魔法少女リリカルなのは~"死の外科医"ユーノ・スクライア~
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本編
第六話
最初に動いたのはフェイトだった。
「バルディッシュ!!真ソニックフォーム!!」
<Yes,sir>
フェイトはJS事件のときの失態を思い出し、出し惜しみせずに最初から切り札の真ソニックフォームを発動した。
バリアジャケットはレオタードの様な形になり、装甲も最低限にまで薄くなる。
バルディッシュをライオットザンバー・スティンガーの二刀流に変え、トーレとセッテに切りかかったフェイト。
「みんな、彼女たちは私が引き受ける!!だから、先に行って!!」
「フェイトさん!?でも・・・」
「いいから、早く!!」
「っ!!分かりました」
トーレとセッテの実力や戦術を誰よりも理解しているフェイトが彼女たちの足止めに入り、その隙に、他のみんなは先を急ごうとした。
だが・・・・・・。
「させない。IS:真スローターアームズ」
フェイトを迎撃しながら、セッテはISを発動する。
すると、彼女の後ろから、全部で12本のブーメランブレードが出現し、通り過ぎようとしたライトニング部隊に襲いかかった。
「っ!?セッテのIS!?でも、この数は!?」
「ドクターの改良。二年前とは違う」
「そして、それは私もですよ。フェイトお嬢様」
「なっ!?」
「IS:ライドインパルス・改」
そして、トーレのISが発動する。
次の瞬間、フェイトはトーレに投げ飛ばされていた。
(っ!?一体何が起こったの!?)
とっさに受け身を取ったものの、何をされたのかが全く分からず、フェイトは激しく動揺する。
実は、この二年間で彼女たちナンバーズのISはスカリエッティの改良により、その性能は格段に上がっていた。
例えば、セッテのISは、最大制御本数が四本から十二本にまで増加し、トーレのISは、かつての高速機動に、関節部分の精密かつ高速な駆動能力が追加されたのだ。
これにより、セッテの膨大な数のブーメランブレードがライトニング部隊の行く手を阻み、トーレのインファイトに、接近戦が得意なはずの隊長陣が圧倒されていた。
「くっ!!さすがに強い!!」
これには、かつて彼女たちに勝利したフェイトでさえも苦戦していた。
他の隊員たちが援護に入ろうとするものの、セッテのブーメランブレードや大量のガジェットに邪魔され、さらに、トーレとフェイトの高速戦闘についていけず、容易に援護できなかった。
「くっ、アギト!?」
<おう!!>
「「火竜一閃」」
「IS:ランブルデトネイター」
シグナムの放つ炎とチンクのスティンガーの爆発がガジェットを粉砕した。
「ユウ!!攻撃と防御、どっちがいい!?」
「オイラが攻撃するッス!!」
「了解!!」
エリオは右足を、ユウは左足を前に出し、背中を向かい合わせた格好で、セッテに立ち向かう。
セッテのブーメランブレードの攻撃をエリオのストラーダで弾き、その隙に、ユウの掌打を叩きこむ。
「フリード!!ブラストファイア!!」
「ガリュー、お願い」
キャロとルーテシアはそれぞれの召喚獣と戦場全体の援護に回っていた。
「答えろ、トーレ!!スカリエッティは今度は何を企んでいる!?」
「それを答える義務はありませんよ、フェイトお嬢様」
フェイトはトーレに疑問を投げかけるが、軽く受け流されてしまう。
「ならば、力づくで聞き出すまで!!」
互いの戦力は拮抗し、決着のときは、まだ、誰にも分からなかった。
一方、その頃、トラファルガーの方は・・・・・・。
「ジャック、何やら表が騒がしいようですね?」
「フン。管理局の狗どもがかぎつけて来たんだろう。せっかくの休暇を邪魔しおって」
