とあるの世界で何をするのか
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第三十三話 レベルアッパーというもの
「ねえねえ、神代さん。今日はどうする……ってか、神代さんを久々に見た気がするんだけど……」
「そう言われてみれば、最近はずっと騎龍だった気がするわね。今日はたまたま気が向いたから姫羅になってるだけなんだけど」
放課後になって佐天さんから声をかけられるが、佐天さんの言うように今の俺は姫羅である。ここしばらくはずっと騎龍だったので、久しぶりに姫羅になってみたのだ。
「そうなんだー、それで今日は何かしないの? 初春が仕事で忙しくって遊べないんだよねー」
「うーん、特に何かをする予定とかはないなぁ」
ここ最近は爆弾事件が多発しており、初春さんや白井さんがその関連でかなり忙しそうなので、佐天さんもかなり暇をもてあましているのだろう。
「そっかぁ、どーしよっかなー」
「勉強でもしたら?」
「えーっ!」
「えーっ、じゃない! まったく……」
結局、特にすることもないまま俺は佐天さんと一緒に学校を後にしたのである。
「おーい、佐天さーん! 神代さーん!」
佐天さんと二人、何となくぶらぶらと道を歩いていると、道路の向こう側から声が聞こえた。
「あ、御坂さん」
「ほんとだ」
いち早く声のした方を見た佐天さんがつぶやいて、俺も声のした方を見てみると向こう側の歩道で御坂さんが手を振っていた。
御坂さんも合流し、移動販売が居るちょっとした広場で飲み物を確保した後、噴水の近くにある木陰のテーブル席へ座る。
「黒子と一緒で初春さんも大変でしょう?」
「みたいですねー。今日も買い物誘ったんですけど、断られちゃって」
御坂さんの言葉を皮切りに佐天さんが愚痴をこぼす。
「それで代わりにウチが捕まったのよねー」
「まー、爆弾魔が捕まるまでは仕方がないか」
取り敢えず俺も会話に入りつつ様子をうかがう。そろそろセブンスミスト爆破事件が起こるはずなので、みんなで買い物に行こうみたいな会話になるのだろう。
「はぁ」
「ん?」
佐天さんが急に大きなため息をついたので、御坂さんも少し気になったようだ。
「なーんかちょっと、なんだかなぁーって感じなんですよねー」
「へ?」
佐天さんはダルそうにそう言うとテーブルに突っ伏した。どうやらセブンスミストに行く前にレベルアッパー関連の話が来るようだ。
「いやぁ、何て言うか……初春や白井さんはジャッジメント頑張ってて、御坂さんは凄い人だし、神代さんもかなり特殊じゃないですか。それに比べて私はなー、みたいな……」
「うん……」
佐天さんの多少自己嫌悪っぽい話を聞いても、御坂さんから変に慰めるような言葉が出てこないのは、以前俺が釘を刺しておいたからだろう。
「あっ、いや、えーっと、そんな重い意味じゃないんです。ただ、私も能力があったら毎日が楽しいんじゃないかなーって」
俺も御坂さんも相づち以外には言葉を発しなかったので、それに気づいた佐天さんが慌てたように取り繕う。
「あーあ、レベルアッパーがあればレベル5も夢じゃないのになー」
「レベルアッパー?」
やはりレベルアッパーの話になるようである。
「前に話した都市伝説ですよ。能力のレベルを簡単に引き上げてくれる道具なんですって」
「へぇー」
佐天さんの説明に御坂さんが相づちを打つ。前に木山先生の前で俺が言った話とは結びついていないようだ。
「脱ぎ女が居るぐらいだからひょっとしてー、なんて思ってみたんですけど、まーあるわけないですよねー、あははは……」
「それがあるのよねぇ」
「え?」
「…………あ!」
佐天さんがカップの中に残った氷をガリガリとかじりながら言った言葉に俺が返すと、佐天さんが目を丸くして俺の方を見た。御坂さんの方は少し遅れて俺の言いたいことに気づいたようである。
「御坂さんは知ってるよね? 木山先生の論文を読みあさった理由のやつ」
「あ……あれがレベルアッパーってやつなの?」
「レベルアッパーって本当にあるんですかっ!?」
俺が音響結界を張りつつ御坂さんに振ってみると、御坂さんはちゃんと覚えていたようだ。そして、佐天さんの方は都市伝説だと思っていたレベルアッパーの存在に、かなり興奮状態で食いついてきた。
「ウチが行った施設ではレベルアッパーって言われてた。能力の強度を上げるんじゃなくて演算速度を上げるものだから、元々能力強度が高くない人はあまり意味がないかもしれないけどね」
