バカとテストと白銀(ぎん)の姫君
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第二章 彼と彼女の事情
第十三話 恨みと破壊と大革命 上
前書き
本作中の略号は本作オリジナルのものも含みます。
さて、三連投は実現するや否や 確実に11/10は更新しますが…
___12:34____
僕は先に教室に戻って、妃宮さんと雄二が戻ってくるのを待っていた。
姫路さんの顔をまともに見られない。きっと二人なら彼女を救うための作戦なんか、簡単に立てることが出来るんじゃないだろうか。
そんな楽観的な考えと、姫路さんが抜けてしまったことで僕らが負ければ、妃宮さんの予測通りに姫路さんの転校を早まってしまうのではないだろうかと不安に駆られてしまう。
「明久よ、どうしてそんな難しそうな顔をしているのじゃ?」
僕の親友で美少女…いや美少年でもある秀吉にそう尋ねられる。
「……何でもないよ、勝てるかなって思っただけだよ。」
「そうじゃのう……」
僕の顔をじっと見ていた秀吉は教室の様子を見回しながら何かを考えている。
「このクラスには妃宮という軍師がおるからの、前回の時もあやつにワシは助けられたからの、今度もうまくいくんじゃろうと思っておるぞい。」
笑顔でそう答えてくれた秀吉に思わず胸が高鳴る。
「ん?明久よ、どうしたのじゃ?」
「秀吉、あのさ……」
そのとき教室の扉が勢いよく開けられ、バカでかい音が教室中に響きわたる。雄二がドアを力任せに開けたせいだ。
僕のトキメキを返せバカ野郎!!
まったく、後ろから入ってきた妃宮さんが静かに扉を閉めたのとは大違いだよ。
「これより後半戦についてのブリーフィングを行う、まずそれぞれがどのように分かれるかから発表する!」
「後半戦はいよいよBCが連合軍を編成して一挙に攻め寄せてくるものと予測されます。苦しい戦いが強要されるものだと思います、ですが皆さん、どうか奮起してください。」
「「応よ!!」」
______12:50_______
Fクラス三軍の再編成を行う、MF(機動部隊)FeBaCα(防衛部隊本体-通信名称アルファ)、そしてFeBaCβ(階段側の守備隊-通信名称ブラボー)
土屋康太は校庭を迂回して体育の大島とともに新校舎屋上へ単身潜入。
MFは相変わらず吉井明久が隊長。αは坂本雄二自ら指揮を取る、旗下一七名 βは妃宮千早、旗下四名 予備戦力1名
戦略方針
FEBA(Forward Edge of the Battle Area 主戦闘地域の前縁)を渡り廊下、旧校舎階段に設定。FOB(Forward Operating Base 前線基地)である旧校舎二階の和室にて木下秀吉が策の準備中。こちらの策を使わない場合、秀吉を通信戦の中心とする。最悪、通信要員は無くして良い。
αはβの作戦の成功まで粘ること、その後の流れは必然的にFのものとなる。
(尚、FeBaC:Forward Edge of the Battle Area Counter Force主戦闘地域の前縁部迎撃部隊の略称でありフィーバックと呼ばれる。)
___13:05___
停戦協定失効
BC連合、かねてからの打ち合わせ通りそれぞれの待機地点より行動再開。
___13:06___
Cクラス一階警備隊及びBクラス強襲A部隊合流、指揮権は完全にBクラス浅井が握る。
Cクラス小山、C主力部隊とBクラス強襲B部隊合流、指揮権はCクラス小山が握る。
___13:06___
渡り廊下より戦闘が始まる
___13:07 旧校舎階段四階___
「そっちの指揮官と話がしたい、出てこなければ司令の機関銃が火を噴くぞ!」
旧校舎の階段を走って上ってきたBC連合のみなさんが揃いも揃って足を止めなさるのは何とも言えない気分になる。
なんですか、そんなに僕ってそんなに危険……でしたね、はい。
西村先生の補習室での補習の内容はて聞いているだけでも頭がくらくらしそうなものですからね。
