魔法薬を好きなように
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第21話 ラグドリアン湖での戦い
ラグドリアン湖畔での待ち伏せだが、相手は同じルートを通っているようなので、そこで待ち伏せをする。水の精霊を襲撃している者と相手をするのは俺とサイトだ。他の3人は、こちらが負けたときには、撤退をするようにしてもらっている。ギーシュはこちらに来たがっていたようだが、水の中で水の精霊をやけるのは、多分トライアングル以上だと、自分の考えを伝えたら、急きょ撤退組にまわった。グラモン家の家訓は「命を惜しむな名を惜しめ」であったはずだが、ケンカに加わりたくはないモンモランシーの護衛という名目もある。ルイズが寝ているので、実際には、フライあたりで運ぶことになろう。
北花壇騎士団のことをふと思うが、知っているのは番号で呼ばれているということと、例外として知られているのは、元素の4兄弟というのがいることぐらいだ。名前をさらしているということは、こういう地味な仕事にはこないと思うのだが、他のメンバーが来ても、いわゆる普通の騎士の魔法とは使い方を変えてくるだろうとは思う。暗殺者の魔法の使い方といわれるものだが、その対応も習ってはいる。しかし、実際に相手をするにはどこまで通用するのか。様子見をおこなってから、戦うか退くかの選択もしないといけないだろう。
そして闇夜の中で待っていると、水の感覚で二人分の少々離れた場所から新たに感じたので、まだ、呪文が聞こえないことを祈りつつ『暗視』の呪文を唱えた。暗闇の中でも見えて持続性のある水系統の魔法だ。
続けて、サイレントの呪文を唱える。『暗視』の魔法では二人の人影がの魔法をつかっても、漆黒のロープの上に深くフードをかぶっているので、顔はわからないが、少なくとも1人は女性らしい水の流れを感じる。しかし、もう一人の背の小さい方がわからない。
小さい方の影は大きい木の杖をもっているのだが、戦闘用として使うにしては、最近では珍しい杖だと思いつつ、似ているとすればタバサだろうか。まあ、似ているだけだろうと思い、なるべく湖畔の近くにきてくれと思っていると、サイトから漏れていた気配に気がついたのか、小さい方の影が呪文をとなえだしたので、俺はサイレンとをかけた後に詠唱してそれまでためていた『水流』の魔法を、杖をふることにより放った。
この杖をふった瞬間にサイレントの魔法は消えるのだが、湖畔の水が相手に流れ出す。俺はそばを通った水に、魔法薬が入った瓶を蓋をあけた状態で投げ入れ、相手のそばに水流が押し寄せる間に、次の魔法を唱えていた。
相手のうち、小さい方がフライの魔法に切り替えた。大きい方もフライの魔法を唱えているが、大きい方が詠唱速度が早い。詠唱速度から考えると、これは多分軍人の家系に育った者だろう。
サイトには、火の相手をしてもらうようにしているので、その場で待機しているのだが、立ち上がって、こちらにいつでもこれる体勢を整えているようだ。
俺は、フライで飛び上がった2人の間に『トレーシング・ウォーター・ボール』を放った。火のフレイム・ボールと同じく狙った相手を自動追尾する水の玉だが、俺の場合、同時に5個までだせるのと、魔法そのものは顔に命中すれば、相手の詠唱をとめた上に、口や鼻の中から体内に入り込んで、窒息あるいは水死させる魔法だ。これで、一人ずつに向けるのと、相手の対応方法で、風と火の系統を簡単に見分けることができる。
俺は相手の対応を見る前に、次の魔法を詠唱している。この魔法を途切れ時間が極端に短く、魔法を放てるのが、俺の二つ名の『流水』だ。まあ水系統のメイジであることもひっかけているのであろうが。
相手の対応は小さい方が
「木に乗らない」
フライにしてもまだ高くはないので、横方向にフライをきりかえててから、フライをやめて、慣性を利用しながら離れつつ、それぞれの攻撃用の魔法の詠唱に入っている。
と、こちらの作戦をみやぶりやがったか。セオリーなら木の枝にのって、そこから魔法を放つもの。けれど、水のトライアングル以上メイジにとっては、『枝葉操作』による、木の枝や、蔦などをつかって、相手を拘束できる魔法がある。下に生えている草では、拘束できないと知っているのだろう。
