銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません
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第百八十八話 エッシェンバッハの驚愕
前書き
大変お待たせ致しました。
中々更新できずに申し訳ありません。
今回はグタグタかもしれません。
前回のテレーゼの叱責により萎縮が起こることはある意味狙って行った事と成っております。流石にあれほどの人死にが出るとまでは思っていなかったので、感情を爆発させた訳ですが、叱責自体が陛下とテレーゼの後々の演技の元になる伏線でした。
宇宙暦795年 帝国暦486年 2月1日
■イゼルローン回廊イゼルローン要塞
1月末の攻防以来、帝国軍は今までのようなイゼルローン回廊同盟側出口付近での戦闘は下火と成って行き同盟軍は艦隊の再編を終えた。同盟側とすれば先だってシェーンバルト艦隊を取り逃がした際に巧みな攻撃を仕掛けて来た艦隊が出張ってくるものと身構えていたのであるが、それ以降は全く姿を現さずにいた為に、色々な憶測がされていたのである。
曰く、『たかが一万隻程度であるから我が軍の陣容に恐れをなした』『あの艦隊は臨時編成で有るが故にそう簡単に集められないのではないか?』『面子を潰されたシェーンバルト少将が姉に告げ口して指揮官を更迭した』等々色々な憶測がなされたが、ともあれ回廊に敵が出なくなった以上は、このまま回廊出口でウロウロしている事も無く回廊へと進入を開始した。
イゼルローン要塞では、元々叛乱軍をイゼルローン要塞に於いて撃滅することが主であったが故にシェーンバルト艦隊の敗退以来艦隊を殆ど繰り出す事が無く、艦艇整備や将兵の休養に時間を充て準備を整えつつあった。
これは異常とも言える光景と言えた、以前までのイゼルローン駐留艦隊で有れば要塞司令部と駐留艦隊司令部との確執の為に、例え宇宙艦隊司令長官が直率していたとしても好戦的で打って出る事が多かったにも関わらず、少数の偵察艦艇を除けば全くと言って良いほど艦隊を繰り出すことがないのである。
これは寡聞にテレーゼ皇女がシェーンバルト少将を名指しで叱責した事が要塞中に知れ渡り、無用な犠牲を出した指揮官は皇女に叱責され唾棄される事に成り、今後の出世や人生にも悪影響があると恐れられた事も影響していたのである。
尤もそう思うのはテレーゼの為人を知らない門閥貴族出身指揮官などで有り、ロイエンタール以下の面々はシェーンバルトのした事に因ってテレーゼが怒りを露わにしたと判っていたのであり、落ち着いた状態で有った。
その様な中で、イゼルローン要塞の貴賓室でテレーゼはエッシェンバッハ元帥と面談していた。
「殿下におかれましてはご機嫌麗しく恐悦至極に存じます」
エッシェンバッハが恭しく挨拶を行うと、テレーゼは真面目に答える。
「元帥、御苦労様です」
「御意」
エッシェンバッハにしてみれば、先だってのシェーンバルト少将に対する叱責でテレーゼの悪名が流れる事と、軍の指揮官に怯えが出ていることで軍に関しては口を出して欲しく無い事を伝えたいと思っていた所でテレーゼから内々に話す事があるとの事で来た事で、処罰を受ける覚悟で諫言するべく身構えていたのであるが、テレーゼから発せられた言葉に驚く事に成った。
「元帥、先だっての事は済まないことをしました。あの事により皇族が軍に口を出す事で指揮官が萎縮した事は妾の責任と言えましょう、元帥には嘸かし不快感を与えたことと思います」
テレーゼが頭を下げ語ったために、エッシェンバッハは条件反射的に自らも頭を下げて謝罪する。
「殿下、御頭をお上げください、本来であればシェーンバルト少将の手綱を絞めるのは臣の役目でございます。それを怠り彼の者にやりたい放題をさせていたは臣の罪にございます」
「元帥、あの者の我が儘は父上のせいでもあるので気に病むことはない」