そんなところにぶち込まれることに結果としてなるのは、西村先生には悪いけど僕でも御免願いたい。
四階から三階への踊り場に僕らは布陣していた。設置されている台場の上には僕の召喚獣ともう一匹、弓で攻撃する館本の召喚獣が立っており、その下には島田さんを始めとして味方三人の召喚獣がそれぞれの武器を構えている。
普通に考えれば、この程度の人数相手はそのまま粉砕して通っていきたいだろうに。
「俺が連合指揮官の浅井だ、話とは何のことだ!」
部隊の先頭に出てくる指揮官浅井、一度顔を合わせた差しで顔を合わせたことがあるし、ここからの応答は既に僕たちの間では成立しているはずなのだが、さてどうでてくるか。
「私はあなた方に私たちの味方に成っていただきたいのです。」
「その程度のことか、ならそんなもの聞くに値しない!」
(決死隊と監視部隊を送る。これらを撃滅できるなら味方する。)
言葉と一緒に瞬き信号でそんなことも同時に送ってくる彼のその言葉の真偽は部隊を二つに割るという下策から判断できよう。
「A,B,C班掛かれ!」
つまり、A,B,Cにお目付け隊がいるから撃破してくれと、なるほど分かりました、でもってその程度の力がなければ味方に付かないと。
単純明快な回答ありがとうございます。
「「「召喚!」」」
『Bクラス 小野 明 258点 入江 真美 238点 金田一 香 244点 田中 玲 198点 加賀谷 寛 259点…………… Cクラス 新野 すみれ 217点 黒崎トオル 186点 野口一心 173点 遠山 平太 159点 榎田 克彦 222点…………』
十五人程度ですか、僕の処理能力の許容範囲ぎりぎりに収まるということだ。三十人全員で大河のごとく押し寄せられたとしたら全体の作戦はたちどころに破れるところでしたね……
「仕方ありません、撃ち方始めます。」
『数学 Fクラス妃宮千早 590点』
宣言とともに相手が動き出す前から撃ち始めたのだが、やはり僕ら五人を相手に15人という圧倒的な人海戦術を前にしては、なかなか思い通りには戦果はあがらない。
装備である機関銃の連射速度、威力はともに点数にある程度比例しているようだ。
前回のDクラス戦ではこの得点の1/4で一秒間に5発だったのが、今では一秒間に10発という、本物の設計上限ぎりぎりの能力を撃ち始めから発揮しているM60機関銃。
威力はやはり自分の得点の一割から二割の間であるようだが、それは敵への弾丸の中りどころによって変わるようだ。
相手の得点幅は150~250程度、つまり平均的に敵さんを補習室で大人しくしていただくためには、大体四発、多くて五発は掠めさせなければ成らない。単純計算で掃討完了までに八秒程度だが、幾ら密集しているといっても弾丸は外れるときには外れるのだから10秒と少しぐらい必要だろう。
階段をいち早く上り始めた、やる気あるBクラス諸兵士から順番に戦場の讃歌を聞かせてやる。あっと言う間に戦死をしたのは階段というエリアに固執するBの代表のせいなのだから僕を恨んでくれるな。
銃口を左右に動かしながら、踊り場に近づいてくる敵を追い払う。今回は完全に敵を撃ち抜くのがミッション、ついでに味方を誤射しないというのもエクトラミッション的な扱いで存在はしそうだ。
『Bクラス 数学 小野 明 DEAD 入江 真美 DEAD 金田一 香 44点 田中 玲 DEAD 加賀谷 寛 89点…………… Cクラス 新野 すみれ 217点 黒崎トオル 18点 野口一心 73点 遠山 平太 DEAD 榎田 克彦 62点…………』
BC連合の半分に戦死判定を渡すまでに六秒、現在階段にとりついているのはおおよそ8名。
味方は一人が戦死、残り台場の足下の浅賀と島田さん、そして僕の隣で弓を乱射している館本だけだ。
「館本君、台場の中層に移動お願いします」
「はいよっと!」
