辻堂雄介の純愛ロード
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第拾壱話『偽りの恋人』
日曜日の朝。本当なら安眠を貪るのだが愛との約束があるので8時に起きた。
腹の上で寝ているラブをベッドに置き服を着替え―――。
「……その前にシャワー浴びるか…」
結構寝汗をかいていたので先にシャワーを浴びることにした。
Side辻堂愛
サッサッ。
「これでいい……か?」
アタシは鏡を見ながら櫛で髪を整えている…が、上手くできない。あ~あ、こんな事なら普段からしとけばよかったよ。
「ん……こっちが少し跳ねてる。あ、ここもっ」
一カ所気になり出すといろんな所が気になり出す。
「あら、今日は昨日にもましておめかしさんね」
「あ、母さん?別に昨日と同じで――って、うわエロ!!ちょっと母さんそんな格好で出てこないでよ」
振り向くとそこには、言葉は言い表せないくらいエロい格好をした母さんがたっていた。
「あ、これ?昨日誠君のリクエストで――」
「わーわー!言わなくていい言わなくていい!」
娘に何を教えようとしてるんだこの母親は!!
「それで?昨日より綺麗にしてるけど」
「べ、別にフツーだよ、フツー」
こういう時だけ無駄に鋭いんだよな、母さんは…。
「愛も大人になっちゃったか。お父さん嬉しいような寂しいような」
「父さんまで何をいって―――わーっ!!なんつー格好してんの父さん!?」
「これかい?たしかに上半身は薄着だけど、ネクタイはちゃんと締めてるだろ」
「ヘンタイの正装だよそれ!」
いつから、そんな趣味に目覚めたんだよ、父さん…。
「愛。僕の名誉のために言っておくけど、これは真琴さんが昨夜僕の服を破いてしまったんだ。でも年頃の娘の前に上半身裸で出るのも憚られて」
「中途半端な愛情が生んだヘンタイって事はわかった」
もし、ユウと一緒になってもアタシはこんな風にならないようにしようと心に誓った。
「時間ないからもう行くね」
これ以上ここに居るとなんか、アタシまでヘンタイウィルスに犯されそうだよ。
「行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃい。っと、愛。ちょっと」
「ん、なに?母さん?―――あ」
呼ばれて近寄ると母さんが手で髪をといてくれた。
「はい、もっと可愛くなりました」
「……ありがとう。じゃ、行ってきます」
「ええ。あ、それと愛」
「うん?」
出ようとするアタシを再び母さんが呼び止める。
「制服借りてもいいかしら」
その言葉を聞いた瞬間アタシの体は一瞬固まった。
「男子の制服、ユウ君に貸してもらえないだろうか」
父さんの追い打ちにアタシの中で何かがはじけた。
「行ってきますッッッッッッ!」
ウチの両親のヘンタイ加減にはほとほと呆れるよ…。
「あ……忘れてた」
歩き出そうとしたアタシはあるモノがないのに気がついて部屋に戻ってソレを持って再び家を出た。
辻堂雄介の純愛ロード
第拾壱話『偽りの恋人』
さて、時刻は9時50分。昨日とだいたい同じくらいの時間に待ち合わせ場所に来たのだが…。
「オス」
すでにそこには愛がいた。
「もう来てたのか、早いな」
「基本5分前行動する派だから」
そういえば、俺が家を出る少し前に隣から玄関を閉める音がしていたが、あれは愛だったのか。
「でも、いつもは遅刻ギリギリで登校するよな?」
「あれは朝、アタシがみんなと同じ時間に行くと校門が詰まるからできるだけ避けてるんだよ。正直アレはやめて欲しいんだけどな。恥ずかしいし」
「なら、やめさせれば?」
「あっちはアタシに対する誠意でしてることだから……言いづらい」
どうやら、番長さんも結構大変なようだ。
