| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

真・恋姫無双 矛盾の真実 最強の矛と無敵の盾

作者:遊佐
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

群雄割拠の章
  第六話 「ぬわんですってぇ!」

 
前書き
ぎ、ぎりぎりまにあいました…… 

 




  ―― 曹操 side 徐州 郯 ――




 目の前に火が広がる。
 今、私は万感の思いを込めて、その燃え盛る炎を見つめている。

 私の目の前で燃え盛るのは、徐州最大の都であった郯。
 実に十数万という民が住んでいた都。
 その徐州最大の都は、目の前で煉獄の炎に包まれている。

「我が父よ……私が貴方に手向けるは、この送り火です。貴方の無念、貴方の悲しみ、貴方の憤怒は、徐州全ての民の亡骸を貴方の御霊に捧げます。どうか、どうか安らかに……」

 徐州は燃える。

 我が父を殺した陶謙は、南に逃げようとしたところを捕らえ、四肢をもぎ、郯の城門の上に晒した後、都ごと火をかけた。
 我が父を助けず、その居場所を洩らした徐州の民は、父の元――泰山府君(えんま)の元へと送った。
 あちらで父により、更なる処罰が与えられることだろう。

 私はただ父に祈る。
 どうか安らかに。
 我が慰めをお受けいただけるように、と。
 
 そして父よ、私を天上より見守って下さい。
 貴方の娘は……必ず天下を治める覇王となり、このような悲しみのない、力あるものが正しく認められる世界を作ります。

 腐敗の続く漢の未来を憂い、善政を目指して忠勤に励んだ我が父、曹嵩巨高。
 実力で太尉の地位になれるだけの力を持ちながら、血を吐く思いで宦官に賄賂を贈った父。
 そんな父の辛さ、悲しさこそ、私が幼少の頃から女淫に耽った放蕩の原因。

 私は、そんな漢を憎んだ。
 そして私自身が上に立ち、世に蔓延る悪癖を打倒するために立ち上がったのだ。

 私には、私を理解してくれる春蘭がいる、秋蘭がいる。
 桂花も季衣も霞も加わった。
 さらに最近我が軍に入った武官・文官候補たちもいる。

 そして私の後ろには、献帝という大義名分があるのだ。

 もはや、恐れるものは何もない。
 私は私の道を征く。

 だから父よ……そして、今は亡き祖父よ。

 ――いえ、お父様、そしてお祖父様。
 どうか私を……華琳の征く末を。

 遥か彼方よりご照覧ください……




  ―― 夏侯淵 side ――




「華琳様……」

 私は燃え盛る郯を見る華琳様の横顔に、とてつもなく大きい悲しみを感じた。
 その姿は、孤高の王のようにも視え。
 また、一人の泣きつかれた女児のようにも視えた。

 私の横には、失った片目に眼帯をしたまま、静かに目を閉じた姉者がいる。
 きっと、姉者も自身の叔父である曹嵩様を想っておられるのだろう。

「ね、ねえ、秋蘭……」

 不意に私の後ろから声がする。
 振り向けば、そこにいたのは桂花だった。

「どうした?」
「…………………………」

 尋ねた私に、桂花は無言で私を見る。
 その顔は、言おうかどうしようか迷う表情。
 その視線は時折、燃え盛る郯に向けている。

 ………………

「……必要なことなのだよ、桂花。華琳様にも……姉者にも、な」
「……否定はしないわ。でも……」

 桂花の言いたいことはわかる。

 これだけの大虐殺。
 大陸ではすぐに噂になるだろう。
 そしてついてまわる華琳様の悪名。

 無辜な民を虐殺した殺戮の王として、後世に名を残すことは間違いない。

「だが、だからどうしたというのだ」
「えっ……?」

 私は桂花にそう呟く。

「古来より、この大陸では自軍の兵だろうが無辜の民だろうが、殺し尽くしてきた英雄英傑など数知れぬ。高祖はどうだ? 和睦し天下を半分にすると約定した項羽の背後から襲撃し、天下を盗みとった。自身に忠節を誓っていた韓信を、猜疑心から貶めた。だが、高祖が漢を興して約四百年。それでも人々は、高祖をして『英雄はかくあるべき』という」
「………………」
「成したことが悪行よりも上ならば、それを後世の人物は偉人、英傑というなら……華琳様は、必ずそう呼ばれるだろう。あの方は必ずそれを成すからだ」

