戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~
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二十二章
光璃と美空との関係について
「あ、隊長の指令ですが、夕霧に聞きたいことがあります」
「何でやがりますか?」
「ザビエルの事については、どこまでご存じですか?」
「それ!それ、綾那も気になるです!」
「確かにそうですね。ザビエルとやらの正体はいまだに分かりませんし・・・・」
「うーん。ザビエル某に関しては、姉上は何も教えてくれないでやがりますよ」
「私たちや春日は知っていそうでしたが、聞いても教えてくれなかったらしいです」
「姉上に何かの相談を受けて、その後で黙ることに決めたでやがりますかね?夕霧も何だかんだで出掛けてる事が多いでやがりますからなぁ・・・・」
必要な事を必要なメンツにだけ・・・・という事ですか。もしくは報告を聞いた光璃様だけが気付いているのでしょうか。
「駿河の件を黙ってた時のような?」
「でやがりますな。恐らく、母上の事並に大きな混乱があるか、それなりの意味があるのでやがりましょう」
信虎の件は、聞きましたから分かるには分かります。ですが、実際私たちとは面識のないはずのザビエルの件まで黙っているとは、どういう事なのでしょうか。詩乃さんも何か気付いているみたいですし、隊長も何となく知っているようですし。
「では、ザビエルの件は保留との事でもう一つ聞きたい事があると」
「何でやがりますか?」
「光璃様と美空様・・・・長尾景虎との関係についてです」
「痛い所を突いて来やがりますねぇ・・・・」
「光璃様はあんまり好き嫌いがない器の大きい子だと言っていました。美空様に関してだけは露骨に嫌っているように思えまして」
「あー。まぁ、そうでやがりますねぇ・・・・」
夕霧の言葉は露骨に渋いですね。相当デリケートな問題なのは間違いありません。
「いったい、二人の間で何があったのか。そこが気になるとの事です」
「武田と長尾の和平について、必要でやがりますか」
「それもありますが、二人とも隊長の妾ですから。出来れば仲良くなってほしいと」
大勢力の当主で、何だかんだ気性も自己主張も激しい二人と聞いております。隊長がいるから大丈夫、とは言えませんが。
「んむー。難しいと思いやがりますぞー」
「なぜですか?」
「基本的な考え方の違いというか、生き方の違いというか・・・・とにかく難しいでやがるのです」
そう言って前置きをしながらも、夕霧はぽつぽつと話してくれました。光璃と美空。越後と甲斐の国主だった二人が、不倶載天の敵となるまでの話でした。私たちが夕霧と話している間、私桜花は沙紀が聞いているときとリンクしているようにこちらも話始めました。
「・・・・なるほど。信虎殿を追放した後、お三方で頑張って甲斐を立て直そうとしていらしたのですね」
「はい。その姿勢に、信虎派だった武田家の家臣も、ようやくお屋形様を信頼に足る主だと認めるようになりまして・・・・」
「心さんに桜花さん。味噌の割合は、この位でいいですか?」
「あ、もう少し多めに入れて大丈夫ですよ」
「はい。その調子です。そんな感じですよ、雫」
「了解しました。・・・・播州や一真隊の兵糧とはだいぶ違うのですね。面白いです」
「色々工夫しているからね!美味しいご飯は力の源だから。あと桜花さんも上手ですね。心ちゃん並みに」
「私も隊長のお手伝いや自分で料理をする事が多いですから。まあこういう台所は初めてですけど」
「そうですね。・・・・と、すみません。お話、続けて下さい」
「・・・・ですが、甲州は土地が痩せていますから・・・・どれだけ皆で力を合わせても、他国ほどの米の生産は期待できませんでした」
「それで、信州へ進出を」
「うん。もともとお母さんの頃から、進出していたんだけど・・・・。甲斐の中もある程度落ち着いたし、改めて出ようって事になったんだ」