実は台場から遠距離武器で攻撃できるのは一番上の敵側からも見えている上層部分と、台場に上ってからようやく気がつく中層部分の二カ所ある。
敵から見える召喚獣はこれで二匹だけになる、もし矢が飛んで来たとしても僕からの銃弾のプレゼントばかりに気を配っている彼らにとって、低威力の矢などは二の次に回されるだろう。
とは言え、矢など撃たせる気はない、どのあたりが一番敵が密集しているか、誰か台場に潜り込んでは来ていないかなど、サポートに専念してもらうつもりでいる。
「司令!一人浅賀の所に抜けて行きやがった!」
「了解です。」
一瞬だけ密集地域への攻撃から浅賀への火力支援へと切り替え、そのついでに周辺の敵さんにもスコールを散々降らせてから、再び他に比べて密集しているところを集中的にねらう。
「支援感謝する!!」
下から浅賀の怒鳴り声が上がってくる、味方がいればそれだけ時間は稼げるのだから簡単に戦死判定は出してもらってほしくない。
「ここにいるのは千早だけじゃない、ウチらも居るってこと忘れてるんじゃないでしょうねぇ!!」
島田さんの召喚獣が階段の右側の方で太刀回りを見せているのは、今回の編成でも吉井と一緒に成れなかった腹いせなのか、それとも吉井へのお仕置きが十分に出来ていないことへの欲求不満なのか。
(ってどっちにしろ吉井が原因に思えるんですが)
少し前にもう少しで敵もろとも補習室送りにされそうになった恨みも当然あるだろうし、うん。
「中ってぇ!」
クロスボウを装備している召喚獣が僕を階下から狙いを定めて撃ち込んできたが、その矢を避けるつもりなど毛頭ない。
「やった、中った!」
ちらりと言葉が発せられた方を見ると、操縦者である女生徒は無邪気にはしゃいでいらっしゃった。
そんな風にガッツポーズを作る暇があるのでしたら第二射を始めなければ成りませんよ、さもなければ
『数学 Fクラス 妃宮千早 523点 VS Cクラス 市川早紀 DEAD』
せめぎ合いになったなら、こちらの方が格段に強いのだから。
点数が削られるのは悪手である、さっさと排除するに限る。
周りの敵を一掃しながら、撃ち込んできた相手の召喚獣の頭部に二三発ぶち込み、即刻御退場願う。
攻め込む側は残り四人に、こちらは浅賀が倒されたため残存は僕と館本と階下の二人。
その四人は何と銃弾の雨をかいくぐって、時には味方を犠牲にして台場の影に潜み、僕が油断したところで討ち取ろうと考えたのだろう。
そしてその作戦は台場の下の二人を欺くことができたという点と、その発想において称賛に値すると考えるよ。
「やつを討ち取るのは今だ!」
「「「応!」」」
彼らに気がついたのはその叫び声のお陰でもあったが、一つ下の層に隠れている館本から討ち漏らし4人という報告を聞いていたため、僕は無防備ではないし、奇襲にさえなっていない。
武器は……槍、金属バット、ハンマー、短刀の近距離武器四種盛りですか。
「千早さん!!」」
「「覚悟!」」
「『烈火』」
忘れていませんか、僕の召喚獣は近距離でも強いんですよ?
『加賀谷 寛 DEAD 新野 すみれ DEAD 黒崎トオル 18点 野口一心54点』
以上に得点が高かった二人を最初に撃破し、残った二人に照準を合わせる。
『数学 Fクラス 妃宮千早 409点 VS Cクラス 黒崎トオル DEAD 野口一心 DEAD』
腕輪の効果を使うために消費した点数分と、槍が腕に触れた時に負った傷のせいで得点が100点と少し削られてしまった。
とは言え、台場に籠城するならショットガンに武器を変更しておきたい。万が一、浅井が更に攻勢を掛けてきたときの為にも。
「みなさまにもう一度お聞きします、私に味方をしてください。いいえ、補習室に行きたくないのであれば味方しなさい。」
銃を残りの皆さんの方に構える。味方は、射撃管制官的な役割の舘本と得点がかなり削られてしまった台場下の二人しかいない。
正直言って今の状態だと、自分の持ち点と引き替えに敵軍全員を巻き込んで全滅させるなどというのは無理だろう。