 そうだ。
 華琳様は間違いなく英雄であらせられる。

 その思想、能力、才能、天運、人運、その全てが華琳様に大事を成せと示されている。
 それら天賦をも上回る、血反吐を吐くような努力を重ねて。

 だからこそ私も姉者も。
 華琳様を自身の主として忠節を誓うのだ。

 華琳様以外に、この大陸を統べる者などありはしない。
 数ある英雄英傑の上に立つ人物こそ、華琳様しか存在しない。

 あの天の御遣いすらも、華琳様はいつか必ず乗り越えられる。
 私はそう、信じている。

「だからこそ……お前もここにいるのだろう、桂花よ」
「あ……当たり前じゃない! 私こそ、誰よりも華琳様を信じているわ! バカにしないで頂戴!」

 ふっ……それでいい。
 我らはただ、信ずるのみ!

 華琳様こそが……この乱れた世を治める方なのだから。

「どうしたの、桂花。大声を出して」
「あっ……華琳様」

 と、燃え盛る郯を見ていた華琳様がこちらを振り返る。
 どうやら先程の桂花の大声に気づかれたようだ。

「い、いえ、なんでもありません!」
「そう? まあいいわ。それより、報告があるのではなくて?」
「あ、はい!」

 すでに華琳様の横顔からは、先程の悲しみの色は見えない。
 この切り替えの早さも、華琳様の人の上に立つ資質であろう。

「まず、陶謙幕下の者達ですが、前回侵攻時からこちらに接触してきた陳珪や陳登のおかげで、曹嵩様の殺害を手助けした者共の捕縛に成功しました。ご命令通り、すぐさま春蘭が処刑致しております」
「そう……本懐を遂げたわね、春蘭」
「は」

 姉者は、静かに頭を下げる。
 自身の手で仇を討てたことに、深く感謝しているようだ。

「また、以前より陶謙に反抗していた臧覇(ぞうは)から、華琳様に恭順するとのこと。数日後にこちらに合流する予定です」
「臧覇……有能な人材と聞いているわ。そんな人材に見放される陶謙……所詮はこの程度ということ」

 華琳様は、未だ燃え盛る郯を横目で見て、鼻で笑った。

「まったくです。ただ……」
「ただ?」

 桂花にしては歯切れの悪い言葉に、華琳様が首を傾げる。

「申し訳ありません。曹豹(そうひょう)など、数名の逃亡者を許してしまいました。また、陶謙幕下において陶謙自身が助力を乞うて、自らの陣営に仕官させた人物が二名おります。ですが、我らが再侵攻する前に陶謙幕下から調略を受けたようでして」
「へえ……それが有能な人物だと?」

 はて……陶謙幕下にそれ程の人物などいただろうか?

糜竺(びじく)糜芳(びぼう)という兄弟です。豪族としてもかなり裕福な家系のようですが、それ以上に兄は政治、弟は軍事に才があったようです。特に兄の才覚は、陶謙幕下では群を抜いていたとのこと」
「へえ……それは惜しいわね。調略を受けたってことは、どこかに幕下に移ったのね。このあたりとすれば……麗羽か袁術か」
「いえ、それが……どうやら公孫賛のようで」
「……へえ」

 華琳様が意外そうな顔で桂花を見る。
 私も同じ思いだ。

 あの公孫賛が、他国の人材を引き抜くような人物とは思ってもみなかった。

「あの公孫賛がねえ……どういう心境の変化かしら」
「ふむ……そういえば最近、軍の強化に動き出しているという話もありましたな」
「そうね、秋蘭。もしかしたら……ようやく目覚めたのかしら?」
「公孫賛もこの時代で力を持つ諸将の一人。もしかしたら……ですか」

 劉虞との一件で、あの公孫賛も変わったやもしれない。
 とすれば、それが華琳様にとって吉とでるか、凶とでるか……

「はっ……ただ……」
「?」
「いえ、なんでもありません」

 桂花は逡巡した後、(かぶり)を振ってそう締めくくった。

 この時、桂花が『そのこと』を言っていれば、華琳様は別の手を打っていたのかもしれない。
 だが、結果的に桂花は確証がないとして、それを言わなかった。
 だから……私達は事が起こるまで、それを知ることはなかったのだ。