「なるほどね」
「そうだったんだぁ」
俺の説明に御坂さんはうなずき、佐天さんは微妙な表情だった。恐らく「元々能力強度が高くない人はあまり意味がないかもしれない」という部分が引っかかったのだろう。
「でも、それってその……神代さんも使ったの?」
「うん……って言うか、研究所に行ったとき知らない内に使われてた」
遠慮がちに佐天さんが聞いてくるので、俺は至って普通に答えてみた。内容は以前木山先生にしゃべったのと一緒である。
「それで……レベルは……」
「上がってないよ。ウチは元からレベル4判定だったからね」
少し言いづらそうに聞いてくる佐天さんに答える。
「そっかぁ……私が使ってレベル上がるのかなぁ……」
「上がる可能性はあると思うけど、上がったとしてもどの位の時間上げてられるかは分からないよ」
やはり佐天さんの能力への憧れは大きいのだろう、自分にも効果が出るのかを聞いてくる佐天さんに答えた。確かアニメでは能力が使えるようになってから1日経たずして意識不明になったと思うのだが、もし佐天さんがレベルアッパーを使用すればこの世界でも同じ位の時間しか能力は使えないだろう。
「時間制限あるんですか!?」
驚いたように佐天さんが聞いてくる。
「時間制限があるって言うよりも、脳がどこまで耐えられるかって言う問題だからねぇ」
本来ならば脳の演算能力を他人に使われることで意識不明になってしまうのだが、俺自身の設定としては過剰演算に脳が耐えられないと言うことになっているので、その設定に沿って答える。一応現時点では、俺もレベルアッパーの本質について知らず、過剰演算による脳のオーバーヒートが原因で意識不明に陥っていると考えている、という設定なのだ。当然ながら、暗部……というかアイテムに対しては別である。
「え……耐えられるか……って?」
俺の言葉に佐天さんが反応する。ここは多少なりともレベルアッパーの危険性を理解しておいてもらおう。
「さっきも言ったけど、レベルアッパーって演算速度を上げるものだから、それだけ脳に負担を掛けることになるのよね。例えて言うなら……そうねぇ、能力の強度を電球として、演算速度を電力とするわね。そうしたら光の強さがレベルになるんだけどイメージできる?」
「まぁ、何となく」
例え話として正確かどうかは分からないが、分かりやすく例を挙げてみることにした。佐天さんがどの位理解できるかは分からないが、何となくでも理解できればいいだろう。
「それで、御坂さんはそれこそ野球場のナイター照明みたいな電球と巨大な電力を使って光を出してるわけだけど、佐天さんの場合は電球がどんなものか分からないけど電力は乾電池1本分位しかないって感じなの」
「うん」
レベルアッパーの話になってからは空気を読んで割り込んでこない御坂さんを例に挙げて説明を始める。佐天さんの相槌から、ある程度のイメージは出来ていそうだということが伺える。
「それで、レベルアッパーを使うことによって乾電池が2本か3本か……もしかしたら家庭用100V電源ぐらいまでなるかもしれないんだけど、そのときに問題になるのが佐天さんの電球の規格って事」
「どういうこと?」
俺が説明を続けていると、ここに来て御坂さんから訪ねられた。自分が例え話に出されたことで入りやすくなったのだろう。
「もし、佐天さんの電球が御坂さん並だとしたら野球場用の巨大電力まで耐えられるわよね?」
「あー、そういうことか」
御坂さんの疑問に例え話で返すと、さすがに御坂さんはすぐ理解してくれたようだ。
「えーっと……逆に電球が小学校の理科で使うようなちっちゃいのだったら、その巨大電力に耐えられない……と?」
俺と御坂さんのやりとりを佐天さんもちゃんと理解してくれていたようだ。
「うん、そういうこと。だからウチはレベルアッパー使われた後に、脳科学の論文だったり能力の演算に関する論文だったり、果てはAIM拡散力場の論文まで集めて過剰な電力が流れないように……って言うか、レベルアッパーによって無茶な演算をされないように対策したのよ」
取り敢えず佐天さんの理解も充分だと判断して、俺は締めくくりに入る。
「ちょっと論文を読んだくらいで対策できるって時点でかなりのものだと思うけどね」
「なんか、それが凄いのかどうかがよく分からないんですけど……」
