戦国異伝
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第百八十三話 和議が終わりその七
「そうするのか」
「いけませぬか」
「悪ふざけは止めよ」
その顰めさせた目での言葉だ。
「御主の悪い癖じゃ」
「いや、これがですな」
「違うというのか」
「はい、戦の前の舞を」
「それは後にせよ」
彼の叔父である前田が出て来て言った。
「舞はな」
「今は駄目ですか」
「出陣したすぐじゃ、それは夜にでもな」
「その時にですな」
「そうじゃ、せよ」
その時にだというのだ。
「今は馬に乗っておるしな」
「それもそうですな」
「そうであろう、舞は夜じゃ」
「さすれば」
「まずは無事に出陣出来て何よりじゃ」
前田はこのことを喜んでいた。
「このまま都から摂津に入りじゃ」
「石山じゃ」
柴田がその前田に話した。
「石山攻めじゃ」
「左様ですな」
「まずは先陣の我等が石山を囲みじゃ」
そうしてだというのだ。
「続いてな」
「二陣の牛助殿や美濃三人衆が率いられて」
「そして第三陣じゃ」
「第三陣が久助殿ですな」
羽柴が柴田に応えた。
「そうなっていますな」
「忠三郎もおってな」
蒲生もだというのだ。
「それぞれの陣におるわ」
「そうでしたな、十五万の大軍が」
前田がこの数を言った。
「石山には三郎五郎様が率いておられる五万の軍勢がおられます」
「鬼若子殿もおられます」
「何としても勝つ」
織田家も総動員だ、それだけにだと言う柴田だった。
「そうして安土に戻らねばな」
「左様ですな、ではまずは」
「海ですな」
慶次が前田に言ってきた。
「海の戦ですな」
「それじゃな、二郎の戦じゃな」
「左様ですな」
九鬼、彼のだというのだ。
「二郎殿ならば必ず」
「勝つな」
「はい、幾ら毛利の水軍といえど」
「そう思うがな」
「毛利の水軍は強い」
柴田がこのことを言った、それも強い声で。
「確かに我等の水軍も強い、そしてじゃ」
「数も多いですな」
伊勢の水軍だけでなく淡路や土佐の水軍もいる。そこに紀伊にいる水軍も入っているのが織田家の水軍なのだ。
「毛利家のそれ以上に」
「だから勝てると思うが」
「油断はなりませぬか」
「毛利の水軍は伊予の水軍じゃ」
その彼等はというと。
「あの村上水軍じゃ」
「精強を言われておりますな」
羽柴も今はにこりともせず柴田に応えた。
「天下一の水軍とも」
「あの辺りは昔から海賊が多い」
「左様でしたな」
「それこそ昔からな」
藤原純友の頃からだ、とかく瀬戸内の海賊は昔から強いのだ。
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