 天の御遣いが、公孫賛の元にいるかもしれないということを……




  ―― 盾二 side 平原 ――




 どうしてこうなった。

「盾二殿! ご命令を!」
「盾二殿……我らはいつもお傍に」
「だからぁ! 俺じゃなく、白蓮の方に言えよ!」

 俺は振り向きながらそう怒鳴る。
 今日、すでに三度目の、ではあるが。

「いえ! 確かに我らの『仮』の主は公孫賛殿ですが!」
「……『真』の主は盾二殿ゆえ」
「なんでそうなるんだ……」

 これももはや本日三度目のやりとり。
 いい加減、頭が痛くなってきた。

 この糜竺と糜芳という兄弟の事である。
 陶謙からの要請で白蓮を巻き込むべく、口八丁で矢面に立たせるために派遣されてきたという二人だった。

 というのも、俺が天の御遣いとかいうのだとわかった途端、手のひらを返すように洗いざらい全部暴露してくれやがったからだ。
 聞いてもいないのに、如何に陶謙が粗暴で小狡い男かと延々と……
 あげく、その陣容の詳細な内容までぶっちゃけた。

 この男に守秘義務という言葉はないらしい。

 まあ、それだけ必死だったのだろうとは白蓮の言だけど……いいのか、こんなのを信用して?
 とはいえ、まるで犬のように必死に機嫌を取ろうとしてくるので無下にも扱えず、とりあえず白蓮の命令を第一に聞くことを条件に受け入れた。
 そもそも、俺は白蓮に養われている身の上だし、俺個人に仕えるとかありえないわけで。

 にも拘らず、次の日から俺にまとわりつくようになったのだ。
 まるで金魚のフンのごとく。

 もちろん何度も断った。
 仕事もしろといった。

 けど、この二人……恐ろしいことに、自身の仕事を完璧にこなした上で、俺の下に来ている。
 しかも、どんなに忙しい仕事も午前中のうちに必ず済ませてくるのだ。
 正直、本当に仕事をしているのか白蓮に確かめたところ……

「ああ、完璧だ。正直、ここまで有能だとは思わなかった」

 とのこと。
 というか、そこまで仕事できるなら俺の下にこられないぐらいに仕事を押し付けてはと思ったのだが……

「すでに普通の文官武官の三人分を任せている。こいつら、それを寝る間も惜しんでやっているんだ」

 とのこと。
 『どんだけー!』と叫びたくなったわ。
 
 てか、幕下に入ったばかりの人間にそこまでやらせる白蓮も白蓮だが、それをこなしてしまう二人もすごい。
 すごいんだが……すげえ残念なのは、なんでだ。

 まあ、仕事が出来るのはいいことなんだが……困ったことに、俺に付きまとうのはどうにかして欲しい。
 しかも、俺から頼み事をされるのを至上の喜びという顔はやめて欲しい。

 一度、冗談で搾りたての牛の乳が飲みたいと言ったら、周辺の農邑を駆けまわって乳の出る牛を探し出し、一抱えもある壺に満杯にして帰ってきた。
 まる二日、寝ないで。

 流石に冗談とも言えず、煮沸してから飲んだが……
 あの時の恍惚とした二人の表情は、怖くて直視できなかった。
 なまじ二人共顔がいいだけに、めちゃくちゃ気持ち悪かった。

 そもそもこの二人、俺がいる時といない時とで言動も表情も違う。

 兄の糜竺は、端正な顔にメガネを掛けた、いわゆる冷静沈着なイケメン眼鏡。
 俺がいない時は、穏健ではあるがプライドが高く、たまに毒舌を吐くらしい。
 だが、仕事は本当に出来る上、女官たちには大層人気が高い。
 もっとも、本人はそんな女官たちを忌避しているらしいが。

 そして弟の糜芳は、無口な軍人という感じらしい。
 俺といる時も兄に比べればおとなしいが、俺が視線を向けると頬を染めるのは正直やめて欲しい。
 兄に比べると童顔で、勝ち気な顔立ちをしているが、言動は寡黙な方で必要なことを短く喋るタイプ。
 武器は無手を得意としているそうで、一度手合わせしたら拳法に近い動きだった。
 けど、手合わせをしている間、ずっとニヤけ顔だったのは俺を挑発するためだと思いたい。
 頬を染め、恍惚になりながら拳を放ってくる相手など、俺は見たこともなかったから。