アルベルトファミリーのボスのところにいた。
ジャックとトラファルガーの前に、監視カメラのモニターが表示され、特務6課とナンバーズの戦いが表示される。
「ほう、貴様らの人形どもも、なかなかの働きをするではないか」
「褒めても、何も出ませんよ?」
「いやいや、純粋な賞賛だよ。君たちの提供する技術力と我々の提供する土地と資金、この二つがそろえば、我らアルベルトファミリーに敵などない。我々は裏社会に君臨し、君たちは研究資金に困らない。これからも我々とよろしく頼むよ」
さすがは巨大マフィアのボス、ビックファザーと言うべきか、すぐ目の前まで敵が迫ってきているというのに、表情一つ変えずにたたずんでいる。
だが・・・・。
「それは嬉しいね。だけど、悪いけど、君とはここまでだよ」
「なに?」
突然の、トラファルガーの言葉に怪訝そうな表情を見せる。
次の瞬間。
「っ!?」
トラファルガーが目の前のテーブルをひっくり返し、ジャックの視界を塞ぐ。
とっさに、ジャックは持っていたアサルトライフルを乱射し、目の前に迫るテーブルを粉々に打ち砕く。
だが・・・・
「残念。外れだよ」
トラファルガーは地面に身を伏せ、右腕を振りかぶっていた。
「『メス』」
そして、トラファルガーの掌打がテーブルを貫通し、ジャックの胸に当たる。
すると、ジャックの胸から、キューブ型の物体が飛び出した。
よく見ると、そのキューブの中には今も鼓動を続ける、ジャックの心臓が詰まっていた。
「ぐっ!?トラファルガー、貴様、何を!?」
遠のきかける意識を意地で繋ぎ止め、ジャックはトラファルガーに、今の凶行を問いかける。
「僕たちが君に近づいたのは、君の持つある物を手に入れるため、それ以上の理由はない。特務6課が来た以上君たちに未来はないが、その前に目当ての物を手に入れなくてはならないのでね」
心臓を拾いつつ、トラファルガーはそう答える。
「さあ、この部屋のどこかにある例の物を渡してもらおう」
「だ、誰が貴様らに・・・・」
ジャックは叫ぼうとするが、そこから先の言葉を続けることが出来なかった。
なぜなら・・・・。
「ぐ、ぐあああああああああああああああああああああああああああああ!?」
トラファルガーは手にした心臓を握りしめると、ジャックが苦しみの声を上げて悶絶しだしたからだ。
「どうです?心臓を直に握りつぶされる苦しみは?今までこのような苦しみは味わったことがないでしょう?」
「や・・・・・・やめ・・・・」
「やめて欲しければ、例の物の場所を教えることですね」
「誰・・・が・・・・・貴様らなんかに・・・」
「そうですか、残念です」
それからしばらくの間、ジャックの部屋には断末魔の叫びがこだまし続けた。
特務6課とナンバーズの勝負は、いまだに拮抗し続けていたが、元々、敵側で特筆した戦力であったのは、トーレとセッテの二人だけであったためか、徐々に特務6課側に傾いてきた。
「はああああああああああああああああああああああ!!」
「っ!?」
フェイトのライオットザンバー・カラミティの大剣がトーレのインパルスブレードを砕き、吹き飛ばした。
「っ!?」
「隙ありッスよ!!」
「しまっ・・・」
トーレの敗北に一瞬動揺したセッテ。しかし、ユウはその一瞬を逃さず、セッテの腹部に強力な掌打を浴びせた。
「がふっ」
あまりの威力に、一撃で戦闘不能となるセッテ。
セッテが行動不能となり、彼女が制御していた、ブーメランブレードが地面に落ちる。
そして、ガジェットはシグナムとチンクが、アルベルトファミリーの精鋭はキャロとルーテシアの召喚獣があらかた倒してしまい、後は捕縛するだけだった。
(テルティウム、セプティムス、そっちは大丈夫ですか?)