俺は心の内で、「チッ!」と舌打ちさせながら次の魔法詠唱に入った。
途中まで唱えていた魔法を切り替えたが、相手が詠唱に入る方がはやかったので、大きい方が『ファイヤー・ボール』を水の玉へ放って、水の玉と同時に消え去った。小さい方は『エア・ハンマー』で、一度に2つの水の玉を消しあっている。
風のメイジと火のメイジがわかったところで、新たに詠唱しなおした魔法『ウォーター・ドール』を放つ。湖水の水を『水流』の魔法でもってきたので、精神力の負荷が少なくてすむし、このあとの戦いも水分の補給の役にたつ。
この魔法は水系統のゴーレムともいわれるが、本来の自分の動きよりも落ちるので、使うメイジも少ないが、5体のうち2体に『ブレード』に似た剣状の物、3体には『ウィーター・ウィップ』のような水のムチ状の物をもたせて、短距離と中距離の攻撃をしかける。とはいっても1体は、俺の目の前の防御用につかっているのだが。
ここまで見てきたところ、火のメイジは軍人の家系だが、判断速度から実践経験が多くはないのだろう。たいして風のメイジは詠唱速度は速くはないが、知識と判断速度とこちらの魔法の対処から、実践経験は多そうだ。
俺はなるべく風のメイジに集中して、火のメイジとの分断を継続し、火のメイジとサイトが戦い出しているので、ここまで先手をとる作戦は成功している。湖水の儀式と『水流』の魔法が使える場所であることに、相手が想定した中で一番人数が少なかったのも要因だろう。これがこの水の精霊がいるラグドリアン湖水でなければ、どこまでうまくいったのか。水の威力があがっているから、意図して精神力の消費を抑えることができる。
『ウォーター・ドール』には風のメイジへを4体をつっこませて、相手を取り込んだ。そのうち2体をふっとばされたのは、さすがというところだが、先ほど水流に投げ込んだ魔法薬は、皮膚から浸透する神経性のしびれの効果をもっていて、それがすぐに発揮して、動けなくなったのを確認した。
魔法と魔法薬を併用して戦うのは、魔法衛士隊としては、いわゆる汚い戦い方で、最後の手段としてとってあった方法なのだが、今の俺は単なる軍属なので気にせずにつかえた。
『ウォーター・ドール』の数が減った分を補充をして5体にもどしつつ、サイトが相手をして、うまく足止めができていた火のメイジをとりかこませる。俺は、相手が軍人ではなくとも、軍人の家系なら通じるだろうと思い、
「貴兄に告ぐ。こちらはトリステイン王国 軍属 ジャック・ド・アミアン。投降するならば、貴兄たちの安全は保証する」
これでこちらが、トリステイン王国の軍人だが、軍属というだけで、部隊としては正規任務で動いてはいるわけではない、ところまでは伝わるだろう。ようは、現場の一存で勝手に動いているから、話し合いに応じるというものだ。
相手からしてみれば、襲っておいて、投降しろと言われるのもしゃくだろうが、ロープで身をつつんで戦っていたのは、身元をはっきりさせたくはなかったからだろう。だから、ここで、力の差を見せつけて、話し合いにできるとふんでいたのだが、返ってきた返答は
「ジャック・ド・アミアンって、トリステイン魔法学院にいる、あのジャック?」
「……その声は、キュルケか? こっちは、そのジャックだよ」
相手がなんでキュルケなんだ? とおどろかされた。
「そう、キュルケよ。もう一人はタバサだけど、傷をつけたりしていないわよね!」
「ああ、大丈夫だ。単に、しびれ薬で、身体が動かないとか口が回らない程度だ」
俺は答えつつ『ウォーター・ドール』の魔法をといた。まあ、普段から持ち歩いているのがしびれ薬なのは、相手をつかまえて、尋問をするための準備なのだが、そのあたりはだまっておく。
「なんだよ! お前らだったのかよ!」
サイトはキュルケとの戦で疲れたのか、地面に膝をついた。
相手がタバサとキュルケだとわかると、今晩泊まる予定だった場所で、焚き火をおこなった。タバサのしびれ薬がきれるのは約30分程度、焚き火で肉を焼いている間にルイズが起きだしてきた。ちょうどキュルケが
「ダーリンって強いのね。足止めをされるなんて思わなかったわ」
と言っていた。そんなキュルケにサイトが
「まさか、キュルケに剣を向けることになるなんて思わなかったよ」
と言うと、ルイズは
「キュルケがいいの?」
と始まっていた。
