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戦国異伝

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第百八十三話 和議が終わりその十

「その義昭公の具足を着てな」
「織田信長を倒す」
「そうされますな」
「この余がな」
 自ら、とうのだった。そうした話をしてだった。
 義昭は酒を飲んだ、それで景気をつけて笑顔で述べた。
「美味いわ、ではやがてはな」
「勝利の酒をですな」
「それを飲みますな」
「うむ」
 そうするというのだ。
「織田信長を降し」
「そして」
「天下もまた」
「織田家の所領は全て幕府のものとする」
 取らぬ狸の皮算用だが義昭にとってはそうではなかった。彼にとっては既に決まっていることであった。そうしてだった。
 そうした話をしてまた酒を飲む義昭だった。彼にとってはその酒は勝利の前祝いの酒であった。
 織田家の軍勢に浅井の軍勢も合流した、そのうえで。
 長政は信長の前に来てだ、こう言った。
「義兄上、遅れて申し訳ありません」
「朝廷には挨拶はしてきたな」
「してきました」
「ならよい、それにじゃ」
「それにとは」
「遅れておらぬ、丁渡じゃ」
 考えていた合流するその時にだ、間に合ったというのだ。
「だからよい」
「左様ですか」
「うむ、それではな」
「今からですな」
「共に摂津に向かうぞ、しかしじゃ」
 信長は長政の顔を見つつ彼に問うた。
「公方様は如何されていた」
「あの方ですか」
「そうじゃ、どうであった」
「どうもです」
 義昭の話になるとだ、長政は警戒する顔になり信長にこう答えた。
「義兄上に不審なものを抱いておられます」
「左様か」
「おそらくですが」
「挙兵じゃな」
「銭に兵を集めております」
「左様か、それではな」
 ここまで聞いてだ、信長は長政にこう告げた。
「浅井の軍勢は軍の一番後ろにおれ」
「後ろにですか」
「そして都で何かあればな」
「その時はですな」
「真っ先に引き返してな」
 そうしてだというのだ。
「都に向かえ、よいな」
「そして公方様をですな」
「そうじゃ、勘十郎を助けよ」
 信行をというのだ。
「あ奴にも何かあればすぐにわしに早馬を送る様に言っておる」
「さすれば」
「その時はすぐに御主が向かえ」
 そうせよというのだ。
「よいな」
「畏まりました」
「殿、その時ですが」
 林通具がだ、信長に言ってきた。
「朝廷に民は」
「わかっておる、火の手はな」
「決して」
「勘十郎にも言っておる、あ奴は民を巻き込みはせぬ」
 戦は決して上手ではない、だが民を不用意に戦に巻き込むことはしない。信行はそうした男であるのだ。
 信長もわかっている、それで言うのだ。
「だからじゃ」
「その時は」
「本願寺はその後でもよい」
 幕府のことを終わらせてからでもというのである。
「石山は幹や」
「他は枝ですな」
 長政は幕府も入れて話した、その枝に。
「そうですな」
「そういうことじゃ、枝を先に払ってからじゃ」
「幹をですな」
「切る、よいな」
「畏まりました」
 長政は信長に応えてだ、そうしてだった。
 彼に言われた通り進軍する織田家の軍勢の最後列についた、そのうえで織田家の大軍と共に摂津に向かうのだった。


第百八十三話   完


                             2014・5・22 
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