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ToV - 黎明の羽根

作者:聖七
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第一部
愛故の憎しみ
  2

此処を訪れてからどれほどの時間が経ったのか。

ただっ広い空間の中、一人の人間を捜し回るのは予想以上に大変だった。
まだ幼いカロルは勿論、ユーリとライアンの顔にも疲労の色が浮かび始める。

追い討ちをかけるようにこの臭気だ。
遂に降参の音を上げるカロルを休ませる為、三人は塔のバルコニーに出た。


「ううー…」


完全にダウンしている首領。
項垂れる茶色い頭をぽんぽんと叩きながら、ユーリはライアンを注視する。

既に太陽が沈み、闇に呑まれた流砂の地。
遠くに窺えるダングレストの灯りを眺めつつ彼は押し黙っていた。
こんな状況でも姿勢一つ崩す事なく、その瞳も静かなままだ。

様子を窺うユーリに気付いたのだろう。青年の目視がこちらに流れた。


「付き合わせてすまない」


労いの言葉と共に目を伏せる。
それは本心から来る発言なのか、判別し難い。

とりあえずと言わんばかりに謝辞を受け流し、ユーリはバルコニーの塀に凭れ掛かる。
そのまま背筋を緩やかに反らせると、高々と聳え立つ城の最上部がちらりと見えた。


「ま、依頼を受けた以上はな」


そう言いつつ隣を見ると、未だに疲労困憊中のカロルが唇を尖らせている。

その顔は自分の意思ではない、とでも言いたげだ。
しかし断る訳にはいかないという首領ならではの苦悩。
不満はあるものの口には出来ない、その心情を察してユーリは思わず苦笑する。



「…っていうか、本当に此処にいるの?不気味なほど静かなんだけど」


地面に突っ伏したカロルが突然口を開く。

確かに彼の言う通り、塔は驚くほどの静寂に包まれていた。
既に活動を停止した無数の仕掛けが更に空気を閑散とさせているのだろう。
自分達以外には人の気配は感じられない。

その割に、この凄まじい血臭は不自然だが。



ライアンは恐らく勘が鋭い。
依頼こそ受けたものの、ユーリ達が抱く疑念などとうに感じ取っているはず。

だが彼は不快そうどころか、眉一つ動かさない。
硝子のような表面上だけの愛嬌――微笑みを交えて対応してくる。


「大丈夫。だからもうちょっとだけ付き合ってくれないか」



この余裕は何から生まれるものなのか。
柔らかい笑顔、だがそれに潜む圧力に呑まれそうになりながらユーリはそう思った。 
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