「浅井君、如何でしょうか?」
こちらが武器を相手に向けているのと同じように、BC連合もこちらに各の武器がこちらに向けられている。
「妃宮さん、時期は今、だ。」
その言葉と共に一斉にひざまずくBC連合の将兵。
浅井が言ったのは日本人ならば誰もが知っているあの事件で主犯が直前に詠んだという詩の一節。それこそがF,C,Bの有志で決められていた作戦決行の合図であったし、浅井はそのメンバーの中心ではあったがもう一つの宣言をしてもらわないと、容易には信じられない。
「俺は宣言する!これより『作戦ヴェルザンディ』を発動する!!」
「「応!!」」
そして召喚獣たちは一斉に僕らに背を向けた。つまり疑いがあるなら殺してくれても良いと。
ヴェルザンディ、北欧神話において運命を司る三姉妹の女神の一柱であり、現在を司るという女神であり、紡ぐ者と云う意味。
私たちの作戦は去年一年の総清算という意味も持つんだと小山さんには言われていたが、作戦名にそんな大層な名前を付けるほどなのだろうか。
「指揮全権一切合切を全て貴女様に譲るようにと申しつけられております、何なりと我らに下知をお願いします!」
「「「我ら、貴女様のために獅子奮迅の戦いをして見せます!!」」」
「指揮権をいただきます、ですがとち狂って私を撃破しないでくださいね。」
「勿論です、我らの為に貴女様がお掛けなさった苦労を無駄になど致しません!」
やばい、洗脳されてるんじゃないだろうか。
「あの……それから貴女様はやめて頂けないかしら?」
「「分かりました妃宮様!!」」
彼らの身には一体何があったんですか、というより小山さんは一体彼らに何を吹き込んだのですか………
女子にまできらきらした目で見られるってなかなかない経験ですよ。
指揮官以下の全員の目がマジで、しかも今までの応答で一切嘘の兆候が見えない。
これほどまでに嫌われているとは、さすがBの代表様はクソ野郎でいらっしゃることだ。
「ならば、今こそ根本という諸悪の根元を討ち果たすのです。皆さんそれぞれの胸の奥に閉じこめた恨みを今こそ彼に倍返しにして差し上げるべきなのです。」
「「「了解しました妃宮様!!」」」
やめて…その様づけっていうのはやめようよ……
「すごい人気ね、千早って。」
彼女にしたくない女子ランキング3位という上位ランカーである島田さんにそんなふうに茶化される。
「ごめんってば、だからそんな怖い目でウチのことを見ないでよ。」
分かっていただけたらそれでいいのですよ。
僕は部隊を二部隊に分けて、一つは渡り廊下への援軍(仮称S1)とBクラスへ攻め入るための部隊(仮称S2)に分けた。
僕はこのとき、きちんと自分のつかんでいる情報の重要さを知っておくべきだったのだ。
窮鼠の反撃を僕は甘く見すぎていたのだ。
___13:10 渡り廊下、α隊______
「いいな渡り廊下から先に、敵を一人も入れるな!」
戦況は…さすがにきついよな……
ざっと見ただけで人数は二倍、得点も恐らく二倍、戦力差は四倍以上だろうと推定できる。
相手が侵攻を開始したときには俺はまだ屋上にいた。
参謀から階段側から侵攻してくる部隊と交渉を始めたという報告を受け、俺の囮としての任務は終わった。
「Fクラスの坂本よ!あいつを討てば私たちの勝ちよ!」
後は可能な限り時間を稼ぐ、参謀から合図が来れば攻勢も弱まるのだろうが……
「坂本、布施先生側がもうすぐ喰い破られそうだ、どうするべきだ!」
「俺が穴を埋める、おまえらは梅津先生側の補強だ!」
「イエッサー!!」
元から無謀な戦いだとは分かっている、たった17人で30人以上を相手取っているのだから。
「くそ、翔子とやり合うまでは伏せときたかった…が!」
ここ最近勉強を猛烈に再開したおかげで、俺の点数が数日前と文字通り桁違いになっているのがここで露天してしまうのだが……こうなってしまったからには仕方がない。
だが、だからと言って「はいそうですか」で済ませれるかコンニャロウ!!
