黒砂糖
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第一章
第一章
黒砂糖
「そんでな」
「うん」
大浦昌美は祖母が作るのをしっかりと見ていた。その黒く大きな瞳で。
「砂糖が大事なんやで」
「砂糖がやの」
「そうや。普通はな」
ここで砂糖を出して昌美に見せた。それはいつもの白い砂糖であった。昌美も非常によく知っているその白い砂糖を見せてきたのである。
「この砂糖使うやろ」
「砂糖ってこれやろ?」
昌美は首を傾げさせた。そのまだ小さい首をである。
「いつもお母さんが使ってるのこれやで」
「そうや。砂糖は白いもんや」
祖母もそれは認めるのだった。
「普通はな。けれど違う砂糖もあるんやで」
「違う砂糖?」
それを聞いてまた首を傾げる昌美だった。
「砂糖って一つやないん?」
「黒い砂糖もあるんや」
そしてこう彼女に話すのだった。
「黒い砂糖もあるねんで」
「黒い砂糖って」
そう言われてもそれが何なのかさっぱりわからない昌美だった。首を傾げるだけでなくその顔も怪訝なものにさせて仕方がなかった。
「そんなんあるの?」
「ないと思うんか?」
「だって砂糖って白いやん」
あくまでこう言う昌美だった。
「それで黒い砂糖なんて」
「けれどな。これがあるんやで」
しかし祖母はあくまでこう昌美に言うのだった。
「ほんまにな。あるねんで」
「ほんまに?」
「嘘やと思うやろ」
孫に対して問うように尋ねてきた。
「おばあの言葉。嘘やと思ってるやろ」
「嘘やないん?」
「じゃあ見せたるわ」
そして今度はこう言ってきたのだった。昌美に対して。
「その黒い砂糖はな。これなんや」
「えっ!?」
祖母が出してきたそれを見て思わず声をあげてしまった昌美だった。そこにあったのはあの白い雪のような砂糖ではなかった。黒い小石みたいな、そんなものであった。
「これが砂糖なん」
「そうや。これが黒い砂糖なんやで」
穏やかな笑顔と共の言葉だった。
「黒い砂糖なんや」
「そうなんや。これが黒い砂糖なんや」
その黒砂糖を見てまた言う昌美だった。
「じゃあこれも甘いんやな」
「そやで」
優しい声で孫娘に語る。
「何やったら少し舐めてみるか?」
「舐めてええのん?」
「一杯あるからええで」
また優しい声で孫娘に語った。
「ほら。少し取り」
「うん。じゃあ」
祖母の言葉に従いその黒砂糖を少し手に取りそのうえで口の中に入れた。するとであった。
「あっ・・・・・・」
「どうや。甘いやろ」
「うん。甘いけれど」
昌美はここで言うのだった。その砂糖の味を確かめながら。
「これ砂糖とちゃうな」
「ちゃうやろ。白い砂糖と」
「ああ。こんなんはじめてや」
こう祖母にも答えるのだった。
「白い砂糖の甘さとまたちゃうんやな」
「そうや。白い砂糖には白い砂糖の甘さがあって」
こう昌美に教えてきた。
「それで黒い砂糖には黒い砂糖の甘さがあるんやで」
「そうなんやな。これが黒い砂糖の甘さなんやな」
まだ舐めている。その甘さをまだ味わっていての言葉だ。
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