日向の兎
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1部
10話
「さっきのあれはどういうつもりだ?」
ネジとハナビを先に帰らせて、私とサスケは今現在あまり人のいない森にいる。
「あれとは?」
「ふざけるな。あの戦いは明らかに俺の負けだった、なのに何故降参したんだ!?」
「そう怒鳴るな。ああでもしなければ、君は私に対して関心を持たなかっただろう?」
「……どういうことだ?」
「ただ勝ったのなら君は単純に経験の差だと考えて一人修行に専念しただろうし、ただ負けたのであればそれこそ私に何も感じなかっただろう。
そら、こうなれば初対面の私に注目させるには君のプライドを逆撫でする他ないだろう?」
「……腹が立つが、そうだな」
「だろう?とはいえ無礼を働いた事は確かだ、その点については謝ろう。
その上で、幾つか君に質問を許して欲しい」
「質問だと?」
「ああ、うちは一族が皆殺しにされた日の事だ」
一瞬サスケ表情が怒りに染まり、その眼が写輪眼になったがすぐに元に戻り、先程より一段階低い声で私に問いかける。
「それを知ってどうする?」
「別にどうもしない。ただ単に私は知りたいだけだ、明らかに納得のいかないあの事件の真相をな」
「真相だと?」
「いや、違うな。真相ではなく、真相に近しいであろう小娘の拙い推理とでも言うべきものでしかないな。それでも聞きたいというなら、君の持つ情報を得た上で語ってみせよう」
「イタチが一族を皆殺しにした以外に何かあるとでも言いたいのか?」
「当たり前だ。それとも君は火影直属の精鋭部隊と言っても過言ではない暗部の中でも、その部隊長を若くして務めた程のうちはイタチがただの狂った連続殺人鬼(シリアルキラー)だとでも本気で考えているのか?」
ほんの僅か考えるなら素振りを見せたが、何か思い付いたような表情を浮かべて私の赤い眼を見る。
「一つ、条件がある」
「何だ?」
「俺の眼の練習相手になってくれ。あんたと戦った時に分かったが、あんたの先を読む力は俺より上だった。俺がこの眼を扱い切れてない事を考えても、今の俺よりあんたの方が上だ」
「先読みに関しては単純な経験の差だと思うのだが……確かに現時点では君より私の方が強いな。いいだろう、ただし私の都合は考慮してもらうぞ?」
「ああ、構わない。それで何が知りたいんだ?」
「一つ、君がうちはの集落に帰った時間。二つ、イタチが君に告げた言葉があればその内容を」
「……最初の質問は午後六時前後だ。普通より遅かったのは、手裏剣の練習で帰るのが遅くなったからだ。二つ目はあんたの挑発と同じ言葉と……もう一つは関係のない事だ」
私には関係ないことか、気にはなるが答える気はなさそうだな。だが、午後六時前後というのは私にとって意味のある情報だ。
「それで、あんたの言う真相っていうのは何だ?」
「そうさな、まず里の対応について少し考えよう」
「里の対応?」
「ああ、うちはは木の葉の警務部を務めていたにも関わらず、里の対応があまりに後手過ぎるのだ。
里の部署一つを潰した上に三大瞳術の一つを持つ一族を皆殺したのならば、相当数の暗部が動くはずだがその様子はなかった。普通、里に残っている暗部を総動員させるだけの価値は写輪眼にあるからな」
「何が言いたいんだ?」
「考えてもみろ、幾らイタチが優秀とはいえ暗部が午後六時前後という日が暮れて間もない時間帯に大量殺人を行った上での逃亡を、一切の足取りを得ることも出来ないと思うか?
そもそも、そんな時間帯に幾ら里の隅とはいえそんな異常事態に誰一人気づかないと思うか?」
「だから何が言いたい!?」
「里の、それも暗部に指示できる程の権力を持った上の人間がイタチの行動を容認、又は命令したという事だ」
「……その根拠は?」
「確たる証拠はないが里の創設に関わったうちは一族にしては里の対応が呆気なさ過ぎる、という判断でしかないが見当違いと切って捨てるには惜しい推測だと思うぞ」
「つまり、あんたの考えだと里がイタチに命令してうちはを滅ぼさせたということか?」
「ああ、大方そうだ」
私が頷くと、彼は少し小馬鹿にした笑みを浮かべて私を見た。
「あんたの考えは致命的に間違っているぞ?」
「ほう、良ければその間違いを教えて欲しいものだな」
「あんたの言う真相ならイタチは何故国際手配されているんだ、里からの任務という事であれば罪には問われない筈だ」
……ああ、なんだそんな事か。
「任務を無視したからに決まっているからだろう?」
「なんだと?」
「イタチの任務が君以外のうちは一族を皆殺しにするなどという意味不明なものだと思うのか?そんなわけないだろ、当然うちは一族全ての皆殺しだろう?」
「……じゃあ、イタチは何故俺を見逃したんだ?」
「知るか、そんなものは私の興味の対象外だ。私が知りたいのはうちは一族滅亡に里がどう関わったのか、ただそれだけだ。イタチがどのような心情だったかなど知らんし、興味もない。いや、興味が全くない訳ではないがそればかりは本人に直接聞く他なかろうよ。
それに言っただろう、これは小娘のただの想像にしか過ぎないとな。私の里の陰謀説もイタチの気まぐれ説も所詮子供の想像にしかすぎないが、時には違う視点を持つというのは悪くないぞ?」
「あんた、一体何なんだ?」
「私か?妹が大好きな、どこにでもいるただのお姉さんだ」
……今更ながらだが、サスケの修行に関しては断るべきだったんじゃないだろうかと部屋に帰って深く後悔した。
「月曜はヒナタとナルトの相手、火曜はハナビ、水曜はネジ、木曜はヒナタとナルト、金曜はサスケ、土日はハナビ……それに私自身の鍛錬を考えると、私に休みが微塵もないではないか」
どれかを削ろうとも考えたのだが、ヒナタとハナビは言うまでもなく削れない。
ネジに関しては私の監視という仕事に対して多少は報いてやらねばならんし、サスケに至っては既に情報を聞いてしまったので反故にする訳にはいかん。
結局、どうあっても削れないという事が分かっただけだった。
いや、自己責任でしかないのだから諦める他ないか。我ながら、随分と人がいいというか安請け合いが多いというか、もう少し考えを巡らせるべきだったな。
「それはそうと、ヒジリ様」
カレンダーを眺めてうんざりしている私の後ろから、木製の箱を抱えたネジが私に声を掛けた。
「何だ?」
「俺の部屋に届けられたこの箱に詰められた無数の金属製の白い管はなんですか?ヒアシ様からは貴女の物だと言われたのですが……」
「ん?ああ、それか。それは私専用の、いや私考案の日向一族専用の忍具だ」
「日向の?」
「ああ、以前テンテンと話し合ってな。とりあえずの試作品だ、親父殿に許可を得た上で提案者は名義上お前という事にして鍛冶屋に頼んだのだ。
ああ、安心しろ支払いは宗家が済ませたから君が金の心配する必要はない。ただ、私に日向が直接金を出すというのは些か問題があるから君の名を借りただけだ」
「はぁ……それはいいんですが。これは一体どういう物なんですか?」
そう言ってネジは私に白い管を手渡す。私が受け取ったそれを無造作に振るうと、管は中に収納されていた管を出し、その管も同じように管を出して最終的に50cm程の管に変わった。
「ふむ、とりあえずの機能は果たせそうか」
「説明して貰えると助かるんですけど……」
「そうだな、私達が下忍になった時にでも見せてやる。それまで楽しみにしておくといい」
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