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第三章
第三章
二人はまずは駅に向かった。切符を買った後でプラットホームに向かう。その途中で浩二が言った。
「しかしよ」
「何?」
「左用のキャッチャーミットだよな」
「らしいわね」
「そんなのあるのかね」
彼は首を傾げさせてこう述べた。それがどうもピンとこないようである。
「御前右利きだよな」
「ええ」
真里はそれに答えた。今二人は並んで話をしている。
「それでキャッチャー」
「そうよ」
「それが普通だよな。やっぱりキャッチャーつったら右利きだよな」
「まあそうだけれどね。けれど昔は左利きのキャッチャーもいたそうよ」
「そうなのか!?」
これは初耳であった。浩二はそれを聞いて目を丸くさせた。
「ええ、アメリカにね。昔いたそうよ」
「へえ」
それを聞いて思わず声をあげた。
「そうだったのかよ」
「それの関係かしら。けれど実際にはそんなの見たことはないわよ」
「俺もだよ。まさかそんなもんあるとはな」
「そうよね。普通はないわよね」
「そうだよな」
そんな話をしているうちにプラットホームに着いた。そこで電車を待つことになった。
「珍しいから買うのかな」
「そうじゃない?そこんところはよくわからないけれど」
プラットホームで立って電車を待っている。その間も話は続いている。
「実際に今買いに向かってるし」
「だよなあ。おつかいか」
「そうなるわね」
真里はまた言った。
「二人でね」
「あのさ」
浩二は眉を顰めさせて考えながら述べた。
「ミットだろ」
「ええ」
真里はそれに応える。
「一人で買いに行けるよな」
「まあそういえばそうよね」
その言葉に彼女も頷く。
「お金あったら」
「俺達ってひょっとして信用ねえのか?」
何か嫌な考えになってきていた。それは自分でもわかっている。
「何でそう思うの?」
「だってよ、これ一人でも行けるからよ」
「うん」
真里は彼の話を顔を向けて聞いている。彼もその顔を見ている。
「それを思うとよ。何か俺達って一人じゃ駄目って思われてるのかなって思ってよ」
「考え過ぎじゃない?」
真里はそれを聞いてこう述べた。
「幾ら何でも」
「だったらいいけれどよ」
だが一旦そう思うとどうにも心は晴れない。
「けれどな」
「そんなに気が晴れないんだったらさ」
「ああ」
今度は浩二が真里の話を聞いていた。真里は話を続ける。
「時間決められてないよね。百貨店で遊ばない?」
「百貨店でか」
「そうよ。別にいいでしょ?」
「そうだなあ」
真里の言葉に首を捻って少し考えた。それから述べた。
「まあな」
「じゃあいいわよね」
「ああ。けれどどうやって遊ぶよ」
「何だってあるじゃない。百貨店よ」
ゲームコーナーでも百貨店でも何でもあるだろうと。彼女はこう言っているのである。やはり高校生らしい言葉であった。
「そうでしょ」
「で、何するんだよ」
「時間はあるしさ」
真里は言う。
「何だっていいんじゃない?行ってから考えましょうよ」
「わかったよ。それじゃあまずは行って」
「ええ」
「それからだな。けれどよ」
浩二はまた述べた。
「最初にやることやろうぜ。ミットを買ってよ」
「最初に買うのね」
「それからだと忘れないだろ。どうだよ、それで」
「じゃあ最初にね」
彼の言葉に頷く。それで決まりであった。
「ああ、じゃあ行くか」
丁度電車が来た。緑色の奇麗な電車であった。二人はそれに乗り込んでいく。そして隣町のその百貨店に向かうのであった。
百貨店の中は平日とはいえ夕方なので結構人がいた。見れば学生服の者も目立つ。
「何だよ、カップルが多いな」
浩二は彼等を見てふと思った。
「ここをデートスポットにしてるのかよ」
「そうじゃないの?ほら」
横にいた真里が前を指差してきた。
「あそこにさ。見てよ」
「あっ?ああ」
見ればそこには浩二と真里の学校の生徒もいた。それもやはりカップルであった。
「あれは一年かな」
「多分ね。どうやらあの娘達もここで」
「見ない顔だな。どこのクラスなんだか」
「さあ。けれどそれはどうでもいいじゃない」
真里は言う。
「私達とは関係ないし。そうでしょ?」
「そうだけどな」
「冷やかしするのも野暮だし。それに」
「それに?」
「今気付いたことだけれどね」
何か真里の様子が変わってきているのに気付いた。それも普段とは違う妙な感じであった。
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