「さて、じゃあ残りのポスター貼りにいくか」
「ああ」
そんな話をしていたらちょうど10時になったので二人並んで歩き出した。
◇◇◇◇◇
さて、無事に残りにポスターも貼り終わり、ちょうど、昼になったので昨日と同じとこれで昼食をとることにした。
ちなみに、俺はナポリタン。愛は昨日と同じく蕎麦だ。
「いただきます」
ちゅるるる。
ちゅるるるるる。
手を合わせて、蕎麦をすすり始める。
昨日とはえらい違いだ。
「……なんだよ」
「昨日より上品に食べるなぁっと思って」
「わ、悪いかよ」
「いや、いんじゃね。そうやって食べてる姿も可愛いし」
「なっ!?」
カーっといっきに愛の顔が赤く染まる。
「……」
そして、恥ずかしそうに俯きながら再びちゅるちゅると蕎麦をすすりだした。やべ、ストレートに言い過ぎた。
それからお互い、無言のまま食べる羽目になった
。
◇◇◇◇◇
「この後、どうするの?」
「そうだな、とりあえずその辺ぶらぶらしるか」
昼食を食べ終えた俺たちは、店を出て商店街を並んで歩いている。
すると―――
「辻堂愛!!」
聞き覚えのある声に呼び止められ、振り返る。
「やぁっとみつけたわ!」
そこには、予想通り恋が仲間を引き連れて立っていた。
「ちっ、メンドくせーのが来やがった」
ボソリと呟く愛。それには、大いに同意しておこう。
「あんた達が昨日、今日とこのあたりを回ってたのはすでに調査済み。そして、今日もこのあたりにいると言う私の読みは当たったみたいね」
得意げに言う恋に対して、愛は面倒くさそうに言う。
「今日はテメーを相手してやる気分じゃ無いんだけど」
「こっちだって気分で相手されてねーわよ」
じゃあ、何しに来たんだろうかこいつは……。
「あ~はいはい。用事があるならさっさとしてくれないか。これからユウと”二人”で遊びに行くんだけど」
「肉親だからって舐めてんじゃないわよっ!」
こめかみがピクンっと動いたかと思うと、怒声が飛んできた。
「なぁ、ユウ。恋奈のヤツなんでキレてんだ?」
「さぁ?なんでだろうな」
ほんとこいつは何で怒ってんだろうか…?
「ふん。いいのかしら私に尊大な態度をとって」
「ああ?」
ふむ、一触即発の雰囲気が漂ってきたな。
「また前みてーになかされたいのか」
「ああ!?私がいつ泣いたってんだ!」
慌てる恋。そして、ケンカを回避するのは無理っぽい。
「この前うちに来たとき泣いて逃げたじゃん」
「泣いてもねーし逃げてもねーよ!」
「泣いてたよな?ユウ」
「さあな、俺そん時見てなかったから知らねーし」
愛が俺に聞いてきたが、恋の名誉を考えて少し嘘をついた。
しかし、愛の言葉を聞いた江ノ死魔メンバーは「泣いてた?」とか「恋奈様が…?」と少し動揺していた。
「おいっ!辻堂愛!勝手に既成事実にすんな!」
「でも泣いたじゃん」
「泣いてない!泣いてないもんね!」
そんな風に言うと本当っぽくなるから逆効果だぞ…。
「ぐぐ……クソッタレ!ちょーしこいていられるのも今のうちだけよ」
「はいはい……で何。こっちは忙しいんだけど」
「いなしやがって……まあいい。辻堂!あんた、昨日もユウと一緒だったようね」
言いながら、決して大きいとは言えない胸を張りなおす恋。
「……で?」
「3会」
「!?」
3会……そのフレーズが出たとたん愛の表情が険しくなった。
「見たわよ、あんた達が孝行って店でこのポスターを貼っていくところを」
どこからともなく出した丸めているポスターを見せながら言う恋。
「普通ならサボるのに真面目にやっている。まあ、相方がユウだったかってのも真面目にやる理由かもしれないけど。まあ、そんなあんたが楽しみにしている町内会のショボいお祭りを……湘南最大勢力のこの江ノ死魔が総力をもって、今年の3会をブッ壊してやる!!」
ギロッ!!
