| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

見ればわかる

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
< 前ページ 目次
 

第一章


第一章

                     見ればわかる
 斉藤和樹は所謂できる社員だ。社内でもホープである。
 黒い豊かな髪は癖がありそれがそれぞれの方に流麗に伸びている。細面の顔は引き締まり二重のややカマボコ型の目は見事な二重だ。その目の光が強くそこからもできる人間であることを思わせる。背は高くスタイルもいい。百八十を超えておりスーツがよく似合う。そうして人間である。
 仕事はでき尚且つ人間性も温和だ。しかしであった。
 そんな彼だが何故か社内でも有名な笑い者だった。何故かというとだ。
「やれやれ、また来たよ」
「来るつもりなくてもねえ」
「皆行かせるからね」
「そうそう」
 彼が来たのは秘書課だった。そこにいるのは。
「あの」
「あっ、どうも」
 秘書課のまとめ役で社長の秘書でもある間宮ひとみが出て来た。細い流麗な柳を思わせる眉に黒く奇麗な髪、そしてやや吊り上がったアーモンド型の黒い目、色はかなり白い。やや小柄だがスタイルは中々のものだ。膝までの黒いタイトスカートに同じ色のスーツを端整に着こなしている。その彼女が出て来たのである。
 和樹はその彼女に会うとだ。それまでの冷静沈着な赴きを一変させたのであった。そしてそれはひとみの方も全く同じであった。
「斉藤さん、何かあったのですか?」
「はい、実はです」
 ここで封筒を一つ出してきた和樹だった。
「これを社長にと頼まれまして」
「社長にですね」
「そうです」
 お互い赤い顔になってそのうえで話をしていた。
「是非届けてくれと言われています」
「そうですか。それでは」
「はい、では」
 ひとみは彼からその封筒を受け取った。その動作がかなりぎこちない。クールビューティーと言っていい彼女だがそれが見事なまでに台無しであった。
 そして和樹もまたあたふたと秘書課を後にする。ひとみはも社長室に向かう。秘書達はそんな二人を見送ってからくすくすと話すのだった。
「もろばれよねえ」
「全くね」
「二人共」
 こう話し合うのであった。
「一目見てわかるからね」
「それでもお互い何も言わないし」
「っていうか言えない?怖くて」
「そんな感じよね」
 実に楽しそうに話し合うのであった。
「どっちか告白すればいいのにね」
「相思相愛なんだし」
「お互い相手の気持ちには気付いてないみたいだけれどね」
「気付いてるんじゃないの?」
 ここで秘書の一人が言った。割りかし年配の女である。
「二人共。確信を持っていないだけで」
「確信はしてないんですか」
「二人共」
「察しはついていでも」
「そして確信が持てないなら」
 その年配の彼女の言葉である。
「斉藤君もひとみちゃんも動かない人だしね」
「特にああしたことには」
「そういうことですね」
「そういうことよ。さて」
 また言う彼女だった。
「もうこの本社の誰もが知ってるけれど」
「間宮さんの叔父さんも」
「社長さんも」
 つまり自分の姪を秘書にしているわけである。確かに血縁者の採用だがそれでも彼はあえてそうしているのだった。その理由も話される。
「将来我が社の知恵袋となる間宮さんの英才教育の為に置いてるけれど」
「それで社長は気付いてるのかしら」
「ああ、気付いてるわよ」
 ここでこう言われるのであった。また秘書の一人が言ったのだ。
「この前ね。専務とお話をしてるの聞いたんだけれど」
「専務と?」
「それでどうなの?」
「斉藤さんと間宮さんはそお互い好き合ってるんじゃないかって」 
 そうではないかというのだ。
 
< 前ページ 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