「召喚!」
『化学 Fクラス 坂本雄二 281点』
「おまえ等の好きにはさせるか!」
『化学 Bクラス 玉造夏帆 78点』
「Fクラスの坂本が何だってAクラス相当の得点を持っているのよ!?」
布施の展開させているフィールド側の部隊長と思われる奴に先制攻撃を仕掛けたのだが、戦死判定は出せなかったか…
「玉造!落ち着きなさい、こっちには人数があるのよ!冷静に対処しなさい!」
相手の後ろからやっかいな指示が飛んでくる、ついこの間Fで演説をしてくれた女かと思うと腹が立つが……参謀の言うことが本当だとしたら仕方がないだろう。それも直ぐに是非が出るだろうが。
「坂本、覚悟するのよ!」
「言われてどこの誰がするんだ!」
鉄のバトンが俺の召喚獣の目の前で振り切られる、後ろに飛び下がらせて嫌な予感がして即座に右に移動させた。
「クソっ、読まれていたか」
ブーメランが投げつけられ、さらに弓矢の雨霰がさっきまで俺の召喚獣が存在していた場所にバカほど降ってきたのはさすがにぞっとした。
こいつら、既にこれほど連携ができているのか。
よけられたことがよっぽどショックだったのか、玉造だとか言う女は隙だらけで、カモと言っても差し障りがないほどだ。
『化学 Fクラス 坂本雄二 280点 Bクラス 玉造夏帆 DEAD』
「戦死者は補習!!」
「きゃああぁ!!」
本当に危ないぞ、少しでも油断しようものなら俺は今連れて行かれた奴の二の舞になる。
「坂本、梅津の戦線は膠着に持ち込めたぞ!渡り廊下いっぱいに展開しているから相手はこれ以上参戦できないからな!」
「了解だ、こっちはかなりツレぇが援護はいらん!」
「了解っす!」
そうか、左半分は膠着させることができたか。
「連合左翼へ、援護射撃に失敗してもバラバラに撃とうとしないで!絶対に一カ所に集めるのよ!」
「了解!!」
やばいな、小山の奴この戦いの後を見越してやがる。まるで自分のクラスの勝利を間違いないように思っているのではないだろうか。
遠近両面で俺は逃げ回らないといけないのか。
こっちの左面も膠着とは云え、いつ食い破られるものかなんて分かったもんじゃない。
腕の時計にちらりと目をやる、13:15 そろそろ参謀側からの報告が来ないとマジで壊滅するぞ。
「代表!」
遠くから俺を呼ぶ声が聞こえたが、後ろを振り向く余裕など勿論ない。
「どうした舘本!」
走ってきたのか息を乱れさせているあいつは階段に回していたはずの舘本か、さて良い知らせか悪い知らせか。
奴は少し深呼吸をしてから彼の出せる声量一杯に叫んだ。
「作戦ヴェルザンディ、発動されました!!」
BC連合の一部に動揺が走る、ほかの奴らは意味が分からないといった様子であるのは、おそらくその作戦の存在自体を知らないからだろう。
一部には戦争はこれで決まったなどと露骨に喜ぶものさえいる。
(兵士が喜んでいるのは関係ない、問題は指揮官だ)
指令官である小山を窺う。
今までその顔にほとんど感情を露わにしていなかったのは作戦がバレるのを抑止するためだと俺は考えていた。
しかし、歓喜するのかと思っていたそいつの顔は悲壮な感じに染まっていった。
一体何故だ?
お前とうちの参謀で考えた作戦なんじゃないのか?
「BCの連合軍に告ぐ、降伏しろ!」
この時俺は完全に油断していた、動揺している部隊の掃討戦ほどらくなものはないのだからな。
俺の呼びかけに答えるように小山は目を閉じながら、ゆっくりと片手をぴんと頭上に挙げた。
「BCの攻撃部隊総員に告げる。」
そしてその手を勢いよくこちらに振りおろす。
「総員、何としても坂本の首を取りなさい。逃げる奴は私の手で補習室に送ってあげるわ。背水の陣と心得なさい!!」
「「応!」」
勢いづく者たちと戸惑う者たちに二分される。
「どうしてなんですか代表!!」
「そうですよ、なんだって……」
縋りよるやつらに、小山は何も答えずにいたが、やがて、あいつがぼそりと呟いたのがきこえた。
「……うるさいわ…」
背筋の凍るような低い声で、物事を何も考えたくないと云った疲れた表情の小山の召喚獣が、言い募ってくるやつの一人の召喚獣に近づいて、その手に持っている鉄扇を振りかざした。
『日本史 Cクラス 小山友香 325点 Cクラス 茂原樹 18点』
「逃げたり、逆らったりするなら……容赦はしないわ。」
軽くその手に持つ鉄扇を味方に叩き込んだ小山の行動に、味方であるBC連合の奴らも、敵である俺たちFの奴らもアイツの行動に目が釘付けになる。
その目が恐怖に染まっていくBC連合の面子、そして敵同士のいざこざに居唖然と成る味方に、監督している先生方まで凍り付く。
「小山代表……どうして……」
「二度も言わせないで!」
ヒステリックに叫ぶ小山は完全に理性を失っているように見えた。
まるで先ほどまでの冷静さは、この狂気じみた姿を隠すための仮面だったかのようにも思える。
「野郎ども!参謀の作戦を失敗させるな!」
「「了解!」」
「舘本は隙を見つけて参謀にこの状態を伝えろ!あいつも今は作戦行動真っ最中だからな!」
「合点!」
さすがに俺たちのクラスは割り切るのが早いな、まだBC側の一部は動揺しているというのにな。
小山よ、お前に一体何があったと言うんだ。
そんな士気の低い部隊を無理に戦わせても俺は討ち取れないとは思うが
ようやくお前がマジだと言うことを確信して、恐怖で支配されるようになった部隊にはここを守備している奴らもおまけにして壊滅させられるだろうよ、バカ野郎!