「殿下・・・・・・」
「元帥、この度の事は、父上がお考えになった事、父上は常日頃、要塞司令部と駐留艦隊司令部の相克を憂いておってな。この度の妾の要塞への旅で何とかする気であったのだ、その事を聞いていた妾も其処であの者の愚かな行為に思わず強くいった訳なのだ」
テレーゼの思わぬ告白に愕然とするエッシェンバッハ。
「陛下ががでございますか?」
「そうよ。妾の叱責で要塞司令部も駐留艦隊司令部も大人しくなって誰も無謀な出撃を言わなくなった。今までであれば卿が睨みをきかした所で、オーディンに繋がりのある門閥貴族の指揮官が強力なバックの圧力で無謀な出撃を主張する事が多々有ったであろう」
エッシェンバッハも幾度となくブラウンシュバイク公以下の大貴族の横槍に作戦をかき回された記憶があるために自分の力の無さを情けなく思いながら頷くしか無い。
「御意」
「其処で、父上は卿をエッシェンバッハ子爵に叙爵したうえ、この度の妾の威圧で卿の指揮権を妨げる者共に誰が卿の後にいるかを知らしめた訳よ。エッシェンバッハよ、卿は帝国の為によく働いてくれている。これは父上も妾も考えは同じよ。卿に変わる宇宙艦隊司令長官は無い、父上も妾も卿を信頼しておる。間違っても自信を無くす様な事にならぬようにして欲しい。帝国の安全保障は卿にかかっておるのだ頼むぞ」
エッシェンバッハはテレーゼから発せられた言葉に更に驚愕し感動に包まれる。
「陛下と殿下は、其処まで臣の事を・・・・・・」
「其処でエッシェンバッハ、卿の心配事を消してやろう」
エッシェンバッハは、テレーゼの話になんのことかと不思議がる。
「殿下、それはいったい何のことでありましょうか?」
今までの真剣な表情からうって変わって悪い事をするような笑みでテレーゼはエッシェンバッハを見る。
「卿の地位を脅かすであろうと卿が考えている人物の事よ」
「その様な事は」
内心の鬱積を知られたかと驚く。
「隠さずとも良い、卿がケスラー大将の事を気にしていることなど予測が付く事よ」
「それは・・・・・・」
「フフフ、若き戦略家、戦術に関しても帝国でも上位に位置する男であれば、卿の地位を脅かしかねないと思っているの有ろう」
心の内をズバリ当てられて、エッシェンバッハは冷や汗をかき始める。
「その様な事は」
「良い良い、焦るのは判る事よ。しかしケスラーが元帥になったとしても宇宙艦隊司令長官には親補はさせられる事は無い」
テレーゼの断言をエッシェンバッハは不思議に思う、ケスラー大将と言えばテレーゼのお気に入りでありその事から考えてもテレーゼが強く押せば宇宙艦隊司令長官に親補されても可笑しくないのでは無いかと。
「不思議そうな顔をしておるの、ケスラーが妾のお気に入りであればこそ、宇宙艦隊司令長官になる事は出来ない。何故なら妾の婿になるからじゃ」
「殿下・・・・・・」
余りのはっちゃけにエッシェンバッハも目を大きく見開いて驚く。
「ハハハハ、冗談じゃ冗談じゃ、兄妹で結婚できるはずがあるまい」
今度の話で更に驚く、そう言えばケスラー大将が皇帝陛下の隠し子であると言う噂が叛乱軍側に流れていると聞いた事があると、それは真実で有ったのかと。
「殿下、お戯れはお止めください」
焦り大汗をかきながら諫言する。
「済まぬな、全て嘘よ。しかし敵を欺くにはまず味方からと言うであろう、その為のブラフよ」
「殿下」
「フフフ、本題に入ろうかの、ケスラーは何れグリンメルスハウゼンに変わって憲兵隊を指揮することが決まっている。彼ほどの人材はそうざらにいないのでな。それにケスラーは参謀肌でな、卿のような威厳を出す事は出来ぬタイプよ。その他の者でも宇宙艦隊司令長官に成るべき資質を持つ者はおっても卿の様に成るのは10年ではまず無理よ。その為に卿以外に宇宙艦隊司令長官を頼める者はおらぬ」
