バカとテストと白銀(ぎん)の姫君
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第一章 小問集合(order a la carte)
第九話 諸勢力の思惑
前書き
次回新章に突入します、因みに章の名前の原案は津田さんの有名なあれからとってきます。
もしかしたら咲良ちゃんと秀明が何時か出てくるかも
(やばい、イメージだけはあるのに文章が追い付かないという苛立たしい現象が…)
第九話
妃宮さんの家で作戦会議があってから何日か経ったある日の朝。
「吉井、遅いぞ、走れ!!」
校門のところから叫ばれた声に、自然と体が鉄人から離れる方に向いてしまうのはどうしようもないことだ。
「何もしてませんって!」
「いや、逃げると言うことは何か疚しいことがあるって事だろ、覚悟しろ吉井!」
「何もありませんし、死ぬ覚悟はまだしたくない!!」
朝から声出しをしながら長距離走をさせられ、その上での肉体的、精神的な拷問。
朝からおなかに一杯げんこつを食わされるなんて……
僕は水で一杯にしようと思っていたのに。
「はぁ、全く……あそこまで怒らなくたっていいじゃないか。」
だいたい、少し逃げたぐらいであそこまで全速力で追いかけてこなくたっていいじゃないか。
僕はそんなに信頼ならない生徒なのだろうか
確かに去年、鉄人の本を勝手に売り払ったりしたことあるけどさぁ。
ホントにお陰で朝からヘロヘロだ、妃宮さんの微笑みと姫路さんの胸、島田さんのうなじに秀吉の膝枕で癒されよう……
階段を登りながらFクラスの清涼剤たちのことを思い浮かべて、顔が思わずニヤけそうになる。
そういえば、まだCクラスへの工作をしていないけど、何時Bクラス戦を始めるつもりなんだろう。
まさかFクラスの教室装備がそのままだなんて事になったら反乱が起こっちゃうよ。
そんなことを考えながら教室の方に向かうとFの教室から綺麗な女の子の声と、低く汚らしすぎる声が壁越しに聞こえた。
「妃宮、お前の………した………らあんな…になるんだ。何回…も信じられん」
「………、私も…脱ごうと………して。」
!!!!!
あの妃宮さんが……脱ぐだと?!
「そうか……、悪いな。」
「天誅ぅぅぅ!!」
入って直ぐに鉛筆とシャーペンをバカに投擲する。
狙う箇所はその右目と男の急所。
「いきなり何しやんがんだよ。」
つかみかかってくる雄二の制服をつかみ返しながら言い放つ。
「妃宮さんに公衆の面前で脱がさせるなんて……なんて外道なんだ!!」
クラスが一気に静まってしまった、僕はまた何かを勘違いしてしまったのかな?
(ぷっしゃああぁぁぁ)
「おい、ムッツリーニ!どうしたんだ、おい!!しっかりしろ!!」
声のする方を見れば、ムッツリーニが噴水のごとく吹き出しながら崩れ落ちた。
えぇい、バカの相手などしてられるか。バカの手を振り払いながらムッツリーニの元に駆け寄る。
僕は彼の最期の言葉を聞かなければならない!
