魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epos49悪夢を終わらせる力/解放の弾丸~Zauberkugel~
前書き
Zauberkugel/ツァオバークリューゲル/魔弾
†††Sideルシリオン†††
アミティエとキリエ、フローリアン姉妹からの事情を聴いた俺とクロノ。クロノはもうしばらく彼女たちの監視と言う名目の元に管理局に残る事にした。そして俺ひとりアースラへと帰艦。
何せ事情聴取後、アースラからマテリアルの内フェイトとすずかの姿を借りた、レヴィ・ザ・スラッシャーとアイル・ザ・フィアブリンガーの2基を確保したという、事態が大きく動いた連絡が入ったからな。
そういうわけでレヴィ達から話を聴くためにアースラへ戻ろうと言う時、俺がフローリアン姉妹を監視するために残って、クロノをアースラへ向かわせようか、と思ったんだが・・・
――認めるのは少々癪だが、戦力的に見て僕より強い君が現場へ向かった方が何かと便利だ。とりあえず君を動かす立場になってみたい。
貶しているのか褒めているのか判らない理由で俺がアースラへ戻ることになった。そしてアースラのトランスポーターへと戻る。まず俺を出迎えてくれたのが『ルシル、おかえり。ブリーフィングルームでみんなが待ってるよ』という、ブリッジに居るアリシアからの通信だ。
「ただいま、アリシア。状況はどうなってる?」
『ついさっき、シュテル・ザ・デストラクターが再起動したみたい。今はルシル待ちかな』
「研修生の身なんだけどな、俺。途中参加でも問題と思うんだが」
『管理局内の階級で言えばそうだろうけど、でも実際ルシルって普通に色々とハイスペックだし。戦力とか思考とかさ。今アースラに居るフェイト達の誰よりも上官に適していると思うよ』
「褒めても何も出ないぞ」
『ケチ♪』
アリシアとそんな他愛ない会話をしながら通路を歩き、ブリーフィングルームへ辿り着いた。室内にははやて達が勢揃いしていて、その側にはなのはの姿を借りたシュテルを含めたマテリアル3基が居た。
「遅くなってすまなかった。・・・君たちがマテリアルか。確か、はじめまして、になるのかな。八神ルシリオン・セインテストだ。よろしく頼む」
こうして直接顔を合わせ、言葉を交わすのはそう言えば初めてだったと思いだして自己紹介。
「そうですね。では改めてご挨拶を。理のマテリアル、星光の殲滅者シュテル・ザ・デストラクターです」
「律のマテリアル、氷災の征服者アイル・ザ・フィアブリンガーですわ」
「ボクはレヴィ・ザ・スラッシャー!雷刃の襲撃者で、力のマテリアルだぞ!」
シュテルとアイルはご丁寧にスカートの裾を僅かに摘まみ上げての一礼を見せ、レヴィは元気よく挙手しての自己紹介だった。本当にレヴィは子供っぽいと言うか、フェイトとは正反対な性格をしている。どちらかと言えばアリシア寄りだな。まぁ元気なのは良いことだ。
「かつての闇の書の主、オーディン・セインテスト・フォン・シュゼルヴァロードの血筋である貴方と出会えたこと、光栄に思います」
「むしろ本人かと思ってしまいます程にそっくりですわよね。見た目も、魔力反応も」
ボソッと呟いたアイリ。元は“闇の書”の一部だったんだ。俺の正体に感づいても仕方ないとは思うが、こんなところで喋られるのだけは勘弁願いたい。俺が人違いだと返そうとしたら、「それじゃあみんなも揃ったことだし、話を聞かせてもらおうっか。シュテル。お願い出来る?」シャルが良いタイミングで話を元に戻してくれた。
(ありがとう、シャル)
「そうですね。では、コホン。まずシステムU-Dについて軽く説明します。あの子のスペックですが、その耐久力はナハトヴァールを軽く凌駕し、そのうえ人間サイズでの高速戦も行えます。攻撃力については、直撃は即撃墜となると思ってください」
実際にナハトヴァール・アウグスタと戦闘を繰り広げたなのは達の表情に陰りが生まれる。俺としても後でその戦闘データを観させてもらったが、アレはなかなかに凶悪な防御力だった。とは言え、アレくらいならまだ俺単独でも倒せるレベルだ。
