カードファイト!!ヴァンガード《アルカナレイド》
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第一話
今から少し、未来の話。
世界のカードゲーム人口は十億人を超え、人々の生活の一部として当たり前の存在になっていた。
『カードファイト!!ヴァンガード』は、その中で最も注目を集めているカードゲームのうちの一つだ。カード50枚で組まれたデッキを使用し、自らの分身たるヴァンガード、共に戦うリアガードを駆使し、相手にダメージを与えていく。
比較的優しいルールのおかげで、カードファイターと呼ばれるプレイヤーの年齢層も広く、さらには運も絡むゲームシステムが、単純な『強者』と『弱者』を生みださない。
すでに世界中で様々な大会が催されており、日々新たな伝説が誕生している。
全てのヴァンガードのカードは、《クラン》と呼ばれる勢力に属している。《ユナイデッドサンクチュアリ》、《ドラゴンエンパイア》、《ダークゾーン》《ズー》《メガラニカ》《スターゲート》の国家群に振り分けられたクランは、そのカードどうしでデッキを組むことで、戦略に統一性を生みだし、強力なデッキとなるのだ。
すでにヴァンガードには十を超える様々なクランが存在し、それぞれに無数の使い手が存在している。
だが、多くのファイターたちは知らない。
それらのクランの中に、ヴァンガード黎明期に立った一度だけ出現し、今や使い手はいないとされる、幻のクランがあることを。
***
終業のチャイムが鳴る。窓の外を眺めるのをやめて、桐生ソウガは視線を教室内に戻した。丁度担任教師が教室を後にするところで、クラスメイト達は早くも騒ぎ始めていた。
そんな喧騒を、ソウガは無表情に眺める。
残念がら、ソウガには彼らの感情があまり理解できない。なるほど、友人との語らいは楽しいのだろう。様々な話題が飛び交っている。
だがそれらの全ては、ソウガには関係がないし、興味もない。ソウガには親しい友人と言うべき人物が一人もいない。とっつきにくい雰囲気を生まれつき出している、と言うのもあるが、ソウガ自身が他人との触れ合いをそこまで求めていなかった、と言うのもある。
いや――――友人なら、かつて一人だけいた。
「(櫂、トシキ……)」
一年と半年ほど前、まだソウガがこの学園の中等部の一員だったころに、ほんの数カ月だけを共に過ごしたクラスメイト。彼は、当時のソウガの唯一の友人だった。お互いに人付き合いが苦手だったが、共通の趣味を持っていたおかげで、話題には困ることはなかった。
趣味、と言っても、単純なカードゲームだ。今ではほとんどやらなくなってしまったが、櫂がいた当時は毎日そのゲームに明け暮れていたような気がする。
残念ながら櫂は家の都合で、わずか半年でこの地を去ってしまった。その後は一体どこで何をしているのか、彼の足跡は全く分からない。まだ一人で戦っているのだろうか――
「(……元気にしているだろうか)」
感情の希薄なソウガにしては珍しく、感傷的な気分になる。
「……帰るか」
考えているだけ無駄だ。櫂はもういない。
ソウガは机の横に掛けた鞄を取り上げると、今だ騒然とする教室内を抜け出した。
校舎を出ると、春先のいまだ冷やかな風がソウガの頬を撫でた。冬の寒さはまだ少し残っている。これからあと一か月もすれば異様な暑さになるのだろうが、今はまだ涼しい時期が続くだろう。
ソウガはどちらかといえば夏よりも冬の方が好きだった。理由は自分でもよくわからない。が、なんとなく、ソウガにとっては冬の方が親しみやすかった。
――――暗い。さびれている。そんな印象を与えるからだろうか。
廃れた存在。まだ芽吹いていない存在。
ソウガは、そんな弱小の存在が好みだった。これもまたなぜなのかは分からない。結局のところソウガには、なぜ自分が冬が好きなのか、その理由は分からなかった。
――――なぜ、こんな感傷的になっているのか。
――――簡単だ。櫂を思い出したからだ。
ちょうど、奴が現れたのもこんな気候の頃だった。と言っても、春先ではなく秋はじめのことだったが、涼しさがかすかにあるという気候は変わらない。
恐らく、自分は飢えている。