 こんな二人がなんで俺を慕ってくれるのか、本当に意味がわからない。
 二人によれば、俺は男としての希望の星なのだそうだ。

 どういう意味か怖くてそれ以上聞けなかったのだが、言葉通りの意味じゃないことは確かだろう。
 二人が背後にいると、視線が臀部に集中している気がしてならないからだ。
 ホント、それだけはかんべんして欲しい。

 それにしても、二人が話す俺の……というか、天の御遣いという逸話は、常軌を逸している。
 あの三國無双と言われた呂布と互角に戦い、梁州という州を作り上げ、そこを大陸一というほどに発展させたのだという。
 『それ、どんな神様のこと?』と本気で言いたくなった。
  
 一番わからないのは、それが俺自身だということ。
 残念ながら、俺自身には全く身に覚えがない。
 記憶を失っているのだから、身に覚えがないのは当然なんだが……俺なんかがそれを出来たということが不思議でしょうがない。
 一体、記憶を失う前の俺は、どれほどすごい人物だったのだろうか……

 しかし、そう言われてみると不思議なことがいくつかある。
 梁州というのは漢中を中心とした場所。
 にも拘らず、大陸の反対側とも言える平原周辺にいたのは何故だろうか?

 そして梁州で俺は、劉備玄徳の下にいたとのこと。
 あの蜀王劉備である。
 とすれば、何故三ヶ月以上もこうして放置されているのだろう?
 白蓮に聞いてみたのだが――

「うーん……まあ、今はいいんじゃないか? 特に桃香からは何の便りもないし」

 とのことだった。
 つまり俺は、それほど重用されていなかったということなのかもしれない。
 それにしては世間の評判と食い違うのだが……
 かといって、白蓮が俺に嘘を言っているような後ろめたさは感じない。
 なんというか、俺を気遣っているのがわかるぐらいだ。

 そう考えると……記憶を失う前の俺は、何らかの理由で劉備の下を離れたのかもしれない。
 だからこそこんな場所にいたとしたら……まあ、辻褄はあうわけで。

 …………なんか、劉備と敵対して追い出されたなら怖いなあとは思うのだが。
 聞けば梁州は、全盛期の蜀に近いぐらいの発展をしているらしい。
 漢中だけでそれだけとなれば、益州や荊州の一部を手に入れたらどうなることか。

 そんな相手と敵対するとしたら……曹操や孫権あたりに庇護を求めたほうがいいかもしれない。

 そういえば、曹操はすでに皇帝の後見人になっているらしい。
 俺が思い出せる記憶でも曹操は皇帝の後見人だから、この部分は歴史通りなのだろう。
 ただ、細部はかなり違っているようだけど。

 そして孫権……いや、この時代なら孫策か。
 その孫策はすでに揚州一帯を治める実力を持っているとのこと。
 連合の恩賞として袁術から独立し、揚州一帯を治める州牧になったらしい。
 江東の小覇王どころか、すでに呉を建国しそうな勢いだ。

 パワーバランスが狂ってしまいそうだが、歴史はどうなっているのだろう。

 そういえば白蓮が変なことを言っていた。
 俺は劉備だけでなく、孫策とも仲が良かったらしい。
 どういう状況なのだろうか……

 俺が思い出せる歴史とは違う、この世界のありよう。
 本当に、記憶を失う前の俺はこの世界で何をしたかったのか。
 これだけ歴史を変革した俺の思惑を、俺自身が一番知りたく思う。

 けどまあ、今はともかく……

「盾二殿!」
「盾二殿」

 この二人をなんとかする方法をまず知りたいと思うのは……しょうがないことだよねぇ?




  ―― 袁紹 side 鄴 ――




「なにやら美羽さんがちょこまか動いているそうですわね……」
「みたいっすねぇ。公孫賛や陶謙相手にちょこまか動いていたみたいっす」
「でも結局、公孫賛は協力を拒否、陶謙は曹操さんに殺されちゃったみたいですよ?」
「所詮はその程度ってことですわね。オ~ホッホッホッホ!」

 あの生意気な美羽さんのことですわ。
 どうせわがままばかりいって、白蓮さんに呆れられたのでしょう。
 陶謙という男はよく知りませんが、まあただの愚民ということですわね。

「結果として曹操は徐州も手に入れたみたいっすね。皇帝の後見人でもあるし、領土は広がるし……」

 むっ……

「ま、まあ、華琳さんのことですから、それぐらいは当然かもしれませんわね……」
「曹操さんは公孫賛とも仲がいいみたいですし……噂では大将軍の地位と武平侯に封ぜられるみたいですよ」
「ぬわんですってぇ!」

 あ、あの華琳さんが……大将軍!?
 わ、わたくしを差し置いて……華琳さんが、漢の最高位につくですって!?
 ありえない……ありえないですわ!