「そんなあの子をどうにかするには、白兵戦で勝つ必要があります。が、正直に申しますと我々マテリアルや皆さんが束になったところで、完全稼働したあの子に勝つのはまず不可能です」
「でもあなた達は見つけることが出来た。砕け得ぬ闇を止める方法を」
「正確には戦闘動作の停止方法ですが」
「それでも十分や。わたしらはヤミちゃんを倒したいんやなくて、助けたいやから」
はやての言葉にみんなが頷いていく。そもそも今では撃破するのではなく解放したいと言うのが、はやて達の思いだ。はやて達の思いを知って僅かに表情を柔らかくしたシュテルと、未だに理由は解らないが不機嫌っぽいアイルが「ヤミちゃん?」と小首を傾げる。
「U-Dのことだよ。砕け得ぬ闇の闇から取ったって」
レヴィがいち早く答えると、シュテルとアイルは「なるほど」と納得。特段反対するような事柄でもなかったのかシュテルは「対システムU-Dプログラムは大別して、ミッド術式とベルカ術式の2種類があります」とさっさと本題へと入った。
「いずれもカートリッジユニットに装填することで効果を発揮します。カートリッジの効果が効いている間だけ、U-Dに決定打を与えることが出来るのです」
シュテルがそこまで言ったところで俺たちは理解した。砕け得ぬ闇と戦うことが出来るのは「カートリッジシステムを搭載したデバイス持ちしか戦えないということね」シャルの言うように、限られた人員だけだということを。
「ベルカ式の場合は、わたしとルシルとシグナムとヴィータね」
「ミッド式の場合は、私とアリサちゃんとフェイトちゃんだよね」
なのはとシャルが、カートリッジシステムを搭載したデバイスを持つ俺たちの顔を順繰りに見回す。はやての表情に陰りが生まれたのを見逃さなかったが、砕け得ぬ闇への対抗策には条件があるということで俺からは何も言えない。
「そう言えばシュテル。君の言うカートリッジとやらは、俺たち人数分に用意されるのか?」
シュテルに訊ねると、彼女はアイルと顔を見合わせた後、「一応は全員にお渡しします」と気になる言い方をした。
「私とシュテルだけでの充填時間・調整の関係上、全員に完全な形でカートリッジを渡すのは難しいのですわ。確実性を持たせられるのは4発までかと思いますわ」
「あれ、レヴィは?」
「力だけなら私たちの誰よりも強いですが・・・」
「その分、細かなコントロールが苦手なのですわ。要するに戦闘しか能の無い馬鹿なのですわ」
「あー、またバカって言った! マテリアルの存在意義のことを考えれば、戦いで強い方が偉いんだぞー!」
「そこに知能が備わっていなければただの獣ですわ。 はぁ、フラムが居てくださればまだ出来ることが増えたのですが」
「フラムだって、どっちかと言えばボク寄りじゃんかよー!」
レヴィとアイルが口喧嘩を始めたことで、「またかぁ」とフェイトとすずか、なのはやアリサが止めに入る。どうやらあの2人には何かしらの確執があるようだな。とここで「レヴィ、アイル。今すぐお静かに」とシュテルが若干冷ややかな声で2人を止めた。レヴィとアイルは「はいっ」「はいですわ!」と即停戦。
「我々はそれぞれの長所があり、それと同じように短所があります。それを補ってこそのマテリアル四騎士。アイル。律のマテリアルであれば、それくらいは理解しているはず」
「申し訳ありませんわ」
「レヴィ。確かに、マテリアルは戦力あってこそのプログラムですが、それだけに留まらないのも事実。力に任せて逆に振り回されるようではいけません」
「解ってるよー」
「コホン。話が逸れました。フラムが再起動していただければまだ余裕を以ってみなさんにカートリッジをお渡しする事が出来ますが、今はない物ねだりをしている余裕も暇もありません。ですので、主戦力のミッド式・ベルカ式それぞれ2人ずつ、4人の使い手を選択していただければと思います」
そういうわけで、ミッドからはなのはとフェイトとアリサの内2人、ベルカから俺とシグナムとヴィータ、そしてシャルの内2人を選出することに。さぁどうやって決めようかとなったところで、「ルシル、お前さ、ミッド式も扱えるよな」ヴィータがそんなことを言ってきた。真っ先に反応するのが「ちょ、待って、待って、ヴィータちゃん! 私たちが居るって言ったよ!?」なのはだった。