(船長。どうにか時間を稼いではいるが、そろそろ限界そうだ)
(もう・・・無理・・・)
(こっちは例の物を奪取した。すぐにこっちに呼ぶからもう少し踏ん張って)
((了解))
「トーレ、セッテ、あなたたちを脱獄の容疑で拘束します」
「残念ですが、フェイトお嬢様、時間です」
「なに?」
「ここでの目的は済んだ、ということですよ」
そう言うと、トーレはもう一度ISを使用し、セッテを担いで逃げようとした。
「ま、待て!!」
「口より手ッスよ、フェイト隊長!!」
言うや否や、ユウはレールガンを二人に向けて発射した。
亜音速のコインが二人に当たり、吹き飛ばす。
「ちょ、ちょっとユウ」
「説教は後ッス。今はあの二人を逃がさないことが優先ッス」
吹き飛ばされた衝撃で発生した土煙が晴れると、そこに二人の姿はなく、代わりに木材にコインが突き刺さっていた。
「っ!?逃げられた?」
「これは一体どういうことだ?」
フェイトとシグナムが疑問を口にする。
<Sir. There was a reaction magic barrier on the verge of a direct hit.Probably,it would be a special barrier associated effect of replacing the position of the object between the same volume.(サー。直撃の寸前に結界魔法の反応が見られました。恐らく、同体積の物体同士の位置を入れ替える特殊結界でしょう)>
「バルディッシュ?でもそれって・・・」
「ニアSランククラスの結界魔導師がヤツらに味方しているということか・・・・。っ!?テスタロッサ、まずいぞ!!」
「ええ、結界班!!大至急、彼女たちの行方を詮索して!!」
「フェイトさん?一体どうし・・・」
「彼女たちには最低でもニアSランクの結界魔導師がいる。封鎖結界を突破される恐れがあるよ」
「「「「「っ!?」」」」」
『フェイトさん』
「シャーリー、結果は?」
『申し訳ありません。結界を突破された後、長距離転送でどこかの次元世界に逃亡、反応消失しました』
「分かった。こっちは当初の目的通り、ボスのジャック・アルベルトの確保に移ります」
『分かりました。お気をつけて』
その後、彼女たちがボスの部屋に踏み込んだときには、白眼をむいて気絶し、縄で拘束されたジャックがいるだけだった。
結果的にはアルベルトファミリーは壊滅したが、多くの謎が残ってしまった。
「お疲れやな、フェイトちゃん」
「うん、ありがと、はやて」
「それにしても、厄介なことになったな。ただでさえ強い戦闘機人のISの性能が格段に上がっているのに加えて、謎の結界魔導師の協力者か」
「確かに厄介だけど、私たちだって、負けるわけにはいかないよ」
「せやな」
二人はこれからの事態について懸念するも、彼女たちが飲んでいるコーヒーのように底が見えなかった。
その頃、とある次元船では。
「またせたね。ジョーカー」
「ああ、確かに受け取ったよ」
「二人ともお疲れ様。彼女たちの相手は骨が折れたでしょう?」
「はい。この二年、私たちも強くなったと自負していましたが、お嬢様たちの成長はそれ以上です」
「ユウ、強くなってた」
「まあ、彼女たちだから当然と言えば当然なんだけどね・・・。それより、ジョーカー」
「残りの二つだろ?」
「そうだよ」
「一つは捜索中だけど、もう一つはすでに判明している」
そして、モニターが表示され、ある画面が映し出される。
「これは、広告?」
「第87管理世界『バルハーツ』の大オークション会?」
「もちろん、非合法のだけどね。表の世界では市場に出せない武器、麻薬、盗品、奴隷、そして古代遺産など、ジャンルは問わずあらゆるものが出品される」
「ジョーカー、まさか?」
「そのまさかだよ、トラファルガー。その出典品の一つに目当ての物がある」
「なるほど・・・・・しかし、バルハーツ、またあそこに行くことになるとはね」
「懐かしいかい?」
「感傷に浸る余裕はない、急いで準備するよ。この広告だとオークションまで3カ月しかないからね」
次の計画が動き出す。
トラファルガーは自室に戻り、次の作戦を考えていた。
しかし・・・・・。
「ぐ、ごほっ、ごほっ」
せき込みと共に吐血し、床を真っ赤に染め上げた。
すぐに机の上の薬を飲みほした。
次第に薬が効いてきたのか、落ち着きを見せる。
「やっぱり、拒絶反応か・・・」
彼は左腕を中心に改造手術が施され、戦闘機人となっていた。しかし、力を得た代わりに、拒絶反応を緩和する薬がなければ、すぐに体調を崩してしまう不便な体となってしまったのだ。
「頼む。持ってくれよ、僕の体・・・」
彼の願いが通じるか否か。
全ては神のみぞ知ることである。
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