___13:15 新校舎屋上___
「………」
「土屋よ、お前は何をしているんだ?」
「………仲間からの指示を待っている。」
「ほぉー」
その頃新校舎の上には師弟関係にある二人の男が、何に使うのかさえ不明な機械の前に座っていた。
片や体育の教師の大島、片やFの土屋。
大島は教え子の土屋が大人の理解を超えるほどに電子機器に強いというのを何度も目の当たりにしているため、このよく分からない機械もおそらく自分の理解の範疇から遠く離れたものなのだろうと考えていた。
この大島という人間、自分に理解できないもの、興味のないものに対してはとことん無関心である。
しかし、自分の愛弟子がすることの一部ぐらいは分かってやりたいと考えている。
だから、こんな何時から行動を始めるのかよく分からない任務の監督役も快諾したのだった。
「………(コクコク)」
片方の耳に付けていたイアホンを通して、何らかの合図がきたらしい。
急いで機械の操作をいじり出す土屋を、一体これから何が起きるのかとわくわくと気楽気に眺めている大島。
「…………MFへ、行動を開始せよ、オーバー。」
その言葉を言い終えた後、機械の表面に設置されているダイヤルを何度か回す土屋。
「………S1(分隊1)へMFは行動開始、S2(分隊2)は変更作戦を開始せよ。俺は本隊へのCS(Combat Support:戦闘支援)のため、これ以降の情報支援は不可能、オーバー」
交信終了を告げた土屋はしばらくはイアホンを付けたままであった。
そしておそらく応答を聞き終えたのだろう、イアホンを取り外し師匠の方に向きなおる。
「………師匠。事情が変わった、新校舎側から旧校舎に再侵入して、渡り廊下の科目を変更する。」
「やれやれ、ここからまた飛ぶのか?」
「………時間がない。」
決意をしてしまった土屋のことだ、どうせ俺が止めても一人で行ってしまうのだろう。
「まぁ良い、付き合おうか。」
既にこちらに背を向けて準備を始めた土屋の肩を叩く大島の表情は、年甲斐もなく頬が緩みきっていたのだった。
この男、面白いものには掛け値無し、なのだ。
___13:17 Dクラス_____
『………・MFへ、行動を開始せよ』
僕らMFはDクラスに昼休みの最中から順次移動していた。
そして、ついにGOサインが情報部から発せられた。
「MFの皆さんには本作戦を終わらせる決定的な部隊です。良いですね、どのようなことが起こっても諦めないでください。」
妃宮さんに言われた意味がようやく分かったような気がする。
「君たちは一体どういうつもりなんだろうね?」
Dの代表である平賀君に聞かれて僕は何と答えて良いものか分からなかった。
「……下手をしたら停学処分なこと、だな」
「それは、それは……」
代わりに答えてくれた須川君の言葉に 絶句している彼を放置して僕はMFのみんなの方に向きなおる、妃宮さんに言われた『決定的な部隊』というのがどういうことを示すのか、バカな僕らでも分かる。
BクラスとDクラスの間の壁を僕の召喚獣で破壊し、そこからBクラス内に侵入。
Bの代表である根本を奇襲攻撃で撃破してさらに、本隊とCクラスの小山さんを挟撃して討ち取る。
それが僕らの行動予定であり、最後まで任務を完遂するためには今から一番危険なBクラス奇襲作戦をしないといけない。
「みんな、行くよ!」
「「了解!!」」
____13:18 ____
「承認します!」
遠藤先生の承認の下、僕と平賀君は模擬戦を始めた。
「平賀君、僕に対してだなんてお礼参りのつもり?」
「違う、俺の責任じゃねぇって事にしたいんだよ!」
作戦の第一段階として、僕はこの壁をぶち抜かないといけない。
そして、平賀君が僕に対して因縁を付けてきたという設定で(もしかしたら本気なのかもしれない)僕たちはDクラスの昼休み明けからの授業を担当する教師である遠藤先生に監督を頼んだ。
本当は世界史が良かったんだけど、最近妃宮さんに世界史をワンツーマンで見て貰っていたんだけど、その時一緒に英語も教えてくれたおかげで、英語もテストの結果がなんと今までの1,4倍になった。
このことがクラスの奴らに知られたらたぶん僕は二度と日の光を浴びることが無いよう、どこか山奥の土の中に埋められるに違いない。
『英語 Dクラス 平賀 179点 Fクラス 吉井明久 112点』
「吉井、覚悟!」
まっすぐに突撃してくる平賀君の召喚獣を横にかわして追撃を掛ける。
「取った!」
「まだだぁ!!」
執念で深手を何とか免れた平賀君の召喚獣は、そのまま僕に飛びかかってくる。
「てぇい!」
「ぐっ」
腹部をおもいっきり殴られたみたいに感じる、ってことは袈裟切りにされたって事か!
