姉を慕い
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第一章
第一章
姉を慕い
切通正大は今は一人だ。一重でありがやや四角さのある強い光を放つ目に一直線にやや上にあがった眉を持っている。顔は顎が少し前に出ていて顎の先は平になっている。茶色の髪のすその部分を短く刈っているのが特徴的だ。背は高く一八〇を超えている。唇が少し突き出た感じであるがひょっとこというものではなかった。そんな顔だ。
彼はかつて姉がいた。しかし去年交通事故で亡くなった。彼はまだその姉のことを考えているのだ。
「何で死んだんだろうな」
家族と一緒にいる時につい言ってしまうのだった。
「本当に」
「言っても仕方ないんじゃないか?」
「気持ちはわかるけれど」
両親はその彼にいつも言った。
「確かにな、美千代のことは悲しいさ」
「私達もね」
自分の娘のことだ。そうでない筈がなかった。
「しかしそれでもな」
「美千代はもういないのよ」
「返って来ないんだ」
「わかってるよ」
正大も一応こう言いはする。しかしだった。それでも言わずにはいられなかったのである。
「けれどさ」
「それでもか」
「今はなのね」
「どうしても忘れられないんだ」
辛い顔での言葉だった。
「まだ」
「仕方ないか。仲良かったからな」
「本当にね」
「いつも一緒だったから」
それを自分でも言う。
「だから今は」
「少しずつ落ち着いていくんだな」
「今はね」
二人はそんな息子を気遣いこう言うだけだった。彼は大学に通っていてもそんな有様だった。魂が抜けた様になってただいるだけだった。
そんな彼にだ。友人達も気遣ってだ。あれこれと声をかけるのだった。
「なあ、いいか?」
「カラオケ行かないか?」
「それとも飲みに行くか?」
「いや、いいよ」
しかし彼は無気力な声で返すだけだった。
「それはさ」
「いいってよ」
「何言ってるんだよ」
「そうだよ、知ってるさ」
彼の事情はという意味だ。それはだというのだ。
「しかしそれでもな。やっぱりな」
「このままいてもどうしようもないだろ」
「だから明るく持てよ」
「少しずつな」
「うん」
正大も頷きはする。しかしであった。
彼は無気力なままだった。どうしてもその記憶を拭うことができなかった。
そのまま暫く時を過ごしていた。しかしであった。
その彼の前にだ。ある女性が姿を現したのだ。
たまたま入った本屋にである。背が高くすらりとした身体をしてである。髪をショートにして気の強そうなアーモンド形のやや吊り上がった目をしている。身体つきは中々均整が取れている。その彼女がズボンの上に店のエプロンを付けてだ。カウンターにいたのである。
正大はその彼女を見てだ。驚きの声をあげた。
「姉さん!?」
彼女は姉に生き写しだったのだ。死んだその姉にだ。
それで思わず声をあげた。そうしてである。
「あの」
「はい?」
「貴女は」
「私ですか」
「はい、この店の人ですよね」
「はい、そうです」
こう答えてきた。
「そうですけれど」
「そうですか」
正大はそれを聞いてだ。まずは頷いた。
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