「確かに信州は肥沃な土地ですし、交通の便も良いですからね。東山道を押さえれば、そちら絡みの収入も見込める」
「詩乃ちゃん。そっちのお鍋、そろそろ一度混ぜてみて。底が焦げ付いちゃう」
「あ・・・・分かりました」
「そして我らは諏訪を制し、街道を整えながら、少しずつ北へと勢力を伸ばしていたのですが・・・・」
「ここー!お腹空いたんだぜー!」
「はいはい。ならこなちゃん、桜花さんが作った陣中食の味見してくれる?」
「って、この人は誰なんだぜ?」
「えーと、お兄ちゃんの奥さんで側室なんだって。名前は桜花さんと言うらしいよ」
と私桜花は粉雪さんとの自己紹介をしておりましたら、沙紀側では話が続いておりました。ここからは沙紀側ですが、もちろんこちらでも同じ事を話していましたけど。
「・・・・そこで、砥石崩れですか」
諏訪を制し、北へと勢力を伸ばしていた武田がぶつかった・・・・恐らく最大の敗戦でした。
「左様でやがります。当時上田を治めてやがった村上は、卑劣にも鬼の手なんぞ借りやがりまして・・・・」
「でも、鬼は根切りにしたですよね?」
「もちろんでやがります。ただ、そこで採り逃がした村上があろうことか・・・・長尾に泣きついたでやがりますよ」
なるほど。その頃は美空様はもう上杉から関東管領の座を譲り受けていたのですね。
「信州は関東管領の縄張りでしたか?」
「いえ。関東は遠江、越後、信濃より向こうの十国とされていますから・・・・隣国ではありますが、直接の関係はないはずです。むしろ、その基準で言えば甲斐が関東に入る・・・・」
「甲斐は関東管領の指図なんか受けやがらんでやがりますよ!」
うーん、どっちなのでしょうか。
「で、そうやって泣き付かれた美空様が動いたと?」
「そうでやがります。それまで信州には手を出さずに眺めてるだけだったくせに、いきなり手を出してきやがったのですよ」
「ふむぅ・・・・なんでです?」
そこまでは分かりませんね。泣き付かれたという事もですが、甲斐が目障りだったのでしょうか。それだったら早いうちから言ってくると思いますし。
「単に、越後の平定に時間がかかっていただけでは?」
「そういえばそうですね」
美空様は姉の跡継ぎをした後は豪族や晴景派の残党と権力争いで大騒ぎをしていた時期でしたかね。夕霧たちを見習って仲良くすればいいのですが、というと美空様は拗ねますね。
「きっと姉上に嫌がらせするためでやがります!」
「なぜそのように分かるのですか?」
大人げないとは思いつつも、まあそんな事で美空様なら楽しめそうにするでしょうね。隊長はそう思いたくないとの事ですが。
「村上を取り逃がしたあと、長尾から書状が届きやがったのです・・・・」
一方長尾勢と一真隊はというと、ちょうど夕霧たちが話していたところだった。この会話については小型偵察機で聞いていたけど。
「・・・・にしても、美空殿も大人げない」
「うるさいわね・・・・」
「はて、どのような手紙であったか・・・・。幽、覚えておるか?」
「無論、一言一句漏らさずに」
「どんな手紙だったのですの?」
「そのまま諳んずれば宜しいですかな?」
「・・・・いや。分かりやすく頼む」
「・・・・別に読まなくていいわよ」
「まあ、公方様のご命令ですので・・・・それでは。ええと・・・・はいどーもー!上杉憲政様から家督と関東管領を相続した、長尾景虎でーす!もうちょっとしたら改名するけど、まだ景虎でいくねー。よろよろー」
上杉憲政・・・・関東管領を務めてた山内上杉家当主。後に長尾景虎を養子とし、関東管領と上杉の名を譲る。
「・・・・・・・」
「関東管領は関東一円の武士の元締めでーす!鎌倉公方直属で、守護だの守護代だのよりも偉いんだよ!あ、甲斐武田は甲斐の守護だから分かってるよね?ね?っていうかぁー、海なし国の守護ごときがなに色気出して信州なんて進出してるわけ?ぶっちゃけ目障りなんですけどー!どーせあれでしょ。信州の先に狙ってるのは越後だよね?海欲しい?そんなに海と湊欲しい?まああげないけどね!残念でしたー!それに、今まではお飾りの関東管領だったから好き勝手だったかもしれないけど、これからがそうはいかないからね!甲斐は関東の一部なんだからね!い・ち・ぶ!文句があるなら、弓矢もって来たらいいわよー?でもねー、景虎チョー強いから覚悟してね♪悪漢どもに御仏の慈悲は無用なんだよっ!あと、元々北信濃に居た領主ちゃんたちも管領さまを頼ってきてるのよねー。だからさっさと北信濃から撤退して、甲州に戻んなさいな、山猿ちゃん♪・・・・・・・意訳すればこんな感じですかな?」
