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戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~

作者:黒鐡
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ニ十章
  武田への対策

「とりあえず久遠に事情を説明しなければならないし、その間に越後の平定も出来るだろうに」

「そうね。考えとくわ」

「必要なら俺達も手を・・・・」

「どやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

貸そうと言おうとしたら、廊下の彼方から聞き覚えのあるどや声が響いた。走っていた足音が止まったのは部屋の前だった。

「ご注進!ご注進にござりますぞ!あまりに緊急事態に越後きっての義侠人、樋口『スパァァァァン!』」

俺は途中で愛菜のセリフを止めた。

「一真さん、いつもすいません。愛菜!話がややこしくなるから、ここには来てはいけませんと言ったでしょう!」

「ど、どやぁ・・・・」

「・・・・いいわ。急用?」

「はっ!南より伝令!春日山南方、海津城方面に左三つ巴、紺地に日の丸、そして風林火山の旗が上がりましたと早馬が!どーん!」

「そう」

まあ足音の音で緊急というのは俺も分かっていた。俺も美空も驚いてはいない。

「やっぱり甲斐の虎が動いたっすか」

「・・・・随分と早いですね」

「絶対狙ってた」

「俺もあまり驚いていないが、それほどのもんなんだな」

「緊急事態なのは間違いありませんが、動きがあるという報告は入っていましたからね。・・・・それにしても、まさか春日山を取り戻した翌日とは・・・・」

「機を見て敏とは良く言ったものですわね」

「ただいやらしいだけよ。あの足長娘は」

足長娘・・・・武田光璃の異名。全国津々浦々のことをよく知っていたことから、足長と呼ばれていたらしい。

「しかし甲斐の虎、武田晴信が動いたとなれば、狙いは御大将でしょう」

「越後の領土と私の命、か。・・・・・そこまで求められたら感じちゃうわね。嬉しくないけど」

「どうする御大将?」

「さて。どうしようかしら・・・・」

「あの、お姉様。空たちは席を・・・・」

「いいえ。この越後の先を決める話だもの。愛菜と一緒にちゃんと聞いておきなさい」

「いえ。愛菜、話が長くなりそうだから、お茶の支度をするように言ってきて頂戴」

「はっ!この越後きっての義侠人『パシィィィィィィイン!』うぅぅぅ」

「さっさと行って来い!」

「ど、どやぁ・・・・」

俺は愛菜に台詞の割愛をしてもらってから、しょぼくれた感じで部屋の外に出る。

「毎度すいません。一真さん」

「愛菜のはこれでやるから、気にしてないよ。もうお決まりみたいな感じだし」

俺はハリセンを空間にしまったけど。それに止めないと話が進まないし。この空気でまだ何も解決してないけど。

「兵は?」

「しばらく立て直しも、周りの晴景派残党の平定も必要っす。八千揃えるのは何とかなっても、下手に打って出たらその間にまた春日山を落とされちゃうっすよ」

「かと言って武田は無視できない」

あちらを立てれば、こちらが立たず。それこそ八方塞がりだな。幸いこちらは一真隊は疲れていても黒鮫隊は無傷と言っていいほどだ。

「あの・・・・宜しいですか?」

「どうかした?ちっちゃな軍師さん」

「はい。同盟国として、いくつかご提案が出来るかと」

「・・・・気前いいっすね」

「同盟国になった以上、越後に倒れていただいては困りますから」

「素直に言うわね。・・・・まぁ、そういうのは嫌いじゃないわ。聞きましょう」

苦笑する美空ににこりと可愛らしい微笑みを一度向けてから、雫は表情を引き締める。ついでにこの会話は俺の通信機から船の連中にも聞いてるようだから、対応策が出たら出れるしな。

