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サラリーマンの願い

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第四章

「話を聞いてるとな」
「そう思えませんか」
「給料減ってかみさんに冷たくされて残業だらけで休日もなくて部下と上司に気を使って子供さん達も冷たいんだろ」
「はい」
「それで何処が幸せなんだよ」
「ですから仕事も家も家族も貯金もあります」
 それで、と返すサラリーマンだった。
「年金もこのままいけば貰えますし老後も」
「病気をしててもか」
「まだ軽いので」
「だからかよ」
「私は幸せな方ですよ」
 優しい微笑みでの笑顔だった。
「私は」
「あんた自身はそう思ってるんだな」
「左様です」
「そうか、あんたは幸せか」
「借金もないですし癌にもなっていませんから」
「幸せな方なんだな」
「総合的に見て」
 そうだとだ、彼自身が言う。
「左様です」
「あんたがそう思ってるのならいいけれどな、けれどな」
「けれどとは」
「願いはないのかい?」
 悪魔としての仕事に戻っての言葉だ。
「それで」
「私の願いですか」
「ああ、願いは何だよ」
 具体的にだ、サラリーマンに問うのだった。
「一体」
「そうですね、それは」
「それは?」
「幾つもといいましたね」
「ああ、給料かい?華族かい?それとも仕事か病気かい?」
「そうですね、世界平和でしょうか」
 サラリーマンは微笑んでだ、リドルに答えた。
「願いとなると」
「世界平和!?」
「私は幸せですから」 
 自分ではそうだと思っているからだというのだ。
「ですから」
「それでかよ」
「はい、私の願いはです」
「世界平和か」
「そうです、それです」
「成程ねえ、世界平和ね」
「七夕の短冊にもいつも書いています」
 七月七日のそれにもというのだ。
「皆が少しでも幸せになれる様にと」
「そんな願い俺には無理だな」
 適えることは、という意味での言葉だ。
「とても」
「では貴方の願いは」
「出世だよ」
 リドル自身のことを彼が悪魔であるということを隠して答えた。
「職場のな」
「そうですか、貴方は出世がですか」
「願いだよ、これでも偉くなりたいんだよ」
「では貴方も頑張って下さい」
「ああ、けれどあんた本当にな」
 ここでまたサラリーマンに問うたのだった。
「自分のことはいいんだな」
「はい、特に」
「家庭のこととかはか」
「お守りを買っていますので」
 こうリドルに言うのだった。
「ですから」
「ひょっとしてな」
「はい、私のお願いはです」
「神頼みかよ」
「毎年元旦に神社で」
 微笑みでだ、サラリーマンは彼に話す。
「お願いしています」
「誰かに願いを適えてもらおうとか思わないのかよ」
「誰かとは」
「ああ、ほらあれだよ」
 自分のことは話に出しそうになったがそれは途中で止めて言葉を頭の中で考えつつそのうえでサラリーマンに言った。 
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