「……猪々子さん、斗詩さん」
「あん?」
「はい?」
「すぐに戦の準備をなさい! 思い上がった華琳さんに、正義の鉄槌を下ろして差し上げますわ!」
「ぶはっ! と、突然、何言い出すんですか、姫! 無茶に決まっています!」
「そ、そうですよぉ、麗羽様! 例え争ったとしても、今の曹操さん相手じゃ、敵う訳ありません! 曹操さんだけならまだしも、敵対すれば公孫賛も黙っていませんよ!?」

 ぐぎぎぎ……

「な、なら、先に白蓮さんを打倒しますわ! そうすれば華琳さんは孤立無援! わたくしの力を持ってすれば、華琳さんなどへっぽこぷーですわ!」
「ちょ、ちょ、姫ぇ! 公孫賛を攻めるって、どういう理由で攻めるんですか!? いくらなんでも名分もなしに攻めたら、こっちが一方的に悪者になりますよ?」
「ふん。理由ならありますわ。最近の軍備増強の噂。あれは、わたくしの領地である冀州(きしゅう)を我が物にせんとしている証! その上、先月の国境付近での軍を動かしての国境越えですわ!」
「れ、麗羽様! それは無茶ですよぉ。軍備増強しているっていうのもあくまで噂ですし、国境付近での動きは賊退治だったじゃないですか!」
「そんなことありませんわ! あれは賊退治を理由にした軍の演習だったのですわ! そして国境付近の物見に来ていたに違いありません! そうです、そう考えれば辻褄は合いますわ」
「「 ええ~……? 」」

 そう、そうなのですわ!
 白蓮さんと華琳さんが、最近仲がいいというのは周知の事実。
 二人が共同で大陸の北東部を二分するように動いていると言っても過言ではありませんわ。

 そう考えれば、白蓮さんが美羽さんと繋がっているのは、華琳さんの入れ知恵とも考えられ……はっ!?
 そうですわ! わたくしを排斥するために、三人で組んでいらっしゃるのね!?
 なんということでしょう!

「そういうことですの……わたくしを、この袁家正統後継者である、この袁本初を! あの三人は連合を組んで滅ぼそうというのですわね!」
「三人……? 斗詩、姫は誰のことを言っているんだ?」
「たぶん……曹操さんと公孫賛、それに袁術様のことかなあ?」
「なんでその三人が、姫を滅ぼうそうとしていることになっているんだ?」
「わ、私に言わないでよぉ……」

 昔からわたくしに対して対抗しようとする華琳さん。
 そしてわたくしのことを『妾の子』などと『根も葉もない』言い分でバカにする美羽さん。
 そして連合で『お情けで』加えてさし上げたにも拘らず、途中で抜けだした白蓮さん。

 三人とも……わたくしを出し抜こうと連合を組んでいたのですわね!?
 許せませんわっ!

「いいですわ……華琳さんも美羽さんも、そして白蓮さんも! わたくし直々に懲らしめて差し上げますわ! オ~ホッホッホッホ!」
「「 …………………… 」」
「となれば、まずは白蓮さんをどうにかしませんと。華琳さんと共同で動かれては、さすがのわたくしでも不覚を取らざるを得ませんわね……」

 となれば……白蓮さんを攻めると同時に華琳さんに使者を出して、足止めをしなければ。

「斗詩さん」
「はい?」
「すぐに華琳さんのいる陳留へ使者を送るのですわ。文面は、白蓮さんが越境行為を繰り返し、侵攻してきたために自衛手段として逆侵攻すると」
「麗羽様ぁ……本当にやるんですか?」

 何を言っているんですの、斗詩さん。
 やらなきゃ、やられるのですわよ!?