ここ数日、今の自分の生活がつまらない、と再認識する事態に、ソウガは陥っている。櫂がいたころは、ほぼ毎日奴とカードファイトをしたり、町のカードショップに通っていた。あのころが一番楽しかった。今は、つまらない……。
「……そう言えば、あの店はまだ続いているのだろうか。つぶれそうだったが」
久しぶりに、足を運んでみるのも悪くはない。
もしかしたら、何か面白いことに出会えるかもしれない。
そう――――いつだって、『それ』は自分を情熱の中に連れて行ってくれた。
『ヴァンガード』の、本気のカードファイトは。
***
「ほぅら、《サベイジ・キング》のアタックだ!」
「くっ……ダメージチェックです……」
デッキトップをめくる。右上には何のアイコンもついていない。
ブランクカード……それはつまり、自分がこのファイトに敗北したことを示していた。
翡翠シノは歯噛みしながら、そのカードをダメージゾーンに置く。六枚目のカードとの契約が解除される。同時に全てのカードとの契約が解除。ゲームーオーバー……
「きゃぁぁぁっ!」
ずがががががっ、という衝撃がシノを襲う。一年前にFFコーポレーションが発売した、カードファイトにおける自らの分身が受けるダメージを体感する機械、《VFシミュレーション・システム》のたまものだ。
その衝撃は、ダメージを負うごとに強くなっていく。六度目のダメージは、それまでのダメージを軽々と超越するものだった。
「ぎゃははははっ!俺の勝ちだな!」
黒髪を逆立てた青年が笑う。
「くぅ……」
「約束通り、お前のカードをもらうぜ」
この黒髪の青年とシノは、つい先ほどまで『賭けファイト』を行っていた。本来ならばあまりほめられたものではないが、どうやらこの青年は今までこの店で何度も賭けファイトを行い、カードを巻き上げて来たらしい。
シノが提示した条件は、シノが勝利した場合、今まで巻き上げた全てのカードを持ち主に返却し、このカードショップから立ち去ること。それに対する青年の条件は、彼が勝利した場合シノのデッキのカードの中で、一番価値のあるカードを譲渡すること。
「しかた……ありません」
シノはデッキを手に取る。
植物をモチーフにしたモンスターや人のイラストが描かれたその《クラン》の名は、《ネオネクタール》。このデッキのユニットたちは、シノにとっては宝物に等しい存在だった。
それを、手放さなければならない。
「(ごめん、なさい……)」
――――私が、弱かったばっかりに。
シノが取り出したのは、緑色のドラゴンが描かれたカード。
「おおっ、《アルボロス・ドラゴン》じゃねぇか!」
「すっげー!確か今なら5000円くらいで売れるぜ!」
「すごいっす、森川さん!」
森川、と呼ばれた黒髪の青年と、その取り巻きの少年たちが騒ぐ。
《アルボロス・ドラゴン”聖樹”》は、シノのカードの中で一番価値が高いカード。
もともとは、このデッキはシノの母親が使っていたものだった。それを失うのは、耐え難い屈辱だ。
だが、勝負のルールはルールなのだ。シノは敗北した。だから、このカードは失わなければならない。
「おら、早くよこせよ」
「……はい」
アルボロス・ドラゴンが森川の手に渡りかけた、その時だった。
「……何の騒ぎだ?」
男の声が、店内に響いた。
よく通る声だった。暗く、目立たない声だったが、確かな存在感を秘めた声だった。
それを発したのは、今丁度店内に入ってきたばかりであろう、茶色い髪の青年だった。学校帰りなのだろうか。制服を着て、スクールバッグを担いでいる。その制服には見覚えがあった。シノの通っている学校の、高等部の制服だ。
「あん?何だお前」
「……賭けファイトか……感心しないな……」
森川の問いには答えず、青年はため息をつく。その瞬間ふと、シノは「この人はヴァンガードが好きなんだ」と、なぜか直感的に思った。
「何だよ、お前もするか?なんならこいつと同じルールでやってやってもいいぜ」
森川はシノを指さして嗤う。しかし青年は動じることなく、静かに呟いた。
「……まさか、出戻ったその日に、こんなことに巻き込まれるとは、な……だが再陣にはちょうどいいか。いいだろう、受けて立つ。ルールを説明しろ」
後半は強く。森川はそうこなくっちゃなぁ、と返し、賭けファイトのルールを説明した。