「うむ。あっぱれである」
「光栄の至り!」
「あんたらその辺の松にでも吊るしてあげましょうか!」
「いやはや。そのようにお褒めの言葉を頂かなくても」
「褒めてないわよ。・・・・っていうか、何でその手紙をあんたが知っているのよ」
「論語あたりを諳んじるのに比べれば、手紙の一通や二通たいした事ではありませんな」
「どうせ他の手紙類も軒並み覚えているんでしょ?」
「はてさて」
「って、そうじゃなくって、何で武田に送った書状が足利家に回ってるのかって言いたいのよ」
「最初の川中島を調停したのは余であるぞ。その時に出された手紙も、資料として武田から提出されておる」
「あの足長娘・・・・」
「・・・・この間の手紙の意趣返しという意味がよく分かりましたわ」
「正直、どっちもどっちっす」
「あんたはどっちの味方なのよ、柘榴」
「うむ。将軍ですら飾り物なのに、関東管領ごときにそれほどの権力があってたまるか」
「・・・・いえ、公方様。そこは胸を張る所ではございませんからな?」
と語っていたようだが、その時であった。偶然梅が空を見ていたら、何かがこちらにやってくるのが見えた。
「・・・・ん?皆さん、あれは何ですの?」
と言った直後にその何かが分かったのか進むのをやめて止まったら、目の前に落ちてきたのがあった。それも隕石ではなく、ドウターであった。それを見て瞬間に武器を構えようとした美空と一葉であったが、そこにやってきたのは大型ドウターとそれを追ってきたIS部隊と1機のMSだった。
「皆さん、下がってください。こいつらの相手は私たちがします!」
「お主らは美咲と凜か?それとあの人型のは?」
「お話している時間はありませんので、下がってください。あなた達の武器では効果がありません!」
とはいうものの、美空は護法五神を呼んで三昧耶曼荼羅をしたり、一葉は自らの刀で向かっていったが、効果はなくそのままIS隊が一葉と美空を後退させてから、IS隊が近接格闘で終わらせた。そのあとMSと大型ドウター1体は何度も剣で切り刻まれて終わったあと、MSは空へと消えて行った。
「だから効果はないと言ったのに。おっと、私たちも行くのでこの事は後程お話致します。それではっ!」
美空と一葉は何か言っていたが、美咲と凜は無視してMSが向かったところへと消えた。残ったのは長尾勢と一真隊。幸い一葉の刀は折れていなかった。一方沙紀たちがその話を聞き終えたところであったが、ドウターが地上に降りたとの報告があったが沙紀と桜花は待機任務継続となった。
「・・・・それは単なる子供の喧嘩ではありませんか」
「何失礼なこと言ってやがりますか!村上の頸を刎ねて仲間の仇を討てないことに、姉上は大変、悲しんでおられやがったのですよ。・・・・長尾のバカがしゃしゃり出てきやがるからです!」
「いわゆる常田の戦いという奴ですね」
「そこから仲が悪くなったです?」
「それだけじゃありやがりません。それからことある事に我らに絡んできやがって、小さな物もあわせれば、どれだけ川中島で競り合いやがったことか」
「で、そのたびに一葉様が調停に?」
「公方様は二度目からは出てきやがりませんでした」
ああ、そういうことですか。一葉様も呆れたという奴ですね。気持ちは何となくですが、分かりますね。それが足利将軍として正しい判断なのかどうかは、少し微妙ではありますけど。
「しかしその度に、信濃の田は荒らされやがりますし、働き手である農民を足軽として動員しやがりますから、国造りも進みやがりませんし・・・・」
「なるほど。・・・・そういう風に聞きましたら、確かに不倶載天の敵ですね」