でもあまり勢いがなかったのか、フィールドバックされた痛みは思っていたほどの痛みはなく、また更新された点数を見てもそれは頷ける。
『英語 Dクラス 平賀 120点 Fクラス 吉井明久 82点』
「くそ、浅かったか」
壁を背にこちらに身構える平賀君の召喚獣。
「平賀君、次で終わりだ!」
そういって全力を乗せた一撃を平賀君の後ろの壁にぶつける。
ミシッ
「下手くそか!今度はこっちから行くぞ!」
ナイスフォローありがとう。
遠藤先生がひびの入った壁に対して何かコメントする前に、ただの事故で故意的でないと見せつける。
本当はおもいっきり意図的にやってるけど、ね。
「何をぼぉっとしてるんだよ、俺との戦いは楽勝か!」
「うわっ!」
木刀で平賀君からの攻撃をある程度食い止める、それでもダメージの幾らかは僕の召喚獣の体力を確実に削ってくる。
鍔迫り合いに負け吹き飛ばされる僕の召喚獣は、先ほどひびの入った箇所に寸分違わず当たる。
そして僕の背中にも勿論その分だけの衝撃が戻ってくる。
「くぅはぁあ!」
気力で立ち上がらせ、走り寄ってくる平賀君の召喚獣からひとまず距離を置き、再び壁を背にして立ってくれる。
「こんにゃろお!!」
乾坤一擲の攻撃を平賀君は横に飛びすさってかわす。
そして……
遂に僕らは最初の堅い壁を、文字通りぶち抜いたのであった。
____13:23 Bクラス____
「ようこそ、僕たちのBクラスにはどう行ったご用件かな。」
壁を破壊したその先には、にやにやと笑っているゲス野郎がご丁寧にも僕らを待ち受けていた。
まさかの奇襲失敗という結果に驚きを隠せない。
淡々と僕たちに召喚獣の矛先を向けてくるBクラスの近衛部隊。
「お前を討ち取りさえしたら僕らの勝ちだ、いい加減諦めろ。根本!!」
「そういきり立つなよ吉井君。僕はね、仕切り直しがしたかったんだよ。君たちがDに隠れているのはさっき知ったばっかりだけど、実に僕にとっては都合のいい事態だった。」
僕らに本陣守備に残していただろう部隊を差し向けながら、彼は僕らに背を向けてこう呼びかけた。
「参謀様をお連れしろ!」
一体何を、と思って奴が見る方を僕らも見るとそこには両脇をがっちり掴まれた妃宮さんが連れてこられた。
そしてその側には得点が削られ切り、首もとに剣先を突きつけられている召喚獣。
「妃宮さん!どうしてこんなことに!?」
「ごめんなさい吉井君、作戦は全て見破られていたのです……」
心の底から悔しそうな妃宮さんの言葉に僕らは愕然とする。
「そんな……司令と代表の作戦が………」
「嘘だろ、妃宮さんが捕まっているなんて……俺たちはどうすればいいんだよ……」
ざわざわと僕らの間に動揺の波が広まっていく。
「今のFの戦力では今回の戦いは拙速すぎました。それが……このざまです。」
顔を俯け、掴まれている腕を振り払おうともしていない妃宮さんはもう諦めきってしまったように見えた……
____13:19 四階渡り廊下_____
「友香さん!」
渡り廊下に攻勢を掛けている私たちの後ろから、屋上を直接奇襲する部隊に配属していたBC連合のメンバーを引き連れてきた『あの人』の声に私は思わず体がピクリと反応してしまった。
「小山さん、これで僕たちの勝ちなんだよ!」
同志であった浅井君の声まで聞こえてくる。
そう、私も勝ち鬨を上げたい。でも……
「浅井君、貴女の隣にいるのはどちらさまですか?」
自分でも驚くほど冷たく、低い声がでた。
