魔法少女リリカルなのは Searching Unknown
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第一話
前書き
(竜二の出番は当分)ないです。
直人達が訓練校を卒業して半年が過ぎた。配属された部隊での研修期間も終わり、本格的に局員としての任務をこなしていく日々を送っている。今日は彼の部隊は休暇のようで、もはや相棒となっているティーダと共にクラナガンの繁華街へと繰り出していた。
「しかしまぁ、お前さんよくここまで伸びたわ。ようやっと荷物から卒業やな」
「直人さんも大概でしょうが、ここじゃ」
「ま、新人は突っ走るのが仕事やししゃあないしゃあない」
「それで何度隊長に怒られたんですかねぇ……」
ちなみに、ティーダと直人は同じ陸士207部隊に配属された。この部隊は主に戦闘を前提とした任務を受けるため人員の消費が激しい部隊の一つに数えられており、殉職または戦闘行動不可能なほど身体機能を破壊される局員が少なくないのだ。そんな中この時期に入った新人の中では、二人とも比較的高い戦闘力を持っていた。中距離戦闘が得意で、かつ直人の制圧力とティーダの射撃精度はここの部隊長の目にかなったからか手配が終わっており、卒業後すぐに配属された。ちなみに元チームメイトだった二人は彼らより優秀だったためか、更に過酷な任務を受け持つ部隊へと引き抜かれていったそうだ。
「ま、こんな中じゃ、自分もまだまだやと思うわけよ。それに俺らがこうしている間にも、地元と連絡があまり取れてへんからなぁ……」
「まぁ、こんな仕事ですからねぇ。今日は久しぶりのオフですし、せっかくここまで出てきたんですから、パーっと遊びましょうや」
「せやなー、さて今日は何するかね」
「言っていつものとこなんでしょ?」
「否定はせん」
話をしながら二人は周囲に目を配らせる。時間は未だ昼前、平日のため人はそれほどいないが、それゆえにシャッターを閉めている店舗も多く、賑わいには欠ける上に彼らが立ち寄れる場所も限られてくる。その中を彼らは迷うことなくただひたすら歩いていく。向かう場所など最初から決まっているかのごとく。
「仕事ばっかで現場と寮を行ったり来たり、衣食住保証されて給料も高いから、知らんうちに溜まってるんよなぁ。元の世界の公務員と比べてもめちゃくちゃ稼いでんちゃうか、これ」
「俺らの部隊、危険手当めちゃくちゃつきますからねぇ。基本非常時にいるから夜勤とか残業とかガッポリですし」
「おかげで金には困らんが、普段出てけえへんからどこが遊ぶのにいい場所なんかとか全然わからんけどな」
「そこはほら、直人さんの趣味でぶっ飛ばすしか」
「俺の趣味、ねぇ……」
そんな中目に付いたのは、煌びやかな外装と外まではみ出したクレーンゲームの筐体、騒がしい音楽。かつて海鳴、いや地球で慣れ親しんだ施設であった。
「よっしゃティーダ、お前ちょっと付き合え」
「いいですよ、お供しましょう」
そうして入っていった施設は、こちらではアミューズメントセンターと呼ぶ。所謂地球のゲーセンであった。
二人が真っ先に向かったのはとあるドラムゲーム。このアミューズメントセンター、どこかの大手企業が地球から進出してきたのかと思わんばかりに地球のものとそっくりである。流石に地球のものとは作られている作品の内容が全然違うが、それでもゲームシステムであったり筐体の形であったり、似通っているものばかり。
「客おらんからゆっくり練習できるでぇ……一回やってみたかったのよ、大金握ってここで一日潰す休日って奴を」
「だからってさっきから何曲やってるんですかねぇこの人は」
ひたすらクレジットを投下してプレイを続ける直人と、それをただ眺めるティーダ。平日の昼であるがゆえ他の客がいないからこそできることである。
「お前あんまロックとか聞かんからなぁ」
「まぁそもそも音楽にそこまで興味ないですし」
「暇やったら違うゲームやってきてもええんやで?」
「じゃ遠慮なく」
そして次のクレジットを投入しようとしたとき、直人とティーダの業務用端末が震えて着信を知らせる。直人は手を引っ込めてスティックを戻すと、端末を操作して応答した。
「はいこちら山口」
『おう、お前今どこにいる?』
「今はランスター三士とクラナガンのセンター街付近ですが」
『デバイスは持ってるか?』
「はい。ランスターも所持しています」
『よし、場所はそこからすぐの銀行だ。強盗が入ったらしく、我らの部隊に応援要請がきた。お前らだけでも先に向かって状況を聞け。俺達本隊は10分ぐらいでつくから、それまで手は出すな』
「わかりました」
二人はほぼ同時に端末を閉じると、店の外へと向かう。本来なら走らねばならないが、それで店の機械を壊したり他人に怪我をさせてしまっては無駄に時間を食うからと判断したためか、競歩のような早足で向かう。