俺がレベルアッパー対策をしたことに対して、呆れたような御坂さんとその部分をまだ理解できてない佐天さんはある意味対照的だった。
「まー、そこまでの例え話が分かれば、もし佐天さんが乾電池1本で光らせる豆電球だったとして、そこに乾電池を2本3本とつないでいったらどの位の時間持つかなっていう事よ」
「あー……そっかぁ」
佐天さんがレベルアッパーを使ったらどうなるかということを電球の例えで伝えてみたが、それで本人も充分に理解できたようである。
「一応言っとくけど、レベルアッパーが使われたウチ以外の子供たちは何人か倒れたみたい。意識不明の重体らしいわね」
「げっ、そっ……そうなんだ……」
最後に電球の容量をオーバーしたらどうなるのかも伝えておいた。恐らく佐天さんはネットからレベルアッパーを入手するはずなのだが、今回のことでその危険性を知ったわけだから、それでもレベルアッパーを使うとするなら、それだけの危険を冒してでもレベルを上げたい渇望があるということなのだろう。今後レベルアッパーを使うのかどうか、佐天さんから相談されればやめるようにアドバイスするつもりだが、そうでなければ佐天さんの判断に任せようと思っている。
「ねえ、皆で行こっか」
「へ?」
「ん?」
少し沈んだ雰囲気の中、唐突に御坂さんが話し出したのだが、佐天さんも俺も話についていけなかった。
「黒子に聞いたんだけどさ、明日は初春さんも非番でしょ。だから5人でどこか買い物でも行こっかって話」
御坂さんが本題を切り出す。内容から考えて、もう音響結界の必要はなさそうなので解除しておく。
「そうですねー、非番なら初春も来ると思うし」
「ってか、御坂さんが来るなら初春さんは間違いなく来ると思うけどねぇ。お嬢様大好きっ子だし」
初春さんのことを良く知る佐天さんの言葉に俺も続ける。初春さんなら喜んで来るだろう事が容易に想像できるのである。
「あ……あははは……」
自分がお嬢様らしくないということは本人も充分に分かっているようで、御坂さんは乾いた笑い声を上げていた。
「それで、佐天さんは何買うの?」
今日、初春さんを買い物に誘っていたことはさっき聞いているので、佐天さんにそう尋ねてみた。
「あー、買うって言うか……新作の水着とか見ときたいかなって思って」
佐天さんの目的はどうやら只のウィンドウショッピングだったようだ。まぁ、レベルから考えても毎年新作水着を買って遊びに行くなんてことは無理だろう。
「水着かぁ、事件が解決したら皆でプールにでも行く?」
水着から連想したのか、御坂さんから提案される。
「いいですねー」
「プールもいいけど海に行きたいなぁ」
佐天さんは乗り気のようだが、俺はプールよりも海の方が好きなので一応そう言ってみた。
「海に行くんだったら学園都市の外に出ないといけないじゃない」
「それはそれで面倒なんですよねぇ……」
そうなのである。学園都市は海に面していないので、海に行きたければ学園都市の外に出なければならないのだ。学園都市の外に出るためには色々と面倒な制約があるので、ちょっと遊びにという理由で外に出る人はほとんど居ないのである。
「まー、プールで充分なんだけどね。ウチも、水着買って、プール行って、ナンパされて、一夏のアドバンスト・ツールを……」
「いや、アドバンスト・ツールって何!? それ以前に、アバンチュールだとしても神代さんは駄目でしょ!!」
「おぉー、御坂さんが怒濤の連続ツッコミしてるっ」
「アンタがさせてるんでしょーがっ!!」
こうして明日、セブンスミストへ皆で出かけることになったのである。
後書き
お読みいただいている皆様、ありがとうございます。
2ヶ月ぐらいブランクがあったせいか執筆速度が上がらない……キーボードを買い換えたのもあるかもしれないけど><
まあ、実際のところキーボード買い換えの方は逆に入力速度が上がった気がするんだけど、頭の中に浮かんでる状況を文章にするとき適切な言葉が出てこないっていう……それじゃー駄目じゃん。(春風亭昇太風)
ついでに現在ATOK2014を試用中。文章の変換効率は多少良くなってるのかもしれないけど、1万円弱のお金を払って購入するほどかと言われれば微妙。たまに、前後の文脈からはあり得ない変換とかしてるし……。
2014/11/21 ーが-になっていた部分の修正
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