「これまで手伝ってくれたことに関しちゃ感謝してっけど、元々はうちの身内の問題なんだから、お前らはすっこんでろよ。それに、お前らよかルシルの方が強ぇしな」
「ええー、そんなこと言わずにー。私たちだってヤミちゃんを止めてあげたいもん」
「そうよ。ここでお払い箱だなんて納得いかないわ」
「ルシル・・・。ルシルも、私たちはもう用済みで、私たちの代わりに自分がやった方が良いと思うの?」
フェイトの悲しげな瞳にジッと見られるのは耐えられない、これだけは耐えられない。しかもうるうるとしているし。思いっきり抱きしめたい衝動に駆られた。しかしそれだけは今・・・、そしてこれからもやってはいけないことだと、理性で抑え込む。スッと目を逸らしつつ、「ヴィータ。なのは達にも手伝ってもらおう」と俺は彼女たち側へ付いた。
「「「やった!」」」
俺が味方に付いたことで喜び合うなのは達。その反面、「んだよ」と膨れっ面になるヴィータ。
「俺はあくまでベルカ式の騎士だ。ミッド式の使い手が必要と言うのなら、なのは達の方が良い。それに、彼女たちは強い。決して俺より下だなんて思えない」
これも未来への大事な経験値になるだろう。先の次元世界と同じ考えでいい。俺が出過ぎることなく、彼女たちを育てる方向で付き合っていけばいい。
「それでは、あとは皆さんが話し合って決めてください。私とアイルは早速作業に入りますので、決定したら連絡を。アイル、手伝ってください。レヴィ、あなたも一応」
「判りましたわわ」「はーい」
シュテル達がブリーフィングルームを後にする。と、「ごめん、ちょっと席外すな」はやてと、あの子に手を引かれるようにしてリインフォースがシュテル達の後を追って行った。きっと自分たちもどうにかして参戦できないか、と確認しに行ったんだろうな。
最後の夜天の主が、そして管制融合騎であるリインフォースが、今回の一件の最終決戦を不参加で終わるような結末は、俺たち八神家も納得していない。俺たち八神家メンバーはそれが解っているからこそ「いってらっしゃい」と見送る。
「そんじゃ、どうやって決めようか、ベルカ組は」
「あ? シャルロッテはハズレ決定だろうがよ。さっきもなのはに言ったように、これはうちらの問題だ」
「こればかりは譲れんな」
「確かにこれは八神家の問題でもあるだろうけど、管理局員として不参加ってわけには――」
「あたしやシグナム、ルシルだって今や管理局員だっつうの」
「1人はルシリオンだな。あとは、私かヴィータだが」
「だな。シグナム。あたしとお前のどっちかだ」
「ちょっと! わたしを勝手に脱落させないでよ!」
「それと、俺を勝手に加えるな。シグナムとヴィータでいいんじゃないのか?」
「ほら、ルシルが入らないなら、わたしが入る! そしてシグナムとヴィータのどっちかで決めればいいじゃん!」
「アホかお前。空戦S+のルシルと、空戦に関しちゃ素人レベルなら陸戦AAA+なお前を比べるってルシルに失礼過ぎんだろうがよ。砕け得ぬ闇は空戦できるし、速ぇし、硬ぇし、高ぇし。それに付いて行けんのって、空戦がしっかり出来るあたしとシグナムとルシルくらいだ。つうわけで、お前クビ」
「うぐぐ・・・! 言い返せないのが超絶悔しい・・・!」
シャル脱落決定。そして俺の参戦が勝手に確定。ガクッと四つん這いになって本気でヘコむシャルから視線を逸らしたヴィータが「もしはやてとリインフォースが参戦することになったら退くことになるだろうけど」と言ってシグナムと向き合う。
シュテルとアイルの2人掛かりでカートリッジ作成は余裕ギリギリだという。そこに、カートリッジとは違う手法を新たに作り出すとなると、自然的にカートリッジの作成が遅れることになるだろうからな。はやてへのプログラム付与とベルカ式カートリッジ1発分になるわけだ。
「ああ。しかしそれが叶わなかった時の為にも、私とお前、どちらが参戦するかを決めよう」
「応とも! 下手にバトって疲れちゃ本末転倒だから、ここは平和的にジャンケンだ!」
