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黒砂糖

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第四章


第四章

「黒砂糖のお菓子なんて。一度も」
「けれど作れるで」
「作ったことないのに?」
「誰でも最初はそうや」
 優しい声でまた孫娘に対して述べた。
「誰かてな。そやからそれは気にすることあらへん」
「作ってみいってこと?」
「それに前に教えたやろ?」
 ここでも優しい笑顔の祖母であった。
「黒砂糖のお菓子の作り方」
「それって滅茶苦茶子供の頃のことやん」
 その困った顔で祖母に言い返した。
「うちそんなん全然覚えてないで」
「それでもやってみたらええ」
 祖母の言葉は続く。
「作ってみたらな。ええな」
「作れって言われても」
 そう言われても困ったままの顔の昌美だった。
「私ホンマに作ったことはないし」
「大丈夫や、できる」
 しかし祖母はあくまでこう昌美に言うのだった。
「あんたやったらな。ほなやってみいや」
「絶対に無理や」
 昌美は最初から出来る筈がないと思っていた。それは確信だった。
「まあそれでもやってみいって言われたら」
「女は度胸」
 今度の祖母の言葉はこれだった。
「ええな。堂々とやりや」
「やってみるわ。とにかく」
 こうして昌美はいきなり本番で黒砂糖の菓子を作ることになった。まずは夕食を食べて腹ごしらえをしてからだった。そのうえで菓子厨房に入りそこで早速菓子を作るのだった。
 厨房にいるのは昌美と祖母だった。二人で仲に入りそこで作ろうとする。しかしここで彼女はあらためて困った顔で言うのだった。
「で、作ってみるけれど」
「できるさかい安心するんや」
「まだやってもないのに何でできるってわかるんや?」
「一回教えたやろ?」
 言うのはまたこのことだった。
「そやから安心して作るんや。大船に乗ったつもりでな」
「失敗したらどないするん?」
 昌美は今彼女が最も心配していることをそのまま祖母に対して吐き出した。
「そうなったら何もかも終わりやん」
「そんなに自信がないんか?」
 祖母は後ろから昌美に対して問うた。
「まだ作ってもないのに」
「作ってないから自信がないんやん」
 昌美の言葉は実に正論だった。しかしそれが祖母に効くかというとそうではなかった。
「そんな子供の頃に聞いただけのことなんて。できるかいな」
「だからできるんや」
 祖母の言葉は相変わらずだった。
「あんたやからな。ほら、作り」
「まあ。あれこれ言うても仕方あらへんし」
 散々ブツブツと言ったうえでの言葉だった。
「とりあえず。作るか」
「そや。やってみ」
 何はともあれ作りはじめた昌美だった。こうしてはじめてみても何をしていいのかわからない。しかし何故か自然と指が動くのだった。
「あれっ!?」
 指は本当に自然に動く。あれよこれよという間に何かができていく。
 それは饅頭だった。あの時祖母が教えてくれた饅頭だった。それが少しずつできてきたのだった。しかもそれだけではなかった。
 そうしてこれまた自然にだった。指が勝手に黒砂糖を握っていた。
「えっ、指が勝手に」
「身体も勝手に動いてるやん」
 また祖母が後ろから言う。
「ええ具合に」
「これ何でなんや?」
 昌美は顔を顰めさせて言うのだった。
「身体が勝手に動いてるやん」
「それは当たり前や」
 ここでまた祖母が述べた。
「あの時教えたからや」
「あの時ってそやから十年以上前やん」
 このことをどうしても言わずにはいられなかった。
「それで何でわかるんや。こんなん」
「うちがあんたに教えたんは一回やったか?」
「一回って?」
「覚えてるのには訳があるんや」
 微笑んでまた述べる祖母であった。
「うちはあんたに何回も教えたんやで」
「子供の頃に?」
「そや。白砂糖とは別に教え込んでいたんや」
 ここで種明かしをはじめてきた。
 
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