「そうでやがりますよ!」
「・・・・美空様も同じ事を考えていると思いますけど」
武田がちょっかい出してくるから許さない、って前に言っていたと隊長が言っていましたから。
「なんでやがりますと!」
「視点の違い、というやつですね」
「そういうことです」
「沙紀さんはどっちの味方でやがりますか!」
「どっちもですよ。たぶん隊長も同じことを言いますが、両方とも正しい事だと思いますしね」
「ほへ?」
「武田には武田の。長尾には長尾の。そして攻められて信濃にも、互いに分からない内情というものがあるからこそでしょう」
「そうです。武田は信濃全域が欲しいから、いくら美空様に言われても手を出す。湊が欲しいのも本音はそうですよね?」
「でやがります!」
「美空様は加賀越中を押さえたいのですけど、関東管領という立場もありますし、武田に湊を取られて国を分断させるわけにもいきませんので、圧力をかけます」
それぞれの都合だけを考えればそうなるのは当然ですね。
「ふむー」
「どうしたの綾那?」
「沙紀さん沙紀さん。長尾も武田も、どーして仲良くしないですか?」
「それこそは国の事情というものです。当事者しか分からないことですし」
「当事者じゃないから分かんないです・・・・」
「そうですね・・・・。では、どうして三河は駿河から独立したのですか?駿河の国主は鞠さんなら、別に独立しなくても仲良しになったはずですよ」
「そんなの決まっているのです!三河はもともと松平家の・・・・・・あっ」
「・・・・よく分かりましたが、つまりそういうことなのですよ。三河にも自分たちでないと分からない、譲れない事情があった。だから独立した。違いますか?」
それはそれで必要なこと、というより仕方がなかったんでしょう。そして鞠さんもそれをキチンと理解してた。少し違いますね、鞠さんの場合ですとその辺りを理解しすぎたのだと思います。だから上手く行かなかったと。
「でも、だったらどうして長尾は何度も川中島に行ったですか?武田が川中島より北上しようとしてたのは分かるです。・・・・川中島は、武田が動いただけですか?」
「それもありやがりましたけど、向こうから動いたこともありやがりましたな」
「それが分かんないです。武田が湊が欲しいのはまだ分かるですけど、長尾から攻める理由はないですよね?」
「ふむ・・・・」
「本当に武田が邪魔だったら、そのぶん戦力を整えたり、武田の周りの上野や相模や駿河と同盟を組んで、一気に武田を叩いても良かったんじゃないです?」
相模や駿河は武田と同盟を組んでたはずですけど、後背を突くのは難しいのだろうですけど・・・・その理屈だとまっとうなものですね。
「そこが、あの雌猫の気まぐれのいやらしい所でやがりますよ」
「まあ・・・・そうかもですね」
「そうなのです?」
「多分ですけど、綾那が強い相手と戦いたいと思うのと同じという事だと思います」
「綾那は強い相手と戦いたくても、兵まで動かしたりしないです・・・・」
「・・・・いずれにしても、迷惑な話でやがりますよ」
「武田からすればそうかもしれませんが。・・・・まあその辺りのことがありまして、光璃様は美空様のことを警戒・・・・嫌いになったということですか」
自分の夢であり目標でもある、信州制圧を邪魔されたということだから、光璃様が嫌う理由が分かります。
「それで、春日山城の叛乱鎮圧後の後、隊長や鞠さんを手に入れるために圧力をかけた・・・・という事ですね」
「へへへ、見事にやり返してやりやがりましたよ♪」
常田の戦い、と呼ばれる、村上氏との最終決戦。そのときに横車を押されたことへの意趣返しという訳でしたか。
「これは、思ったほど溝が深いですね」
やって、やりかえされて、という事ですけど。私から見れば子供の喧嘩ですよ。
「ですが、美空様は今もちょっかいを掛けようと考えている・・・・ですか」
何とかなると言いますけど、なるかもしれません。何せ美空様ですから。
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