ガラクタ街
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第九章
「あそこはね」
「はい、あの街は」
「無意識なんだよ」
「無意識っていいますと」
「人間の無意識なんだよ」
それだというのだ。
「深層心理の中にあるね」
「あそこはそれなんですね」
「そう、だから色々な人がいて」
「ああして入り組んでいて」
「色々な場所やものがあるんだよ」
「そうなんですか」
「雑然としていて猥雑でね」
そして、というのだ。
「それでいて妙に居心地がいいんだよ」
「あれだけ訳のわからないところでも」
「君も居心地よく感じたね」
「はい、僕もです」
その通りだとだ、リンデンはモスコミュールを飲みつつロートに答えた。ロートが今飲んでいるのはピートフィズだ。
「不思議と馴染めました」
「そうだね。そうした場所だからね」
「人間の無意識だからですね」
「夢でたまにね」
今度は夢のことを話に出すロートだった。
「ああした。不思議な世界に行くね」
「言われてみれば」
「あれが無意識なんだよ」
「人間の」
「それがあの街なんだよ」
「そうした場所なんですか」
「一度入ったら中に出られないんじゃなくて」
そうではなく、というのだ。
「出たくなくなるんだよ」
「そういえば僕も」
「僕もだよ」
ロートは気さくな笑顔でリンデンに話した。
「あそこが好きになったよ」
「じゃあ先生は」
「ううん、若しかしたらね」
自分で笑って言うロートだった。
「あそこに入ってね」
「そうしてですね」
「生きるかも知れないね」
「学校もありましたし」
「不思議な学校がね」
何と建物のうちの一つがそれになっていた、そこに生徒が入り先生がいる。しかも教室には犬や猫がいて通路にもなっている。不思議な学校だった。
「保育園から高校までね」
「ありましたね」
「地下にもね」
「屋上の保育園とか」
「横にはゲームセンターやスナックコーナーもあって」
そこで軽食全般が売られていたのだ。
「あれも不思議だったね」
「とても」
「けれどね」
「学校もあったから」
「僕もそこに入れてもらえれば」
教員免許は持っている、それならだった。
「生きる糧があるからね」
「実は僕も教員免許ありますから」
「あそこで生きていけるね、学者として」
「はい、出来ます」
「あそこは図書館も博物館もあるから」
こういったものは地下にあった、それもかなり大きなものが。
「学問にも困らなくて」
「そうした意味でもいい場所ですね」
「うん、だからこれからもね」
「これからもですね」
「そう、何度もね」
「行きますか」
あそこにね」
こう二人で話してだ、そうしてだった。
二人で酒を楽しむ、そのうえでその街に何度も行きその不思議な街を学びそのうえで楽しむのだった。
ガラクタ街 完
2014・6・20
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