「まず最初の一手として、織田と長尾の攻守同盟について周辺諸国に伝わるよう、派手に喧伝いたします」

「ああ、なるほど」

それだけでわかったそうだ。俺もだが。甲斐に背後を気にさせるために、織田との同盟を喧伝するとな。

「武田の背後は、織田、松平、今川、そして北条」

「・・・・織田か」

「一真様の思った通りになりますが、織田家が美濃を手に入れたところで、東山道を経由する信濃の南が隣接されてます」

「そして信濃の南部・・・・以前は諏訪と呼ばれていた辺りも、既に武田の領となっています」

なるほどな。確かにスマホでの情報でもそうなっている。織田と武田はけっこう近くになっている。

「松平は言うまでもなく、織田と同盟中。駿府の今川、相模の北条とも、一時は同盟を組んでいたものの、今の駿府は・・・・」

「・・・・信虎おばさんがいるの」

そうだな。駿府は武田にとっても同盟相手ではなく警戒する相手だ。

「まあ、そこは手を打っているでしょうが、比較的不干渉の立場だった織田と松平が越後側に傾くとなると・・・・武田としては動きにくくなること請け合いです」

「なるほど。そこまでは初手ね。そのくらいなら、いくらしても構わないけど・・・・次手は?」

「はい。次に打つ一手は、正直、賭けになります」

「賭け?」

「賭け、というか。・・・・久遠様が認めてくださるかどうか分からない、ということですが」

「・・・・ふむ」

「あー」

「俺も何となく分かってきたな。それ」

一真隊の主要メンツは分かったようだったけど。俺も何となくだ。正直賭けだな。

「うむ。だが妙案ではあろうな」

「ふぇ・・・・?」

「何でそっちばっかり分かった感じなんすか。ずるいっすよ、一真さん」

「もう分かると思うんだけどな」

「そうですわね。また恋敵が増えるということですわね」

「・・・・・恋敵?」

「そうです」

頷いた雫は一度こちらを向いたが、俺は頷いてから、意を決した言葉を続けた。

「美空様。一真さんの恋人、妾になりませんか?」

やっぱりそう来たか。

「おお・・・・っ!?」

「はぁ・・・・?私がこいつの恋人、妾になればいいの?」

「こいつとは失礼な言い方だな。なあ、帝釈天」

俺は隣に帝釈天に言ったら、無言ではあったけど頷いた。けど反論はしない。

「はい。この日の本で鬼と戦う決意を示すため、織斑一真様という神仏の類、または神様と添い遂げる。・・・・越後ではなく、日の本のために。そう喧伝すれば。日の本全土の為という点、そして婚姻による決意を強調することによって、万人が受け入れやすい大義名分を得ることになります。・・・・これは無形の力となるでしょう」

「なるほど。日の本のために一身を投じた越後に侵攻するとなれば、武田は国賊の汚名をきることになる」

「禁裏より勅を得、且つ、幕府より正式に認められている創造神・織斑一真様の恋人に弓引くは、畏れ所に弓引くことと同じである。という寸法ですな」

「はい。武田が退くかは分かりませんが、少なくとも越後内部の平定には十分な効果が発揮するかと」

「・・・・確かに」

「いま春日山を攻めたら、関東官領どころか禁裏にも弓引くことになっちゃうって事っすかー」

「その通りです。武田に関しても、この噂を喧伝した後の動きで、何を考えているのかが判明するかと」

攻めるなら朝敵となって立場が悪くなる、攻めないなら後顧の憂いが断てるという事だ。どう転んでも不利なのはこちらだ。黒鮫隊を導入すれば追っ払えるけど。

「だそうだが、美空」

「・・・・・・・」

問うたら返事はない。まあいきなり俺の恋人つまり妾になれと言われたら無言にはなるよな、こういう乱暴な策は。

「一つ・・・・・いいかしら」

「はい」

「いえ。雫じゃなくて、一真」

「俺?別にいいけど・・・・何だい?」

「あなたは私が妾になること、どう思うの?」

「俺としては、越後のため日の本のため、戦況が有利になるから俺の妾になるのは、それはおかしいことだと考えなくとも分かるだろう」

「・・・・・・・」

「そういうのは人身御供になっているだけの事だ。これ以上美空にそういう思いをさせたくないというのはある事だ」

本当なら寺で一生を終えるはずの美空が、豪族たちの都合でこんな所に引っ張られて、自分の姉とも戦う羽目にもなった。挙句の果てに妾まで越後のために決まりましたではおかしいし、そういうのは救われない気分だ。

「だから、もっと納得のいく方法というか丸く収まる方法というか、美空も幸せになれる方法というのも探した方がいいのではないのか?」

「・・・・ふむ」

「主様の言う事にも一理ある。この場におる者は、多かれ少なかれそのような所があるにせよ・・・・」

「俺だって色んな事があったから、ここにいるワケなんだし」

久遠の縁談避けとして、久遠の妾いや恋人になって。俺の使命もあるけど鬼の戦いになって、真の姿も見せてしまったけどね。それとここにいる護法五神も俺の嫁だ。

「俺は無論ここにいる妾も大事にしたいとは思うが・・・・」

「・・・・・・・」

黙ってしまったが、俺もまた考えなければならない。今は一本道でも人には必ず分かれ道があることを。俺は仲間やここにいる神たちに支えながら進んできた。間違いはないはずだけど。

「して、美空よ」

「何よ」

「・・・・お主はどうしたい?」

「・・・・・・・・」

「戦況を有利にするために主様に添う。その判断は間違ってはおらぬし、余も反対などせぬ。鬼との戦う力が足らんのも事実じゃしな。そのために甲斐を押さえる必要があるというのなら、幕府の名でも何でも好きに使えば良い。それに主様はそういう美空も受け入れ、包み込んでくれるであろうし、このように甘い事も言うのも年長者としての判断として言ったのではないのかと余は思うぞ。あとそこにおる護法五神も主様が創った仏でもあるしの。・・・・あとは、美空次第じゃ」