「当たり前です。元より冀州(きしゅう)は袁家のもの。平原を得て野心を露わにした白蓮さんには、きつ~いお仕置きが必要なのですわ!」
「でも、平原はもとから劉虞の……」
「その劉虞は謀反人といえども漢の宗室。それを貶め、自らの領地にせんが為に白蓮さんが策謀をめぐらせたのだとしたら! そう! これは漢を我が物にせんとする白蓮さんの企みでもあったのですわ!」
「………………」

 なんてことでしょう!
 白蓮さんは、そんなことまで考えていたのですわね!
 なんて大それた野望を……

「……斗詩。もう何言っても無駄だよ」
「文ちゃぁん……」
「姫の頭の中では、もうみんな自分を追い落とす敵になっちゃってる。こうなった姫は、何を言ってもダメだってのは……斗詩も知っているだろ」
「けど……」
「自分で気づくまでは何言っても無駄だって。アタイらは、被害をできるだけ少なくするしかないんだから」
「……………………うん」

 ふっふっふ……見ていなさい、華琳さん、美羽さん、そして白蓮さん!
 この袁本初が……このわたくしが!
 あなたたちを成敗して上げますのことよ!

 オ~ホッホッホ、オ~ホッホッホ、オ~ホッホッホッホッホッ……




  ―― 公孫賛 side 平原 ――




「――なんだって?」

 細作からの突然の報告に、私は耳を疑った。

「は! 袁紹軍が徳州に侵攻してきました! その数、およそ三万!」
「さ、さんま……?」

 袁紹……麗羽が攻めてきた?
 三万の兵で?
 なぜ?

「……どういうことだ? 何故麗羽が……」
「突然の奇襲に、徳州の街は防戦もままならず陥落! 現在、袁紹軍はここ平原へと兵を向けて侵攻中です! 本日中にも先陣は平原まで辿り着くかと!」
「なっ……なっ……」

 あまりのことに、私の頭の中は真っ白になっている。
 と――

「も、申し上げます! ただいま、袁紹軍の使者を名乗る者が平原へ矢文を投げ入れてきました!」
「や、矢文!?」
「はっ! こちらに!」

 と、兵が持ってきた手紙を受け取り、開く。
 と、そこにはこう書かれていた。

「『先日の軍事演習、並びに数々の越境行為による挑発、許しがたし。司隷校尉にして車騎将軍たる袁本初は、貴殿の行為を宣戦布告とみなし、ここに戦端を開くものとする』……は?」

 軍事演習? 越境行為?
 なんのことだ?

「……司隷校尉はともかく、車騎将軍なんて……麗羽のやつ、いつからそんな役職になったんだ……?」
「伯珪様! 問題はそこではありません! これは宣戦布告です!」
「……っ!!」

 そうだ。これは宣戦布告。
 麗羽は……私を、平原を攻めてきたのだ。

「くっ……す、直ぐに軍を招集しろ! それと盾二を呼び出せ!」
「御意!」

 私の命に、兵が慌てて外に出ていく。
 私はそれを見送りながら、再びその手紙を見る。

 覚えのない内容の書かれた文に、思わず頭を抱える。
 一体何が起きているというのだろうか。
 
「ともかく、盾二と相談しなければ……」

 時間はない。
 けれども、どうしたらいいのか私にはわからない。

 私は混乱した頭で、盾二を待ち続けるしかなかった。

 覆水盆に返らず。
 かの太公望が言ったと言われることわざ通り。

 私の身に起こった激動は、この時から始まったのだった。
 
 

 
後書き
ふー……やっと麗羽と白蓮が戦うところまで来ました。ここまでに五話……長いです。
ここからあーなってこうなって、梁州でこうなって、はちみつ様が(ぉぃ)あーなって、北と南がごちゃごちゃして、あれが助けて、あれが負けて、放浪して、合流して、あっちがまとまり、こっちが荒れて……とまだまだごちゃごちゃします。
意味わかりませんね、はい。

あと雪蓮については、賛否はあるでしょうけど最初から決まっていましたので、すいませんとしか言えません。
最初から、どうしても死なせたくありませんでした。でも、蓮華が後を継ぐことも決まっていました。
その為、彼女は呉を離れることになりました。
蓮華に跡を譲って楽隠居する方法もありましたが……彼女にはまだ物語上、重大な役割がありますので。
ここで呉に引き篭もってもらっては困ります。
ですので……彼女は盾二を追うことになりました。

あと、陶謙ファン(いましたら)の方、すいません。
元々、恋姫じゃ出ても来なかったので……描写はあえてしませんでした。
決してキャラ作るのが面倒だったわけでは……(目そらし) 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