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ギターにキッス

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第五章

「勝てないぜ」
「そんな客ばかりだからか」
「下手に騒ぐと痛い目に逢う」
「だから連中もか」
「そのしきたりに従ったんだな」
「最初来た時は知らなかっただろうがな」
 しかし、だというのだ。
「事前に察した店の親父からあっちのリーダーに話がいったな」
「それでか」
「連中完全に大人しかったのか」
「そうだったんだな」
「若し俺達が騒ぐとな」
 彼等がそうしてもというと。
「同じだからな」
「ボクサーやフットボーラーにフクロにされてか」
「店からつまみ出されるか」
「それがこのライブハウスなんだよ、まああれだ」
「あれ?」
「あれっていうと?」
「ロックにはポリシーがあってな」
 そして、というのだ。
「それを守れってことだ」
「音楽はちゃんと聴け、か」
「それだよな」
「ああ、それが出来ないとな」
 そのクラブハウス、ひいてはロックではというのだ。
「駄目なんだよ」
「そうか、それでか」
「あいつ等も何も出来なかったのか」
「そうだよ、それは俺達もだからな」
 ブラック=プリズンの面々もだというのだ。
「ロックを聴く時は絶対に守れよ」
「しっかりと聴く」
「そのことをだよな」
「そうさ、それで俺はこの考えをヘルス=エンジェルスに入れたんだよ」
「ロックのそれをか」
「そうだったのか」
「ああ、ポリシーをな」
 まさにそれをというのだ。
「はみだし者でもポリシーがないとな」
「それがないとな」
「ただのならず者になっちまうよな」
「ならず者になりたいならなればいいさ」
 それはそれでとだ、ジャックもそれは構わないとした。
「しかし只のならず者って格好悪いだろ」
「ああ、正直なところな」
「そんな奴全然格好よくないぜ」
「暴れて悪事働くだけでな」
「全然格好よくないぜ」
「だからだよ」
 それでだというのだ。
「俺はポリシーを大事にしたいんだよ」
「ヘルス=エンジェルスとしてロッカーとして」
「そういうことか」
「そうさ、だからこうしていくぜ」
 ブラック=プリズンのメンバーとして、というのだ。
「はみ出し者にははみ出し者のポリシーを守っていこうな」
「ああ、はみ出し者でも格好よくな」
「そうしていこうな」
「ポリシーを守ってな」
 ジャックはギター、黒く塗ったそれを右手に持ちつつ仲間に言った。それから彼等に対してあらためてこう言った。
「じゃあここを出たらな」
「走るか」
「そうしようか」
「ああ、そうしような」
 こう言ってだ、ヘルス=エンジェルスとして楽しむことも話すのだった。彼も仲間達も確かにはみ出し者だ。しかしそこには確かなポリシーがあった。はみ出し者としてのそれが。


ギターにキッス   完


                          2014・7・23 
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