「ムッツリーニ!!ねぇ言い残すことはないの?僕が叶えられることなら何でも……」
死にかけの彼を揺さぶりながら僕は懸命に声をかける。
「…………、妃宮の下着の色を、墓場に伝えに来てくれ……(バタっ)」
「ムッツリーニ!!」
動かなくなってしまった彼のその顔はやつれて、見るに耐えない状態になっていた。
「……あのさ妃宮さん、物は相談なんだけど妃みあぁああ、なんで、まだ名前しか言ってないのに右腕がもげるほどに痛みぃいっぃぃなみ、しないから、脱がせたり覗いたりしないから!」
「ウチじゃないんだけど?」
「へぇ?」
そう言われて、僕は初めて彼に関節技をかけているのが誰なのか、きちんと見た。
「友香さん?どうしてこちらにいらっしゃるのですか?」
「えっ?あぁ、そのごめん。ちょっと話があって。」
妃宮さんの戸惑っている声が聞こえた。
__その前日、旧校舎二階和室にて__
友香さんに僕は呼び出されていた。
「どうぞ、あんまり上手い方じゃないけどね。」
僕の座っている前に出された濃緑のお茶。
「お気遣いありがとうございます。」
茶碗を手に取り一礼する。正面を避けるために少し茶碗を時計回りに回し口を付ける。
「結構なお手前で。」
「お世辞でもありがたいわね。」
本音を言うと確かに少し水の量が多いとは思ったのだけれど、お茶の濃さは均一になっているということはしっかりと丁寧に点てたということだ。
お茶の表面が泡で覆われていないというのは問題にはならないのだし、全くの低評価では無いのだが、まさか悪態でそのまま返してくるとは。
聞けば友香さんは茶道部に所属しているらしい。
「そうは言っても、千早さんに喜んで貰えたのならわりかし真面目に習った甲斐があったというものよ。」
そんなことを言いながら笑っている彼女は剛胆なのか、それとも率直な人なのか。
飲み終わった茶碗を膝の前に置く。礼法的には持っていってもらうのだがやはり自分で持っていこうか。
「いいよいいよ、下げるって。」
畳に再び座らされ、彼女が水屋で後片づけをする物音を聞きながら、彼女はどうして僕をここに呼びだしたのかぼんやりと思った。
最後に水音がしてからいくらか時間が経ってから、畳に戻ってきた彼女の表情は何かを決意したように硬い。
「さてと、本題に入るよ。貴女のクラスが始めてくれた試召戦争についてよ。」
「そうですね、私たちが新学年早々に始めましたからご迷惑をお掛けすることも……友香さんが代表を務めていますクラスとも戦わなければならないかもしれませんね。」
「そうね、このままだと今日、明日にでも開戦かしら?」
一体何を考えて僕を呼びだしたのだろうか。
「聞いてるかもしれないけれど、私のクラスはBクラスと同盟を結んでる。貴女たちが対Bクラスを考えているならばそれはBC連合を相手取ることだって賢い貴女なら解るでしょ?」
「えぇ、そしてその同盟を私は断ち切って頂きたく存じますが。」
まさかの降伏勧告じゃないだろうね、それとも僕の懐柔?
どちらにしても答えはNOだろうけれど、友香さんの意図が読めずに内心冷や冷やしているのを仮面で隠しながら彼女の返答を待っていると………
「だからね……お願い、貴女に協力して欲しい。」
「はい?」
思わずすっとんきょうな声が出てしまった。
だってそうだろう、何故彼女は僕に対して土下座をしているんだ。
「貴女には是非御輿に乗って欲しいのよ。」
そして聞かされた内容のあまりにもあまりな話に、僕は少しめまいを感じた。
どうにか嘘だと言って欲しかったが、友香さんの事情のことも聞かされ、さらには拝み倒されまでして遂に僕は彼女の話に乗ってしまった。
もしかしたら、僕はこの時道を踏み外してしまったのかもしれない。
和室で女性と二人きりって危ない。
そんなことをぼんやりと思ったが直ぐにそんなことは忘れてしまった。
しかしこれまた一年後、しっかりと後悔することになるのだった。
「千早さん、頼むわね。」
「えっ、えぇ……分かりました。」
___________
小山友香、Cクラス代表で周囲からの信頼を得ており、頼りにもされている。しかし感情的になると周囲に目がいかなくなる。
Bクラス代表の根本とは付き合っているが、関係は冷えつつある。
クラスの利益の点からBクラスとの同盟を締結させた。
俺が調べた限り小山はそんな奴だったのだが、一体何をしにきたのだろうか。宣戦布告ならば困るんだがな…
作戦会議の次の日の朝、俺は参謀から二つの提案を受けていた。
それはどの教科での対戦であったとしても一人一人がベストな状態で戦うために、回復試験を最低もう一日実施すること。
そしてBクラスで内乱を起こすことは出来ないかという打診だった。
後者に関しては編入者である参謀だから閃いた策だろう。