ルイズもサイトにあやされて睡眠薬を飲んで寝たのは良いが、ラグドリアン湖周辺にある薬草から間に合わせで作った即効性の睡眠薬と、6時間程度の眠りが続く睡眠薬を混ぜ合わせたものだ。今日は、精神力をだいぶんつかったから、一晩寝て魔法を放てる量が半分に戻るかわからんな、っとぼやきたくなる。キュルケは他のメンバーから聞いて、水の精霊を退治するのか、違うのにするのか困っている。タバサはしびれ薬の効果が持続しているのか、まだ横のままになっている。
「どうして退治しなきゃならないんだ?」
サイトに尋ねられて、少し迷っていたようだ。しかし結局話すことにしたようだ。
「そ、その、タバサのご実家に頼まれたのよ。ほら、水の精霊のせいで、水かさがあがっているじゃない? おかげでタバサの実家の領地が被害にあっているらしいの。それであたしたちが退治を頼まれたってわけ」
ガリア側の隣の領地って、記憶によればガリア王家の直轄領地のはずだ。ならば、そのままガリアの騎士が動くというのが普通のはずだ。しかし、キュルケは一部をごまかして言っているのだろう。なぜかと考えていくと、ガリアとタバサの青い髪というところで、気がついた。
ラグドリアン湖のガリア側は、旧オルレオン公家が接していたことを。
そうすれば、タバサという明らかな偽名でトリステイン魔法学院にきているのかは、ガリアの魔法学院では顔を知っているものがいるから、避けたのであろうというのは、推測はつく。
普段から本を読んでいることから、知識量があるのもなんとなくわかるが、判断力は、あれは実践をつまないといけないのだが、オルレオン公家の娘だったとして、そんな訓練をつむとは思えないというのが、俺の感覚だ。
キュルケとモンモランシーとサイトに、ほとんど話の役にたっていなかったギーシュのところでまとまったのは、
「結局は、水浸しになった土地が、元に戻ればいいわけなんでしょ?」
キュルケがタバサが横になりながらも頷いた。
「よし決まり! じゃ、明日になったら交渉してみましょ!」
そこで、火の番をする。順番はサイト、俺、キュルケ、タバサの順番になった。ギーシュは酔っぱらっているから問題外との判断だが、特に火の晩の間は、特に獣がよってくる様子もなく、時間になったので、キュルケを起こしてかわりに寝ようとすると、
「ちょっと、話があるのだけど、よろしいかしら」
「……その様子なら、明日というわけにいかない話なんだろうなぁ。サイレントをかけてくれないかな。もちろん外部の音は聞こえる魔法でな」
「ええ、ちょっとまって」
サイレントをかけおわったキュルケは
「ジャック。あなたは退治の理由を信じていなかったでしょう?」
「……なぜ、そう思う?」
何か癖がでていたかなと考えるために、質問に質問で返しての時間かせぎだ。
「それは、わたしの話を聞いて考え込んでいたからよ」
「なるほどねぇ……たしかに、タバサの実家の領地が被害にっていうのは、信じていない。元領地っていうのなら、そうかもとは思うけどなぁ」
「って、あなた、もしかしてタバサのことを知っているの?」
「いや、推測だよ。それでよければ話そうか?」
「ええ」
「ここのガリア側の領地は、現在ガリアの直轄地だと聞いている。けど、その前は、オルレオン公家の領地だ。だからそこの娘だろうとまでは推測できる。なぜならタバサは、青い髪をしている。ガリア王家の青い髪というのは有名だからね」
「それで」
「ガリアの魔法学院では顔を知られている可能性があるから、トリステイン魔法学院に偽名で入ったのと、戦闘がしづらいフードをかぶって顔を隠していたのは、領民だったものに顔をみられたくなかったのだろう」
「ふーん。フードの方はそうなのねぇ」
「聞いていなかったのか?」
「そこまでは」
「ただ、わからないのは、タバサの戦闘技能がかなり実戦をつんだものだというのが、どうしたらあそこまで経験がつめたのかはわからない。これが俺の推測だよ。あくまで推測であって、こっちから探る気はないよ」
「まあ、いいわ」
「今度こそ、お休み」
俺は、そういって横になったが、親父に調べてもらうにしても、ガリアの王家近辺の情報は探れないだろうなというぐらいを考えているうちに、眠りについた。
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