「お前が勝ったら俺が今まで稼いできたカードは持ち主に返却、俺はこの店に出入り禁止。ただし俺様が勝ったら、お前のデッキから一番いいカードをもらうぜ」
「良いだろう」
青年はシノの方に歩み寄る。あわてて場所を譲る。
「VFSSまで使っているのか。凝ったものだな……」
スクールバックから取り出されたのは、古びた白いグローブ。それは、《VFシミュレーション・システム》のダメージフィードバックを行うための装置、《VFグローブ》。シノのそれはレンタル品だったが、青年の物は専用品のようだった。
同時に、同じく古びたカードケースが取り出される。中からは、使い込まれたカードたちが姿を見せた。
「なんだぁ?ボロッちいカードだな」
森川も準備を終え、プレイボードの中央……《ヴァンガードサークル》に、最初の一枚を置く。青年も同様。
「森川カツミだ。勝利は俺様のものだぜ」
「……桐生ソウガ」
青年の名乗った名前には、聞き覚えがなかった。大会上位者などではないのだろう。
それに対し森川は、周辺ではそこそこ名を聞くカードギャングだ。実力がそれなりに高いので止めることができず、手を焼いているという。
「「スタンドアップ・ザ・ヴァンガード!! 」」
火ぶたが切って落とされた。
「俺は《サベイジ・ニュービー》》にライドするぜ!」
「……《機械仕掛けの戯曲作家》にライド」
森川が憑依したのは、《ドラゴンエンパイア》所属クラン、《たちかぜ》のユニットだった。瞬間的に爆発するパワーが売り物のそのクランの中でも、《サベイジ》の名をもつユニットたちは比較的簡単にパワーが上がることで有名だった。
対するソウガがライドしたユニットは、見た事の無いものだった。シノは両親の代からのヴァンガードファイターとして、ユニットに関する記憶は人一倍だと自負している。だが、《機械仕掛けの戯曲作家》などと言うカードは見たことがない。イラストが古いので、かなり前のシリーズのカードと予測されるが……。
「先行、ドロー!……《サベイジ・ウォーリア》にライド!」
森川は次のグレードにライドする。現れたのは骨で武装した戦士。
「ターンエンドだ」
先行は攻撃できない。森川のターンはこれで終了する。
「マイターン、ドロー……ライド、《機械仕掛けの破壊者》ザ・ヴァンガード」
ソウガがライド先に選んだのは、ブリキのロボット、と形容したらいいのだろうか。そんなユニットだった。パワーは8000、効果なし。オーソドックスなバニラユニットだった。
何の変哲もない、各クラン共通効果ユニット。だが、そのカードを見た瞬間、森川の隣で戦況を見ていた、彼の取り巻きの一人……もじゃもじゃの髪の毛のほう…たしか井崎という名前だ…が叫んだ。
「《ハートレス・クラッシャー》……?それに、《ライフレス・シェイクスピア》……も、森川!ヤバイ、こいつ、《アルカナレイド》だ!!」
「アルカナレイド?なんだそりゃ」
森川は聞きなれない名前に眉をひそめる。
だが、シノはその名前に衝撃を味わっていた。
《アルカナレイド》。十年前、ヴァンガード黎明期にたった一弾の間だけ存在した、幻のクラン。もう誰も使わないと言われていたはずの存在。
「今じゃカードが現存してるのかすら怪しくて、高い所じゃ5万くらいで売れるぜ……!?」
「ま、マジか……よし」
森川はびしっ、とソウガを指さす。
「おい、お前!ルール変更だ。俺様が勝ったらお前のそのデッキ、全部いただくぜ!」
「そんな!」
思わずシノの口から悲鳴が飛び出す。むちゃくちゃだ。それに今ここでルール変更は卑怯だ――――
「……分かった」
だがしかし、ソウガはことも無さげに頷く。直後、彼は初めてシノの方を向き、言った。
「心配するな。勝てばいいのだから」
戦いは、まだ始まったばかり。
後書き
どうも、御久しぶり/初めまして、切り裂き姫の守護者です。
皆様の熱い(?)ご要望によりスタートしました、チート級オリ主が織りなすヴァンガード二次。この作品の進行度はは作者のモチベに大きく左右されます。
本作は分類するなら《オリ主再構成》でしょうか。原作とは異なるキャラクターや世界観の設定が多々ありますし、もちろん登場カードの大半はオリジナルです。ご注意ください。
次回はVS森川後篇です。
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