「いいだろう。望むところだ」
シグナムとヴィータが、はやてとリインフォースの代役になるかもしれないという覚悟の上で、「ジャンケン、ポイ!」ジャンケンを始めた。と言うか、シグナムがジャンケンってちょっとシュール。真剣な表情でグー・チョキ・パーと勢いよく手を出すシグナムが、ちょっと可愛いと思ってしまった。
「ふむ。私の勝ちだな」
「誰も1回勝負なんて言ってねぇだろ! 3回勝負だ!」
シグナムとヴィータを遠巻きに眺めていたなのは達に俺は気付き、「ん? なのは達は決まったのか?」そう訊くと、「アリサが辞退してくれたんだ」とフェイトが答えてくれた。
「まぁあたしは空戦できないし、魔力量もなのはやフェイトより下だしさ。レガリアを使えたらまた違うだろうけど、どっちにしろまともに空戦が出来ないんじゃ無理な話なのよね~」
「そういうわけで、ミッドは私とフェイトちゃんの2人になりました」
「アリサやすずか達の分まで頑張るからね!」
「ありがとう、フェイトちゃん。なのはちゃんも頑張ってね♪」
「頑張んなさいよ、ミッド式代表!」
「「うんっ!」」
ほんわか空気に包まれているミッド式チーム。それに比べてうちのベルカ式チームときたらもう。シャルは、「なのは達と一緒に戦うことも出来ないわたしは愚図なの?」としくしく泣き始めるし、「ご、5回! いんや10回勝負だぞ!」ヴィータはなかなか負けを認めないし、「しつこいぞ、ヴィータ。私の勝ちでもういいだろう?」とシグナムも呆れ果てている。
「あらあら。なのはちゃん達とは違って、うちの家族はダメねぇ」
そう言ってシャマルが苦笑する。ザフィーラもどことなく呆れているようだ。そうして俺たちはシグナムとヴィータのジャンケン勝負を見学。あいこが何度か続いて通算30回以上の激闘の末、「よっしゃあああ!!」ヴィータが勝った。
「どうだ見たか、あたしの実力!」
「さんざん駄々を捏ね、勝利回数を引き延ばした上での運だろうが」
「なんとでも言え! 勝ちは勝ちだかんな!」
ハイテンションで勝鬨を上げるヴィータと正反対にローテンションなシグナム。とここで、「ルシル。お前とも勝負だ!」なんてヴィータが仕掛けてきた。意味が解らずに小首を傾げて見せる。
「お前は本当に強ぇよ。それはあたしだって認めてる。だけどやっぱ、はやてとリインフォースが参加する事になった場合、あたしが弾かれんのはなんか・・嫌だ。だからお前を倒して、あたしがはやて達を支える!」
そう力説したヴィータに「そうか。じゃあどうぞ、どうぞ」と俺の参加権利をすぐに譲る。すると「ああ!? もうちょっと粘れよ! なんかあたし恥ずいじゃんかよ!」って怒鳴ってきた。どうしよう、面倒くさい。
「俺はそれでもいいと思うぞ。かつての主であるオーディンの関係者、くらいの権利はあるが、だからと言ってその権利を主張して無理やりにでも参戦権利を奪おうとは思わない」
「なんだよ、それ。オーディンなら絶対にそんなこと言わねぇ。オーディンならきっと・・・」
「俺はオーディンじゃない、ということだよ。でも、俺の素直さに納得いかないと言うのなら、本気でジャンケンして決めるか?」
何も知らなければ、先の次元世界の事を知らなければ、俺はこの権利を主張して参戦していただろうな。俺の話に「乗った。それでいい。10勝で決まりな」とヴィータが応じて、「ジャンケン・・・ポン!」勝負することに。
そして「俺の勝ちだな・・・」という結果に落ち着く。動体視力と反射神経はそれなりに戻ってきたからヴィータが手を出す瞬間の形、グーかチョキかパーくらいは見分けられ、途中で変更することも出来る。そんな一種のズルをしないためにヴィータの手を見ずにジャンケンを受けたんだが、結局勝ってしまった。
「決まりだな。ベルカ式からはルシリオンとヴィータ。ミッド式からは高町とテスタロッサだ」
シグナムが主戦力となる俺たち4人を見回すと、「うぅ。もっと空戦練習しておけばよかった」泣く泣く不参戦を認めたシャルがモニターを展開して、「シュテル。こっちは決まったよ・・・」シュテルに通信を繋げた。
