戦国異伝
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第百八十二話 山中鹿之介その八
「何かあればわしが行く故な」
「その二万の兵で、ですな」
「都を守れ、よいな」
「畏まりました」
信行は頭を垂れて信長の言葉に応えた。
「さすれば」
「まさかとは思いたいが」
それでもだった、今の信長は直感的に感じていた。それで信行に対しても鋭い目になりそれで語るのだった。
「公方様が動かれるのならな」
「本願寺との戦が起こった時ですな」
「本願寺と毛利には兵の殆どを向ける」
織田家の、というのだ。
「無論主立った家臣達もな」
「殆どを向けます故」
「そうじゃ、だからじゃ」
それ故にというのである。
「都で兵を挙げるのならその時こそじゃ」
「ではやはり」
「普段の幕府ならその心配はない」
最早何の力もないからだ、領地も銭も兵もない。最早幕府は都の片隅にあるだけの存在でしかないのだ。
だが、だ。あの二人の怪僧がいて何処からか銭を集めているのならだ。
「銭があればな」
「兵糧も買えてですな」
「兵も雇える」
それでだというのだ。
「危ういわ」
「最早幕府は只の神輿ですが」
ここでこう言ったのは信広だった。
「それでも兵を挙げられますか」
「幕府は武門の棟梁じゃな」
信長はその信広にも話した。
「そうじゃな」
「はい、確かに」
「それだけにまだ権威はある」
確かにお飾りであるにしてもだ、幕府にはまだそれがあるというのだ。
「そしてその権威を絶対と思うのなら」
「それに相応しい力を持ちたいとですか」
「思うが故にだ」
それでだというのだ。
「今の状況を疎ましく思っておられてじゃ」
「兵を挙げてですか」
「織田家を倒してな」
そして、というのだ。
「力を取り戻したいのであろう」
「馬鹿な、幕府を担いでいるのは」
「織田家じゃな」
「左様です」
そうだというのだ。
「全く以て」
「その通りじゃ、しかしじゃ」
「それでもですか」
「公方様は違うお考えなのじゃ」
当の義昭は、というのだ。
「あの方は織田家に頭を抑えられておるとな」
「お考えですか」
「最近になってわかってきた」
信長は顔を曇らせて語った。
「そうお考えでな、そしてじゃ」
「さらにですか」
「うむ、それぞれの大名達に文を送られ」
「まさか」
「朝倉にもじゃ」
あの家にもだったというのだ。
「文を送られてな」
「我等を倒せとですか」
「檄を出されていたのじゃ」
そうだったというのだ。
「その他にも毛利や武田、上杉、北条にもじゃ」
「文を送られて」
「わしを倒す様に言っておられるのじゃ」
「その様なことをされていましたか」
「全ては幕府の権威を取り戻す為じゃ」
それでだというのだ。
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