アラガミになった訳だが……どうしよう
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夫になった訳だが……どうしよう?
60話
というわけで、アラガミのいるらしい
場所までコウタの運転する装甲車に乗って移動している最中だ。ジルの腕に関しては既にサカキから聞いていたらしく、コウタはジルの腕を見ても少しばかりは驚いたものの特にジルに質問することも無く、いつも通りの態度で彼女に接した。
俺としてもそれは非常に有難いし、ジルもコウタに対してそれ程悪い感情を抱いていないようで、戦場でいきなりモメるということも無いだろう。
「マキナさん、連続でやるなら最初に言って下さいよ」
「そう言うなよ、コウタ。コンゴウ数体とシユウ二匹だけだ、そんなにキツい仕事じゃないだろう?」
「お父様、難易度の問題ではありません」
「そうそう、ジルちゃんの言うとおり」
「それとも連絡事項すらマトモに伝えられないんですか、ダメ親父?」
「だー悪かったよ。今回は俺が悪かった、謝るよ」
「おっ、すんなり謝った。やっぱり流石のマキナさんも娘には弱いんですね」
「まぁな、お前も家庭を持てば分かるぞ?」
「俺にはまだ早すぎますって。それに、そういうのはユウとアリサにでも言って下さい」
「ああ……まぁそう遠くないだろうよ。ユウの事だからお互い20越えたらって考えてるだろうしな」
「……ユウさんは噂でしか聞いた事がないのですが、お父様と違って真面目だと聞いているのでいい夫婦になるでしょうね」
「おいおい、俺が不真面目とでも言うのか?」
「不真面目とまでは言いませんが、子供の前で惚気るのはやめて欲しいですね」
「へー、イザナミさんは知ってたけどマキナさんから……意外すぎる」
「物事は口にして相手に伝えなきゃ分からないってのを色々と実感したからな」
そんな益体の無い話をしている内に、目的地である雪の降りしきる古寺に到着した。どうにも終末捕食を阻止して以降、極東地域ではやたらとアラガミが出現するようになったらしく、車を降りて早速小型アラガミに囲まれる羽目になった。
「最近この辺りはこんな感じだから連続討伐は嫌だったんですよ」
コウタはうんざりした表情で、次々とアラガミを撃ち落としていく。確かに極東支部で小型アラガミ如き新人でもなければ数がどれほど揃おうとも問題ないだろうし、まして精鋭である第一部隊の隊員である彼ならば退屈なルーチンワークに他ならないだろう。
そもそも、俺もこういった単純作業は嫌いなので今更ながら、任務を二つも掛け持ったのは失敗だったと感じながらも右腕の具足でアラガミを撃ち抜いていく。
「お父様、いくら面倒だからといって手を抜かないで下さい」
「いや、そもそも俺は集団相手はそんなに得意じゃないんだよ。俺の体は基本一対一の殴り合いか、部隊の壁役向きの性能なんだ」
「はぁ……確かにお父様はお母様と組むのが殆どですからそれでもいいんですが、もう少し用意があってもいいんじゃないですか?」
「そう言われても、ジルの方が雑魚相手なら速いだろ?だから、この手の任務にしたんだが……お前には荷が重かったか?」
その言葉を言い終わらない内に、俺の正面にいたザイゴート達が五匹同時にコアを撃ち抜かれ墜落した。
彼女に視線を向けると彼女のアラガミの腕の指五本から水が滴っており、その指一本一本が先程までアラガミがいた場所に向けられていた。
どうやら、彼女のアラガミの能力であったウォーターカッターは彼女の指一本一本に備わっているようだな。
「お父様、その言葉をすぐに撤回させて貰いますよ?」
以前から感じていたが、ジルは煽られる事に対して耐性が非常に低いのだ。だから、彼女に何かをさせる時は押すのでは無く引くことを意識するのがいい。
その効果はテキメンでご覧の通り、槍片手にウォーターカッターを撃ちまくってアラガミ相手に一方的な殲滅を一人で行っている。
「マキナさん、ジルちゃんってある意味分かり易い性格なんすね……」
「ああ、ただああでもしなきゃ言うことを聞いてくれないのは少し面倒だが、その辺りはそういう性格なんだから仕方ないと考えてる」
「でも、放っておいてもいいんですか?」
「んージルの隙をカバーする程度の支援で俺らは十分だろう。あいつの技量やらは第一線でも問題ない位にはあるし、そこそこの場数も踏んでる。そうそう心配もない」
「えー……じゃあ何でわざわざ任務を受けたんです?」
「ん?社会見学的なものだ」
そんな話をコウタとしている内に、ジルは群れを粗方狩り尽くしたようだ。
そして彼女は槍を構えると食事中だったであろう、随分先の建物の影にちらりと見える地面に座り込んでいたコンゴウの後頭部目掛けて、アラガミの腕を思い切り振りかぶり槍投げの要領で投げた。
突き刺さった槍は即座に内部の棘を展開し、コンゴウの息の根を止める。
「うわっ痛そう」
コウタは横でそんな感想を漏らしつつ、ジルの周囲のアラガミを撃ち落とす。
そんな事を繰り返している内に討伐対象であったコンゴウとシユウはそう時間をかけない内に殲滅を終え、最後に周辺にアラガミが残っていないかを確認するだけとなった。
「お父様、少しよろしいですか?」
「ん?どうした?」
最後に一番大きな寺の本堂に入った時にジルが何かを持ってきた。
「いえ、私の勘違いかもしれないのですが……これはもしかすると新種のアラガミの破片か何かではないでしょうか?」
ジルはそう言って俺に真っ黒な羽のような物を手渡した。
ふむ……普通の羽のじゃなくてオラクル細胞のようだな。
俺もイザナミ程では何にしろ、いい加減アラガミの感覚とでも言うものに関して理解が及ぶようになったのだ。だから、一目すればそれがオラクル細胞かそうでないか位は見分けがつく。
そして、ジルの言う通りこのオラクル細胞は新種のようだ。いや、正確には変異種か?
レオのオラクル細胞と類似点が多いことから、恐らくこの羽の持ち主はハンニバルの変異種か何かだろう。
「細かい事は分からんが、お前の言う通り新種だろうな。細かい所はサカキにでも調べさせるとして、一旦それは持ち帰るとしよう」
「……それだけですか?」
「ん?何がだ?」
「私は新種のアラガミのサンプルを手に入れました」
「ああ、そうだな」
「ええ、そうですよ。これはそれなりの功績ではないでしょうか?」
「うん?まぁ、そうだな」
「ええ……」
「……」
むぅ……一体ジルはどうしたんだ?やたらと不満気に俺を見てくるのだが、俺に何をしろというのだ?
「話は変わりますが、私は先程の戦いでお父様に乗せられる形になりましたが中々の働きを見せたと思います」
「ああ、そうだな」
「ええ……」
ん……ああ、そうかようやく分かった。
「よくやったな、ジル。よく頑張ったな、偉いぞ」
「そうです、私は褒められて伸びるタイプなので今後ともよろしくお願いします」
ああ、さいで……それにしても、黒いハンニバルの破片に古寺か。そろそろリンドウの話が始まるようだが……放っておいてもどうにかなるだろ。
ユウの事だ万事問題なくこなしてくれるだろうよ。
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