「ひ……っ」
「う……」
殺気を飛ばしながら恋を睨み付ける。そして、その殺気により恋とリョウ以外のメンバーが怯む。
「ハーーッハッハッハ!そーなのそーなの、そんなにショックなの」
勝ち誇ったように笑う。
「まあでも、やめてやってもいいわよ辻堂。江ノ死魔が攻撃するのは外敵だけ。仲間には絶対に手を出さない。たった今ここで私に全面降伏して、辻堂軍団を江ノ死魔の傘下に入り、そして―――」
俺を指さす。
「そこに居るユ―――辻堂雄介が江ノ死魔に加わるって言うのなら、やめてやってもいい!」
まずいな、恋は有言実行するタイプだ。もし、ここで愛がこの条件を飲まなければ確実に祭りは潰される。
「どうする?辻堂。まあ、考えるまでも無いと思うけど」
「く……っ」
ギリッと歯を食いしばる愛。
しかたないここは、一か八かの賭に出てみますか。
「だってさ愛。ラッキーだな」
「へ?」
驚いている愛に対して、なるべく軽く言った。
「どうせ、祭りは無くなるんだからこんな面倒くさいことやらなくていいんじゃないか?もともと、愛はやる気無かったんだし」
恋が言っていることは確かに確信をついている……だが、確証がなくすべて推測の域を出ない。
それなら、なんとか誤魔化せばいい。
「これで、火曜日もなんにもしなくても良さそうだし、楽になってよかったよかった」
「な、なに言ってんだユウ?」
ヤバい、愛がハッタリだと気づいてない様子だ。
「(いいから、あわせろ)」
っと、視線を送る。愛は、それに気づきハッとなるが…。
「……くさい三文芝居だこと」
恋にも気がつかれたようだ。
「な、なにが三文芝居だい?本当だぜ、アタシが3会を楽しみにしていないのは」
ごめんなさい。くさい三文芝居でした。
「いまさら誤魔化せると思ってんの。あの辻堂愛が祭りの準備なんて、楽しみにでもしなきゃ手伝う意味がねーだろ」
確かに、普通不良がこんな地域行事なんか手伝うこと自体がおかしいことだ。だがもう、このまま突き進むしか無い。
「それはな、俺を手伝ってくれたんだよ。恋が言った通り俺たちは3会の準備委員会に選ばれた。身内だし、別に問題は無いはずだよな?」
あくまでポーカーフェイスで言う。内心はドキドキものだ。
「確かに身内ならその可能性はあるわ……でも、それは無いわね」
「……なんでそう言える?」
「だって、あんたは一般人、対して辻堂は不良。これだけでも、わかるでしょ?いくら身内とは言えそこまでする義理は辻堂には無い」
くそっ。さすが恋。なかなか崩せない。
「ふふふ。どうやら論破みたいね。他にあるなら言ってみなさい。辻堂がアンタを手伝う理由を」
理由……理由か…。
「……ユウ…」
愛の顔を見ると不安そうな顔をしていた。おいおい、番長さんがそんな顔してんじゃねーよ。
「理由なら……ある」
「なによ。私が納得できるだけの答えをくれるのかしら」
「ああ、もちろんだ」
もう、これしか無い。
「愛は……俺の―――」
息を吸い込み一気に―――
「恋人だッッッッッ!!!」
言った……言ってしまった。
「「はあ!?」」
俺の発言に愛と恋が同時に驚きの声を上げた。
しかし、後には引けない。
「お似合いの恋人なんだっ」
硬直している愛を抱き寄せて俺の手の中へ引き込む………意外に小さいな愛のヤツ…。
「ちょ、ゆ、ユウ。あの、ぁの」
相変わらずこういったアドリブには弱い、俺の腕の中で固まっている。
「どうだ、これなら文句ないだろ。恋」
「………」
黙って、何かを考え始める。よし、ここで最後の押しだ。俺はリョウコさんに視線を送った。
どうやら、それに気がついたようでやれやれと言いたそうな顔をしながらも「わかった」と頷いてくれた後恋の所に行き小声で会話を始めた。
そして――
「ハーーーーーハッハッハッハッハ!引っかかったわね辻堂、ユウ!!アンタらが付き合ってる事なんて――最初からお見通しだ!」
「「「「「な、なんだてー!」」」」」
「まんまと引っかかったわね!3会云々はアンタらの仲をアンタらの口から聞き出すためのブラフよ!」
「すげぇ…恋奈様」
「完璧なブラフだったわ」
どうやら、自分の威厳を守るために無理矢理軌道修正してきたみたいだが、結果上手くいっているみたいだ。
まあ、恋も含めて江ノ死魔の連中は結構バカな奴らが多いからな、いい意味で…。
「???なにがどうなって……」
約一名この場の流れが分かってない純粋な子が居た。
「さてこれで、時間ができたわけだし思う存分イチャイチャできるな、愛」
「イチャイチャ!?」
「(合わせろって)」
「え、あ、うん。イチャイチャ……な」
顔を赤くしながら恥ずかしそうに呟く。いや、実際、かなり恥ずかしいのだと思う。
だって、俺もそうだから。ポーカーフェイスを気取ってはいるが今にも顔から火が出そうなくらい恥ずい…。
「いやー、まさか敵対している恋が俺たちの仲を助けてくれるとは思わなかったぞ。サンキューな」
「ちょっと待てぇい!」
礼を言う俺に待ったをかける恋。
「誰がテメェらなんぞに協力するか!3会はブラフっつっただろ!」
「じゃあ3会は邪魔してくれないのか?」
「とーぜんだ」
「「((バカだコイツ))」」
っと思いながら、よしっと心の中でガッツポーズをする……てか今、リョウコさんと思ったことがシンクロしたような気がした。
「3会には手を出さない…………なるほど。ようやく分かった」
――ドゴォオオオオンッッ!
