魔法少女リリカルなのは~結界使いの転生者~
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無印編
温泉での戦い
ゴールデンウィークとなり、高町家の毎年恒例行事である温泉旅行が始まった。
高町家一同だけでなく、月村家とメイド組、アリサ、龍一が参加している。
剛は数か月に一度の合同訓練が重なってしまい、龍一と一緒に誘われはしたが、不参加となった。
温泉に到着した一行は、士郎と桃子の二人を除き、温泉に向かった。
「えへへへへ。ねえユーノくん」
「何かな、なのは?」
周りに人がいないのを確認し、なのはがユーノに尋ねた。
「ユーノくんは温泉に入ったことある?」
「公衆浴場なら、一応は」
「ここの温泉は本当に凄いんだから」
「本当だよね~」
アリサやすずかもそう言い出す。
「ふ~ん。楽しみだね」
「うん!!一緒に入ろうね!!」
なのはのその一言にユーノは固まった。
「い、いやなのは!!僕は恭也さんや龍一と・・・」
「いいじゃない、遠慮しないの!!」
「きれいに洗ってあげるよ」
「た、助けてください!!」
逃げ道がないユーノは恭也と龍一に助けを求める。
恭也は苦笑いするだけで口を挟む様子はない。
仕方がなく、龍一はなのはからユーノを取り上げた。
「あ~~~~!!龍一くん酷いよ!!」
「ほら、一応ユーノも男の子だし・・・」
「「「む~~~~~~!!」」」
3人は不満そうな顔を浮かべていたが、ユーノが『ごめんね』と呟きながら龍一の肩に上った。
「それじゃあ、男湯はこっちだからまた後でね」
そう言うと龍一は名残惜しそうな三人を残してユーノと男湯に入って行った。
ユーノと龍一が風呂を堪能した後、しばらくすると、三人が上がってきたので、お土産を見るか卓球をするか相談しながら旅館を歩いている一同。
すると・・・・・・。
「はーい。おチビちゃんたち」
いきなり彼らに声を掛ける女性がいた。
オレンジの髪に額に宝石のアクセサリーをあしらった、豊満な肉体を持つ女性だった。
「君かね?うちの娘をアレしてくれちゃったのは?」
「え、え~と?」
「あんま賢そうでも強そうでもないし、ただのガキンチョに見えるんだけどな~」
「・・・・・・・ええ?」
「なのは?お知り合い?」
「ううん」
「なのはは知らないって言ってますよ。どちら様ですか?」
「あ~ん?・・・・・・あははははははは!!」
女性の突然の笑い声に一同は呆気にとられた。
「ごめん、人違いだったかな?知ってる子によく似てたからさ」
「なんだ、そうだったんですか」
「あはは~。可愛いフェレットだね!!」
「あ、はい!!」
そう言って、女性はユーノの頭を撫でる。
(今の内は挨拶だけだよ)
「「「!?」」」
念話で話しかけてきた女性に警戒する三人。
「「?」」
三人の反応についていけず、頭上に疑問符を浮かべる二人。
(忠告はしておくよ。子供はお家で大人しくしてな。おいたが過ぎるとガブッといくわよ)
不敵に笑みを浮かべる女性。
「さ~て、もうひとっ風呂浴びてこよ~」
そう言うと、女性は去って行った。
「う~~~!!何よあれ!!昼間っから酔っ払ってんじゃないの!?」
「ア、 アリサちゃん・・・」
念話の内容を知らない二人は、あの女性がただの酔っ払いだと思っているようだ。
「二人とも、注意して。あの女念話で話しかけてきた」
「それって、魔導師ってこと!?」
「あの人はなんて?」
龍一の忠告にアリサとすずかはようやく事態を悟る。
「『子供は引っ込んでな』って。どうも忠告みたいだったよ。もしかしたら、あの黒い魔導師の仲間かも・・・」
「黒い魔導師って、前回すずかん家でなのはの邪魔した女の子の事?」
「『かも』じゃなくて十中八九そうだろうよ。これで単独犯って線は消えたな。下手をすれば、大規模な組織犯罪の可能性も出てくる」