『・・・どういった方法で決め、あなたが落ちたのかは判りませんが、メンバーの選出が終わったのは判りました。もうしばらく時間が掛かるため、そのまま待機をお願いします』
「シュテル。はやては・・・?」
モニターに映るシュテルの側に、はやてやリインフォースの姿はない。それが気になって訊いてみたら『今はアイルと一緒です。私はカートリッジ作成を行い、アイルには夜天の主への対U-Dプログラム付与を担当してもらっています』と答えてくれた。
「本当に出来たのか? はやてにはカートリッジシステム搭載デバイスが無いのに・・・」
『安全性は保障できませんが、出来ないことはありません。夜天の主には魔導書がありますし、魔導書に対U-Dプログラムを付与すればいける、と踏みました。守護騎士の皆さんには仰りたいことがあるでしょうが、これは夜天の主の強い意志での決定。私を睨まれても困ります』
「別に睨んじゃいねぇよ。はやてとリインフォースがそれでいいってんなら、あたしらはそれに従うだけだ」
普段よりも目付きが悪くなっていたヴィータが真っ先にそう返す。シグナムも「ああ。しかし出来るだけ安全性を高めてもらいたい」と小さく頭を下げた。シュテルは『もちろんです』と首肯して応えてくれた。
『主戦力メンバーから弾かれた方は、補助要員として主力メンバーのサポートをしていただくことになります。これはいま選出された方々が、我々が作ったカートリッジの制御率に何かしらの問題があった場合の補欠と考えてください』
補欠となったシグナムが頷き返す。が、アリサは若干困惑気味。空戦が出来ないからこそ退いたのに、なのはとフェイトに何かしら、まぁカートリッジの制御に問題があった場合、自分が繰り上げ主戦力になるという不安からだろう。
『では、そちらの主力メンバーを教えてください。その方々の魔法や戦闘スタイルに合わせて調整しますので』
「えっと、ミッド式は私、高町なのはと・・・」
「フェイト・テスタロッサと・・・」
なのはとフェイトの視線がアリサに向かう。2人だけでなく俺たちからも視線を受けたアリサは「えっと・・・」と言い淀んだのを見て、「俺、八神ルシリオン・セインテストだ」と名乗りを上げる。それを聞いて絶句するみんな。シュテルももちろん『ルシリオン。あなたはベルカ式では?』と訊いてきた。
「ミッドとベルカ、それぞれ1発ずつ俺が担当する。俺のエヴェストルムにはカートリッジシステムが2基搭載されている。片方にミッド式、もう片方にベルカ式という風に使わせてもらいたい。可能か否か、教えてほしい」
『・・・可能です。その分、制御するのが格段に難しくなります。下手をすれば振り回されてしまい、最悪デバイスの破損という可能性もあります。その覚悟はおありですか?』
「エヴェストルムの設計図は受け継がれている。万が一、今のエヴェストルムを失う事になっても、一から作り直せる。というか、これしきの事を制御できなければ俺は、俺の魔法にすでに振り回されていることだろうし。だから・・・問題ない」
どういった魔法プログラムを搭載されたカートリッジから判らないが、魔術式に比べればどうってことはないはず。使いこなして見せるさ。シグナム達は俺の独断に文句はないのか黙っていてくれるし、『ではミッド式は、なのはとフェイトを主力、ルシリオンを補欠ということでよろしいですね』無事に決定した。
「ベルカ式は、あたしとルシルが主力で、シグナムが補欠なんだけど。はやてが入ったら、あたしかルシル、抜けなきゃなんねぇのか?」
『いいえ。カートリッジは私が、夜天の書にはアイルがそれぞれ役割分担していますから、誰かが抜けなければならないということにはなりません。が、カートリッジの制御が出来なければ抜けてもらいますが』
「ならいいんだ」
『ではベルカ式は、ルシリオンと紅の鉄騎が主力で、烈火の将が補欠ということでよろしいですね』
「「「ああ」」」
3人で首肯する。シュテルが『判りました。それぞれの魔導に合った調整を行いますので、もうしばら――』そこまで言いかけたところで、『わわ!?』彼女の頭上にアリサの姿を借りたマテリアルであるフラム・ザ・リヴェンジャーが突如として出現し、『きゃん!?』シュテルへと落ちた。