「状況は聞いたな?」
「ええ、しっかりと」
「上等。急ぐで!休日出勤なんてさっさと終わらせて代休申請じゃい!」
「はい!」
緊急事態であっても、後で自分の時間はしっかり頂こうとする二人であった。
二人は現場に到着すると、警官隊の中へと局員証を出す。すると、現場責任者である壮年の男性が彼らの前へと出た。
「時空管理局本局、陸士207所属、山口直人二等陸士です」
「同じく、ティーダ・ランスター二等陸士です」
「よろしく頼む。クラナガン警察のジェガン警部だ。とはいえ、今君たちにしてもらいたい事というのは特にないのだがな」
「わかりました。うちの隊長からも、本隊が到着するまで待機、との指示を受けています」
「そうか。とりあえず、概要だけ説明しよう」
「いえ、もう間もなく本隊も到着すると思われますので、その時にお願いします」
「そうか、わかった」
そしてまもなくして彼らの本体が合流して直ちに展開すると、直人とティーダは数名の警官とともに駐車場に回された。局員は既に全員デバイスを展開し、臨戦態勢にある。
「どこまでやっていいんですかね?」
「金を焼いちゃいかんから、車は傷つけずに中の奴だけ殺しゃええやろ」
「いやいや殺しちゃダメでしょ、ゴミ処理部隊じゃないんだから」
「アレと一緒にされるのは勘弁やな……」
ゴミ処理部隊とは、以前共同で作戦行動を取ったフレディ・アイン=クロイツの率いる部隊のことである。管理局が行う業務の中でも特に危険で難易度が高い任務だったり、監査官ではどうにもならない危険分子を処分したりと、基本的に暗部の任務を請け負う。その運営管理はフレディが表向き行っているように見せているが、実質はギル・グレアム提督が担当している。これはフレディ自身がやらなければならないことなのだが、現場主義の彼が面倒臭がって実務面に関しては丸投げしてしまったためにこうなっている。
「しかし、連中本当にこっちから出てくるんですか?」
「出てくるやろ。表か、搬出口と非常出口を兼ねてるこっちかしか出口はない。もし連中が上層階にいるんなら話は別やが、それにしたって建物の周りはうちとサツで固めてる。どっからやろうと出てきた瞬間お縄やな」
「はぁ、そらそうですわな」
「……ん?誰か出てくるで」
それは直人からの「黙って構えろ」のサイン。中から出てきたのは、いかにもな面相をした覆面姿が4人ほど出てきた。全員フルフェイスのガスマスクを被り、全身を暗い迷彩柄で覆ったその姿、さらにここミッドチルダでは禁止されている質量兵器を所持していたりと、どこかの特殊部隊のようにも見える。
「止まれ!時空管理局だ!」
直人が声を張り上げるが、当然聞く耳など持たず銃口を向けてくる。携行できる小型の機関銃のようだが、彼自身は見たことがないモデルだった。すぐさま直人はバリアジャケットとデバイスを展開し、二丁拳銃で牽制射撃。それを受けた彼らは拡散し、二名は自らの車の準備をしに走った。ちなみに、彼の持つ武器はデバイスを起動したもののため、質量兵器ではない。
「そう来なくっちゃなァ!ティーダは何人か連れて車行け!」
「了解!」
二名は残って攻撃してくる。それを見た直人はすぐに迎撃と追撃に分けた。いや、分けたというよりは自分以外を追撃に向かわせたと言ってもいい。何せ残ったメンバーは、直人の動きについていけなかったのだから。
「オラどうしたァ!そのトロクセぇ鉛玉ァ、当ててみろよチンカスがァ!」
「クソッ、速すぎる!」
無言で攻撃してくる相手に対し、挑発しつつ接近していく。機関銃により弾幕を張ってはいるが、一発たりともカスリもしない。一人は鳩尾に右の拳を叩き込んで沈め、もう一人は拳銃で足元を撃ってひるませ、大剣で叩き伏せた。すぐさま二人にバインドをかけると、端末を操作して相棒へと発信を飛ばす。ちなみにほぼ同じタイミングで、ティーダもまた単騎で残りの二人をバインドで縛り上げていた。二人はそのまま犯人を警察に引渡し、この事件はあっけなく幕を閉じた。
「やれやれ、大したことなかったな」
「本当ですね、事後処理も隊長達がやってくれるし、今日はこれで解放…でいいんですよね?」
「隊長が帰っていいって言ったんだからええやろ。さぁて、休日の続きや。飯でも行こか」
「そうですねー、何食います?」
「せやなー……」
二人はあてもなく市街地をフラフラしていると、このクラナガンでは大手チェーンである定食屋に入っていった。彼らを観察していた存在にも気付けぬまま。
「クラナガン市内にて山口直人を視認した。見知らぬ連れの男がいたが、どうする?……そうか、わかった。だが面倒になったら両方とも始末する」
その存在は、人のようであって人ではないようだった。見た目はそれこそどこにでいるような青年ではあるが、醸し出す雰囲気がどう見ても常人のそれではない。しかし周囲の民衆はその存在がそこにあることすら気付けていない。