「そんな・・・」
まだ見ぬ脅威に彼らは思案しながら旅館探検を再開した。
夜。
子供組は大人組よりも早く寝るために別室で布団を敷いていた。
「・・・・・・・・・」
すると、ユーノが暗い表情を浮かべた。
「ねえ、なのは」
「どうしたの?ユーノくん」
「レイジングハートを返してほしいんだ」
その言葉に、一同は言葉を失った。
レイジングハートの返却は未熟ななのはにとって、魔法の力の消失を意味する。
「ユーノくん、一体どうしたの?」
「そうよ、ユーノ!?確かにレイジングハートは元々あんたのものかもしれないけど、いきなり返せだなんて・・・」
「なのはの為か?」
「「「!?」」」
龍一の言葉に息をのむ三人。
「うん。そもそも、今まで元々ただの一般人だったなのはを巻き込んでいたこの状況がおかしかったんだ。僕の魔力もほとんど回復したし、この国にもちゃんと独自に対処できる組織がある。だから、これから先は僕が・・・」
「それと、レイジングハートと何の関係があるのよ!?」
「落ち着けアリサ。今までのジュエルシードは全部レイジングハートに格納しているからな。たぶん、彼女たちがなのはの持っているジュエルシードも狙ってくるならば、レイジングハートを持っているのは危険だと判断したからだろう?」
「うん。そうだよ。彼女たちの標的がなのはたちに向かないように、高町家を出て、零課に保護を求めるよ。今まで助けてくれたことには感謝しているし、いつか必ずお礼にまた訪れるから「ふざけんじゃないわよ!!」・・・アリサ?」
アリサの大声に驚きながら顔を上げると、すずかやなのはも怒っている表情を浮かべていた。
「ユーノくん。それ以上言ったら、いくらなのはでも怒るよ」
「うんうん」
「確かに、最初はユーノくんのお手伝いがしたかっただけだった。お父さんの言葉でね。『困っている人がいて、自分に助けてあげられる力があるときは躊躇っちゃいけない』って教えられてたから。私が魔法の力でユーノくんを助けられて、ユーノくんが困っていたから助けたいって思って行動していただけだったけど、今はもう違う、私は自分の意志でこの事件に関わっている。あの娘がどうしてジュエルシードを集めているのかが知りたくて関わってるんだから、そんなこと言わないで」
「そうよ!!ここまで巻き込んでおいて、今更途中下車なんてできるはずないでしょ!!」
「そうだよ。あたしたちは友達でしょ?」
「僕も同感。この事件は来るなと言っても、最後まで見届けさせてもらうよ」
「み、みんな・・・」
ユーノがみんなの言葉に感動していると・・・。
「一体どうした!?」
士郎たちが子供組の部屋にやってきた。
どうやら、アリサの大声を聞いて駆けつけらしい。
なのはたちは先ほどのやり取りを士郎たちに伝えた。
「ユーノくん」
「はい」
「君はもう私たち家族の一員なんだ。だから、そんな悲しいこと言わないでくれ」
「すみません」
「そうだよユーノ!?家族なんだから遠慮しなくていいんだよ!!」
士郎だけでなく美由紀まで声を上げて士郎に同意してきた。
「美由紀はユーノに少し遠慮するべきだと思うんだが」
「恭ちゃん酷い!?」
恭也の指摘に、憤慨する美由紀。
だが、恭也の指摘が正しいだろう。
なんたって、美由紀は周りから止められなければいつまでもユーノを撫でつづけるのである。
「みなさん、本当にありがとうございます」
ユーノの瞳から涙がこぼれた。
幼くして大人の社会で生きてきた彼にとって、利害が絡まない、100%善意の関係などほとんどない経験だったからである。
ユーノはここにいる全員に感謝し、夜は更けていった。
皆が寝静まった頃。
「「「!?」」」
ジュエルシードの反応に飛び起きる三人。
「・・・うう・・・ユーノ・・どうしたの?」
「・・・・・・なのはちゃん・・・?」
ユーノを掴んで寝ていたアリサもつられて起き、それに反応してすずかまで起きてしまったようである。