『フ、フラム!? どういった再起動ですか!? 早く退きなさい! 重い!』
『も、申し訳ないのであります、シュテるん! 陛下に強制的に再起動されたのでありますよ。お主もそろそろ働いて来んか、と蹴り出されたのであります・・・』
モニター画面下からドタバタと慌ただしい効果音が漏れ聞こえてくる。乱れた髪とバリアジャケットのままシュテルとフラムが画面下からにゅっと現れる。そして髪を手櫛で治しながら『コホン、失礼しました』シュテルが話を切りだす。
『フラムの再起動によって状況がまた変わりましたので、主力や補欠と言った括りを無くします。これよりフラムと共に急ぎカートリッジの作成を行いますので、補欠や脱落した方々を含めてもうしばらくお待ちを。完成後、実戦形式で稼働確認をしていただきますので、そのおつもりで』
プツンと切れる通信。さっきまでのジャンケンはなんだったのかと若干ヘコみながらも、ベルカ式の戦力が確実にアップしたことには純粋に喜ばしい。シグナムも自分が主力へと繰り上がったことで安堵しているのを見ていると、「あのさ、ルシル。さっきはその・・・」アリサが声を掛けてきた。
「出過ぎた真似だったか?」
「そうじゃないわよ。ちょっと自分に自信が無かったから・・・。助けてくれてありがとうって」
「どういたしまして。それでどうする? アリサ。シュテルの言い方だと、脱落したシャルやアリサの分のカートリッジも作成されると思うが」
空戦が出来ないからという理由で脱落したと知らないシュテルは、カートリッジシステム搭載デバイスを持つシャルやアリサの分まで作るはずだ。だからそうなった時、アリサはどうするのかと訊ねると、「そっか! わたしの分のカートリッジも出来るんだ!」と真っ先にシャルが食いついた。
「ベルカ式のメンバーばかりが増えていくんだ。ここでミッド式のアリサも改めて参戦の決意を、と思うんだが?」
「でも、あたしって空戦できないし、足手まといになるんじゃ・・・」
空戦が出来ないという大きな欠点がアリサの表情を曇らせる。同じようなシャルは「やっほーい!」と小躍りしているのにな。そんな悩んでいるアリサに「そんなことないよ、アリサちゃん!」なのはがそう声を掛ける。
「空戦が出来なくても、アリサの火力は頼りになるし」
「いつもみたいに魔法陣を足場にして戦えばいいよ」
フェイトとすずかもそう続き、最後に俺が「剣士であるアリサに言うようなことじゃないが、固定砲台としても十分な戦力だ」そう告げた。アリサのクレイモアフォームからの特大斬撃や砲撃は普段でも十分な火力だが、時刻制限付きブーストであるレガリア起動中ではさらに強大なものになる。
「それに、戦うのはアリサひとりだけじゃないしな。みんながついている」
「うん、ルシル君の言う通りだよ。前線で戦えない私もちゃんとサポートするから。防御とか足場とか、任せてね」
個人での戦闘では不可能なことも、団体での戦闘なら何でも出来る。俺だって空戦が不慣れというアリサやシャルの盾になるくらいは出来る。大戦時の俺は、はやてやすずかのような後方支援型だったくらいだし。みんなでアリサやシャルのサポートをすれば、砕け得ぬ闇を助けることが出来ると、そう信じている。
「・・・ありがとう。なのは、すずか、フェイト、ルシル。あたし、やるわ」
こうしてアリサも対砕け得ぬ闇の解放作戦の参加を決めた。それから俺たちはシュテル達からのカートリッジ作成が終わったという知らせが来るまで、ブリーフィングルームで待機していたんだが・・・
『フェイト、アルフ! どうしよう、ママとリニスが!!』
ブリッジのアリシアからそんな通信が急に入った。
後書き
チャオ・アウム。
今話は少々短くなっております。目の疲労の溜まりぐらいから見て丸1日パソコンに触れずにいたら、こんな時間になるまで執筆完了できずに焦ったためです。本当は今話と次話をまとめて1話にする予定だったのですが、前記の通りそんな時間もなく。休憩も大事ですけど、構成ももっと考えないといけませんね。
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