「んぎゃー!」
愛の拳が恋に当たった。まあ、ギリギリかわしたみたいで致命傷は免れたみたいだけど。
「愛。もう遅いとは思うけど暴力はやめような」
「ホントにもう遅ェよ。ここまでアタシをおちょくったんだ、ブッコロされて当然だろ」
ボキボキと拳を鳴らす。ああ、駄目だ。完璧にキレてらっしゃる。
「クソッ!いきなり元気になりやがって、アンタたち!まずはユウを捕まえろ!!」
「「「了解!!」」」
連中が一斉に俺めがけて襲いかかってくるが……
チュゴォーーーーン!
愛によって昼の星へと変わった。南無…。
「次は?」
「あああ忘れてたこいつ強いんだ。リョウーーー!」
「……」
愛の前に立ちはだかるリョウコさん。
「総災天か……決着をつけるにゃいい機会だ」
「喧嘩狼……直接対決は避けたかったが仕方ない」
「あ、ちょっと待った」
「どうしたユウ?」
「いや、ちょっとリョウコさんに用事が―――」
「用事を思い出した」
「あれ?」
そそくさとその場を後にしたリョウコさん、ソレを見て疑問の声を上げる愛。
「ヒャッハー任せて恋奈様!この稲村チェーンの再来と言われた鎖使い。チェーンウィップのハナの力見せてやるシ!」
ブンブンブンブンブンブンッ!
リョウコさんと入れ替わりでハナが間に割って入ってきて鎖を振り回すが――
ごちーん!
「きゅう~」
自分の頭に当たって気絶した。
「くっそー!どいつもこいつも!」
「お前んとこ、全員不良に向いて無いんじゃないのか?」
「うるさーい!アンタに言われたくない!!」
俺に噛みついてくる恋。本当の事言っただけなのに…。
「おい、恋奈。アタシを無視してユウとジャレてんじゃねえよ。残るはテメーだけだ……覚悟はできてんだろうな!」
「く……っ」
愛の迫力に一瞬怯む。そして、お互い無言で睨み合う。
「……チッ、早々に前に出たら威厳を欠くから控えてきたが……しょうがねぇ。」
すごい迫力の愛に対して全く引けをとらない迫力をだす恋。
「来なさい喧嘩狼……この、湘南最強チーム江ノ死魔総長『血まみれの恋奈』が相手をしてやらァ!」
「ハン!行くぞ!」
「来いやァ!」
同時に踏む込みぶつかり合う。
◇◇◇◇◇
「ぐは……」
「弱っ!!」
場転してわずか3秒……たった3秒で、恋は地面でぴくぴくしていた(血まみれで)
いやまあ、こうなることは分かってたけどね……うん。
「こいつとヤると手が汚れて嫌だわ」
一方的に叩き伏せた拳についた血を拭う。まさに、瞬殺だ。
「あれ、でも『血まみれの恋奈』なんじゃないのか?」
「血まみれじゃん」
「ああ、自分の血でって事ね」
もともと、腕力がある方じゃ無いのは知っていたが……ここまでとは。
「けどさ、少しやり過ぎなんじゃないのか?これは…」
いまだぴくぴくしている恋を指さす。
「ああ。そいつなら大丈夫。そろそろだから」
「そろそろ?」
「うう……いってぇ……いや、痛くない!!」
勢いよく立ち上がる。
「あ、復活した」
「コイツどんだけボロボロでも3分で生き返るインスタント体質なんだ」
便利な身体してんな、コイツ。
「まだまだ。さーかかってこいや辻堂」
「えー、今手ェ拭いたばかりなのに。……あ、そうだ昨日覚えた必殺技でも試してみるか」
「ひ、必殺?」
なにか、面白いことでも浮かんだのかニヤリと笑う愛。そして必殺というフレーズに対して、ビビって少し後ろに下がる恋……ん?でも、昨日覚えたって……もしかして。
「いくぜユウ!」
「ああっ!」
愛のかけ声と同時に俺たちはお互い手をとり、書けだした。