「ジュエルシードだ」
「「!?」」
龍一の言葉に眠気が吹き飛ぶ二人。
「どうしよう?警部さんに連絡した方が・・・」
なのはがオロオロしているとアリサが何かに気が付いたように叫んだ。
「何言ってるの!?ここにはあの娘の仲間がいるんでしょ!?警察を待ってたら先に取られちゃうわよ!?」
「「「「!?」」」」
事は一刻も争うことに気付いた一同は、急いで目的地へと向かった。
「うっはー。凄いねこりゃ!!これがロストロギアのパワーってやつ?」
「ずいぶん不完全で、不安定な状態だけどね」
ジュエルシードがある河原で二人の女性がそれを眺めていた。
「あんたのお母さんは何であんなもの欲しがるんだろうね?」
「さあ?分からないけど、理由は関係ないよ。母さんが欲しがっているんだから、手に入れないと」
そして黒衣の魔導師はバルディッシュを構える。
「ジュエルシード、封印」
そして、封印したジュエルシードを手にした頃、なのはたちが到着した。
「あ~ら、あらあらあら・・・・」
「「「ああ!?」」」
「子供はいい子でって言わなかったかい?」
「ジュエルシードを一体どうする気だ!?それがどれだけ危険なものなのか分からないはずはないだろう!?」
昼間であった女性に尋ねるユーノ。
「さあね?答える理由が見当たらないよ?それにさあ?あたし親切に言ったよね?いい子にしてないとガブッといくよって?」
「「「「「!?」」」」」
そういうと、女性はオレンジの毛並みの狼に変身した。
「やっぱり、アイツあの娘の使い魔だ」
「使い魔?」
「そうさ。あたしはこの娘に作ってもらった魔法生命。製作者の魔力で生きる代わり、その命と力の全てを掛けて守ってあげるんだ」
「そうなの?龍一」
女性の言葉にアリサが龍一に聞いてきた。
「異世界の使い魔と言うのはそうらしいね。日本で使い魔の名家である京都の土御門家の式神でも自分の人格と心があるような高度な使い魔は滅多にない。アイツは相当上級な使い魔のようだね」
「当り前さ。なんたって、あたしはこの娘の使い魔なんだよ?」
そういうと、狼がなのはに向かって突進してきた。
「させない!!」
すると、ユーノが立ちふさがり、防御魔法で狼を防ぐ。
「なのは!!あの娘をお願い!!」
「させると思っているのかい!?」
「させてみせるさ!!」
すると、ユーノと狼を覆うように魔法陣が敷かれる。
「強制転移魔法!?まずい・・・」
「ふっ!!」
緑色の光に包まれ、二匹は消えてしまった。
「あれ?どこ行ったの、ユーノ!?」
「どうやら、強制転移魔法であの狼ごとどこかに跳んだみたいだね」
「・・・・・結界に強制転移魔法・・・・いい使い魔を持っている」
ユーノのことをなのはの使い魔だと思っている少女がそう言ってきた。
「ユーノくんは使い魔ってやつじゃないよ。わたしの大切な友達」
「そう。で?どうするの?」
「話し合いで何とかできるってこと・・・ない?」
「・・・・・あたしはジュエルシードを集めなければいけない・・・・そして、あなたも同じ目的なら、あたしたちはジュエルシードを賭けて戦う敵同士ってことになる」
「だから!?そういうことを簡単に決めつけないために、話し合いって必要なんだと「高町!!」・・・龍一くん?」
「これ以上の話し合いは恐らく無意味だ。話し合いだけで解決できることなど実はあまりない。お互いに譲れえぬ信念に従っているならば、こうして激突することは必至だ。ならば、もはや僕たちの間に言葉は必要ない。口先だけの言葉ではない、僕たちの魔法に込められた信念をただ無言のままに示せばいい」
そう言うと、龍一は召喚魔法で飛穿・二式を取り出した。
「それでも、あたしは「その人の言う通り。話し合うだけじゃ、言葉だけじゃきっと何も変わらない・・・伝わらない」・・・そんな!!」