周りにいた人間がびくりと身震いするのがわかる、だって私自身でさえそんな声がでることなんて今の今まで知らなかったのだから。
本当は千早さんの隣に全てを擲ってでも駆けつけたい。
でも、それができないのは。
耳に付けられたインカムと、私の率いている部隊の中にいる何人もの根本からの目付けの存在。
だめだ、ここまできた限りは絶対に勝たないといけないのに
今退けば私のしたことは一体何だと言うの。
味方を脅して、あげく言うことを聞かなければ実力行使にでる始末。
そんなの根本と変わらないじゃない。
なんとしても勝たないといけない
あの写真が見られたら千早さんに絶対に軽蔑されてしまうだろう
例え軽蔑されなかったとしても、私が『そういう事』をしている女だなんて知られてたくない。
今、渡り廊下の対戦科目として日本史と保健体育が場のフィールドとして選択されている。
私の得意科目である日本史のフィールドであるけれど、保健体育のフィールドには土屋という男子が私と同じように無双した。
向こうのフィールドに配置していたBC連合は全滅、Fクラスの正規部隊は土屋とF代表坂本君をはじめとして四人だけ。
日本史のフィールドに撤退可能な人員は即刻後退させているから人数だけはまだまだ揃っている。
お互いのフィールドから一歩も出ることが出来なくて、攻め倦ねていたら、妃宮さんが来ちゃった。
来る前に終わらせる予定だったのに。
「友香さん、お願いです。どうか手を止めてください。」
「千早さん、ごめんなさい。私はね。勝たなきゃいけないの。貴女たちを叩き潰さないといけないの。ごめんなさい。」
あの人の顔も見ずにごめんなさいと何度も言い続ける私に、彼女は二の句を告げなくなってしまった。
その時、私の耳に通信が入った。相手はBクラスという安全区域に悠々と引きこもっているであろう根本。
『友香、朗報だよ。』
いつも通り何の前振りもなく突然入った通信、苛立たしく思いながら「何よ」とこちら側のマイクに吹き込む。
『妃宮さんを捕虜に出来たよ。』
!!!!
「今なんて言ったの!?」
その声に私の周りにいたBCのみんながびくっと震えたのがわかったが今はそれどころじゃない。
じゃあ、私の目の前にいる千早さんは一体何よ!?
後書き
化学 タンパク質についての問い
以下の( )にあてはまる語句を答えよ。
人間の血液が赤色であるのは血液中の(ア)が鉄分を含むためである。
(ア)を構成するタンパク質の一部には二つの硫黄原子を介して、それらタンパク質同士が共有結合をしているものがある。この結合を特に(イ)という。
姫路瑞希の答え・(ア)ヘモグロビン(イ)ジ・スルフィド結合
妃宮千早の答え・(ア)ヘモグロビンor赤血球 (イ)ジスルフィド結合
教師のコメント・正解です、が確かに妃宮さんのいうとおり、この問いかけは不適切でした。よって、ヘモグロビンでも赤血球でも正解とします。
ヘモグロビンはみなさん知っての通り、血中での酸素を運搬の役割を持ちます。酸素と結合していると鮮紅色、つまり綺麗な赤色をしていますが、酸素を離すと暗赤色となります。
吉井明久の答え・(ア)白血球
教師のコメント・赤血球の書き間違いでしょうか?ちなみに白血球は白くありません。赤血球が鉄分を含んでいるために赤いだけです。
土屋康太の答え・(イ)正常〇
〇は血で汚れていたために判読不可能
教師のコメント・先生は土屋君がなにを書きたかったのか理解したくありません。
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