可視の刃にして槍のように振るう禊の攻撃もクロノのようにいなされ蹴り飛ばされる。
「何者なんだ!?」
「今は待て」
クロノの言葉にも答えになってない言葉を返す青年。
「何だと!?」
「時が来れば、これが唯一の次善解だと知るだろう」
「何の話だ!?」
クロノたちのやり取りの間に砲撃の準備を済ませたシャマル。
「撃って、破壊の雷!!」
結界の上空から雷が降り注ぎ、結界を破壊した。
それと同時に非常に強大な閃光魔法を放ち、一同が怯んだすきに、ヴォルゲンリッターも仮面の青年も跡形もなく撤退してしまっていた。
一方、アリサ、すずか、龍一と言うと・・・。
「ちょっと!!龍一が遅いからもう終わっちゃったじゃない!!」
「アリサちゃん・・・・」
「いくらなんでも、初めて使う飛行魔法に女の子とはいえ、人間2人も乗っけてる僕にその言い方はないんじゃないの?」
「レディーに体重の事を聞くなんて失礼よ!?」
「んな理不尽な・・・・」
薙刀モードにした飛穿・三式にまたがった龍一とその前後にアリサとすずかを乗っけて海鳴市上空を彷徨っていた。
「はあ、はあ、はあ・・・・・何とか逃げてこれたわね・・・」
シャマルのその一言にようやく安堵する一同。
「誰だ!?」
しかし、ザフィーラのその一言に再び殺気を漲らせた。
「落ち着け」
そして物陰から先ほどシャマルを助けた仮面の男が現れた。
「貴方は!!」
「知ってるのか!?シャマル!?」
「さっき助けられたの」
警戒を解かずに青年を睨むヴィータ。
「何が目的で私たちを助けた?」
「闇の書の完成を望んでいる・・・・とだけ答えておこう」
「嘘つけ!!闇の書は主にしか使えない!!何のために完成を望んでいるんだ!?」
ヴィータは青年の言葉に食って掛かった。
「そう睨むな。お前たちの主、八神はやてについて話があって来た」
「「「「!?」」」」
彼女たちにとって最大の秘密をあっさりと看過した青年に殺気を向ける。
「安心しろ。私に八神はやての事を管理局に伝える意思はない」
「信用できるか!!」
「それよりも・・・彼女、そう長くはないだろ?」
「どうしてそれを!?」
青年の指摘にシャマルが驚く。
「本当なのかシャマル?」
「ええ」
「初めの方に蒐集をしなかったツケが回ってきたな。あと一月持つかどうか・・・」
「なんでそんなことを知ってやがんだ!?」
ヴィータは叫んでから気が付いた。
はやては周りに迷惑をかけることを良しとせず、彼女たちに蒐集を禁じていた。
しかし、それは何か月も前の話であり、この青年はその頃からはやての事を知っていたことになる。
「私が管理局に伝える意思があるのならその時点で伝えている。これで私に彼女のことを管理局に伝える意図がないことは分かったかな?」
「ぐ・・・そうだな・・・」
「それで、何のためにここまでやってきた・・」
ザフィーラが根本的な質問をした。
「言っただろう?闇の書の完成を望んでいると。そのための手助けをしに来た」
「手助け?」
「ああ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そして、仮面の男の伝えた情報により事態は激動の一途をたどることとなる。
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