「・・・・見透かしたような事を言うのね」

「伊達に主様に侍っておるわけではないぞ?それに将軍としてお主よりも多くの奸物妖物の類も見ておるつもりじゃ」

「はぁ・・・・参ったわ」

「素直になれば良い。将軍家の娘を二人も娶った、余の自慢の主様であるぞ?」

「・・・・・一真」

俺をじっと覗き込むのは、美空の紅い瞳。白い肌と淡い髪に包まれたそれは、まるで氷の中で燃える炎に見える。

「何かな?」

美空が言いそうになったら、帝釈天たちは何かを感じとったのか、剣を抜き美空の首に寄る。俺を罵倒しようとしたらしいので、そうしたのだと。

「俺を罵倒するなんて百年早いぞ、小娘。どうせお人よしでバカだと言いたいのだろ。そんなのはもう分かっているわ。こちとら何千年生きているんだからな」

「一真様っていったい何歳なのですか?」

「あと純粋な方なのですね。それに帝釈天様達はなぜ剣を向けるのでしょうか?妹だけなら罵倒でも抜かないはずですが『こいつらはもう俺の嫁になったらから怒っているんだよ』なんと!」

「うちの御大将、こう見えて男にまったく免疫ないっすからねー」

「歪んでるから仕方がない」

「聞こえているわよ」

「若いってまぶしいわ・・・・」

「秋子さんババくさいっす」

「し、失礼ね!まだそんな歳じゃありませんっ!」

「なにはともあれ」

「めでたいっすー!」

まあこれで丸く収まったことだしな。自分の意志でここまでやってきたから文句はないでしょと言ってきたから、帝釈天たちは剣を収めた。

「・・・・なんだかんだと文句を言おうとしても、側にいたいと告白しているものですね」

「詩乃ちゃんみたいにね」

「ハニーも素直に受け止めているので、安心しますわ。これも何千年生きている証なのでしょう。わざと甘い事を言って美空様の乙女心を出させたのでしょうから」

「が、外野がうるさいわよ!何好き勝手に言っているのよー」

「そうっすよー」

「あんたもよ柘榴!」

「と、まあ捻くれた御大将ではございますが、よろしくお願い致します。一真さん」

「俺いや我の出来る事は何でもしよう。ということで、よろしくな。美空」

「・・・・はぁ、もういいわよ。よろしくしてあげる」

「やれやれ」

「ほんっと、素直じゃないっす」

「さて。ひとしきり笑ったところで、雫さんの策で進めるという事でよろしいですか?」

「ええ。あんたの妾になったんだから、その名前はしっかり使わせてもらうわよ。一真、一葉様」

「まあいいけど。せめてさん付けか様を付けろ。俺はそこにいる将軍より格が上なのだから」

「主様の言う通りじゃ。じゃがまあ好きに使うがいい」

まあすぐには言わないだろうな。ずーっと呼び捨てになりそうだけど。

「ならば、牽制策に関してはこれで良しとして・・・・」

「次は海津城の武田をどう追っ払うかっすね」

海津城・・・・千曲川河畔に建てられたお城。武田の対上杉の重要拠点である。

問題はそこだな。対策をしたとしても、実際は喉元に刃を突き付けられている。

「左三つ巴は甲斐の片目が来た証拠」

「甲斐の片目って?」

「山本勘助といってね。晴信の懐刀よ」

「その武将、聞いたことあるな」

確かスマホでチラリと見た時にあった奴だ。元々は駿府の間者だったが、その後自分を間者だと見破った晴信に心酔し、武田の帷幕に入ったという。戦国時代の武将。二重スパイだったり、ただの浪人だったりといろいろ伝説はあるが。

「勘助ちゃん?」

「鞠さんはご存じなのですか?」

「ううん。よく知らない・・・・」

間者だから極一部の者しか知らないのだろうな。

「勘助の旗がある。それで紺地に日の丸は信繁が出てきた証拠。となると、後々で晴信も出てくる気満々のようね・・・・」

「また、戦いになるのですか?」

「第三次川中島合戦開戦ってとこっすね!・・・・・・って言いたいっすけど」

「めんどい・・・・」

「それほどの相手ですの?」

「ええ・・・・武田衆は途方もなく強いわ。万全の態勢でない今、まともに戦うのは愚策ね・・・・」

「ですが武田勢はもはや目と鼻の先。一戦交えるのは時間の問題でしょう・・・・」

「さて、どうやって時間を稼ぐか・・・・・」

「こっちを見ても何もしないからな」

「同盟組んで、妾にもなってあげたでしょ?」

「同盟組んでも妾になってもダメなモノはダメだ。一真隊は情報を流すので精一杯だけど、黒鮫隊なら何とか出来ると思っているが、俺が命令しない限り動かさないからな」

「搦め手部隊なのに。あと切り札あるなら出しさいよ」

「切り札は最後にとっておくだろうが」

と黒鮫隊は動かないと言ってあるが、偵察には行ってあるけど。 
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