試召戦争において第三クラスが介入できるのは同盟を結んでいるときだけだ、つまり味方を増やすには同盟を組むことがセオリーなのだが、参謀の考えはそれを軽くパスすることが出来る策なのだ。
回復試験はその日は生憎都合が付かなかったため今日行うところだ。
今は二つ目の内応者の呼びかけの途中なのだが……
どうするかと参謀の顔をちらっと見ると、いつも顔に浮かべている笑顔は消え、困惑している風に見えた。
「あの、友香さん。どうしてこちらに?」
若干の挙動不審、以前の小山と根本の密談の最後の方でこいつのことを気にしていたから知り合いなのだろうとは思っていたが。
ムッツリーニの方を見ると首を振られてしまった、あいつの情報網からすり抜けることなどあり得るのか?そうだとするとやっかいだ。
こちらから不意に動くのもまずい、とりあえず様子見だろうな。
「千早さん、振り分け試験を受け直さないかって話なんだけど結論は出たかしら。」
「それは、もう。お断り致しましたよね?」
「率直に言うよ。貴女はこんなクラスに居るべきじゃない。こんな衛生的にもヒドくておまけにクラスのほとんどが問題児。いくら千早さんが賢いって言ってもあっと言う間にバカが移るよ。」
ヒドい言われようだ、まぁ否定はしないが。
しかし参謀の懐柔に来るとは、確かに姫路に抜けられる以上に痛手かもしれないな。
見る目はあるということか、しかし何故わざわざ人前でこのやりとりをする必要があるんだ。
「友香さん……」
参謀は小山が来たときから俯いているため、表情がどんな風になっているのか、彼女のその長い髪のせいでよく分からない。
ただ肩を震わせているのが、何か気持ちをこらえてでもいるのだろうと察せられるぐらいだ。
「それにね、千早さん。私は鉄じ…西村先生があなたの事を褒めてるのも知ってる。豚小屋みたいに汚いFクラスなんか…」
「…お黙り下さい。」
尚も言い募ろうとする小山を制止する声が教室に凛と響く。
教室中の物音が一瞬何もかも消え去った。
「友香さん、いいえ小山さん。貴女に、私の何が分かるというのですか。答えて下さい。」
静かに、小山に対して問いつめるような口調で、鬼気として畳み掛ける。
若干顔の血の気が引いてしまったようだ、小山の奴の顔が青ざめてゆく。
「言い過ぎました。でも、覚えておいて下さい。貴女の否定するものは私にとっては大事なものなのです。ですから、貴女がそれを否定する限り私たちの間に友好などありません。いいですね、二度と私の前で侮辱しないで。」
しんと静まり返る教室に小山の奴、自分の不利を悟ったのか何も言わずに帰って行きやがった。
「ご迷惑をお掛けしました。」
深々と頭を下げる参謀は一体何を考えているのか、問いたださないとならんな。
「参謀、テストの後残っておけよ。」
「承知しておりますが、所用があるので少しだけ抜けます。」
その笑顔の裏で何を企んでいるのか、聞かせてもらおうじゃないか。
___________
???「どうでしたでしょうか?」
???「ばっちりよ、これで計画通り…」
???「私としても、喜ばしい限りです。」
???「後はあなた達の奮戦如何、ね…」
___________
???「雲行きが少々おかしくなってきたが…どうという事はない、あいつは俺に逆らえないんだ。なぜなら俺は……」
???「代表の案を元に立てましたが……本当にやるんですか?」
???「勿論だ、お姫様達には早々に御退場願うよ。」
___________
???「同志諸君、遂にこの日がやってきた。」
???「「待ちに待った日が!!」」
???「同志諸君、同志たる汝の隣人とともに、奴に目に物見せてやるのだ!」
???「「応っ!!」」
???「我らの恨み、思い知るが良い……」
同盟、保身、革命
三つの思惑が入り乱れるBC連合対F戦は遂に開幕するのであった。
そのとき彼らもまた、この戦いの推移に目を凝らしていた。
「代表までそんなこと言うの?」
「そうだね、いくら彼らだって二クラスを相手にするのは難しいだろうね。」
「………絶対に雄二は勝つ、でも最後は私たちが勝つ。」
「おおぉ、代表かっこいいよ!」
後書き
_予告_
俺のものを掻っ攫うことなど絶対に許さない
千早さんは関係ないじゃない!!
俺は宣言する!これより『作戦ヴェルザンディ』を発動する!!
私の気持ちは勘違いなんかじゃない
あなたの顔からSOSが出てるみたいに思ったから。
恋愛って、人を好きになるってどういうことなのですか?
………私は、こう思ってる……
次章、彼と彼女の事情
第一話 采配
私には見えない、明日を見せて
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