エッシェンバッハは御意とだけしか言う事が出来なく成っていた。何故なら単なる子供かと思っていたテレーゼの話に驚愕していただけではなく、その話が皇帝陛下などから示唆されたとは思えない程の洞察力の凄さと、演技力、状況判断力など、とても14歳の女児の考えとは思えなかったからであり、ルドルフ大帝がその身に宿ったのではないかと思えるほどの威圧感が感じられたからであった。
「フフフ、シェーンバルトは華有るが信と忠は非ず、メルカッツは信と忠は有るが華と威は非ず、ケスラーは信と忠はあるが華が非ず、その他の将官もそれぞれ何かしらの欠点を持っている中で、卿は信、忠、威を持っておる。これほどの整った司令長官は近年は寡聞に聞いたことが無い。卿に全てを任せるに何ら不安無きこと陛下も妾も国務尚書も太鼓判を押せる。卿にはこれからも帝国を背負って貰いたい。頼むぞ」
再度テレーゼが頭を下げた。
「殿下、そう易々と臣などに頭をお下げに成らないでくださいませ。帝室の威厳に関わる事にございます」
「エッシェンバッハよ、妾の身一つで帝国臣民250億が平穏無事に過ごせるのであれば安い物よ。帝国を頼むぞ」
「御意にございます」
エッシェンバッハにしてみれば此処までされて否と言えるはずが無く、益々帝国の為に働くことを心に決めた。
その様な遣り取りの後、テレーゼがこれからの叛乱軍の行うであろう作戦案を渡され、それを読んだエッシェンバッハは驚きを隠せなかった。
「殿下、これは何処から御手に入れたのでしょうか?」
その質問にテレーゼが先ほどより更にニヤリとしながら話しはじめる。
「フフフ知りたいかしら、知ったら逃げられないわよ」
そう言われて逃げる訳にも行かずに話を聞き始める。
「御意」
「帝国には、情報部以外にも皇帝陛下直率の闇の組織が有ってね。その組織は帝国、フェザーン、同盟にも根を深く張っているのよ。其処からの情報が流れてきた訳ね」
「殿下・・・・・・」
「フフフ、大丈夫よ。陛下も妾も一度味方に成った者は何が何でも守り抜くわよ。何処ぞの自治領主のように自分以外は駒としか思っていない人で無しとは違うからね」
ニヤニヤと笑いながら喋るテレーゼで有ったが、エッシェンバッハにしてみれば、噂しか知らなかった皇帝陛下直率の諜報組織が実在した事と、それにテレーゼ自身が関与している事で、間違い無く殿下はルドルフ大帝の生まれ変わりだと思うように成った。そしてその事を自分に教えた事こそ陛下と殿下の信頼の証と心に強く刻まれたのである。
「では元帥、要塞攻撃時にも妾は司令室に留まって、敵のミサイル艦の攻撃時に動かせて貰うからそれだけは納得して貰うわ」
最早、イゼルローンツヴァイ、ブリガージンの首飾りを使った戦術を示されたエッシェンバッハには否と言う術は無かった。
「御意」
その頃、イゼルローン回廊帝国側出口で待機していたメックリンガー、ビッテンフェルト、ミッターマイヤー艦隊も通信中継艦を介したイゼルローン要塞からのケスラーの指令に従って回廊へと進入しはじめた。
ケーニヒス ティーゲル艦橋ではビッテンフェルトが大声で叫んでいた。
「ようしいよいよ参戦だ!全艦テレーゼ様のお膝元へ全速前進だ!」
愛すべき猪(馬鹿)は敬愛するテレーゼの元へ突き進んでいく。
尤も散々待たされたビッテンフェルトの手綱を握るためにメックリンガーは趣味の時間を取る事すら出来なかったのであるが、これから数日間も更に苦労するはめになるのであった。
宇宙暦795年 帝国暦486年 2月3日
■イゼルローン回廊イゼルローン要塞
2月3日自由惑星同盟軍は、ついにイゼルローン要塞の前面に全軍を展開させた。無論トールハンマーの射程外6.4光秒の距離である。
艦艇総数6万5千隻強、前哨戦での喪失艦や損傷艦を差し引いてもまだこれだけの艦艇をロボス元帥は展開させたのである。
アイアースの艦橋でロボス元帥が命令発する。
「攻撃開始!」
第6次イゼルローン攻防戦、殺戮と破壊の宴が遂に幕を開けた。
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