「へ?……あれ!?ちょっ、待てや辻堂ォーーーー!!」
追いかけてくる恋。しかし、いくらインスタント体質とはいえダメージが抜けるわけでは無いのでさすがに追いつくのは無理だ。
◇◇◇◇◇
その後、俺たちはいろんな所に隠れていた江ノ死魔の伏兵達をまくために商店街の複雑さを活かして色んな所に隠れたり走り回ったりして突破した。
そんなわけで、落ち着いた時にはもう日が落ちだしていた。
「はーっ、さすがに疲れた」
「ああ、かなり走ったからな」
お互い砂浜に座っている俺たち。
うん。夕焼けに染まる空と海、江ノ島もとてもきれいだ。
「逃げるのってやっぱイイな。楽だし、すげーしてやったりって感じ」
「逃げるが勝ちって言葉もあるからな」
「……知らなかった。最近ケンカがつまらないと思ってたけど……そっか、こんなやり方もあるんだな。ありがとな。ユウといると勉強になるわ」
「それはよかった」
そしてまた、二人で海を眺める。俺はふと愛の横顔を見るその顔はこの場にある海や空よりも綺麗だと思った。
「あとさ、ユウ。迷惑じゃないか?」
「迷惑?……なにが?」
俺の方を向きながら突然、愛が訪ねてくる。何のことについてなのか分からなかったので聞き返した。
「あ、アタシの嘘でも恋人だって言ったこと」
「ああ、そのことか。別に迷惑でも無ければ嫌でも無いよ。だって、俺……愛の事好きだし」
「!?」
ボンッ!という音と共に愛の顔が赤くなった。夕日のせいもあるのか余計に赤く見える。
だけど、そういう反応や顔がいちいち。
「可愛いって思うんだよな……これが」
「かわ……っ、か、か……バカかお前は!」
なぜか、怒られた。
「あ、アタシは辻堂愛だぞ」
「ああ。知ってるけど」
俺も名字辻堂だし、てか従兄だし。
「稲村仕切ってる身だし、ケンカ最強が代名詞なのにお前みたいなヤツが……なんて、合わねーし。そもそも、誰かと付き合う気なんてない。ンなことしたらナメられるだろ。それにアタシは湘南中に敵がいるからユウを危険な目に遭わせたくない」
後半は俺のことを心配してくれての事なのが嬉しい。
「でもあれだけ恋の前で堂々と言ったんだからせめて3会までは恋人のフリしとかないとな。バレたらバレたでメンドイぞ」
「あ、ああ。それは確かに…」
「……」
「……」
再び沈黙が生まれる。さてさて、どうしたものか…。
「あ、あのさ……」
最初に口を開いたのは愛だった。
「しばらくの間お願いしてもいいか?」
「ん?なにを?」
「その……恋人のふり…を…」
「ああ、任せろ」
「そっか……サンキュ」
安心したのかホッと胸をなで下ろす愛。
「んじゃ、そろそろ帰るか」
立ち上がり、言う。
「ああ、そうだな」
愛も後に続いて立ち上がる。
そして、二人並んで家路についた。
Side 辻堂愛
家に帰ってきてすぐ、アタシはベッドに横になった。
今日は、いろいろなことがあって疲れた。
「恋人……かぁ……」
ポツリと呟くが……
「うああああああああああああああ~~~~~~っ!」
その瞬間、すっごく恥ずかしくなって思わず叫んでしまった。
でも、うれしい。嘘でもユウと恋人同士になることができた。
「あ、そうだ。メールしよ……なんて書こう。とりあえず、『明日の昼メシ一緒に食べよう?』…送信っと」
あ~……ただメール送っただけなのになんか恥ずかしい。
「………えへへへへ~」
でも嬉しくてニヤけが止まらない。
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