「ああ、わかっている。全ては我らが未来に栄光を」
そう呟くと、姿ごとそこから消滅した。使ったであろう転移魔法の跡すら残さないままに。
二人が入った定食屋はそこそこの賑わいであった。昼休みの時間だからか、様々な組織のエンブレムを付けた制服姿がチラホラと目に入る。そんな中直人は食券を購入して席を探していると、四人席を独占している知人を見つけた。
「あれ、お前もここで飯?」
「あら、あなたたちも?ここ座る?」
「おお、邪魔するわ」
彼女は、直人が入局する前から何度も顔を合わせていた女性局員である。自らを彼の愛人といってはばからないことでアースラでは有名であったが、本来の所属は本局の監査部であることを後で知った直人は開いた口がふさがらなかったとか。
「ああ、直人さんの愛人さんですか。自分は…」
「だいたい知ってるわよ、ティーダ・ランスター二等陸士」
「さすが監査部、顔を見ただけでわかるんですね」
「これでも結構権限は持ってる方なのよ」
「へぇ、階級はどれくらいなんです?」
「あなたの隣にいる人なら知ってるわよ」
「適当に振るな、俺は知らん」
「あら、言ってなかったかしら?」
「聞いてない」
やってきた店員からお冷を受け取り、食券を渡す二人。ちなみに彼女の食事もまだなのか、水の入ったグラスしかなく、タブレット型端末と睨めっこをしている。
「んで、今なんか面白いヤマでもあるんけ?」
「特にないわね、各部署から送られてくるデータと格闘しているところよ」
「退屈やなぁ、まぁそんなもんか。本来デスクワークの部署やもんな」
「危なそうなところだけ監査しにいくくらいかしらね、今のところないし」
「仕事熱心で何よりだわさ」
「その言葉、そっくりそのまま返してあげる。さっきの銀行、手柄挙げたらしいじゃない」
「流石に耳が早いなぁ自分」
一時間も立たないほど直近のことなのに耳に入れていることには、二人とも素直にため息混じりで驚いていた。
「たまたまやあんなん。出てきたところがあそこやったからうまくいっただけや」
「運も実力のうちっていうでしょ。あるいはビギナーズラックかしらね」
「どっちでもええわ。何にせよ、はよ終わって俺らは休日をゆっくり楽しませてもらう」
「ああそうか、あなた達今日非番だったのよね?なんで出撃してたの?」
「たまたま一番近い場所にいたのが我々だったんですよ」
「なるほど、それで」
納得したのか、視線を端末へと戻す彼女。それから三人はとりとめもない話を続けながら食事を待った。
同じ頃、クラナガン市街にある公園で、サラリーマン風の男が肉体労働者風の男からデータチップのようなものを渡されていた。
「間違いないんだな?」
「ああ、長くかかって申し訳ないが、これが例の男のデータだ」
「よし、預かっておく」
それを受け取って去ろうとするサラリーマンの肩を肉体労働者が掴んだ。不機嫌そうな顔をするサラリーマンは振り返らないまま口を開く。
「……まだ、何か?」
「おいおい、これは取引だろう?そっちのブツはどうした?」
「これが本物であると確認できれば引き渡す、そういう契約になっていたはずだが?」
「馬鹿を言うな、契約の時点では聞いてないぞ、そんなことは。自分だけ持って帰ろうなんてムシのいい話が通るわけねぇだろう」
肉体労働者は決してその手を放そうとはしなかった。サラリーマンはため息をつくと男の方を向き、布に包まれた何かを肉体労働者の下腹部に当てて引っ込め、胸を力強く突き飛ばした。
「がはっ!?おいなにしやが……」
するとどうしたことか、肉体労働者が突然うめき声をあげながら血を吐いて崩れ落ちた。サラリーマンはそれを無表情のまま眺める。
「”我ら”が貴様ごときにくれてやるものなど死以外あるものか。掲げる崇高なる目的がため、そして計画のため、無関係な市民であろうが多少の犠牲は止むを得んのだ」
そう呟くと、既に物言わぬ屍となった肉体労働者を置いてサラリーマンは去っていく。スーツのポケットから取り出した端末を手早く操作し、どこかへとメッセージのようなものを飛ばすと、違うポケットからタバコを取り出してくわえる。
「山口直人に接近できさえすれば、我らが仇敵、フレディ=アイン=クロイツ。奴に間違いなく近づける。問題はどうやって接近すべきかだ。あの女狐さえいなければ、右も左もわからぬ小僧一人などどうとでもなるというのに……」
タバコを吹かしながら、どこかへと歩いていく男の姿からは、表現できない異様さがにじみ出ていた。
後書き
更新頻度がナマケモノクラスですが、みなさん見捨てないで下さい(必死
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