ガラクタ街
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第一章
ガラクタ街
この市には面白い場所があった。
通称ガラクタ街と呼ばれている、この街はというと。
道は曲がりくねり狭くなり広くなりだ、しかも建物が複雑に入り乱れ一度入ると中々出られなかった。そうした場所で。
そこにいる人達もだ、実にだった。
雑多な感じだった、スラム街かというとそうでもない。ただひたすら雑多だった。
それでだ、市のそこにいない者達はその街をこう評していた。
「よくわからない」
「あそこだけは理解出来ない」
「一体どんな場所なのか」
「何処に何があって誰がいるのか」
「本当にわからない」
「この市にはスラム街はないが」
「あそこだけは」
どうしてもというのだ。
「雑多でな」
「警察も入り込めない」
「本当に特別な場所だ」
「混沌としていて」
「何が何だか」
「わからない」
「あんな場所は他にない」
こう言って誰もそこには近寄らなかった、しかし。
市民達のその話を聞いてだった、人文学者のフランツ=ロートは興味を持ってだ。市民達にこう言った。
「そんな場所ならな」
「おいおい、まさか」
「あそこに行くんですか?」
「ガラクタ街に」
「あそこに」
「行ってみようかな」
こう言うのだった。
「この市の研究に」
「あの街にもですか」
「行かれるんですか」
「市の研究にはその市の全てを見回らないといけない」
絶対にというのだ、このことは。
「だからね」
「しかしあそこは」
「あまりにもよくわからない場所で」
「一応地図はありますが」
それでもだとだ、市民達はロートに言う。ロートは小太りで毛深い男だ、顔は髭だらけで茶色の髪の毛ももじゃもじゃとしている。学者というよりは何か反抗を言いそうな歌手といった外見だ。ギターを持てば似合いそうである。
その彼にだ、市民達は言うのだ。
「あそこだけは地図があてにならないんですよ」
「一回入ったら中々出られなくて」
「何処に何があるのか誰がいるのかわからないんですよ」
「市長さんも把握出来ない位で」
「警察も入られなくて」
「そうした場所ですよ」
「ですから」
だからだというのだ。
「あそこだけは」
「入らない方がいいですよ」
「何があるかわかりませんよ」
「何が起こるか」
「いや、わからない場所なら」
それなら余計にと言うロートだった。
「行って調べるのが学者の仕事だからね」
「だからですか」
「行かれるんですか」
「どうしても」
「そうされますか」
「そうさせてもらうよ」
ロートは明るい顔で言う、そしてだった。
実際に彼はそのガラクタ街の入口まで来た、見れば整然と整った市でそこだけはだった。様々な大きさ高さ形の建物が雑多に並び。
入口から見ても道は曲がりくねり広さも変わっていた、途中からは見えなくなり何が何だかわからない状況だった。
その入口を見てだ、ロートは大学で助手を務めているアンナ=リンゲンにこう言った。彼よりも小さい童顔で赤髪のソバカスの似合う少女だ。
「さて、今からね」
「あの中にですね」
「行こうか」
こう言うのだった。
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