なのははそれでも話し合いを望むが二人は臨戦態勢に入る。
「だけど覚えておくといい」
「?」
「君の信念が『誰かに指示されたから』『そう言われたから』などと言った『仮初の信念』だとすれば注意するといい。その娘は一度決めたらまっすぐにそこに突き進む猪娘だ。その程度の信念なら、あっという間に砕かれるぞ?」
「「あー」」
龍一が不敵にそういうと、アリサやすずかが納得したような表情を浮かべ、なのはが心外そな表情を浮かべた。
「!?」
そして、少女が高速魔法でなのはに切りかかってきた。
なのはが防御魔法で防ぎ、龍一は二人を抱え、瞬動で離脱した。
「ちょっと龍一!?なのははどうするの!?」
「なのはちゃん!!」
「とりあえず、ここにいたら二人も巻き込まれる。それに、僕はなのはとユーノの両方を援護しなければいけないからいったん離脱だ」
龍一たちは狙撃ポイントを探してそのまま森を駆けて行った。
ユーノと狼の戦いは逃げるユーノとそれを追う狼といった一見防戦に見えた。
「ち!!ちょこまかと!!」
「チェーンバインド!!」
だが、ユーノは追ってくる狼に対し、木々や岩と言った遮蔽物を利用して、多方向から魔力の鎖で罠を張り巡らせていた。
ユーノの勝利条件は目の前の狼に勝つことではなく、彼女を戦闘できない状況に追い込めばそれでいいのだ。そうすれば、なのはに加勢し、少女からジュエルシードを取り戻すことができる。
「うっとおしんだよ!!この・・ガッ!!」
元々単純思考なのか、罠にいらだった彼女は、ユーノに飛びかかろうとして、龍一の狙撃をくらってしまった。
ユーノの狙いは、彼女を捉えることではなく、彼女の性格を瞬時に把握して、自分に向かってくるルートを制限することが狙いだったようである。
「くそ!!なめるな!!」
作戦は見事にハマり、龍一の狙撃を受けた彼女だが、まだ倒れずにユーノに襲い掛かってきた。
一方、なのはと少女の方は・・・。
「賭けて。お互いのジュエルシードを一つずつ」
「でも。だからって!!」
そう言いながらも、二人の戦いは過酷を極めた。
サンダースマッシャーとディバインバスターがぶつかり合い、砲撃と斬撃が飛び交う。
「くっ!!」
そこに龍一の狙撃も加わり、なのはに有利に見えた。
しかし、なのはのディバインバスターが命中したと思い、油断したその一瞬の隙をついて、なのはの首にバルディッシュの魔力刃の先端が突きつけられる。
「くっ、うう」
『プットアウト』
「レイジングハート、何を!?」
勝ち目はないと判断したレイジングハートが使用者の身の安全を優先し、ジュエルシードを少女に差し出した。
「きっと、主人思いのいい子なんだ」
「え?」
少女はジュエルシードを受け取り、バルディッシュに格納した。
「まずいな」
「どうしたのよ龍一!!なんで援護しないの!?」
「龍一くん・・・」
「あの娘、たった数回の攻撃で僕の居場所を突き止めたみたいだ。常にこっちを警戒しているし、高町が邪魔で援護できない位置取りをキープしている」
「そんな!!それじゃあなのはは!?」
「落ち着いて。レイジングハートがジュエルシードを差し出したみたいだ。恐らくこれ以上あの娘に高町を攻撃する理由はもうないはずだ」
緊張の面持ちでなのはを見守る一同であった。
「帰ろう、アルフ」
そう言って立ち去ろうとする少女。
「待って!!」
「できることなら、私たちの前にもう現れないで、もし次があったら、今度は止められないかもしれない」
「あなたの名前は?」
そう問いかけるなのは。
「フェイト。フェイト・テスタロッサ」
「あの・・・あたしは・・・」
しかし、なのはの答えも聞かずにそのまま立ち去ってしまったフェイト。
そして、なのははフェイトに完全に敗北したまま温泉旅行の夜は過ぎていった。
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