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第五章


第五章

 そのうえで秀典の制服を自分の手で受けてそのうえで彼に手渡したのだ。かなり律儀であった。
 その律儀に受け取ってからだ。また言ってきた奈々だった。
「有り難うございました」
「ああ」
「おかげで助かりました」
「こうした時はお互い様だからな」
 こう返す秀典だった。
「気にすることはない」
「そうですか」
「ああ。しかし」
「しかし?」
「何かあったのか」 
 最初ノックして声をかけてもだ。返答がなかったのでそれが気になったのだ。
「どうしていたのだ、それで」
「服を着ていました」
「服をか」
「はい、それでなんです」
 また言う奈々だった。
「お待たせして申し訳ありません」
「それならいい」
「そうですか」
 ここで奈々の顔を見るとだ。何故か焦った感じだ。何か絶対に人前では服を着ないといけないといったようなだ。そうした顔であった。
 秀典はそれに気付いた。しかしそれはあえて聞かずにだ。奈々の手から制服を受け取ってそのうえでこの日は別れた。しかしまた別の日にだ。
 衣替えが済んだある日のことだ。その日もまた雨だった。今度は学校の帰りに皆と別れて自分の家の最寄の駅から家まで歩いて帰る時だった。その駅で帰るのは彼だけだったのだ。だがその最後の帰り道で不意に土砂降りになったのである。
 それで急いでとりあえず歩道橋の下に入った。そこにだ。
 何と奈々も入って来た。これは思わぬ再会だった。
 奈々の方もだ。彼の顔を見てだ。目を丸くさせて驚いた顔になった。その顔で彼に言ってきた。
「まさかお家は」
「もうすぐだ」
「そうだったんですか」
 それを聞いて納得した顔になる奈々だった。
「それで」
「そっちもだったのか」
「はい、この街の生まれで」
 そうだったというのだ。
「もうすぐに家だったんですけれど」
「しかしここでか」
「ええ、雨に遭って」
 こう話していくのだった。
「それで」
「何か雨の日に合うことが多いな」
「そうですね」
 秀典の今の言葉にそのまま頷いた。
「これも縁ですね」
「そうだな。あの時も」
「あの時は有り難うございます」
 保健室に入った時の話である。
「おかげで助かりました」
「気にしなくていい。だが今は」
「今は」
「生憎だが制服はない」
 衣替えの結果だ。秀典は今は白いブラウスだ。それがかなり濡れて透けてさえいる。髪も完全に濡れ雫が滴り落ちている。そして奈々もそれは同じだった。
 その彼女のだ。濡れてしまったせいで透けてしまっているブラウスの左肩のところにだ。彼は見てしまったのである。それをだ。
 何かケロイドになっている感じだった。それを見てしまった。そして奈々もだ。彼の視線に気付いてしまったのだ。
 咄嗟にその左肩を隠す。しかしであった。もう既に見られてしまった。手遅れだった。
 それで言葉を自然に出してきていた。それは言い繕いのものだった。
「これは」
 秀典は問わない。自分から話してしまっている。
「小学校の時に」
「何かあったのか」
「家でやかんを沸かしていて。それを誤って零してしまって」
「沸騰した湯をかかってしまったのか」
「はい、それでなんです」
 事故によってというのだ。それで火傷を負ってしまったというのだ。
 
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